V.Sバレンタイン〜バレンタインの新たなる戦い〜

【ある学園に二つの対立する団体がいた。バレンタインを巡る二組の思いは次第に交錯し……。捨てられないのはこの思い。バレンタインの新たなる戦い】

   学校内のある部屋。
   元は何かの部室だったらしい。
   机、パソコン、戸棚、漫画などがある。
   中央に黒板。
   大きく「バレンタインまで後一日」と書かれている。
   美知代、奈緒美、慎太郎がいる。
   真実子、飛び込んでくる。

真実子 大変よ!みんな!

   みんな、一斉に振り向く。

真実子 良が恵に振られたわ!
全員 何ー!
慎太郎 バレンタイン直前に、そんな。
奈緒美 でもーあそこは前から怪しかったじゃないですかー。
美知代 ああー怪しかったよ。っていうか絶対別れると思ってたもん。
慎太郎 じゃあ何で報告しなかったの?
美知代 面倒くさくって。
慎太郎 あのねえ……。
真実子 とにかく!これでまたひと組み減っちゃったわけよ。慎太、またデータ書き替えといてね。
慎太郎 はいはい……(パソコンに向かう)。
奈緒美 リーダー。
真実子 何?
奈緒美 じゃあ明日の予定から3組は外してよろしいんですか?
真実子 え?
美知代 あーそうよね、3組内でカップルなのってあの二人だけだったもん。
真実子 そうだった?
慎太郎 そうだよ。って言っても隠れカップルがいくらいるかわかんないけどね。あそこは担任が男女交際にうるさいから。なかなか教えてくれないんだよ。
真実子 バレンタイン撲滅運動隊の顧問でしょ?嫌な奴よねー。
奈緒美 まあまあ。もてない人が他のカップルをやっかむのは仕方のないことですよ。
慎太郎 あそこの先生、ゴリラみたいな顔してるもんね。
奈緒美 表現が古いですよ。せめて恐竜とか。
美知代 もっと古いじゃん。
奈緒美 時代の話をしてるんじゃありません。
美知代 あーでもあの先生ゴリラとか恐竜って言うよりはさ(急に笑いだす)。
真実子 どうしたの?
美知代 いや、思い出しちゃって。あのさ、地理準備室にさ、あの、原始人の顔の模型みたいなのあるじゃん。
奈緒美 ああ、ありますね。
美知代 あれの、右から2番目の!めっちゃくちゃそっくりなのよ!加藤先生に。
慎太郎 そうなの?
真実子 ああ!そんな話聞いたことある。
慎太郎 うわー今度見てこよう。
奈緒美 あれってでも今入り口から見えませんよ。
美知代 え。そうなの?
奈緒美 こないだ動かしてましたもん。……加藤先生が。
美知代 (爆笑)。
慎太郎 辛いんだね、あの人も。
真実子 40過ぎて独身だもんね……。さ!そんなことより!今日の会議を……、美知!?聞いてる?
美知代 ご、ごめん……ちょっと……苦しい(笑いながら)。
真実子 全く……。ほら、明日の作戦のおさらいをするわよ。

   真実子、立ち上がり、みんな真実子を囲んで座る。
   美知代、笑いつつも漸く落ち着いてきて座る。

真実子 大丈夫?
美知代 ああ、もう大丈夫。ごめん。続けて。
真実子 (咳払い)えーっと、バレンタインまで残すところ後一日を切りました。この日のために我々はデータを集めに集め、バレンタン撲滅運動隊に対する対策を練ってきたのです。
美知代 堅いよ、リーダー。
真実子 うるさい。……それじゃ計画表に従っていくわよ。まず朝は6時までに登校。
奈緒美 ええ!?そうなんですか!?
真実子 あんたねえ、話聞いてなかったの?
奈緒美 はい。
真実子 …………。
慎太郎 まあまあリーダー。奈緒ちゃんは家遠いんだからいいじゃない。
真実子 そういう問題じゃないわよ。
美知代 かりかりしない。ほら、次進めてー。
真実子 ……えーっと、ここでバレンタイン撲滅運動隊がチョコを取り上げる活動をしてると思うから、みんなは生徒のチョコを守ること。具体的案としては何があった?慎太。
慎太郎 事前にかばんを二重底にしておくよう指導する。
真実子 美知。
美知代 バレンタイン撲滅運動隊に話し掛けて動きを封じる。
真実子 奈緒。
奈緒美 チョコを大量に手に入れておき、奪われた人にこっそり渡す。
真実子 OK。チョコの購入はすんでるわよね?
美知代 苦労したわよ。
慎太郎 大抵のチョコ売場はバレ撲隊が見張ってるもんね。
真実子 そこ!略さない!
慎太郎 あ、ごめん。
真実子 前から言ってるでしょ?もう。
奈緒美 あのー。
真実子 何?
奈緒美 前から気になってたんですけど。……何で作戦中や会議中は略称禁止なんですか?
真実子 ……似てるからよ。
奈緒美 はい?
美知代 バレンタイン撲滅運動隊、通称バレ撲隊。
慎太郎 ぼくらはそれに対抗するバレンタイン撲滅運動撲滅運動隊。
真実子 通称バレ撲撲隊。
奈緒美 リズム悪……。
真実子 他にいいのがないんだから仕方ないでしょ。
慎太郎 撲が一個あるかないかだもんねー。一瞬ややこしいって。
美知代 でもさ、バレンタイン撲滅運動撲滅運動隊ってのもさ最後まで聞かなきゃ勘違いされるわよねー。
慎太郎 おれ、こないだ友達に「素直に『バレンタイン推進委員会』とかしろ」って言われちゃったもん。
美知代 わかるわかる。
真実子 違うでしょ!

