【バレンタイン撲滅運動隊を結成した昇。そこに集う通、研、歩に麗。しかし歩には想い をよせる相手がいた……。バレンタインデー。勝つのは誰か。恋と友情の一騎打ち】
学校内のある部屋。元は何かの部室だったらしい。
机、パソコン、戸棚、漫画などがある。
昇、研、歩、相談している。
「潰せ」だの「こいつは俺がやる」だのと言ってる。
通、飛び込んでくる。
通 大変だ!みんな。
みんな一斉に振り向く。
通 良が……良が恵に告白した!
全員 何ー!
昇 バレンタイン直前に告白かよ。
研 どうするんだよ。また一組増えちゃったよ。予定狂っちゃうなあ……。
歩 大丈夫よ。私、あの二人にはチェックいれといたんだ。結構怪しかったから。
通 さっすが歩。……でもそれなら何で報告しないんだよ。
歩 だってはっきりしてなかったし……。ここにきたら忙しいんだもん。毎日、毎日作戦
会議だし。口挟む余裕ないのよ。
昇 馬鹿ー。報告は隊員の大事な義務だぞ。
な、通。
通 おう。おれたちは何よりもこの隊を大事
にし、世の中のカップルを抹殺するために命
をかけているのだ!
昇 そー。そうなんだよ。そしてバレンタイン前。今一番大切な時期なんだぜ。
歩 そんなに言わなくてもいいじゃない。作戦に変更はないんだから。
通 そうなのか?
歩 ほら、作戦に名前入ってるでしょ。気付かなかったの?
通 それならいいけど……。気付かなかったな……。
昇 よし。それじゃ麗が帰ってきたらもう一度確認だ。
研 そういや麗は?
昇 デパート。チョコ売場で見張ってる。
研 ああそうか。今日、売れなきゃ大丈夫かな。
通 ほかにもチョコ売場はあるからな。ま、
でもあそこ押さえときゃだいたい大丈夫さ。
歩 でも前日の担当が麗って不安だなあ。ほんとに麗で大丈夫なの?
昇 大丈夫……だろう。たぶん。チョコって前日に買うもんじゃないだろ。なら今日が一番客が少ないさ。
歩 そうかなあ。
昇 ち、違うのか?
歩 私は前日に買うこと、よくあったけど。
昇 …………。
研 何か……不安になってきたね……。
麗、入ってくる。
麗 ハロー。
全員 ハロー。
麗 あっれー。みんな声がダークだね。あ、
私の仕事が心配?大丈夫。バッチシ。OK。
通 ほんとーか。
麗 あなた、私の仕事疑ってるね。それじゃあバレンタイン撲滅運動隊隊員ナンバーファイブ、
王麗の2月13日結果報告を致します。
みんな、立って背筋を伸ばす。
麗 今日、チョコレートを買いに来たのは全部で5人。内3
人はその場であきらめさせることに成功した。
全員、感嘆の声をあげる。
麗 そして一人は安いチョコレートを大量に
買い、告白意志はない様子。でも一人は高いチョコレートを一個。丁寧に包装してたね。
昇 本命がいるってことか。
麗 名前聞き出したよ。神村楓。16歳。
歩 神村楓って確か……
研 待ってて。
研、紙の束をめくる。
研 あった。この学校の子だよ。大丈夫。作戦に入ってる。
通 ってことはこれで明日のオレたちの行動
は完全に決まったな。
昇 よし!それじゃ作戦のおさらいをする!黒板、前!
通と研がガラガラと黒板を持ってくる。
みんな、昇を囲んで座る。
昇 明日は全員六時までに登校。オレと麗と
歩は正門。研と通は北門で生徒を待ち構える。そしてみんなぎりぎりまで生徒の鞄をチェックし、
チョコを取り上げる。
麗 ストップ!リーダー。
昇 何だ?麗。
麗 そんなことしてティーチャーとかに怒られない?
昇 大丈夫。チョコを持ってくるのは校則でも禁止されてるから。OK?
麗 OK。
昇 その後、研と歩と麗は教室へ。オレと通
は残って遅刻してくる奴の鞄をチェックする。通、授業さぼる覚悟はできてるな?
通 もっちろん。この隊のため。
昇 よし。そして研たちは休み時間も絶えず
目を光らせておくこと。それぞれの担当場所
は?研。
研 1年生。西校舎1、2階。
昇 歩。
歩 2年生。西校舎3、4階。
昇 麗。
麗 3年生。本館3、4階。
昇 要注意人物も覚えてるな。
麗 オフコース!
昇 研、チェックリストと、対策をまとめた
紙は?
研 もうすぐ出来るよ。
昇 よーし。オレと通は3時間目が終わって
から合流する。
歩 どこに合流するの?
昇 え?
歩 通とリーダーはどこに合流するの?
昇 ……そういや……考えてなかったな。
研 1年と2年がいいんじゃない?3年は受験生でチョコ渡す人、少ないし。
昇 そうだな。それじゃあオレは1年。通は
2年を頼む。
通 了解!
昇 そして第一の大きな難関はここだ(黒板
を差す)
麗 ランチタイム。
昇 そう。昼休みだ。オレは4時間目もさぼって弁当を食う。昼休みはなるべく長く監視
の目を光らせるんだ。
歩 私もさぼる!
研 じゃオレも……
通 オレももちろん。
麗 ミートゥー。
昇 そしてこの調子で6時間目までいく。この後最後にして最大の難関が待ってる。
研 放課後だね。
昇 放課後。これが一番やばい。みんな、気
抜くなよ。ここから最終下校時刻までが勝負
だからな!
通 おう。
研 ねえ。
昇 何だ?
研 今思ったんだけどさ、オレたちが見張る
のって校舎だけでいいのかな?
