七月下旬

【演劇部員の二人。脚本作りに頭を悩ませている。さまざまな案が出ては却下されていく。私たちにとっての青春。最も大切なもの……】

   女が二人。何か書いている。
   女1は頭をかかえて悩んでいる。
   女2は楽しそうにすらすら書いている。
   何故か途中涙ぐんだりしている。

 先輩!出来ました。

   2、1の方へ駆けていく。
   書いていた紙の束を持っている。

 んー?(受け取る)
 もう超感動ものですよ。絶対泣けます!保証します!
 どんな話なん?
 えっとですね、生き別れになった姉妹が、日本中さまよって、故郷の地で再開を果たすんです!
 (紙をめくって)……「姉をたずねて三百里」……。

    間。

 三千里はちょっと長いかなーって。一里は約4キロメートルですから、4×3=12で1200キロメートル!
 却下。(捨てる)
 ええー!?……やっぱカップルの方が良かったですか。
 あんた、真面目にやりよる?
 真面目ですよ!当たり前じゃないですか。だからちゃんと読んでみて下さいよ。泣けますから。
 あのね、これは劇の脚本なんよ。
 はい。
 それをどうやって舞台でやるん?
 だからそれも書いてますよ!(拾う)
 ああーん?(めくって)第1幕、沖縄。第2幕、北海道。第3幕、鹿児島。第4幕、青森……。
 姉は北海道から、妹は九州からスタートするんです。そしてだんだん2人の距離が縮まって……。
 つまり47幕あるいうこと?
 先輩、再会の後にもう1幕あるんですよ。それに、出会う県は2人で1つ。
 つまりは47幕なんやろ。
 はい!
 却下。(破って捨てる)
 あああああああ!ひどいじゃないですか。相当頑張ったんですよ、これ。
 まあこれだけの話を1時間にまとめたんはすごい。
 でしょー?
 それで1幕は1ページちょっと。
 はい。
 しかも幕ごとに暗転。
 はい。
 馬鹿。
 え?
 書く前から言うたやろ!暗転は2回まで。15秒以内!
 ええー?
 書き直し。
 いい話なんですけどねー。あ、じゃあこんなのどうです?ご主人の帰りをひたすら待つ忠犬の……。
 却下。
 絵描きになりたい男の子が愛犬と共に最後に絵を見て天国に……。
 却下。
 じゃあじゃあ貧乏でお嬢様にいじめられている女の子が実は大金持ちの娘だとわかって……。
 却下!盗作ばっかりやんか。もう少しオリジナル性のあるもん書き。
 じゃあ先輩はどんなの書いたんですか。

   2、1の用紙を取る。

 いじめ、自殺、受験、エイズ、精神病、学園、青春、戦争、麻薬、政治、経済、環境問題、差別……何です?これ。
 テーマよ、テーマ。
 テーマ?
 そうよ。テーマ決めんと書けんやろ。まずテーマ決めな。あんた、何がやりたい?
 じゃあいじめ。
 いじめ?あかん。在り来たりやん。
 じゃあ自殺。
 それもなあ……。話、暗なるし。
 明るくなるテーマなんかあるんですか?あ、学園もの……。
 やっぱそれー?学園もの、ええよなあ。私もやりたいんやけど。どんなんやればいいと思う?
 ええ?やっぱ学園ものの定番は恋!でしょう。恋なくして学生生活は語れません。主役はもちろんカップルの男と女で。
 ええー?あんた、私とラブシーンやるん?

   間。

 先輩って……かっこいいですよ。十分。
 あんたも……よお見たら可愛いよ。
 (ふらふらと近寄って)好き。
 (肩など組んで)あの星を君にあげるよ。
 え?
 ほら、あそこに1番輝く星が見えるだろう?あの星を君に……
 ばっかねー。星をあげるなんてこと出来るわけないでしょー。だいたいもらっても利益ないしー。どうせくれるならダイヤモンドとかあ。
 ああ……!

   間。

 止めましょう。
 うん。あかんね。恋愛ものは。だいたい女2人しかおらんのやけん、男の出るもんはあかんわ。
 先輩なら男役出来そうなのにー。
 宝塚やないんよ、ここは。ああーそれよりどうしよ。もう7月も後半やで。はよ脚本決めな。
 他の高校ってもう決まってるんですかね。
 当たり前やん。他んとこなんか6月から練習入っとるわ。
 ええ!?
 知らんの?ウチらみたいに新入部員顔見せ公演なんかやりよらんもん。
 え、でもじゃあ1年生って大会が初舞台ですか?
 そういう人もおるやろね。
 うわあ。こわー。
 そうよ、あんたは一回舞台立っとんやけん、緊張してトチるなよ。
 ええ。そんなこと言われたら緊張してくるじゃないですか。
 ああ、そういう時はええ方法教えてあげる。
 はい。
 まず手のひらをかざす。(かざす)
 はい。
 そして指で「心」という字を書く。決して書き順を間違えないこと!
 はい。
 これを3回繰り返し……
 はい。
 飲み込んで……はいけない。
 ええ!?(飲み込んでしまっている)
 ああ!やばい、吐き出し。ほら、
 げえー。
 危なかったー。
 飲み込んじゃ駄目なんですか。
 あかんよー。そんなん。私、それやってめっちゃ緊張したことあるもん。
 じゃあどうやるんですか。
 心という字を3回書く。
 はい。
 さらに中という字を3回書く。
 はい。
 続けて声に出す。
 心中!(しんじゅう)