   間。

真実子 私たちはバレンタインを推進するためにここにいるんじゃないの。あくまでバレンタイン撲滅運動隊を潰すための隊なのよ。あなたたちだってそうでしょ!?
慎太郎 まあ……。
美知代 そうだけど……。
奈緒美 そういえば皆さんって何でここに入ったんですか?学校内じゃバレ撲隊と並ぶ変人集団だと言われてますが。
真実子 並んでないわよ!
美知代 変人を否定してよ!
慎太郎 集団といえる人数じゃないよ!?

   間。

奈緒美 ……4人いれば集団だと思います。
美知代 そこに突っ込まないでよ……。
慎太郎 あーでもホントにそうだよね。おれ、みんながこの隊入った理由って知らないや。
奈緒美 バレ撲隊じゃあ毎日のように隊員に言わせてるらしいですよ。
美知代 マジで?馬鹿じゃない。
真実子 いや。大切なことよ!それじゃあ隊員の士気を高めるためにもこの隊を志望した理由とこれからの決意を述べなさい!まずは隊員ナンバー2、曽我部美知代!
美知代 ええ?私からー?(渋々立ち上がり)えーっと、私は、バレンタインが大好きです。バレンタイン前になるとたくさんの男の子たちが優しくなり、媚びを売ってくれるので便利です。よってーそのバレンタインを潰そうとするバレンタイン撲滅運動隊は許せません!男が女に従う日は永遠になくなってはならないものだと思います。私はこれからも多くの下僕を作るため、この隊を続けたいと思います。

   全員、拍手。

真実子 じゃあ次、隊員ナンバー3、河原田慎太郎!
慎太郎 はい。……おれにはかつて彼女がいた。いわゆる二人はラブラブだった。そして初めて迎えたバレンタイン。彼女は当然のようにおれにチョコを……くれなかった。おれたちの仲はあっという間に終わりを迎え、淋しいバレンタインが待っていた。それもこれも、あの時彼女の邪魔をしたバレンタイン撲滅運動隊が悪い!バレンタイン撲滅運動隊が憎い!あいつらさえいなければおれたちはまだラブラブだったはず……!おれは、この隊を永遠に続け、世の中からそんな不幸なカップルをなくすことを誓います……。

   全員、拍手。

真実子 ……次、隊員ナンバー4、宇都宮奈緒美。
奈緒美 はい。私は、チョコレートが大好きです。この世にあれほど美味しいお菓子はないと思います。バレンタイン、それはチョコレートが大量に売られる日……。なのに、私は去年、ただのひとつのチョコも手にすることが出来ませんでした。そう。バレンタイン撲滅運動隊の買い占め運動があったのです。年に一度の楽しみバレンタイン……。私は、チョコを奪った彼らが許せません。これからも、チョコを守るため、ずっとこの隊にいたいです。
全員 …………(とりあえず拍手)。
真実子 よし。じゃあ最後はこの私。バレンタイン撲滅運動隊リーダー、佐々木真実子!……私の初恋は4歳の時だった。相手は同じ幼稚園の幸之介くん……。もてもてでライバルもたくさんいた。だけど!私はバレンタインの日、大量のチョコを渡し、彼のハートを射止めることに成功した……。そして私は知った。バレンタインこそ、男の子をおとすのにうってつけの日であることを!それから私は毎年のようにチョコを配った。出費は常に五千円以上。そう、これで男が見つかるなら安いものじゃないの!私はそうやって毎年男を見付けてきた。ところが!この学園に入り、バレンタイン撲滅運動隊の存在を知った……。私は、私から幸せを奪おうとする奴らが許せない。去年はチョコも買えず、代用品も渡せず……!男が、私の元からいなくなった。間違ってる!彼らの活動は間違ってる!そう考えた私はこの隊を結成した。もてない男など、この世からいなくなってしまえばいい。私は私がいる限り、この世にいい男がいる限り、この隊を永遠に存続させることを誓う。以上!

   退屈そうに聞いていた三人。
   姿勢を正しておざなりな拍手。

真実子 バレンタイン撲滅運動撲滅運動隊は永遠に不滅よ!
全員 おー!
真実子 それじゃあ今日は学園内の至るところにチョコを隠しにいくわよ。いかにしてバレンタン撲滅運動隊の目をかわすか、よく考えて行動すること。奈緒、チョコの用意。
奈緒美 はい(チョコの入った袋を取り出す)
真実子 それじゃ、行くわよ!