昇 ……………。
研 むしろ校舎外で渡す方が多いんじゃないかな。オレ、もらったことないからわからないけど。
屋上、部室、校舎裏……。
歩 そうかー。そういえばそうだったわね。
麗 なら私見ようか?そっち。
通 そしたら3年の校舎どうするんだ?
昇 作戦変更だ!まず研!お前は一人で西校舎全部。
研 ええ?大変だなあ。
昇 それから麗!お前は本館から北校舎にかけて。北校舎は特別教室ばかりだからおそら
く人はほとんどいない。OK?
麗 OK。
昇 歩は校舎周辺をまわってくれ。
歩 はーい。
昇 そしてオレは麗と、通は歩と組んでやる。放課後はオレと通は部室周辺だ。
通 もうもれてるところはないな?
歩 ばっちりじゃん。
昇 それではリハーサルの前に隊員の士気を高めるためこの隊に志望した理由と
これからの決意を述べよ。
隊員ナンバー2、森通。
通 おう。オレは今まで女の子にもてたことは一度もない。寄ってくるのは変な男ばかりだ。
軟弱な男も許せないがそれ以上にそんな
男に惚れる女供が許せない。よってこの隊を
志望した。これからも世の女たちの目を覚まさせるためにもこの隊で頑張っていきたい!
みんな、拍手。
昇 次、隊員ナンバー3、香川研。
研 はい。オレはバレンタインデーが嫌いだ。バレンタインデーに机の上に初めてあったのは
黄金虫の死体……。次の年はネコ……。その次はイヌ……。そしてその次は……うっ…
…(声にならない)……世の中からバレンタインデーという習慣がなくなるまでこの隊を続け
たいです。だってどうせチョコはもらえないし……。
みんな、同情。
昇 次、隊員ナンバー4、未知歩。
歩 はい。私はバレンタインデーという女の子ばかりが損をする習慣が許せません。最近
では義理チョコも増え、面倒くさくてたまりません。よってバレンタインデーを潰すため
この隊を志望しました。この隊を永遠に続けたいです!
みんな、拍手。
昇 次、隊員ナンバー5、王麗。
麗 私は高校入ってなかなかフレンドが出来なかった。この隊は私を受け入れてくれた。
だから入った。私にフレンドリーな人が出来るまでこの隊にいたいです。
昇 ……よし。それじゃあ最後はこのオレ、隊員ナンバー1。バレンタイン撲滅運動隊リーダー山昇!
……オレにはかつてライバルがいた。そいつとオレは成績も運動神経もほとんど差がなかった。差……
それはチョコだった。奴はバレンタインデーになると大量のチョコをもらうのに対し、オレはゼロ。
こんなこともあった。突然女の子がやってきてもじもじしながら後ろに何か隠してる。そしてこう
言ってきた。「あのー」オレは精一杯かっこよく言った。「何だい?」女は言った。 「このチョコ、
守君に渡して下さい!」……オレは凍り付いた。悔しくて悔しくて毎日どうやったらチョコをもらえるの
か考えた。そして或る日ふと気付いた。なぜバレンタインデーなんてものがあるのだ……?と。そうだ。
告白なんてしたいときにしたいだけすればいいじゃないか。なぜ告白の日なんてものがもうけられてる
んだ?オレは考えた。そしてこの隊を結成した。バレンタインデーは潰すべきものだと考えたからだ。
こんな日がなくても女は告白する。ならもてない男が劣等感を味わうだけの日などいらないではないか!
オレはオレがいる限り、もてない男がいる限り、この隊を永遠に存続させることを誓う!以上。
耳タコの様子で聞いていた四人。
姿勢を正す。おざなりな拍手。
昇 バレンタイン撲滅運動隊は永久に不滅だ
!OK?
全員 OK!
昇 それではリハーサルを始める!準備しろ。
みんな、机を片付け小道具を用意。
研、紙を取り出す。
研 それではナンバー1、網打愛子。対策1。
歩、チョコをもっておずおずとたたずむ。
通 あれ?網打さん、その手に持ってるのひょっとして……。
歩 え!
通 チョコだろ!そうか。そうか。ありがとう(チョコを取る)
歩 ちょ……、それは、
通 え?オレのじゃないの?
歩 当たり前よ!誰があんたみたいなのに!
それはA君のよ!
通 A?みんなAだ!Aを見張れ!
全員 OK!
歩 って、こんな簡単に名前ばらすかなあ。
研 網打愛子の乗りやすさからいって間違い
ない。それにこれは歩の経験談でしょ?
歩 まあ……そうなんだけど。
昇 研、次!
研 はい。ナンバー2。伊井郁恵。対策二。
これは相手がはっきりしてる。真鍋政彦。
麗がチョコを持って立つ。
昇 おい、聞いたか。3組の真鍋がチョコもらったって。
研 聞いた、聞いた。でもあれ、彼女でしょ。
通 あいつらもう何年も付き合ってるんだぜ。いい加減あきねえのかな?
麗 ねえ……それホント?
研 うん。他の子なんか目に入らないって言ってた。ね?
昇・通 ああ!
麗 そう……。
歩 わざとらしすぎない?
研 でもこれ聞いたらあきらめるでしょ?
歩 そうかもしれないけど……。
研 続いていきます。ナンバー3から8までは対策1、2で対応出来ます。ナンバー9、
剣崎景子。対策3。
歩が動く度、研が物陰から眺める。
じっと眺める。じっと眺める。じっと眺める。
ストーカーとなる。
歩 これ……一番効くかも……。
研 でしょ?
昇 次は?
研 ナンバー15、曽我部園子。対策4。
通 それ、あんまりやりたくねえな。
研 やるんだよ。麗。
麗 OK。
麗、チョコを持つ。
麗 あのー。
通 お、麗だ。いけー。
みんなで囲む。
通 逃げろー。
みんな、逃げる。
麗、少し、歩く。
麗 そのー。
通 みんな!麗発見!
