夕ばえ作戦─5

 鎮火剤を使った途端、罠の作動音が聞こえた。
「おいおいっ、出口が閉じちまったぞ?」
「わかってますって! ええと、常世神が葉……!」
「落ち着いていけよ」
「お前は落ち着き過ぎだっ、よし、次、御毛沼命は……ええと」
「波じゃないか?」
「そうっ! よし!」
 今のは夕薙の言葉がなくてもわかったからな? わかってたからな?
 ギミックを回し、絵をあわせる。
 HANTが罠の解除を告げた。
「あー、暑かったぁ」
「ふぃ〜。いやー、怖いねぇ。いくらおれが熱いソウルの持ち主でも生身で溶岩はな……そろそろ変身時か?」
「出来るなら是非お願いします」
 閉じ込められている間の気温上昇は凄かった。
 空気が抜けるだけで少し涼しく感じる。
 鴉室の軽口を流しながら、九龍は次の扉を開けた。
「っとー、来た」
 敵の出現。
 九龍は落ち着いて銃を構える。隠れる場所はあるし、見覚えのある敵ばかり。
 問題なし!
 手前に居る剣持った敵は銃で。その奥の敵にはナイフで。
 手早く片づける九龍に、夕薙が感心したような声を上げた。
「手慣れてるな」
「おお。何せプロだからな」
 HANTが敵影消滅を告げ、笑いながら夕薙の元へ戻る。
 次の瞬間、その夕薙の背後に何かが降って来た。
「なっ……?」
「ん?」
 夕薙が振り返り、素早く移動する。
 降りてきたのはレリックドーンの兵士たち。
 待ち伏せかよ……!
「おおっ、現れたな悪の手先め!」
 そして鴉室はそんなことを言っている。
「囲まれたようだな……。こっちはおれが引き受けよう」
「だ、大丈夫か?」
「ああ。九龍はそっちを頼む」
 何か仕切られてる。
 それに文句を言う間もなく、九龍は背後のレリックドーンに飛びかかった。
 墓守でも何でもない人間。防弾チョッキは着ているだろうが──やはりあまり撃ちたくはない。
 九龍は、人を殺したことはない。
「これでもくらえっ!」
 背後で夕薙の声が聞こえる。レリックドーンの悲鳴も上がった。
「九龍くんっ、大丈夫か!」
「鴉室さんも手伝ってくださいよ……!」
「おっ、おお、任せな! 行くぞ! ジェネティックキャノン!」
 ホントに技名か、それ……!
 そこから放たれる衝撃波が──九龍も巻き込んだ。
「ちょっ……!」
「あ、悪ぃ」
「痛って……って、大して効いてな……」
 壁に叩き付けられた九龍は慌てて身を起こすが──側に居た兵士の方は完全に伸びていた。それほどの、攻撃だったか?
「いやー、それは運が良かったな。どうもおれの攻撃には波があってねー」
「…………」
 苦笑いをしながら言う鴉室に、九龍は沈黙した。
 そして鴉室を飛び越え、夕薙の元へ向かう。
「大和っ、どけっ!」
 夕薙の攻撃で弱っている兵士に──飛び蹴りをかます。
 他2人には、拳を叩き付けた。
 それで、片は付いた。
 さすがに遺跡に連れてこられただけあってか、強い。
 だが、問題ない。
「……それは八つ当たりか?」
「人聞き悪いこと言うな、大和」
 何か無性に殴りたくなっただけだ。
 鴉室は、今殴るとまずいから!