   真実子、美知代、慎太郎、去る。

奈緒美 バレンタインの壮絶なる戦い。……今年で終わらせてみせる。

   奈緒美、去る。
   しばらくして一、こっそりと部屋の中に入ってくる。
   部屋の中のものをいろいろいじくっている。

 よし。

   一、パソコンを開いて、何か打とうとする。
   突然入ってくる平。

 リーダー!

   一、平の大声に慌ててパソコンを閉じ、そのままうずくまる。

 リ、リーダー?
 ……指挟んだ……。

   平、うずくまる一を無視して椅子に座る。

 おお、何かいっぱいあるぜ。作戦書。おれらもこーゆーの作らないと駄目だよなー。……ところでリーダー。章と幸は?
 まだだ……。
 あ、そう。何やってんのかなー。
 少し静かにしろ……。ばれたらどうする……。
 大丈夫だって!リーダーは心配し過ぎなんだよ。
 お前は安心し過ぎだ。

   章、幸、入ってくる。

 こんにちはー。
 あら、もうみんないるの。
 おお、章、幸。遅いぞ。
 遅れてはないぞ。
 そうよ。むしろ、あなたたち早過ぎるんじゃない?
 そうそう。バレンタイン撲滅運動撲滅運動隊と勝ち合っちゃたらどうするんだよ。
 おれはちゃんと確認して入った。
 ま、リーダーならそうだろうけどさ。
 それよりとっとと始めましょう。あの人たちが帰ってくる前に。
 よし。座れ。

   全員、座る。

 それではバレンタイン撲滅運動隊の作戦会議を始める。平。
 おう。
 やれ。
 は?
 ちょっと、進行はリーダーがやるもんでしょ。
 おれ?やっぱり?

   全員、頷く。

 わかったよ(渋々立ち上がる)。えーっと、明日はバレンタインだ。
 うん。
 作戦は昨日言った通り。
 うん。
 覚えてるか?章。
 え?ああ。えっと、明日は6時までに登校して、生徒のチョコを奪う。
 その後は?幸。
 それぞれ担当の場所で要注意人物を中心にチョコの受け渡しがないか見張る。
 OK。問題なし。
 もう終わりか?
 他にすることあるか?
 何かリーダーってやる気ないよねーいつも。
 そう!リーダーは熱血が基本だぜ!
 じゃあお前やるか?
 それだけは止めて。
 お前が否定するなよ。
 それじゃあ最後にいつもの奴やるぞ。この隊に入った理由とこれからの決意を述べよ。
 それってさ、何のためにやってんの?
 隊員の士気を高めるためだ。
 意味ない……。
 まずはバレンタイン撲滅運動隊隊員ナンバー2、響平(ひびきたいら)。
 おう!おれはバレンタインは大嫌いだ!生まれてこの方チョコを貰ったことは一度もない。義理チョコすらない!いつもいつもいつも惨めな思いを味わうバレンタイン……。世界中にいるもてない男を救うためにも!今年こそ!絶対に潰してみせる!

   全員拍手。

 次、隊員ナンバー3、吉章(よしあきら)。
 はい。おれは、チョコレートが嫌いだ。
よくみんなあんな甘いものを食べられるな、と思う。毎年毎年あんなものを大量に貰うのはとにかく困る。それも本命チョコなら許せるが義理チョコばかり……。おれは、バレンタインがチョコをあげる日である限り、義理チョコというものが氾濫している限り、この隊を続けたい。

   全員拍手。

 えーっと、次、隊員ナンバー4、朝幸(あさみゆき)。
 はい。私はバレンタインという習慣が大嫌いです。何のためにこんなものがあるのかわかりません。こんな日がなくたって告白くらい出来るし。好きな人にはチョコを渡さなくてはいけないようで辛いです。だから、バレンタインという習慣がなくなるまでこの隊で活動を続けたいと思います。

   全員拍手。

 えーっとそれじゃあ最後は隊員ナンバー1、バレンタイン撲滅運動隊リーダー竜一(りゅうはじめ)。

   間。
   全員一を見る。

 あ、おれか。
全員 …………。
 (立ち上がって)。おれはバレンタイン撲滅運動隊リーダーだ。だからバレンタインを潰す。バレンタインを潰さない限り、おれはこの隊を止められない。だから潰す。卒業するまでに。以上。

   間。

 バレンタイン撲滅運動隊は永遠に不滅だ。
全員 ……おー……。
 元気ないぞ。
 あんたのせいよ。
 そうか?えーっとそれじゃ……。あ、そうそうこれからバレンタイン撲滅運動撲滅運動隊の隠したチョコを探しに行く。えーっと、平。
 ん?
 お前はもう少しこの部屋を探って奴らの作戦と行動を調べろ。
 ええ?おれパソコンとかわからねえぜ?
 あ、じゃあ私やる!
 大丈夫か?
 見つかったらやばいよ?
 大丈夫よ。そん時はちゃんと逃げるから。
 よし、じゃあ頼む。平、章、行くぞ。
 おお。
 うん(同時に)。