全員 わー。
みんなで囲む。
通 ファイト!麗。
みんな、逃げる。
麗 あ!チョコがない!
間。
歩 ほんっとーに出来るの?
通 ふ。オレのスリテクニックさえ使えば。
研 ということ。
歩 …………。
研 続いて対策5!
歩、チョコを持つ。
麗、近寄る。
麗 ハロー。
歩 え、あ、ハ、ハロー。
麗 アーユーロスト?アイキャンティーチザ
ウェイ。OK?
歩 え……。
麗 アイノウジエリアベリーウェル。
研 ストップ!麗。
麗 ホワイ?
研 おれ、迷子の振りしろって言わなかった
?
歩 いいんじゃない……?相手、混乱させちゃえばいいわけだから。
研 そうかな……。
歩 麗、続けてみて。
麗 アイアムジャパニーズガール。
昇 言ってどうする!
歩 麗は外人の振りするの!
麗 オーOK。
歩 続けて。
麗 アイアム……アメリカン。
歩 うん。
麗 (早口で)アイウィルガイドユー。ソウギブミーチョコレート。
歩 ?え?えっと、
麗 OK?
歩 お、OK。
昇 よし!そういうことか!麗、えらい。
通 え?何がどうなったんだ?
研 案内賃にチョコをもらったんだよ。OK
って言っちゃった以上、拒否権はない。
歩 麗も考えてるのね。
麗 へへへ。
研 おれの作戦とは違うけど……まあいいか。それでは次、対策6。
昇、いる。通が取り掛かる。
通 お、昇。これ、A子が渡してくれって言ってたぜ。(手紙を渡す)
昇 お、サンキュ。(ちょっとどきどきして
手紙を開ける)
歩 (後ろから声だけ)昇君へ。はっきり言います。昇君のこと、嫌いになっちゃいました。
もう顔も見たくありません。絶対私に会わないでね A子より。
昇 ……(手紙を握り潰す)
研 応用編。
麗 あ、歩、X君から手紙よ。
歩 うわー。ありがとう。(開ける)
昇 歩へ。はっきり言って君はオレのタイプ
じゃない。うっとうしいから近付かないでく
れ。他に大好きな人がいるXより。
歩 ……(手紙を握り潰す)
研 ……最後。対策7。
歩、昇、向かい合う。
歩はチョコをもっている。
歩 あの……。
通 ストーップ!ストップ。
昇 誰だ?
通 生徒会役員。校内へのチョコ持ち込みは
禁止されてるはずだな?
歩 あの、これは、
通 言い訳無用。チョコは没収。君、クラス
と名前言って。
昇 ちょっと待てよ。これくらい見逃してくれよ。
通 うるせえ!
通、昇を殴る。(ふりでよい)
通 いいか!校則ってのは伊達にあるんじゃねえんだ!一つ見逃せばそれが大きな犯罪に
つながっていくかもしれねえだろ!おれたちにそれを見逃すことは出来ねえ!
昇 おい。
通 何だ。
昇 校則だと?そんな小さな規則が何だっていうんだ。世界は広い。天井に穴はない。ストローだって
入らないんだ。もっと虫眼鏡を
良くみよう。
通 …………。
麗 …………。
歩 …………。
研 リーダー……勝手なアドリブ入れないでくれるかな……。
昇 いや、これくらい言い返す奴いるんじゃないかな、と思って……。
通 お前ぐらいだよ、そういうこと言うのは……。
昇 そうか?
歩 でも今のかなりオーソドックスだったわね。今のなら全員に通用するんじゃない?
麗 渡すのがチョコじゃない相手は?
歩 あ。そうか。でもほとんどには……。
研 いや、この作戦には大きな欠点があるんだ。
歩 何?
研 通はどう見ても生徒会役員じゃない。
歩 なるほど……。
通 納得すんなよ、てめえ。
歩 でもそれなら研がやればいいんじゃない
?
研 おれ、人殴ったり出来ない。
歩 あ、あれって計画の内なの……?
麗 汚れ役は通一人ね?
研 そういうこと。ちなみにこれを実行する
相手は2組の佐々木小夜子。
通 待て、こら。
昇 どうした?
通 佐々木ってのはあれか?剣道部キャプテンで柔道部キャプテンと付き合ってる……。
歩 あ、知ってた。
通 お前らな!
昇 チョコだけは死んでも奪えよ。
通 泣かすぞ……お前ら。(泣きそう)
昇さあ、これでリハーサルは終了だな。それじゃあ今日は全校舎を回ってチョコが隠してないかを
調べる。オレと通で机を一個一個調査していくから研は要注意人物のチェックリストをまとめておいて
くれ。歩と麗は偽の手紙を作成。なるべくひどい言葉で振る手紙にしろ。OK?
三人 OK。
昇 よし。通、行くぞ。
通 …………。誰か包帯買ってきてくれ……。
昇、通、出ていく。
研、パソコンを打ち始める。
麗、歩、手紙を作る。
歩 (小声で)ねえ、あれ、買ってきてくれた?
麗 バッチシ。ほら。(袋の中からこっそりとチョコを出す)でも大丈夫?もしばれたら
やばいんじゃない?
歩 ううん。ばれるのは絶対ばれちゃうの。
だから関係ない。
麗 え?どうして?
歩 だって私が渡すのは……
麗 え?誰?誰?
歩 駄目!言えない。
麗 教えてよ。協力してあげたんだからね。
歩 じゃあ麗の好きな人も教えてよ。
麗 わ……私いないよ!仮にもバレンタイン撲滅運動隊員ともあろうものがそんな、好きな人なんて。
いつの間にか二人とも声が大きくなっている。
歩 嘘ばっかり。こないだどっかにチョコ送ってたの見たもんね。
麗 ええーばれてたの?さすがバレンタイン
撲滅運動隊員。油断出来ない。
歩 教えてよ。イニシャルだけでもいいからさ。
麗 イニシャル?OK。L・A。
歩 ふーん。L・A。L……L!?Lってことは……えっ、じゃあ麗がアメリカにいた頃の?