   間。

 そういった気持ちでおれば大丈夫。
 ええ?
 (ぶつぶつと)私はこの劇と心中します。失敗したら死にます。私はこの劇と心中します。失敗したら死にます。私は……

   2、そっと手のひらの文字を消している。

 先輩!脚本!
 はっ。
 今は本番より脚本ですよ。脚本決まらなきゃ、大会にも出れませんよ。
 うん、そうやね。じゃあテーマを……
 あ、私これやりたいです。エイズ。
 エイズー?何か考えあるん?
 任せて下さい。まずは先輩はお医者さん役で。
 あんたは?
 もちろん患者です。
 出来るん?エイズ患者なんか難しいで。
 やれますよ。私だって4ヶ月演劇部にいるんですから。
 へえ、じゃあやってみ。エイズ、宣告されたとき。

   1、衣装ケースから白衣を取り出して、着る。
   2、神妙な顔をして座る。
   照明、音響、それっぽくしても良い。

 先生……どうなんですか?私は……。
 落ち着いて。落ち着いて聞いて下さい。
 先生……。
 あなたはエイズです。
 どええええええええええええええっ!(大げさな動きで驚く)
 却下。絶対却下。
 ええ!どこが不満なんですか?
 あんたなあ!どこの世界にそんな驚き方する奴がおるん?ええか!?エイズなんよ。エイズって知っとるよな?
 先輩、私を馬鹿にしてるんですか。
 エイズはな、ただ「病気」言うだけやないんで。差別とか偏見の目で見られたりするんや。わかるか
 わかってますよ!だから驚いたんじゃないですか。
 驚きだけじゃいかんよ。なあ、考えてみてや。エイズやで。自分がエイズって聞かされたらどう思う?
 どうって……。
 絶望とか悲しみとか、ああ!もう私はこれで終わりなのだろうか!?とか、残りの人生精一杯生きよう!とか、エイズなんかに負けるもんかあ!……うっうっ(泣)……とか、いろいろあるやろ。
 なるほど!先輩、もう1回お願いします。
 よし……。いいですか。落ち着いて聞いて下さい。……あなたはエイズです。
 (絶望の音楽と共に)ああー!もう、もうおしまいよー。私の一生、めちゃくちゃよーーーーーー!

   間。

 あんた、ミュージカルやりたいん?
 ええ?
 もうええ、エイズは却下。あんたまともに出来んやん。
 じゃあ何やるんですか。
 やから迷っとるんやんか。
 いっそのこと全部混ぜちゃったらどうですか。
 全部?
 いじめ、自殺、受験、精神病、麻薬、戦争、政治、経済、環境問題、差別……。
 全部かあ……。どんな劇になるんかな。
 やってみましょうよ。

   2人、適当に衣装を変える。
   2人、向かい合って何か書いている。
   音楽。

 ねえ……。
 何?
 私、私さ……。
 うん。
 やっぱ言えない!
 何よ、言ってよ。気になるじゃないの。
 私……私ね……
 うん。
 いじめられてるんだ。
 ええ!?
 そんな……大したことじゃないんだけどね……。ちょっと無視されたりしただけだから。でもちょっと……辛くて。
 大したことじゃない!何で私に言わなかったの!?
 だってあなた勉強で忙しいし……邪魔しちゃ悪いと思って。
 あんたねえ……。
 だからさ……私、自殺するつもりなんだ。
 何ですって!
 もう決めたことだから……。遺書も書いてあるし……。ただ、あなたにだけは言っとこうと思って。
 何言ってるのよ!駄目よ、自殺なんか!私だって我慢してるんだから!
 え?
 ……受験勉強……辛くてさ。でも……だからって自殺なんかしないよ。ねえ……あんたも……。
 私、エイズなんだ。
 え?
 だからいじめられてるの。
 え……
 みんな、私のこと気が狂ってるって言うし。
 …………。
 ウチの家、経済的にもやばいんだ。
 …………。
 日本の法律がいけないのよ。
 …………。(この辺りから音楽、コメディ調に)。
 最近、空気も悪いし。
 …………。
 あ、後、私麻薬もやってるんだ。
 …………。
 ところで、ウチのおばあちゃん戦争経験者で……
 ………もういいわよ。
 え?
 もうええわ!あかん、んなめちゃくちゃな家庭あるか!
 ええ?全部入ってるじゃないですか。
 あかん。やっぱ絞らなあかん。
 何でなんですか。だいたい脚本なんか適当でいいじゃないですか。あ、そうだ。どこかの劇団から借りてきましょうよ。面白いの。空白戦隊とか。
 だからあかんて。いいか、ウチらがやるんは高校演劇や。
 はい。
 テーマがないとあかんのよ。しかも出来るだけ良い子ぶったテーマ。
 いい子ぶった?
 そうよ。高校演劇なんか脚本が全てよ。演技力なんか二の次よ。
 そうなんですか!?
 そうそう。ここだけの話、(声をひそめて)実は去年四国大会行ったとこなんかね、演技力最悪やったよ。
 最悪って?
 声は聞こえんし、棒読みやし。動きはないし。間は悪いし。
 それでも行ったんですか?
 そうよ。脚本が良かったけん。でも脚本も何か有りがちな話やったけど。
 へえ……。
 とにかくな、今回、その高校にだけは負けるわけにはいかんのよ。やから脚本も真剣に考えな。
 そんなもんなんですか。
 そんなもんなんよ。それに演劇部にはもう一つ負けられんもんがある。最大の敵が同じ学校内におる。
 え?何ですか。
 新聞部。
 新聞部?
 そうよ。ウチの学校、体育祭とか文化祭とかの新聞出しよるんやけどね、そこにでたらめばっか書かれたんよ。
 ええ?
 やった脚本がオリジナルやとか、やからセリフが甘いとか、アンケートが強制やとか、調べもせんと勝手なこと書くなー!……って演劇部一同怒っとったけん。
 へえ。抗議はしなかったんですか。
 時期を外してしもたから。だって無記名なんやで。書いた奴の名前がなかったもん。なかなかわからんかったし。今回もでたらめ書かれたら絶対新聞部廃部にしてやる!
 そんなこと出来るんですか?
 元々部員なんかおらんのやけん大丈夫。
 それじゃあ誰が書いてるんですか。
 顧問よ。新聞部顧問。一応国語教師。
 まあそうでしょうね。
 先輩に聞いたとこによると、授業もわかりにくいらしいで。
 そうなんですか。
 声が低くて聞き取り辛いとか。黒板の字が薄いとか。
 最悪ですね。
 やからそいつらにも負けられん!そいつが絶賛するような劇やってやらなあかんで!
 はい!