   一、平、章、去る。
   幸、パソコンを打ち始める。
   後ろから慎太郎入って来て、幸に目隠ししようとする。
   寸前で、

 だーれだ、とか言わないでよ。慎太郎。

   間。
   所在なげにうろつく慎太郎の手。

慎太郎 ……へ、へへ。ばれた?
 大体わかるわよ、あんたがしそうなことくらい。
慎太郎 そっかー。新パターンを作った方がいいかー。……あ、パソコン見た?
 見たわよ。こんなところに書き込まないでよ。ばれたらどうするの。
慎太郎 大丈夫だよ。おれたち以外わからない。
 まあね。
慎太郎 で、そっち、どう?
 今年は勝てるんじゃない?ウチのリーダー、頼りないもん。
慎太郎 らしいね。強敵はあの平って男だけでしょ?
 まあね。単純馬鹿だけど腕力は強いし、燃えてるし。でも付け入る隙はあるわよ。
慎太郎 馬鹿だから?
 そー。馬鹿だから。……で、そっちはどうなの?
慎太郎 うん、いけるんじゃない?ちゃんとチョコは大量に仕入れてるみたいだし。結構隠し場所にも凝ってるよ。
 そう、じゃ、これ(紙を渡す)。
慎太郎 何これ。
 今年のバレ撲隊の作戦書。正式な文書じゃないけど大体これで合ってるはずよ。
慎太郎 さっすが。お、要注意人物も書いてるね。
 そう。そっちのリストと照合してチェックし忘れがあったらそっちのリーダーに教えといてね。
慎太郎 サンキュ。
 ……慎太郎。
慎太郎 何?
 今年こそ。バレ撲隊を潰すわよ。
慎太郎 わかってるって。
 そのためにわざわざスパイやってんだからね。
慎太郎 やっぱ大変か?
 もーもてない男に囲まれて嫌になるわよ。
慎太郎 何かされてない?
 大丈夫。今のとこ。
慎太郎 今のとこって!
 大丈夫だってば。割合大事にされてるのよ。もてない男なんて女の子の扱いわかっちゃいないんだから。
慎太郎 それもそうだね。
 慎太郎こそ。女の子ばっかの隊にいて変な気おこしてない?
慎太郎 だ……大丈夫だよ!幸より可愛い子なんていないしさ!
 そう?それならいいんだけど。
慎太郎 さ、さーそろそろ戻らないとやばいかなー。
 ああ、頑張ってね。
慎太郎 うん。
 ……慎太郎?
慎太郎 何?
 ……チョコ、今年は用意してるからね。
慎太郎 ……ああ。
 じゃ、私もバレ撲撲隊の作戦書調べてるふりしなきゃ。
慎太郎 そうだね。じゃ、気をつけてね。
 うん。

   慎太郎、去ろうとする。

 あ、ちょっと待って!
慎太郎 何?
 しー(静かに)。
慎太郎 ……(小声で)どうしたの?
 誰か来る。
慎太郎 ええ?
 とりあえず隠れましょう。
慎太郎 ちょ、ちょっと。

   二人、隠れる。   奈緒美、入ってくる。

奈緒美 誰もいないかな……?
 奈緒美〜。
奈緒美 章!びっくりするじゃない。急に話しかけないでよ!誰かに見られたらどうするの?
 だって誰もいないじゃん。
奈緒美 ちゃんと確認してから言いなさいよ。そういうことは。
 (きょろきょろして)よし、誰もいない。
奈緒美 ……まあ……いいけど。
 それで。作戦書持って来てくれた?
奈緒美 ええ。これ。
 おお、すげー。バレ撲撲隊って真面目に活動してるなー。
奈緒美 バレ撲隊はやってないの?
 今年はリーダーがやる気ないから。結構無理矢理押しつけられたみたいだなー。ま、あいつは硬派だから女の子に嫌われるのは構わんみたいだけど。
奈緒美 章はいいの〜?嫌われて。
 いいよ、別に。
奈緒美 何で?
 そりゃあ……。
奈緒美 そりゃあ?
 (奈緒美を見て)その〜。
奈緒美 その?
 何だー。
奈緒美 何だ?
 っていうかお前わかってんだろ。
奈緒美 私がいればいい?
 恥ずかしいセリフ言わせるな。
奈緒美 (笑って)ま、別にいいけど。私はチョコさえ手に入れば。
 お前ホントチョコ好きだよな。それで何でバレ撲撲隊を潰そうとするんだ?
奈緒美 男にやるのは間違ってるから。だって女の子の方が甘いもの好きでしょ?何でいちいち男にやらなきゃいけないわけ?だから、バレンタインを潰すのは賛成。
 別にお前がやらなきゃいいんじゃん。
奈緒美 駄目。義理チョコくらい渡さないと怒る先輩いるし。人にやるぐらいなら自分で食べるわよ。
 ま、いいけどなー。
奈緒美 章は何でバレンタイン潰したいの?
 おれはチョコ嫌いだもん。
奈緒美 何で!?あんな美味しいものを!
 男は甘いものは嫌いなんだよ。
奈緒美 へーやっぱりそうなんだ。じゃあやっぱりバレンタインって間違ってるよね。
 じゃあホワイトデーって普通何送るのかな?
奈緒美 クッキーとか……。マシュマロってのも聞いたことあるけど。後は飴とか?ま、どれにしてもチョコレートには及ばないわね。
 ま、そうだろうな。
奈緒美 さ、それよりとっとと用件すませましょう。はい、これ。
 何だ?
奈緒美 あーもう鈍いわね!私たちが教室に隠したチョコの地図よ。
 ち、地図?
奈緒美 拾われた場合の用心に暗号になってるわ。
 おい。
奈緒美 大丈夫。簡単なものだから。とりあえずねえ……。