アメリカにチョコ送ったの!?
麗 何でわかったの!
歩 だってLって外国人のイニシャルじゃん。
麗 ああ。そうだった。そうよ。アメリカの
同級生。もう10年一緒だったフレンドね。
歩 何だ。友達なのか。でも10年ってすごいよね。麗ってそんなに長いことアメリカにいたの?
麗 5歳から15歳。
歩 はあー。英語ペラペラなわけだ。でも最初来た頃日本語おかしかったよね。
麗 両親も向こうじゃ英語だったからね。ジャパニーズフレンドはいなかったし。
歩 ねえ、で麗の好きな人ってどんな人?
麗 もうメチャクチャ格好いいよ。シンガー
目指してるしね。
歩 歌手かあ……私の好きな人はそーゆーの無縁だなあ。
麗 誰?
歩 駄目だって。
麗 イニシャルだけ。私も言ったんだよ。
歩 わかったわよ。イニシャルはN・Y。
麗 N・Yかあ……。ニューヨークじゃないし……うーん。わかんない。どんな人?
歩 うーん……行動力があってー、熱血な人かな。
麗 何かうちのリーダーみたいだね。
歩 あはは。そうかも。
麗 あははははははははは。
歩 あははははははははは。
麗、ふと笑いをとめる。
麗 N・Y……昇・山……、リー……ダー……なの?
歩 何でわかったの!?
麗 い、いや……ひょっとしてって思っただけで……。
歩 そうなの。リーダーなの。実はさ、この
隊に入ったのもリーダーがいるからなのよね。
麗 じゃあバレンタイン潰そうとか……
歩 そんな気全然ないって!だってバレンタインって言ったら女の子にとっちゃ大切な日
じゃん。潰されちゃたまらないよ。
麗 でも今までいろんな人、潰してきたね。
歩 私の幸せのため。
麗 なるほどね。でもリーダー、チョコ受け取るかな?あれで友情にはあついよね。
歩 男の友情なんて女で壊れるもんよ。
麗 自信ある?
歩 もちろん。
麗 練習した?
歩 ばっちりよ。見て見て。これ。
歩、麗をじっと見つめる。目をぱちぱちさせ、こびてる様子。
麗 オー!クレイジー!
歩 ……何?
麗 キュート。ビューティフル。プリティ。
歩 そう?
麗 それならリーダーもきっと泣くよ、笑う
よ。感動するよ!
歩 ほんとに!?ありがとう!実はちょっと
不安だったんだ。最終手段は用意してるんだけど。
麗 最終手段?
歩 脱ぐ!
麗 オー。多分それ一番効くよ。
歩 ポーズも考えてあるの。これこれ。(雑誌を取り出す)どう?
麗 グット!セクシーポーズ。
歩 ホント!?やったー。じゃあもしもの時
はこれでいこう!
麗 頑張ってね。
歩 OK。協力してね。これからラッピング
するから。
麗 あ!
歩 どうしたの?
麗 ラッピングの紙忘れた!
歩 ええ!?
麗 どうしよう。裸じゃ渡せないね。
歩 裸で?いやん。
麗 チョコのことよ!
歩 あ、そうか……どうしよう……。
麗 買いにいこう。
歩 今から?
麗 封筒が足りなかったとか言えばいいんじゃない?偽レター作りの。それに、包帯も買
わなきゃ。
歩 あ、なるほど。じゃあ買いにいこうか。
麗 OK。
麗、歩、去る。
一人、パソコンをうっていた研、立ち上がる。
研 リーダー。裏切りは許さないからね。
研、置いてあった雑誌を見る。
突然、鼻を押さえて首筋を叩く(鼻血)
研、雑誌をさりげなく服の中に入れ、去ろうとする。
ほとんどすぐに通がやってきて、研を押し倒す。
研、通の下敷きになる。
昇も入ってきてる。
通 大変だ!研!これを見ろ!
通、手に持っていたチョコを出す。
そのままきょろきょろする。
通 あれ?研……。
研、ゆっくりと起き上がってくる。
研 あ、チョコじゃない。誰かの机に入って
たの?
昇 お前、どっから出てくるんだ……?
通 あいつだよ!中島望と藤明!
研 ああ。また?やっぱあきらめないの?
昇 ああ。あいつらもう何を言っても駄目だな。一日中でも監視してないといつ渡すやら
しれない。実は教室内でも3個も見付けたんだ。明日もスペアを用意してると見て間違い
ない。
通 くっそー。あれほど言ったのに!中島の
やろう。
研 もう取り上げたラブレターは5通もあるもんね。
昇 おれたちの監視の目を通って何通かは渡してるのかもしれない。バレンタイン撲滅運動隊最大
の敵だな。
通 作戦会議だ!研、てめえの作戦全く役に
立たなかったな。今度はもっとマシな計画立てろよ!……って歩と麗はどこ行った?
研 ……ああ、二人なら封筒と包帯を買いに行ったよ。
昇 封筒も?あるじゃないか。おれ、50通も用意したんだぜ。足りなくなることはないって。
研 知らないよ。買いに行ったんだから。
昇 しょうがないな。おれたちだけで何とか
しよう。黒板用意!
通 おう。
昇、黒板の前に立つ。
昇 今回のターゲットは中島望。2年5組の
強敵だ。この女が狙っている相手は藤明。通称「トウメイ」。略してトメ。
通 そうだったのか……。
研 何だかね……。
昇 もしこの男に受け取る意志がない場合は
話は簡単だ。研、この男は中島のことをどう
思ってる?
研 はい。綿密な調査の結果、両思いらしいことが判明。しかしこの男自身は気が弱いため告白の意志は
ない様子。
昇 よし。当面の問題点をあげろ。通!