 九龍は声に出してそう言い切り、兵士たちをまとめて縛って転がしておく。武器は勿論没収。
 そして改めて部屋の中を見回した。
「扉が3つにー……ハシゴか」
「こっちの扉は開かないぜ?」
「こちらもだな……。この上には何があるんだ?」
「あー、待て待て、おれが行く」
 扉を確認した夕薙がハシゴを見上げる。
 九龍は軽く足をかけてその上へと飛び乗った。下に何とか通れそうな穴があったが、その先には何もない。
 逆側には……壷か。
「何かあったか?」
「いやー何も?」
 あったけど開けませんでした。
 なんてことは勿論言わない。
 頑張ればいけそうな気はしたが、この暑さの中、頑張る気力がない。先に進めなくなったら頑張ろう。
 足場から飛び降り、九龍は最後に石碑へと向かう。
 ……これもまた、難しい。
「何て書いてるんだ?」
「ええと……これは……皇后? と、王か?」
「皇后と王? ひょっとしてあれか?」
 夕薙の言葉に振り向く。
 溶岩の先に男女の壁画があった。
 そうかもしれない。
「かなー? それが、ええと……同じ数の葉と、枝を、欲した……だな、多分」
 ちらりと、両端に並ぶ石像を見る。
 鴉室もそちらに目を移し、言った。
「なーんか麻雀思い出すなぁ。君ら、麻雀は好きかい?」
「あー、おれほとんどやったことない」
「まあ、そこそこは出来るよ」
「お前は何でもそこそこ出来そうだ」
「いいなー、おれ好きだけどあんまり強くないんだよなー」
「鴉室さんには負けたくないよな」
「どういう意味だ」
「さて、これはどうすんのかなー」
「九龍くーん!」
「うーんと……」
 石碑の両側にある像を確認していく。
 葉の絵。枝の絵。
 それぞれが3個、4個、1個に分かれて乗っている。
「……わかった。これを前に動かして……こっちに葉の分が3と1、こっちに枝の分が3と1、とか。そんな感じ」
「なるほどな……。それぞれ4つずつが皇后と王の目の前に来るわけか」
「そういうこと! さて……」
 持ち上げ……るのは無理か。
 なら引きずるしかないのだが──ええと、これを前に出すとこっちを動かすスペースが……なら向こうまで……でも、あれも動かさなきゃならないし……。
「……大和助けてくれ」
「おいおい……」
 苦笑する夕薙。
 だがツッコミながらも一応石像の方に目を移す。
 九龍もその間に頭の中で考える。
 あれをこう動かして、これをこう動かして……。
「ふむふむ。あれをああで、こっちはこうだな……」
 鴉室も隣でぶつぶつ呟いている。
 ……わかってんのか? 本当に。
 何となく、鴉室にわかられるのは悔しい。
 九龍は必死で頭を動かした。
「……よし」
「わかったのか?」
「とりあえずやってみる」
 九龍は像を引きずり始めた。
 お、重い……。
「鴉室さん、そっちの奴前に出してください!」
「おれかよっ」
「大和はおかしくないか見ててくれ」
「全く……こういう力仕事は若人の仕事じゃないのか……」
「若いんでしょ鴉室さん」
 文句を言いつつ動かす鴉室。
 何度か詰まってやり直したが、無事完了した。
 結局夕薙も手伝って、3人揃って汗だくだ。
「……あっちの扉が開いたな」
「……ちょっと待ってくれ、きゅ、休憩を……」
「……うん、おれも休憩はしたい……」
 3人揃ってその場に座り込んだ。
 熱気の溢れる場所では座っていても、あまり体力の回復に繋がらない。
 九龍は水を取り出して2人にも投げた。
 あー、やっぱぬるくなってるな。
「あー腹減った。カツ丼でも食いたいなぁ……」
「いいな。おれはビフテキが欲しいよ……」
「お前ら元気だな……」
 おれはからあげでいい。
 と、結局大して変わらない思考で考える。
「……さ、行くか」
 あんまりのんびりしている時間はないのだ。
 水を飲み干した九龍が立ち上がると、2人とも黙ってその後に続いた。










 扉を開いてすぐ見えたのは四体の敵。こちらに向かうまでの障害物はあるが、部屋が狭いので回りこむのは直ぐだ。
 九龍は銃を構えた。いざとなればレリックドーンの使っていた銃がある。弾切れは気にするな、と言い聞かせながら敵の弱点へ弾を撃ち込んでいく。
「大和っ、他の奴も頼む!」
「ああ……これでも食らえっ!」
「九龍くんっ、横からも来てるぞ!」
「ええっ! あ、鴉室さん……!」
 お願いします、と言う前に敵の攻撃が向かってくるのがわかった。
 嫌な風。思わず身構える。
「クロウダークロスっ!」
「うおっ……!」
 鴉室の叫びで衝撃が……消えた?