   奈緒美、部屋の中をごそごそと漁る。

 何やってんだ?
奈緒美 解読表探してるの。この部屋にあったはずなのよ。
 ああ、それでこの部屋で待ち合わせなのか。
奈緒美 当たり前じゃない。そうじゃなけりゃこんな危険な場所で……あ!あった!
 ん?
奈緒美 ほら。わかる?
 ……おおー。バレ撲撲隊ってすげー。
奈緒美 そりゃあ私が所属してる隊だもん。
 スパイのくせに。
奈緒美 何よー。私はバレ撲隊に所属してるわけじゃないわよ。
 おれを無理矢理入れといてなあ。
奈緒美 それより章。今年のもう一つの目標……わかってるでしょうね。
 ああ。
奈緒美 作戦は大丈夫なの?
 正直ちょっときついな……。ま、でも何とかやれるだろ。リーダーだって一応男なんだし。
奈緒美 問題はウチのリーダーがそっちのリーダーに惚れてくれるかよね。
 難しそうだなー。
奈緒美 やるしかないわよ。一をリーダーから下ろすにはそれが一番てっとり早いんだから。ついでにバレ撲撲隊にもダメージを与えられて一石二鳥。
 でも一だって結構真面目に活動してるぜ?
奈緒美 あんたいまさらかばうの?あいつがリーダーやってる限りバレ撲隊は駄目なのぐらいわかるでしょ。
 まあなあ……。
奈緒美 (一際大きな声で)さあ!明日はバレンタインよ!気合い入れていくわよ!

   奈緒美、去る。

 おい、奈緒美……。あ、追い掛けちゃまずいんだっけ?

   章、きょろきょろして。

 ま、いっか。

   章、去る。
   幸、慎太郎出てくる。

慎太郎 すごいもの見ちゃったね……。
 バレ撲隊の奴〜!スパイなんて送ってたのね……!
慎太郎 怒れる立場じゃないよ。
 あーむかつく!こうなったら、明日のバレンタイン絶対勝つわよ!慎太郎。
慎太郎 ま、今年は楽勝だと思うけどね。
 油断大敵!
慎太郎 はいはい……。
 やる気がない!
慎太郎 ……でもさ。あの二人のやろうとしてることって……結構こっちにも都合いいんじゃない?
 え?
慎太郎 前に聞いたけど、昔バレ撲隊が存続の危機に陥った時のこと。
 何それ。
慎太郎 リーダーが彼女作ったんだってさ。女の子からのチョコを受け取ってね。
 成程……。
慎太郎 ね?あいつらバレ撲隊のリーダーに彼女作ろうとしてるんだから絶対こっちにも有利だよ。
 でもそれで平がリーダーについたら?あ、でもあいつはリーダー向きじゃないか……。
慎太郎 そう。絶対弱体化する!
 慎太郎!これは……私たちのするべきことが見えたわよ!
慎太郎 うん!
 真実子と一をくっつける計画。私たちもノリましょう!
慎太郎 おお!

   幸、慎太郎、去る。
   暗転。
   声が聞こえる。

真実子 くぉら!バレ撲隊!人の恋路の邪魔するなー!
 初恋って実らないものなんだよね。
美知代 ちょっとお兄さん、このチョコ欲しくない?
 校内へのチョコの持ち込みは禁止!
慎太郎 今年から校則は変わったんだよ。
 義理チョコなんかいらん!
奈緒美 ちょっと!私のチョコ取らないでよ。
 あ。チョコ貸したげる。告白頑張ってね!