通 おう。ターゲット中島望はおれたちの様様な妨害対策にも負けず、告白をあきらめない。
もはや少々のことではおれたちに勝ち目
はない。
昇 そうだ。おれたちは今までいろいろな作戦を立ててきた。ラブレターは奪う!トメのふりして手紙を
書く。二人になるのを徹底的に邪魔する。トメはとんでもない男だと思わせる!……しかし全て失敗に
終わった。
研 藤君って羨ましいなあ……。そんなにも女の子に想ってもらって……。
昇 研!
研 はい!すみません。
昇 作戦を立てるぞ!
通 でもどうするんだ?リーダー。もう考えられることは全てやってきたぞ。
昇 まだ何かあるはずだ。考えろ!時間がないんだ。
研 誰か一人監視をつける?どこか削ってさ。丸一日中見張るんだ。
通 でも中島と同じクラスの奴はいないぜ。
研 確か歩が隣のクラスだったよね。
昇 いや、むしろトメを見張った方が早い。
麗がトメと同じクラスだから、あいつに見張らせる。
通 大丈夫なのか?麗で。
昇 …………。
研 …………。
昇 作戦終了!
通 おい!
昇 ……何だよ……。
通 そういういい加減なことやってるから駄目なんじゃねえか?この隊は。
昇 通。いいか、どんなに真面目にやろうとも、どんなにいい加減にやろうとも、勝つ奴
は勝つ。負ける奴は負ける。
通 まあ、そうだろうけど……。
昇 いい加減にやったからと言って負けるとは限らん。いつも右だと左に行きたくなる。
動物は強いんだ。通。
通 …………。
昇 さあ、報告も終わったし、オレはもう一通り見てくる。通は研を手伝ってやれ。
昇、出ていく。
研 逃げられたね。
通 おれ、あれに弱い……。あいつの言うことがわからんのはおれが頭悪いからか?
研 違うと思うよ。あんまり気にしない方がいい。リーダーはああいう性格だから。
通 研〜。お前だけだよ。わかってくれるのは。
研、よしよしと通をなぐさめる。
研 (ふと、真面目な顔になって)そうだ、
通。大事な話がある。……二人っきりになるまで待ってたんだ。
通 え……?
二人、しばらく見つめ合う。長い間。
通 (ふっと目をそらして)ごめん。
研 …………。
さらに間。
研 通、あの。
通 言うな!
研 ………。
通 何も言うな。おれは……それだけは……
研 え?
通 そりゃおれはこんなところにはいるが……
決してその、お前の気持ちには……
研 通……何か誤解してない……?おれはちょっと話があると……。
通 ああー!言わないでくれ。そうだ、せめて耳打ちしてくれ。ほら、周りに聞こえると恥ずかしい
から……
研 聞きたいんじゃないの……?
研、通に耳打ち。
恥じらう様子だった通、突然顔色を変える。
通 歩が!?
研 ああ。いないのもチョコの包みを買いに
行ったからだ。
通 歩が……リーダーに……。
研 何か、告白の時の練習とかいって、目を
ぱちぱちさせてた。
通 ……どうだったんだ?
研 可愛かった……(ちょっと照れて顔を背ける)
通 ちょっと照れて顔を背けるなよ。
研 ト書きを読まないでくれよ……。
通 そうか……。しかし……それは何としても阻止せねばならんな。
研 うん。バレンタイン撲滅運動隊として、
許されることじゃない。
通 こりゃ明日は歩の監視も必要だな。
研 リーダー、歩からチョコもらったらどうするだろ。
通 そうだな……
研 もし受けたら……
通 許さねえ。
研 でも、
通 あいつも彼女、
研 欲しいだろうね。
通 だがおれたちは、
二人 バレンタイン撲滅運動隊。
研 裏切り者は、
通 許さない。
研 カップルだって、
通 許さない。
研 いや、恋する奴も、
通 許さない。
研 通。
通 研。
研 いこう!おれたちの明日のために!
通 おう。
二人、出ていく。
すぐ、昇を連れて戻ってくる。
昇 ちょ、何だよ。おい。
通 昇。これからする質問に正直に答えろ。
昇 はあ?
通 答えろ!!
昇 お、おう。
通 よし。座れ。
昇、椅子に座らされる。
通、研をそばによせひそひそ話。
通 いいか、さりげなくだぞ。さりげなく聞き出すんだぞ。
研 お、おう。
二人、昇の両側に立つ。
研 それじゃあ質問1、あなたのお名前は?
昇 は?
通 お名前は!
昇 山……昇です。
研 年齢は?
昇 17……
研 誕生日は?
昇 10月10日。
研 出身地は?
昇 東京……
研 家族構成は?
昇 なんか面接みたいだな……。
研 家族構成は?
昇 えっと……父一人。
通 当たり前だろ……。
昇 母と……姉一人……。
研 好きな食べ物は?
昇 おい、何なんだ?
通 黙って答えろ。
昇 黙って……?
研 好きな音楽は?
昇 ……(ちらりと通を見る)……音楽は……聞かない。
研 好きな芸能人は?
昇 伊勢浩二。
通 誰だよ……それ……。
研 ………好きな言葉は?
昇 ネバー、ギブ、アンド、テイク。
通 え?
研 決して譲り合わない……?
通 ……(続けろの合図)
研 じゃ、じゃあ好きな会社は?
昇 え?えっと……任天堂?
研 尊敬する人。
昇 湯川専務。
通 何か矛盾してないか……?
研 好きな女の子は。
昇 未知……
二人 未知!?
昇 やすえ。
二人 …………。
研 誰が知ってるんだよ……そんな人。
通 おれは知ってるけど……。
通、研を引き寄せる。
通 今の、ごまかしたんだと思うか?
研 微妙だね……。未知って……歩の名字だよね……。
通 やばいかもな……。よし。こうなったら直接聞くぜ。
研 え?