   2、再び脚本を書き始める。
   1も迷いながらは書いては捨てる。

 先輩。
 ん?
 目標はどこですか。
 全国。

   間。

 先輩。
 ん?
 聞きなおしていいですか。
 うん。
 目標はどこですか。
 全国。

   間。

 ウチの高校行ったことあるんですか。
 あるわけないやん。そんなの。四国を1回しか行ったことないんで。県でも3回。県外なんか1回も行ってない。
 じゃあ全国なんか無理なんじゃないですか。
 ほんなん、やってみなわからんやろ。
 全国っていつあるんですか。
 来年、7月。
 ええ!?じゃあ1年後じゃないですか!
 そうよ、四国から全国まで半年開いとるもん。学年変わるんで。
 じゃあ3年の先輩とかって出れないんですか。
 出れんよ、これこそ脚本主義の証明やん。
 え
 だってそうやろ?3年で四国大会勝っても全国行けんのやで。何も知らん1年生が行くんやから。つまり脚本さえ一緒やったらキャストなんか変わろうがどうしようがええいうことやん。
 はあ……。
 そりゃ演劇いうんは作るんに時間かかるから、しょうがないこともあるけどな。やっぱ3年は納得いかんやろ。
 そうですねえ。
 まだウチらは1年と2年なんやけん。今しかないんで。チャンスは。気合い入れや。
 はい!(書き始める)

   間。

 ……返事はええんやけどなあ……。

   2人、書き始める。
   1、だんだん飽きてきている。
   1、遊んでいる。
   2は真剣。しかしさりげなくノートが変わっている。

 判別式Dはゼロだから……kイコール0と2で……あれ?そうなると……先輩。
 ん?
 ここ、どうしてこうなるんですか?
 ええ?
 (問題集を出して)ほら、答のところ、これって何の式ですかね。
 ああ?これは解の公式やろ。
 でもそれだったらここにプラスマイナスルートが……
 だってここでそれ0ってわかっとるんやろ?
 ああ!そうか。さすが先輩。ありがとうございます。
 うん。

   2、戻って再び別の問題集を解き始めている。
   しばらくして、

 ちょっとちょっとちょっと!
 はい?
 何やりよるんよ?あんた。
 ちょっと夏休みの宿題を……。
 ああー!そんなことしよる場合じゃないやろ!夏休みなんか後1ヶ月以上ある!脚本は今日中!しかもまだ夏休みやない!
 先輩、ここわかりますか?次の言葉の意味を書け「烏合の衆」
 ウチらのことかもな……。
 「我田引水」
 あんたのことや……。
 「大わらわ」
 まさに今の状況……。
 まさに今の……(全部書いている)ありがとうございました。
 は?
 よし、これで国語のわかんなかったとこ終わり。
 ちょい待て。
 何ですか。
 ……何でもないわ。……ふっ。馬鹿め。
 ?

   1、座る。
   2、そっと立っている。

 (小声で)ふっ。馬鹿め。

   2、相変わらず問題集を解いている。
   1、必死に書いている。

 出来た!出来たよ!

   2、慌てて問題集を隠す。

 わ、私は何もしてませんよ!先輩、ハメたりしてないです!
 は?んなことより出来たんよ!ほら、見てみ。
 (めくって)「戦え受験生」すごいタイトルですね……結局受験生にするんですか。
 だって受験生なら身近に実例おるやん。先輩に聞けばだいたい状況とか気持ちとかわかるやろ。
 なるほど!で、誰に聞くんですか。
 えーっと……ま、誰でもええやろ。登録順に……(携帯電話を取り出す)
 よし、私も。(携帯電話を取り出す)

   二人、かける。

二人 あーもしもし。先輩ですか?私です。わかりますよね?