   照明。
   場には真実子と一。

 一つ確認しておく。
真実子 何。
 おれはバレンタイン撲滅運動隊リーダーだ。
真実子 そうね。
 そしてお前はバレンタイン撲滅運動隊撲滅……撲滅撲滅……撲滅隊運動……、
真実子 撲滅運動撲滅隊。
 だ。
真実子 覚えなさい、それくらい。
 とにかく。おれたちは対立している。
真実子 うん。
 勝ち負けはバレンタインで決まる。
真実子 うん(苛ついてる)。
 バレンタインとはそもそも2月14日、チョコレートを意中の人に……、
真実子 あーもうじれったい!何が言いたいのよ、あんた。
 何を言って欲しい?
真実子 ……(脱力)。

   平、入ってくる。

 リーダーいい加減にしろよ!
 平。
 勝負付けにきたんだろ!どうだったんだよ、結果は。
 没収したチョコの数は92個。
真実子 嘘!?そんなに取ったの?
 二つ以上持ってた奴が多かった。かばんの二重底は古い手口だな。
真実子 くっそー。
 じゃあおれたちの勝ちか?
真実子 そんなことないわよ!とどこおりなくチョコを渡せたって人だって現に……。
 誰だ?
真実子 例えば1組の……

   間。

真実子 何言わせるのよ!
 意外に単純だな、お前。
 意外に強いな、リーダー……。……ってそんなこと今はいいんだよ。結果がわかんなきゃどうしようもないだろう。
真実子 私たちの勝ちに決まってるわ!
 おれたちの勝ちに決まってんだろ!
 幸、章。どう思う?
 あっらーばれてたのね。

   幸、章出てくる。

 おれたちの勝ちだよな!?
 うーん……。
 ちょおっと負けちゃったかなー?
 何でだよ!
奈緒美 そうよ!

   奈緒美、出てくる。

奈緒美 今年の業績は立派なもんじゃないですか!先輩たちの大半は義理チョコを諦めてましたよ!
 何言ってるのよ!義理チョコなんてバレンタインでは大した問題じゃないわ!本当に好きな人へ本当に好きな人があげるもんでしょう!

   間。

真実子 奈緒美……あんたどっちの味方よ……。
奈緒美 あ……。
 幸もな。
 う……。
 何、何何?お前ら何か言ってることおかしくないか!?
 ほら約一名混乱してる。
美知代 私もわかんない……。

   美知代、幸や章と同じところから出てくる。
   さりげに慎太郎も出てくる。

真実子 あんたもいたの?
美知代 ずうっと同じとこいたんだけどね。だーれも気付いてくれないんだもん。っていうかさ、私が興味あるのは勝敗だけなんだけど。
 そうだよ!それの話し合いだろ!
美知代 大声出さないで。うざいから。
 ああ!?
美知代 大体ね、あんたみたいなもてない男がいるからこんな大騒ぎになってんじゃない!あんたたちさえ大人しくしてたらみんなバレンタインは平和に過ごせるんだから。やっぱ下僕はいい男の方がいいしー。
 ブスが出しゃばんな!
美知代 ブ、ブスって何よー!あんたね、そうやってデリカシーないことばっか言ってるからもてないんでしょう!?

   何時の間にか章と奈緒美、
   慎太郎と幸は二人で同じ場所に隠れている。
   頭をかかえる真実子と無表情の一。

 お、おれだってな!好きでもてない男やってるわけじゃねえ!口が悪いのだってその……そういう男ばっかの環境で育ってきたからだ!
美知代 じゃあそんな環境とっとと出なさいよ!
 無茶言うな!家族がそうなんだぞ!
美知代 じゃあ家出なさいよ!
 それも無茶だ!おれは家事なんか出来ん!文句あるならお前がやれ!
美知代 おお、やってやろうじゃないの!
 言っとくがおれは料理うるさいからな!
美知代 稼ぎ悪いと追い出すわよ!
 だったら部屋借りるぞ!
美知代 安過ぎる部屋はよしてよね!

   二人、言い争いしながら去る。

 ……何だ、あれ。
真実子 頭が……。

   慎太郎、幸、出てくる。

慎太郎 何かすごかったねー。
 あの二人、結婚でもするの?
真実子 っていうかあんたたち、どうして一緒のとこに隠れてるのよ。
慎太郎 おれたち付き合ってるもん。
真実子 はあ!?
 私、バレ撲隊へのスパイなのよ〜。
真実子 そ、そうだったの?
 バレンタイン潰そう、なんて女の子がるわけないじゃないの。
奈緒美 いますよ(登場)。
真実子 奈緒!
奈緒美 私はバレ撲撲隊へのスパイですから。
 知ってるわよ。
慎太郎 昨日知ったんだけどね。
 っていうか幸〜(登場)。
 あら、章。
 お前、スパイってどういうことだよ。
 言葉のまんまよ。そっちの奈緒美だってそうなんでしょ?
 まあそうだけど。
真実子 な、何がどうなってるの?ちょっと一、あんたも何か言いなさいよ。
 おれはバレ撲隊のリーダーだ。
真実子 わかってわよそんなことー!
奈緒美 皆さんとりあえず落ち着いて下さい。はい、座って。

   全員座る(奈緒美も含めて)。

真実子 ……で?
 バレンタインを潰したい奴、挙手。

   奈緒美、章、一が手をあげる。

 潰したくない奴挙手。

   幸、慎太郎、真実子挙手。

 3対3。今年は同点。
真実子 違うでしょ!
 ……何か馬鹿らしくなってきた……。
慎太郎 もういい加減夫婦漫才に付き合うのもねー。
真実子 誰が夫婦よ!
 漫才なのか?
 相変わらずとぼけるわね。一。
 どういうことだ?
 何でもない。
 じゃあ今年の勝負はジャンケンで決めるか。
真実子 それで誰が納得するのよ。
 ジャンケンポン。