通 リーダー。いや、昇。
昇 ん?
通 お前、もし……もし女からチョコをもらったらどうする?
昇 そんなことあるわけないって。
通 もらったらどうする?
昇 ……す、捨てるさ。もちろん。おれはこの隊を結成した以上、そんな物は受け取らない。
通 受け取らないと捨てれんぞ。
昇 ……訂正する。突き返す。
通 よし。
昇 なあ、いったいさっきから何なんだ?おい、まさか、
通 考えるな。何も言うな。何も聞くな。お前を好きな奴がいるなんてことはあるはずないんだ!
昇 え?
通 今は眠っててくれ!
通、昇に手刀。
昇 う……(気絶)
通 ……いっそのことこのまま明日、監禁しておくというのはどうだ?
研 いいね。やろう(ガムテープを取り出す)
通 いや……おい!冗談だ、おい!(必死に
研を止める)
麗、歩、入ってくる。
歩 ただいまー。あ、通帰ってたんだ。リーダーは?
通 踏んでる……。
歩 え!うそ!(慌てて飛びのく)
麗 リーダーこんなところで寝ると風邪ひくよ。
歩 寝てるの?
通 歩、お前何買ってきたんだ?
歩 え?あ、封筒よ。封筒。足りなくなりそうだったから。あと包帯ね。
通 見せてみろよ。
歩 え……
通 その中、見せろ。
歩 な、何で?
通 見せろ!
歩 わ、わかったわよ。
歩、封筒と包帯を渡す。
通 ほかには買わなかったのか?
歩 買ってないわよ。
通 ほんとーか。
歩 ほんとよ!ほら。(中身を見せる)
通 ……ほんとだな……。おい研……。
研 あれ?
通 ちょっと来い。
通、研を連れて出ていく。
歩 あーびっくりした。
麗 ひょっとしてばれてるんじゃないの?
歩 大丈夫よ。あいつ、馬鹿だから。絶対気付かない。
歩、言いながら持っていた「袋」にチョコを入れる。
麗 でもこの袋に疑問抱かないなんて……チョコをもらったことない男って奴ね。
歩 来年は義理チョコくらいあげるか。
麗 でももしリーダーにチョコ受け取ってもらえなかったらどうするの?
歩 絶対受け取らせるの!リーダーだって女
の子にチョコもらったら嬉しいはず。
麗 そうかもしれないけど。
歩 抱きついてキスもしちゃう!これなら完璧!
麗 リーダーのどんな反応するかなー。でも通や研には可哀相かもね。
歩 こんな隊に入ってお互い足の引っ張りあいしてるのが悪いのよ。通も研もこんなところにいるから
彼女出来ないの。私はこの隊を
潰すことになるんだから、二人は嬉しいはずよ!
麗 何でそういい方にいい方に考えれるの?
歩 楽観主義者だから。
麗 なるほど。
歩 さあ明日は気合い入れていくぞ!
麗 オー!
二人、出ていく。
間。
昇、ゆっくりと立ち上がる。
昇 歩が……おれを……女の子が……おれを……ふふふふふふふふふふふ。ひひひひひひひひ。
昇、不気味に笑い続ける。
照明、F・O。
電話の音。
女 あ、もしもし明君?私。明日チョコ渡す
から、絶対学校きてよ。大丈夫。作戦は立ててあるから。
男 もしもし?あの……藤です。明日の昼休み、僕、屋上にいる。朝も早くくるから……。
間。生徒のざわめきの音。
昇 校内へのチョコの持ち込みは禁止!
歩 藤君。屋上に行くのは禁止よ。
研 あ、中島さん。さっき先生が呼んでたよ。
通 トメー、お前部活はどうした?先生に言い付けるぞ。
麗 トメ君、気分悪くって保健室いってるよ〜。
以上のセリフはスポットでもよろしい。
照明、C・I。
全員いる。
通は包帯を巻いている。少し痛々しい。
昇 今回の作戦は我々の勝利に終わったと言っていい。
通 ああ。結局トメも中島も接触することはなかった。……佐々木のチョコも奪ったぞ……。
研 そのほかの没収チョコは45個(数字
は適当で良い。ただし日本の人口を越えない
ように)
昇 いい数字だ。
歩 私なんか手編みのマフラーまで取り上げ
ちゃった。
昇 えらい!
麗 見て見て。私も!
通 何だ?それ。
麗 毛糸!
昇 ……それ……バレンタイン用じゃないと
思う……。
歩 今から編む人もいないわよね……。
麗 なーんだ。せっかく家庭科室で見付けた
のに。
全員 …………。
昇 よ、よし。それじゃあみんな打ち上げに
入ろうか。目前の勝利を祝って。まずは乾杯
だ!
みんなグラスを手に取る。
昇 OK?
全員 OK!
昇 それじゃカンパーイ!
みんな、乾杯して飲み干す。
歩 ねえねえ、でもバレンタインデーってまだ終わってないよね。
研 後4時間。
昇 大丈夫だ。自宅監視は特別隊員に頼んで
あるから。
麗 特別隊員?
通 あ、麗は知らないんだっけな。バレンタイン撲滅運動隊特別隊員たち。他校の生徒だけどな、
目的はおれたちと一致するから。外
の仕事はほとんど任せてある。人数、結構多いんだぜ。
麗 へえ、そんな人がいたんだ。え、何でその人たちと仲間になったの?
研 いろいろあってね。
昇 あいつらに会った時のこと覚えてるか?
通 覚えてる。覚えてる!くらーい顔してさ、「オレたちもバレンタイン撲滅運動隊に入れ
てもらえませんか(暗い声で)」って。
昇 志望理由もしっかりしたもんだったし。
研 彼女いない歴十数年。嫌われ続けたおれたちの人生。その中で最も残酷な思い出を残した
バレンタインデーを潰して下さい……!