   間。

 ええ、今どういう状況ですか。
 そうなんですか。やっぱり3年は大変なんですねえ。
 実は劇で受験生をテーマにすることになって。
 ちょっとお話を聞きたいんですが。
二人 ええっ!?
 就職するんスか。
 何だ、嘘ばかり言わないで下さいよ。
 はあ……親が……
 いい親じゃないですか。ウチなんか結構ひどいこと言いますよ。
 そうですかあ……。それじゃあ参考になりませんね。
 ええ!すごく参考になります!それから、もう少し、いえ、そのことじゃなくて。
 あ、はい。すみません。
 もう、頼みますから、真面目に答えて下さいよ。
 すみません。一応真面目なんですが。
 ええ!?何馬鹿なこと言ってるんですか。
 いや、そんなつもりはないんですが……。
 これ以上ふざけてると切りますよ。
 あ、ちょっと待って下さい!
 真面目に言ってくれますか。
 はい。
 今、どんな気持ちですか。
 はい、もうこっちもかなり辛くて。
 ああ、苦労してるんですね。
 心配かけます。
 あ、それじゃあ頑張って下さい。
 頑張ります。すみませんでした。

   二人、切る。

 有効な話、聞けましたよ。
 ふう……何かめっちゃブルーや。先輩と話した気せんわ。
 どうしたんですか。
 親の会社が倒産したんやと。でもこっちの心配もしてくれてな。ええ先輩や。
 こっちはふざけてばっかりですよ。ちゃんと勉強してるんですかね、あの先輩。
 途中から別の人と会話しとるみたいやったわ。
 ピッチに電話したら家にいるとか言ってましたけど、後ろの声聞く限りどう考えてもカラオケにいるんですよ。
 ……あんた、誰に電話したん?
 重松先輩です。
 あんなんに電話したってあかんやろ。
 そうですか?受験生は辛い言うてましたけど。後、精神的に追い詰められるそうですよ。特に夏なんかすごいプレッシャーで。遊ぶのが怖い言うてましたよ。
 ……絶対受け売りや。あの先輩がそんなまともなこと感じとるわけない。
 でも常に「やらなきゃ」って意識が付きまとってるとか。
 それはあれだけ遊んどったらそんな気持ちにもなるわい。あかん、参考にならん。
 ええ?じゃあどうするんですか。
 別の先輩にかけてみるわ。(携帯を手に取る)
 じゃあ私も……(携帯を取る)
 待て!あんたは電話するな。
 え?
 いいから、あんたは何か書きよれ。
 はあ……。

   1、電話をかける。

 あ、もしもし。先輩ですか。あ、はいそうです。お忙しいところすみません。え?あ、そうですか。じゃあいいです。失礼しました。(忙しいからかけるな、と言われた)

   1、切る。
   1、別の人にかける。

 あ、もしもしフランク〜?え?あ、すみません!間違えました!

   1、切る。
   1、別の人にかける。

 ……………。留守か。

   1、またかける。

 あ、もしもし先輩……は〜いすみませーん。(即、話してる暇はないと言われた)

   切る。

 ……………。

   間。

 どうですか。
 ……とりあえず先輩ってのは電話に出れる状況じゃあないんやな。
 何かネタになりそうな話は。
 電話に出れんっていう……。
 他には。
 何か殺気だっとる先輩とか。
 他には。
 (何もなしのポーズ)
 ……どうするんですか。
 とりあえず受験はやめよか。
 やめるんですか。
 だって参考にならんもん。
 だから重松先輩が……
 あんなん受験生やないわい。いつまでも部活はやりよるし。
 先輩に言ってやろ。
 別にええで。誰に言うたって……
 みんな〜。聞いて、聞いて。こいつね〜、重松先輩のこと「馬鹿」って言ったんだよ〜。
 言うてないやろ!そんなの!
 普段言ってるじゃないですか。
 なるほど……っておい!
 しかもねえ、あんな奴絶対大学落ちるって。
 言うてない!……って、さてはそれ、あんたの本音やな。
 うえっ?(え?)
 しらんで〜。先輩観にきとるで〜。
 (きょろきょろして)いないじゃないですかあ。
 ほらそこ!(袖を指す)
 うわあ!

   間。

 ……ま、知られたからってどうってことないですよねー。
 袖におるんは盲点やったけど。
 さあそんなことより脚本作り!
 あんたも結構ええ根性しとるな……。
 遊びまくって浪人した演劇部の人の話なんかどうですか。

   袖から何か飛んでくる。
   2を直撃。

 (投げ返して)私は何も言ってませんからね〜。
 ……受験生はやめまようか。(痛そう)
 そやね。
 でもそれじゃあ何を……

   2、考え込む。
   1、台本などを漁ってる。

 何か参考になるもんないかなあ……。

   1、一冊見付け、めくる。
   突然、

 あーーーーーーーーーーーー(発声)
 な、びっくりするじゃないですか!何ですか、突然。
 いや、演技のエチュード見付けたから。なんか懐かしいなあ……。
 あ、それ一度やりましたよね。落語とか、場内アナウンスとか。
 そうそう、パントとかも入っとるやつ。
 ……一度しかやってませんね。
 忙しかったからなあ。
 それでいいんですか。
 あかんな。基礎練もちゃんとやらな。そういや、最近発声もやってないし。
 ああ。私、もう声でないかもしれませんよ。
 あーーーーーーーーーーーー。
 あーーーーーーーーーーーー。
 ……最初に比べて結構出るようになっとるやん。
 そうですか。あーってのは得意なんですけどね。
 文が入るとあかん?
 駄目ですね。
 青春のばかやろーーーーーーーーー。
 何かあったんですか。
 ヨウちゃーーーーん。帰ってこーーーーーーーい。
 (顔をそらす)ああ……。
 何で演劇部やめたんやーーーーーー。
 忘れましょう!忘れるんです、先輩!
 あ、え、い、う、え、お、あ、お。
 叫びたかっただけですか。
 挨拶は愛情を持ち合い暖かくあい交わし合うのが良い!生き生きと息高らかに進んで出て行くあの勇ましさ!う……う!……う、う、う!うううううううううう!
 浮き世に浮き浮きと歌うたいつつ生活し、運を開いた運転手さん!
 映画や演劇のもつ絵心はただの絵空事ではとうてい得られない!
 音痴の人には音楽なんて面白くもおかしくもないものと思います!