   真実子も思わず出してしまう。
   あいこ。
   しばらく続く。
   その間に幸、慎太郎を引き寄せる。

 ちょっと慎太郎。
慎太郎 何?
 このままじゃこの二人、一向発展しないわよ。
慎太郎 っていうか発展させる気あるの?
 ちゃんと作戦は立ててあったんだけどなあ。
慎太郎 作戦って?
 ふっふっふ。ラブレター書いたの。一から真実子へ、真実子から一へ。これでお互いのこと意識しないはずないもの!
慎太郎 意識してるように見えないけど……。
 そうなのよ〜。おかしいと思わない?ほら、こんなにいい文が出来たのに……(言いながらラブレターを2枚出す)。
慎太郎 何でここにあるの……?
 え……?
慎太郎 出してないんじゃん……。
 ……完成の嬉しさから忘れてたわ……。
慎太郎 こんな間抜けだなんて思わなかった……。
 何ですって!?ああ、もういいから!とにかく何とかムード作ってあの二人くっつけるわよ!
慎太郎 OK……。

   幸、慎太郎振り向く。
   まだジャンケンをしている二人。
   幸、二人の間に割り込む。

 ストップ、二人とも。
奈緒美 こんなんじゃいつまでたっても決まりませんよ。
 そういえば二人がジャンケンで勝負ついたとこ見たことないな。
慎太郎 え?いつも同じ手?うわ。相性いいなあ(多少わざとらしい。幸、慎太郎に肘鉄)
 まあ近親憎悪ってのもあるしね。

   幸、章を後ろからはたく。
   不思議そうな顔で後ろを見る章。
   その間に前から奈緒美がはたいている。

 ここはさ、お互いゆっくり話しあって決めるべきじゃない?
慎太郎 そうそう。で、おれたちは邪魔だから!
 二人っきりでね〜。

   幸、慎太郎、去る。
   すぐ戻ってきて、奈緒美、章を殴る。
   そのまま引きずるように退場させる。
   間。

真実子 最初の状況じゃないの、これじゃ……。
 そうか。じゃ戻すか。……おれはバレンタイン撲滅運動隊のリーダーだ。
真実子 それはもういいっての。あんた私をからかってない?
 おれは冗談は言ってない。
真実子 わかったわかった。じゃとっとと終わらせましょう。えっと、まずあんたたちが奪ったチョコは……いくつだっけ?
 98個。
真美子 増えてない?
 気のせいだ。
真美子 そう。で、何人?
 それは数えてない。で、お前んとこが告白成功させたカップルは何組だ?
真実子 正確なとこはわかんないわよ。一応義理チョコも守ることにしてるし。少なくとも30組はいるけどね。
 少ないな。
真実子 少なくともよ!多分90組はいるわよ。
 いきなり3倍か。
真実子 いいでしょ、別に。ああ、もう面倒くさい。これ、ウチの結果報告書。これ見れば大体わかるでしょ。(報告書を渡そうとする)。
 いい加減だな(受け取ろうとする)。

   二人の手が触れた瞬間、音楽。
   見つめ合う二人。

真実子 ちょっと何よ!この音楽。
 恋の始まり、って感じだな。
真実子 ふざけないで!

   音楽、ムード音楽になる。
   さらに照明も変わる。
   二人再び見つめ合う。

幸の声 ああ、私は何て愚かだったんだろう。目の前の男の魅力に気付かなかったなんて。この人といられるならバレンタインなんてもうどうでもいい!
慎太郎の声 ああ、おれは何て愚かだったんだろう。目の前の女の魅力に気付かなかったなんて。この人といられるならバレンタインなんてもうどうでもいい!
奈緒美の声 そして二人はいつしか手を取り合い……(二人、手を取り合ってる)。
真実子 一……。
 真実子。
章の声 お互いの思いをぶつけ。
真実子 私、本当はあなたのことが……。
慎太郎の声 丸い世界へ。

   間。

 ま、丸?
幸の声 馬鹿ー!何で丸なのよ!
慎太郎の声 ち、違う!熱い世界!
章の声 それもそれでどうかな……。
奈緒美の声 ここはやっぱりピンクの世界で、
幸の声 やばそうな発言するなー!
真実子 ちょっと!

   言い争い、止まる。

真実子 出てきなさい。

   間。

真実子 出てきなさい!

   間。

真実子 10秒以内に出てこないと中学生の時おねしょしたのばらすわよ。
慎太郎・章 わー!ごめんなさいー!