だんだんみんなマジになっている。
歩 こんなことがありました。
昇 や。元気。
歩 げ、先輩。
昇 今日は何の日か知ってるかな?
歩 先輩に一番縁のない日です!それじゃあ
さようなら!(逃げる)
昇 (呆然)
通 これがおれの初恋だった。
研 こんな話もありました。
研、剣道部の練習をパントでする。
通、近付いてくる。
通 おい。今日は何の日か知ってるか?
研 え?ああ、バレンタインデーですね。
通 そうだ。……わかってくれるか?
研 ……え?
通 おれは男だ。お前も男だ。だがこんなことがあってもいいんじゃないかな。(そっと
何かを握らせる)
研 先輩……。
通 お前のこと、ずっと見てた。お前が剣道
部に入ってきた時から。お前の汗を感じてた。返事は今度の部活でいい!(逃げる)
研 返事って……(呆然)
昇 これがおれのずたぼろになったバレンタインデー。
歩 もちろんそれ以来、部活には行ってない。
間。
麗 あ、あれ?なんかダークな雰囲気ね。みんな考えちゃ駄目だよ。みんなよりも悲惨な
人がいるんだね。
歩 私も会った時そう思った。
麗 でもその人たち、自分の高校で活動はやってないの?やってるなら夜も、って辛いんじゃ……
研 ああ、それは大丈夫。
歩 男子校なのよ。その人たち。
麗 ……なるほど。
昇 話が大分それたな。とにかく、そういうわけで夜の監視は大丈夫だ。
麗 じゃあもう安心だね。
研 他の人たちは、ね。
みんな、研に視線が集まる。
しばらく沈黙。
昇、突然。
昇 みんな!バレンタイン撲滅運動隊とは何だ!?
麗 え?
通 何だ。いまさら。
歩 ね、ねえ。確認するまでもないことよねえ。
昇 確認する。歩、麗。忘れてないな。
歩 そりゃ……毎日言わされたもん。
昇 じゃあ久しぶりにいくぞ。バレンタイン撲滅運動隊の心得!
歩 ……雨にも負けず。風にも負けず。
麗 雪にも夏の暑さにも負けず。
研 丈夫な体を持ち、色欲はなく、
通 決して許さず。いつもカップルをにらんでいる。
昇 東に告白する者いれば!
通 割り込み邪魔してぶっ潰す!
昇 西に別れの気配があれば!
麗 行ってみんなで応援歌!
昇 南にもてる男がいたなら!
研 囲んで泣かせて退散する!
昇 北にチョコ買う女いれば!
歩 何としてでも渡させない!
昇 もてない男のもてない男によるもてない
男のための隊、
全員 それがバレンタイン撲滅運動隊!
昇 我々は永遠に不滅だ!
全員 オー!
しばらく硬直。
昇 わかってるな。
歩 リーダー……。
昇 歩、チョコレート三ヵ条とは何だ?
歩 チョ……チョコは……
昇 チョコは?
歩 チョ……チョコは……やるな、もらうな、やらせるな!
昇 そうだ。それがバレンタイン撲滅運動隊
だ。
通 昇、お前……。
研 リーダー。
昇 おれたちはいつまでも一緒だ。いつまでも仲間だ!
通・研 リーダー!
通、研、昇に飛び付く。
通 やっぱり最高だぜ!お前。
歩、呆然。
麗、なんとかなぐさめようとする。
麗 あ、歩。元気だそう!そうだ!踊ろう!
麗、ラジカセのスイッチを入れ、踊る。
歩、動かない。
麗 歩!カモン!
歩 麗……
麗 ホワッツ?
歩 私、脱ぐ!
男三人、動きが止まり、歩を見つめる。
脱ぎ始める歩。麗、慌てて止める。
麗 歩!駄目だよ。ここには研と通がいるよ
!
歩 (セクシーポーズ)どう?麗。
男三人 ……………。
麗 オー!セクシー!(思わず)
歩 リーダーどう?
昇 う……。
研 リーダー!
通 色仕掛けに負けんじぇねえぞ!
昇 あ、ああ。そ、それがどうした!
麗 (ひそひそ声)やっぱこんなところでやっても駄目だよ。シュチュエーションが悪いよ。
歩 シュチュエーション……?なるほどね。
歩、音楽を変える。
ムードのある音楽。
照明もそれなりにするのがよろしい。
歩 昇さん。
昇 え?
歩 ほら、早く。今日は旦那はいないのよ。
通 無理矢理シュチュエーションしたな。
昇 し、しかし奥さん。
通 てめえものるんじゃねえ。
歩 ほら、来て。昇さん。
昇 奥さん……。や、やっぱりいけません!僕はまだ学生で……、ただの家庭教師で……。
歩 私のこと嫌いかしら?
昇 いえ、決してそんなことは……。
歩 愛してくれてる?
昇 は、はい!
歩 ねえ、昇さん。あなたは家庭教師よね?
息子にいろいろ教えてくれてるわよね?
昇 はい。
歩 私にも教えてくれないかしら。愛って何?愛するってどうすること?昇さん……
昇 あ、愛することですか?えっとですね……(脱ぎ始める)
通、昇をはたく。同時に研、音楽を切る。
昇 何すんだよ!
通 そりゃこっちのセリフだ!馬鹿!研!お前も何か言ってやれよ!
研 ねえ……歩って……本気なのかな?
全員 え?
研 だって遊んでるようにしか見えないもん。リーダーだって歩のことなんか何とも思って
ないんでしょ?こーゆー遊びなら、おれらしょっちゅうやってるじゃん。
麗 潰し方作戦ねる時ね。シュチュエーションやるよね。
通 何だ……そういうことか……。
その時、突然電話。
研、取る。
研 もしもし?あ、始?どう、調子は?え?
……………ええええ!?
通 どうした?
研 ゆ、柚山先生が……大野先生にチョコあげたって!