   再び何か飛んできて2に直撃。

 あう?
 な……何故。
 先輩、音痴やもんなあ……。
 そ、そうなんですか。

   間。

 ……発声はやめよか。
 そうですね。
 よっしゃ!じゃ柔軟やろ!

   1、柔軟を始める。

 柔軟は日々の努力の積み重ね!(曲がる)
 柔軟は、努力、根性、忍耐力!(曲がらない)
 ……柔軟は何やて?
 ……ええと……才能……かな?
 あかんよー。そんなんじゃ。(2を押す)
 あいたたたたた!せ、先輩。痛いです、痛い!
 そこを我慢するの!私も昔はそうやった。
 せ、先輩元新体操部じゃないですかあ……
 関係あるか!新体操部も演劇部も柔軟は基本!
 うう……。
 毎日、お風呂あがりにやりよる?
 やってますけどまだまだ……。
 それじゃあ次は演劇部名物!ドナドナ!
 ええ?
 足あげてー。

   二人、寝転がり足を少しあげる。

 あ〜る〜晴れた〜昼下がり〜市場〜へ続く道〜♪

   2、さりげなく足を下ろす。

 に、荷、馬車……が、ご……ご……
 と〜ご〜と〜子牛を乗せていく〜
 かっかわっい……い……
 子牛〜売られていくよ〜悲しそうな瞳で
 見ているよ!(すでに歌ってない)

   1、足を下ろす。

 ぜえぜえぜえぜえ。
 こんなの初めてやりましたよ〜。
 あんた、……根性あるな……。(まだ息を切らしてる)
 え?え、ええまあ。鍛えてますから。あははははは。(客に向かってし〜っのポーズ)
 よっしゃ、その調子で背筋20!
 は、背筋?
 またの名をオットセイ。
 はい?
 早くやる!

   2、慌ててうつぶせになり背筋。

 おうっ、おうっ、おうっ。(2の動きに合わせてオットセイ)……ほらな。
 先輩もやって下さいよ!
 はい、次〜。
 先輩!
 あんた、冷凍まぐろやったことあるか。
 冷凍まぐろ?
 そうそう。みんなで一人を囲んで……
 リンチですか。
 アホッ!中の一人が冷凍まぐろで、体を固めて、まわりの奴らが押す。
 あ。
 またの名を緊張。
 ああ!わかりました!あの固まってれば、ちゃんと押し返してくれるという。
 そうそう。さ、やってみ。

   1、2構える。
   2、1の方へゆっくり倒れる。
   1、2を押す。
   2、押される。もちろん、受ける人はいない。

 あ。

   2、倒れる。受け身は取ろう。

 い、い、い、い、
 落ち着け落ち着け。
 今!目開いてなかったら顔面直撃ですよ!今、今!
 わかった。わかったから。
 し、死ぬかと思った……。
 そうやなあ……これは二人では出来んなあ……
 やる前に気付いて下さいよ。
 それじゃあ脱力。
 脱力?
 力抜いてだら〜んとすること。
 (だら〜んとする)
 いきなりすんな!あんた1回やっとるやろが。
 何で基礎練って4ヶ月で1回しかやってないんですか。
 忙しいからや。今はそれ以上突っ込むな。ほら、立て。

   2、脱力前のポーズ。

 はい、足……はい、手……はい、肘……はい、腕……おい、肩の力抜け取る!……はい、肩……はい、首……はい、腰。……OK。まだ固いけどこんなもんやろ。
 じゃあ次は先輩ですね。
 よし。

   1、脱力前のポーズ。
   2、言い掛けるとき、電話鳴る。(着メロが望ましい)

 あ、……はい、もしもし?あ、先輩。ええ?ああ、あれやめました。やっぱり受験生ってのは私らには無理みたいで。え?……いや、先輩の意見は大変参考になったんですけど、ちょっと話が作り辛くて……

   もちろんこの間、1は脱力前のポーズ。
   1、必死で目で訴えるが気付かない。

 ええ!?そんなこと言うなら脚本書いてくれるんですかあ?……ほらあ、無責任なこと言わないで下さいよ。……もうカラオケは終わったんですか?……あ、やっぱりカラオケにいたんですね。先輩の行動くらいわかりますよー。……え?ああ、3年は野球応援でしたっけ。……10対9!?ぎりぎりじゃないですかー。え?ああ、大変でしたねえ。

   1、倒れる。

 あ、何か倒れたみたいなんで切ります。はい、失礼しまーす。

   2、切る。

 先輩!大丈夫ですかっ!?ああ……すみません……すっかり忘れてしまって……。決してわざとじゃないんです……。先輩がいなくなれば私の天下!なんて考えたわけじゃないんです……。だから目を覚まして〜。

   間。

 あれ?ほんとに気絶したのかな。なあんだ、涙流して損した。じゃあ目を覚ますまで宿題でもしてよ〜。

   1、2が背を向けた隙に立ち上がる。
   1、2の肩をぽんぽんと叩き、振り返った頬に人差し指。
   間。

 ……お、怒ってるのか楽しんでるのかわかりにくいです……。
 (ものすごく怒った顔をする。中指を立てたりもしている)
 や、やっぱりわかりにくい方がいいです!
 (変な笑み)
 さーあ、脚本書こうかなあ。
 座れ〜!