   慎太郎、章、飛び出す。

二人 あれ?
真実子 あんたら……中学生にもなって……?
二人 あーだましたな!
 おーい。後の奴も出てこーい。彼氏のおねしょ言い触らされたくなかったらなー。

   幸、奈緒美、渋々出てくる。

真実子 さて。何をたくらんでいたのかしら?
 えーっと(奈緒美を見る)。
奈緒美 え?えっとー(章を見る)。
 え?あ、えっと(慎太郎を見る)。
慎太郎 ええ?えっとえっと(きょろきょろした後、一を見る)。
 ん?えっとな……(真実子を見る)何をたくらんでいたんだ?
真実子 私に聞くなっ。もうあんたは黙ってて。さてあんたたち……。
 あのー真実子さん目が恐いんですけどー。
真実子 (笑顔になる)。
 もっと恐いでーす……。
慎太郎 大丈夫だ幸!お前はおれが守る。
 ホントvv
真実子 へーいい根性ねー。そっちは?(章、奈緒美の方を見る)。
 ……恐い……。
奈緒美 大丈夫よ章。あなたは私が守るわ!
 ホントvv
真実子 情けないカップルね……。
慎太郎 やっぱり男が守る方がいいの?
 そうよー。真実子のタイプってどんなの?一ってある意味すっごく頼りになるよねー。
真実子 ……あんたたちの考えはよおくわかった。ようするに私と一をくっつけようとしてたのね?
 ピンポンピンポーン。
奈緒美 不正解〜。
真実子 どっちよ……。
 わかった。
全員 え?
 おれたちを二人っきりにさせてさらにムード音楽かけてお互いひかれるように仕向けたんだな?
真実子 だからさっきそれ言ったんだって。
 あのムード音楽は良かった……。
真実子 一?
 ずっと言う気はなかった。おれはバレ撲隊のリーダーだから。告白って二文字は。おれにとっては重すぎたんだ。
真実子 一……。

   ムード音楽。
   4人、さりげにガッツポーズ。

 おれが初めてお前に会ったのは、高校1年の時。北校舎3階の科学準備室の前ですれ違った時だった。
真実子 そ、そうなの……?
 ……一目惚れって言うのかな。名前も知らないお前のことがずっと頭から離れなかった。
真実子 1年の時一緒のクラスだったけど?
 一度告白しようとはした。2学期の終業式前の大掃除の時、焼却炉の前でたまたまお前を見かけた時。
真実子 私、トイレ掃除だったんだけど?
 でもその時すでにバレ撲隊に所属していたおれは……諦めざるをえなかった。
真実子 そうね……。
 そしてお前がバレ撲撲隊に入った時……おれはもう全てをふっきった。……つもりだった。
真実子 一……。
 こんな、音楽に流されての告白なんて信じてもらえないかもしれないけど……。

   一、真実子に近付く。

真実子 一……。私も……、
 (肩を掴んで)好きだ。慎太郎。

   長い間。

慎太郎 ……え?

   さらに間。
   時間の止まった空間で、奈緒美が静かに立ち上がる。

奈緒美 暗転。

   暗転。

慎太郎・幸・真実子 (悲鳴に近い叫び声)ちょっと待てー!!

   照明が付いた時、場には奈緒美と章。

奈緒美 バレンタイン撲滅運動隊にバレンタイン撲滅運動撲滅運動隊……。
 見事に終わったね。
奈緒美 見事に終わったわね……。
 平と美知代ってどうしてんの?
奈緒美 二人で幸せ〜に暮らしてるわよ。
 いいのかなあ、あんななりゆきカップル。
奈緒美 駄目だったらその内別れるでしょ。
 同棲までして?
奈緒美 私たちもする?
 ………(照れて顔を背ける)。あ、慎太郎と幸は?
奈緒美 さあ、元気にやってるんじゃない?こないだ転校先から手紙来たわよ。
 上手くやってるんだ。
奈緒美 とりあえずわね。
 んで……リーダーたちは?
奈緒美 さあ。
 二人おっかけて転校しちゃったんでしょ?
奈緒美 そんな噂どこで聞いたの?まだこの学園にいるわよ、二人とも。
 そうなの?
奈緒美 登校拒否よ。登校拒否。失恋くらいで情けないわよねー。
 でもおれだって奈緒美に振られたら……。
 新しい恋を探す。
真実子 それって素晴らしいことだと思わない?

   一、真実子登場。

 なあ章!(章の手を握って)。
真実子 ねえ章!(同時に)

   暗転。

二人 ちょっと待て〜!

   照明。
   場には平と美知代。
   ぼーっとしている。
   美知代は編み物などやっている。

 今月の生活費、後どのくらいだ……?
美知代 300円。
 今月、あと何日あったっけ?
美知代 11日。
 ……腹減ったな。
美知代 うん。
 何か、食べたいな。
美知代 うん。

   間。

美知代 ねえ。
 何だー?
美知代 大変なことが起きたの。
 ふーん。
美知代 子供が出来たの。

   間。
   暗転。

―幕―

<後記>
我らバレンタイン撲滅運動隊とあわせてご覧下さい。続編のようなそうでないような。
ちなみに題名は「バーサス」ではなく「ぶいえす」とお読み下さい。意味はないです。

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