全員 何ー!
通 そうか!先公か!そりゃ盲点だったぜ!
麗 みんなハリーアップ!今年は私たちの勝利で終わらせないと!
通 お、おう!
研、通、麗、歩、出ていく。
最後の歩に昇、声をかける。
昇 歩。
歩、残る。他の三人は出てしまっている。
歩 何?早く行かないと。
昇 その前に聞きたいんだ。さっき研が言ったことは正しいのか?
歩 …………。
昇 その……バレンタインはまだ3時間以上
残ってるわけで……。
歩 リーダー?
昇 はっきり聞かせてくれ!冗談だったのか……?
歩 私、……本気よ。
昇 歩……。
歩 もともとあなたが好きだからこの隊に入ったのよ。
昇 あーゆー遊びは……
歩 私の性分。マジでやったら照れるじゃない。(と、照れる)
昇 歩。
歩 ちょっと待ってて。(チョコを取り出す)はい、これ。さすがに手作りにする時間はなかったん
だけど。
昇 ……(感激して泣きだす)
歩 ちょ、ちょっとリーダー。
昇 おれ、チョコもらったの初めてだ……。
歩 それは知ってるけど。リーダー、大丈夫?
昇 昇、でいいよ。リーダーはバレンタイン撲滅運動隊としての、だからさ。隊の決まりを破った以上、
おれにはリーダーと呼ばれる資格はない。
歩 昇……。
昇 おれも、正直に言うよ。おれは今まで一番親しくしてきたのは歩だ。おれはそれまで女の子と話した
こともなかったんだ。女の子がこの隊に入ってくるなんて思いもしなかった。だから、入ってきた時から
……特別に思ってた……すごく意識してたんだ。ほんとに。女の子って言ったら麗もそうだけど……あい
つは……あんまりそういうタイプじゃあないし……。
歩 昇、それじゃあ……。
昇 好きだ!歩!愛してる!
抱き合う。音楽が入っても良い。
昇 おれ、おれいつかこんな日がくると夢見てたんだ。
歩 私も!好きよ昇!大好きよ!
いつの間にか隅で眺めている三人。
研 今年は見事に敗北だね。
通 永遠に、だ(悔しそう)
麗 ラブシーンよ。ラブシーン。
通 あいつらいつもと変わんねえぞ。
研 わざとらしい演技ばかりやってきたからいざとなるとああなっちゃうんじゃないの。
麗 ああー!鼻血出そう!
通 本物のシュチュエーションに慣れてねえな。実際あんなことやってる奴いるのか!?
研 わからないのがおれたちの悲しいところだね……。
麗 歩!キスよキス!
通 この隊がなくなったら、おれたちどうするんだ?
研 また悲しい日々に逆戻りか……。もうバレンタインという日をごまかせないね。
麗 ムード!もっとムード!
研・通 ハアー(大きなため息)
麗 (やっと二人を振り向いて)どうしたの?二人とも。
研 ほっといてくれよ……。
通 今夜は飲もうぜ、研……。
麗 ほらーそんな暗い顔しない!今夜は私が慰めてあげるから!
研・通 え?
麗 バレンタイン撲滅運動隊、もう一人女の子がいれば良かったね。二対一だけど我慢してね。
さあ、レッツゴー!
研 アメリカ人って進んでるから……。
通 のらない手は、ないけどな。
研、通、顔を見合わせ、麗と共に去る。
ずっと抱き合ってた昇と歩、やっと離れる。
昇 バレンタイン撲滅運動隊、……終わっちまったな。
歩 永遠に不滅だ!とか言ってたのにね。
昇 通と研に怒られちまうな。
歩 しょうがないよ。もてない男はいつもそういう運命なの。
昇 お前、きついな。
歩 イヒッ。
昇 いや、旭化成はいいから……。でも……バレンタイン撲滅運動隊は今日限り解散だ。もう二度と復活することはない。
男二 (声のみ)そんなことが許されるか!
昇 え?
研、通、麗、飛び込んでくる。
通 た、大変だ!
研 リーダー……じゃない昇!何とかしてよ!
昇 な、何だ?何があったんだ?
男二 (声のみ)おれたちのこと忘れたのか!?
歩 あ。
昇・歩 バレンタイン撲滅運動隊特別隊員!
通 あいつら無視して話進めるから。
麗 もてない男の恨みは恐いね。
男 (声のみ・出演も可)僕たちのことも忘れるな!
女 (声のみ・出演も可)邪魔された私たちの立場はどうなるのよ!
昇 ああー!(頭を抱える)
通 昇。リーダーってのは責任を取るためにいるもんだ。
研 後始末つけないと、勝手に終わりには出来ないよ。
昇 て、手伝ってくれよ。
通 裏切り者が言うんじゃねえ!
研 そうだよ。一人だけ彼女作ってさ。
麗 あれ?私じゃ不満。
通 公然と二股で喜ぶ奴がいるか!
麗 あっれー。
研 あ、じゃあ通だけ離れれば。おれ、麗と行く。
通 待て、こら。
歩 ちょっと、そっちどうなってるの?
通 それは今は関係ない!どうするんだ?昇。
研 どうするの?
麗 どうするの?
男 どうするんだ!
男二 (声のみ)どうするんだ!
女 どうするのよ!
昇、ゆっくりと歩を見つめる。
歩 どうするの?
昇 ああー!(再び頭をかかえる)
通 最後まで責任持てよな。
研 責任取るまで帰ってくるなよ。
麗 じゃあ行こうか。
通、研、麗、行く。
昇 歩……。あの……もう少し……続けようかな……バレンタイン撲滅運動隊……その……整理つくまで……
歩 …………頑張ってねvv
歩、去っていく。
昇 ああー!(うずくまる)
暗転。
昇 歩ーーーーーーーーー!
歩 いひひひひひひひひ(小悪魔的笑い)