   2、一瞬で正座。

 君にとって先輩とは。
 はい、尊敬に値するかけがえのない人です。
 ほお、
 とってもすばらしい人物だと思います。先輩に比べたら私など、火星の前の金星。
 ……どっちの方がええん?それ。
 乾電池の前のドライバー。
 ……く、比べにく〜。(比べにくい、の意)
 すっぽんと……
 もうええわい。あんたの気持ちはよおくわかった。
 はい、おわかりいただけて光栄です。
 今日中に脚本仕上げ。
 無理だ、馬鹿。
 ……何か言った?
 いえ、何も。
 なあ、ちょっとそこのバット取ってくれる?
 (微笑んで)お断りします。
 ほお。心配するな。私は何もせん。やから小道具の中から電話機取ってや。
 (取りに行く)これですか?
 そうそう、それを高く放り投げて、
 (高く放り投げる)
 頭で受け。
 はい……どええええっ!?(ぎりぎりで避ける)
 ちっ。
 ち、「ちっ」って……。
 電話、電話もええなあ……。
 はい?
 ちょっとこれでアドリブ劇やってみ。
 はい?
 やったことあるやろ。即興。私も使ってええけん。こういうとこからヒントが生まれるもんやし。
 は、はい。

   2、電話を前に固まる。
   2、電話をかける。

 あ、もしもし?出前頼みたいんですけど。はい。えっとカツ丼一つ。場所は東警察署です。はい。お願いします。(1に向き直って)今、カツ丼を頼んでやったぞ。なあいい加減吐いちまえよ。
 私が犯罪者かい!
 ……ノって下さいよ〜。劇なんですから。
 あかん。私のプライドが許さん。……ちなみに何の容疑?
 へ?
 考えとるんやろ。それくらい。ちゃんと状況考えな劇は出来んぞ。
 もちろん考えてますよ!先輩は前科二犯のコソ泥(きつい視線に気付いて)……ってのは嘘で、万引きの初犯……
 フォローになっとらんわ!余計、せこなっとるやないか!
 ええ?大犯罪の方がいいんですか。
 世間をあっと言わせるような。それでいて直接の被害者はゼロ、崇高なテロ精神に基づき……
 アブナイ人……。
 あ、今「アブナイ」ってカタカナで言うたろ!許せん!
 うわあ……何でわかるんですか。
 脚本読んどるけんや!

   間。

 ……きゃ、脚本。
 忘れてましたね。
 はよ書かな!今何時?
 そうね、大体ね〜♪(BYサザン)
 死にたい?
 4時です……。
 休日の部活って何時までやっけ。
 5時です……。
 うわああ。結局何も出来てないやないかあ!
 いつものことじゃないですか。
 落ち着くな!今の状況わかっとるんか!
 でも去年も練習入ったのって8月からでしょ?
 去年と一緒にするな。去年は役者が実力者揃いやったからな!
 自分も出てたくせに……。
 文句あるんか?
 ツバメの役で……
 言うなああああああああああ!言うな!あのことだけは絶対言うな!
 そんなに嫌だったんですか。
 思い出したくもない。
 じゃあ今年は豚とかで……。
 ふっ。あんたも出るんで。
 私は豚使いで。
 ほんなんおるか!
 じゃあ何やるんですか!文句ばっかり言って!私だって一生懸命真面目にやってるんですよ!先輩も考えて下さいよ!
 やかましい!どこが真面目なにゃ!ええ加減にせえよ!真面目にやっとるように見えんわ!もう疲れた!いやや!めんどい!どうにでもなれや!

   急に照明、暗くなる。
   1にだけ暗いサス。
   不気味な音楽。

 え?
 あなたは演劇部を裏切った……。
裏切り者……
  裏切り者……
  裏切り者……
 部長なのに……
部長なのに……
  部長なのに……
 どうでもいいって言った。
どうでもいいって言った……
  どうでもいいって言った……
 みんな一生懸命なのに……。
一生懸命なのに……。
  なのに……。
  なのに……。
  なのに……。
 一人だけ逃げようとした……
逃げようと……
  逃げようと……
  逃げようと……
 裏切り者!
裏切り者!
  裏切り者!
  裏切り者!
2・声 お前に演劇部にいる資格はない!
 ああああああああああああああー!ごめんなさあああああああああいい!

   照明、明るくなる。

 何やってんですか?先輩。
 あれ?
 さては恐い夢でも見ましたね。
 夢……なわけないやろ!
 あう。
 スタッフまで一緒になってなんや!こらあ!まこっちゃん!勝手に照明変えやがったな!
照明 すみません!
 音響も!変な曲かけんな!
音響 は〜い。
 な、なめられとる?ひょっとしてなめられとるんか?私。私がおらな演劇部はここまできてないで。義務はあるけど権力のない部長がおらな。
 自覚あるんですね。
 そらあるわ!何で私部長になったんやろ。あの時パーを出してれば……。
 ジャ、ジャンケンで決めたんですか。
 前の年もそうやったし。
 じゃあ全然偉くないんですね。誰でもなれたわけだから。

   間。
   1、黙って脚本を書き出す。

 先輩?
 もうええわ。私一人で最後までやる!もうあんたらなんか当てにせん。
 してたんですか!?
 ………………。
 ……。
 私、脚本書くわ。もう帰ってええよ。私一人で書くけん。

   1、書き始める。

 はよ、帰りや。おったって何もせんのやろ?
 あの……怒ってますか?
 ウチが怒る前に帰れよ。
 …………。

   2、のそのそと帰る準備をして、1を気にしながら帰る。
   1、ずっと書いては捨てている。
   1、ふと2のいた席を振り返ってみるが、誰もいない。
   1、衣装や小道具を漁りながら、退屈そうにまた書き始める。

 私にとって最も身近なもの……。最も好きなもの……。最も大切なもの……。語ればキリがないもの……。私にとっての青春……。

   1、適当な衣装をつける。
   小道具の電話(もちろん線のつながっていない)にかける。
   ここから先は劇中劇である。

 あ、もしもし?うん(つながってないコードを持ちながら)さっきはごめん。わかったんよ。そう、それが。(笑って)そう、簡単なことやろ。何でかなあ。何で気付かんかったんかなあ。

   2、入ってくる。衣装は変わってる。
   1、突然電話を切る。

 読み合わせ、しません?
 ん?何の?
 何でも。適当に。
 じゃあ選んでや。

   2、棚を漁り始める。中を見ずにとって、

 えっと赤い夕日。
 うわあ。トッシーの作品やん。あの人のもうやり飽きたから却下。
 (次を取る)ゆりかごの唄。
 それもチャックの!
 真夜中の鐘。
 それもやって。
 多いですねえ。その人の作品。
 ほうよ、いっぱい残しとるもん。賞取った作品もあるらしいで。
 ええ?じゃあすごいんじゃないですか。
 さあなあ。私にはようわからん。会ったことないし。
 何してる人なんですか。
 今は大学院おると思うけど。
 大学院って……どこのですか?
 さあ?でも何か演劇関係やってのは聞いたことあるで。
 へえ。
 まあ演劇は好きなんやろなあ。卒業してからもよう来よったらしいし。
 今の3年も卒業してからも来ますかね。
 重松先輩なんか絶対来そうやな。で、新しい後輩にまたいばってみせるんで。
 で、また後輩にいじめられるんですか。
 そうそう。
 先輩は?
 え?
 先輩は来ますか。
 ……どうやろ。多分来んと思うで。
 ええ?何でですか。
 何で言われても……いろいろ忙しなるやろし。新しいことも始めるやろし。……県外、出るかもしれんし。
 はあ……。何か寂しいですね……。
 しゃあないやろ。高校は3年しかないんやけん。私は十分楽しんだけん、ええわ。
 ………。
 ってそれより読み合わせするんやないん?
 あ、そうですそうです。じゃあ、これ!
 ん?
 赤青信号。
 やめてえええええええええ!
 去年の大会のですよね。
 いやああああああああああああ!言うなあああああああああ!
 カイ〜。
 いやああああああああああああ。
 ……やめときましょうか。
 ううう。
 もう少し誇りを持ちましょうよ。それで県大に出られたんじゃないですか。
 ……もう2度とやりたくはないけど。
 じゃあ次は……(脚本を引こうとする)
 待って。たまにはこういうのやってみん?

   1、別の本棚から「本」を持ってくる。

 あ、シェイクスピア。
 やってみる?
 こういうのってやったことないですよね。
 時間も人数もないけんね。私もやったことないし。
 私、ハムレットしか知らないんですよ。しかもあの有名なセリフのとこだけ。
 あ、ここやろ。しおりが入っとる。

   間。
   音楽。

 生か死か。それが疑問だ。どちらが男らしい生き方か。じっと身を伏せ、不法な運命の矢弾を堪え忍ぶのと、それとも剣をとって、押し寄せる苦難に立ち向かい、とどめを刺すまであとには引かぬのと、一体どちらが。

   1、2に本を渡す。

 いっそ死んでしまった方が。死は眠りに過ぎぬ。それだけのことではないか。眠りに落ちれば、その瞬間、一切が消えてなくなる、胸を痛める憂いも、肉体に付きまとう数々の苦しみも。願ってもない幸いというもの。
二人 死んで、眠って、ただそれだけなら!眠って、いや、眠れば夢も見よう。それが嫌だ。この生の形骸から脱して、永遠の眠りについて、ああ、それからどんな夢に悩まされるか、だれもそれを思うと……いつまでも執着が残る、こんなみじめな人生にも。

   間。

 何で同じところでやめるんよ。
 先輩こそ。
 長いなー。このセリフ。
 まだ10行以上ありますよ。
 こんなの、覚えてみる?
 無理ですよ!
 でも読んでみな、わからんな。セリフって。
 生か死か、それが疑問だ。
 本当に死ぬかどうか迷っとったんやねえ。ハムレットって。
 何でそんなに思いつめたんですか。
 ……人間、一度は死にたなるもんよ。
 先輩も読んだことないんですね。
 …………。
 先輩もありますか。自殺考えたこと。
 やから人間は絶対一度は考えとるって。
 重松先輩も?
 考えてなかったら人間やないな。
 考えてなさそうですね。
 能天気やからな、あの人。
 人生楽しんでるって言ってましたよ。
 あの人、失敗してもすぐ忘れるもん。嫌なこと全部忘れたらそりゃ人生楽しいやろ。
 忘れたいですねえ……嫌なこと。
 嫌なことって何?
 こないだ、テストの点が悪かった。
 レベル低いなあ。
 そういう先輩は?
 ええ?去年の大会の役。
 それは忘れちゃ駄目でしょう。
 忘れる。5秒以内に忘れる!1、2、3、4、5、忘れた!
 ノロ〜。
 (耳をふさぐ)ああー!何も聞こえんよ。全部忘れたもん!

   間。

 先輩、ハムレットって最後どうなったんですか?
 え?
 自殺したんですか。
 え?どうやろ。(本をめくる)えっと……あ、これが最後のハムレットのセリフや。……おお、ホレイショー、これでお別れだ。激しい毒が五体の隅々まで、もう頭もしびれて。イギリスよりの使いを待つ間も保たぬ命。そうだ、一言、先のことを。国王にはフォーティンブラスが選ばれよう、そうするように。それが、死にのぞんでの、ハムレットの遺志だ。フォーティンブラスにも、そう伝えてくれ。始終の仔細もな……もう、何も言わぬ。

   間。

 かっこ死ぬ。
 やっぱり死ぬんですか。
 かっこ死ぬってのもあっさりしとるな。
 死に際えらい元気やないですか。
 長々としゃべっとったな。
 これって自殺なんですか。
 え?
 毒ってことは服毒自殺っぽいですよね。
 読んでみたらわかるやろ。
 ええー?(ぺらぺらと最後の方からめくる)
 (取り上げて)あかんよ、後ろから見たら。ちゃんと最初から見て、ハムレットの苦悩をわかって、その上でハムレットがどうしたか見な。
 さっきいきなり最後のセリフ言ったくせに。
 いいから読み!明日までに読んでこい!
 ええ?それなら今読み合わせしましょうよ。
 あんた、これ最初から読むん?よーし。わかった。あんたの役は(本をめくって)クローディアスとポローニアスとレイアーティーズとコーニーリアスとギルデンスターンと一従臣と(めくる)
 ちょ、まだあるんですか?
 当たり前やろ。バーナードーと……
 わかりました。読んできます。
 いつか読み合わせでやりたいな。
 人数増えたらやりましょう。でも終わるのに何日もかかりそうですね。
 休みの日に朝からやってみる?って……あかん、ハムレットの本、5冊しかないやん。
 印刷すればいいじゃないですか。
 この量を?
 ホリーにやらせればいいじゃないですか。
 ホリーって……あんた、ほんとにウチらの悪い影響受けとるわ。顧問をそんなふうに呼んだらいかんで。
 先輩そう呼んでるんじゃないですか?
 ウチらはポリーよ。微妙にちゃう。
 じゃあポリーって呼びます。
 本人の前で呼ぶなよ。
 わかってますよ。じゃあポリーのとこ、持って行きます。
 今から?
 取り掛かるのが遅いのは演劇部の欠点でしょう。これからなくしましょう。
 休みの日はポリーは来てないで。
 電話しましょう。
 そこまでせんでええ!今は大会の方よ。
 あ、脚本出来ましたか。
 うん、もう少しで完成。(今演じている劇は1の頭の中で描かれている物である)
 明日には配れますかね。
 いや。まだこれから重松先輩にワープロで打ってもらって……。
 あ、そうか。でも先輩忙しいんじゃないんですか。
 うん、これから脚本打つんに忙しなるわ。
 ……ひどいですね。
 利用できるだけしといたらええんよ、あの人は。
 先輩、この劇観に来ますよ。
 ホントは愛してるのよvv
 わざとらしいですね。
 あの人にはこの一言で十分。じゃあ、明後日までにやらせるけん、スタッフに明後日くるように言うといてや。
 はい。
 あ、どうせ明日来るんか。終業式やし。
 明日、休みって言ってませんでした?
 そうやっけ?まあええわ。電話で知らせといて。
 はい。
 じゃあウチは最後の仕上げやるけん、先、帰っといて。
 はい。

   2、帰る準備。

 それじゃあお疲れ様でした。
 お疲れ様でした。

   2、出て行く。
   1、衣裳を脱いで脚本を書き始める。
   ここから元の場面に戻る。

 私にとって最も身近なもの……最も好きなもの……最も大切なもの……語ればキリがないもの……私にとっての青春……。

   あたり、暗くなってきている。

 よし、出来た。

   1、電話をかける。(携帯)

 あ、先輩。はい、やっと出来ましたよ、脚本。え?テーマですか。だから青春ですよ。青春。ええ?私らにとっての青春ですよ。わかるでしょ、これだけ言ったら。……そうですよ。フィクションはフィクションです。あ、先輩の名前も出しましたからね。ええ?いいじゃないですか、別に。こっちも捨て身で書いてるんですから。……はい、でも手書きなんですよ。……はい、そうです。ワープロで打ってくれますか?え?いいじゃないですか一日二日くらい。一日あれば出来るでしょう、先輩なら。……え?そんな利用するなんて……ちょっと考えてますけど……冗談ですよ!冗談。……そうそう、先輩のこと愛してるから言えるんじゃないですか。……(笑いをこらえる風で)はい、じゃあお願いしまーす。

   1、電話を切る。
   音楽。
   1、帰り支度を始める。
   照明、暗くなる。

−幕−


・女1のしゃべりは伊予弁です。女2も敬語調ですが方言は入ってます。演じる場合は地元方言に直すのが良。
・「空白戦隊」のセリフは地元アマチュア劇団に直すのが良。
・「トッシー」の脚本はOB(OG)の脚本名に直すのが良。
・他、内輪な話題を入れるのが良。
・オットセイ、ドナドナ、冷凍まぐろについての説明はこちら

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