 いや、多少のダメージはあるが、覚悟していたより痛みがない。
 そういや、防御の技がどうとか言ってたか。
 それもマジなのか。
 正面の敵は2匹倒して、そのまま前へ進んだ。横に居たのは……箱被ってる奴。攻撃範囲がやたら長いが、障害物があれば回りこんでくる。夕薙が別の2匹に攻撃している間に鴉室もそちらに引き込んだ。
「鴉室さんっ、攻撃は!」
「任せろっ! ジェネティックキャノン!」
 敵が吹き飛ばされる。
 だが、やっぱりダメージがなさそうだ。
「鴉室さんっっ!」
「あれ〜、おかしいな……」
 2匹を倒した夕薙もやってきた。
 九龍は仕方なくナイフに持ち返る。
「ま、あれにはこっちの方が効きますしね……」
 弱点は狙い難いし、銃は……やはり弾を温存したい。敵から奪った銃は使い慣れないし。
「……おっけー」
 2匹の敵を倒して一息つく。
 だが、そこへ、また先ほどの振動。
「九龍。油断するなよ」
「……ああ」
 側に来た夕薙が九龍のダメージを回復してくれる。回復の力も持っているのか。
「さんきゅ。……来た」
「また出たな。ここはおれの力で……」
「って、鴉室さん!?」
「行くぞ! ジェネティックキャノン!」
 現れたレリックドーンに、再び鴉室が攻撃を放った。
 3人まとめて攻撃に巻き込み、2人が……膝を付いた。
「凄ぇ……!」
「なっ!? 凄いだろ!? やっただろ!」
「言ってる場合じゃないだろう。こっちも行くぞ」
「おおっ!」
 はしゃぐ鴉室は、もう無理などと言い出すので、九龍と夕薙で残りの敵を倒す。ここでも、銃は使わなかった。ほとんど素手だったが、攻撃を受けることもない。人間の武器はわかりやすくていい。
「よしっと」
 無事、戦闘は終了。
「今度はこの部屋の謎解きかい?」
「ですね。どっかに石碑ないですか」
「うーん? あそこにあるのは何だ?」
「ええと……井戸?」
「井戸? これが?」
「常世国の井戸……って書いてます。まあ井戸を表してるもの、ってことですかね」
 だが、これをどうすればいいのか。動きそうだが……。
「おおい九龍、こっちに穴があるぞ」
「んん? あー、ホントだ」
 ハシゴのかかった穴。
 九龍は中に飛び降りて辺りを見回す。石碑があった。
「地の底が月の光に照らされた時……」
 夕薙と鴉室も着いて来たので、聞かせるように読み上げる。
 ここの解読はしやすかった。
 最後には海水にて清め給えなどと書いてある。海水って……。
「……よし、上に戻るぞ」
「わかったのか九龍くん」
「まずはさっきの井戸をですね」
 上に戻って見回す。
 北西の一箇所に上から差し込む光。
 これが月の光だろう。
「あそこまで動かします!」
「なるほどね……」
「鴉室さん頑張って!」
「おれがやるのっ!?」
「……や、冗談です」
 嫌な顔して叫ぶ癖に、やろうとする鴉室を押しのけて九龍は井戸を引きずる。夕薙が手伝ってきた。ああ、ありがたい。
「甲太郎はぜんっぜん手伝わねぇからなぁ……」
「そうなのか?」
「こういうの動かすのとか。絶対おれがやってんの見てるだけ」
 その状況に慣れていた自分も悲しい。元々バディ時代も、九龍は肉体労働専門といった感じだった。そりゃあまあ、どうせなら自分で解除したいけどさ。
「よっ……っと」
 部屋の端から端まで井戸を動かし、光に当てる。
 そこに、秘宝が出現した。
「おおおっ」
 驚きの声を上げるのは鴉室。
 ああ、新鮮な反応が気持ち良い。
「これは……おっと、持っちゃ駄目か」
 HANTの警告。
 消毒しろって?
「どうするんだい?」
「……さっきの石碑にあったでしょ? 海水を使うんですよ」
「海水……?」
「あー、えっと、多分塩水とかでいいかと……」
 とはいえ、そんなもの当然持っていない。
 また戻るのか? と夕薙と鴉室、両方の目が言っている。
「いや……多分、もうすぐ魂の井戸が……」
 次への扉は……開いている。
「先進みますよ。多分ゴールは近いです」
 九龍の言葉に2人が顔を見合わせた。
 大体ね。経験でわかってくるからな。
 敵も同じ奴が出るんだよ。ここはあの剣持った奴と、四角い箱かぶった──と思っていたら、扉を開いた瞬間、目の前に見えたのはコウモリ!
「うおっ……!?」
 コウモリは……ええとっ!
 鞭!
 目の前、そして左。
 順番に鞭を振るうが、部屋が狭すぎる。目の前の敵が迫っている。
「ジェネティックキャノンっ!」
「これでも食らえっ!」
 2人の攻撃が同時に炸裂。
 それで……敵が消滅した。
「ええええっ……」
「妖魔殲滅! っとー」
「やりますね」
 鴉室の攻撃が最大値をマークしたのだろう。
 夕薙にまで褒められて得意げになっている。
 が、そんな場合じゃない。
「またかよっ……!」
 レリックドーン!
 この狭いとこに6人も! 完全に囲まれた。
「大和っ、鴉室さん!」
「ああ」
「やばい九龍くん。弾切れだ」
「えええっ!」
 もう撃てないという意味だろう。
 ああ、そこまでは確認してなかった!
 鴉室は戦力外と考えながら敵に突進。
 狭い中で動き辛いのは向こうも同じ。
 銃を奪い、叩きのめしていく。
「ぐうっ……」
「九龍くん!?」
「だ、大丈夫……」
 何度か反撃を食らいつつ、全て倒しきった。
「……つ、疲れた……」
「そこに井戸があるじゃないか」
「ああ。言った通りだろ? それじゃみんなまずは休憩ってことで……」
 最後の間への扉も見えていた。錠はかかっている。ひょっとすると喪部たちもどこか途中で見ているのだろうか。九龍に解かせ、最後に横取りするために。
 そうだとしても、進むだけだけどな。
 九龍は井戸への扉を開ける。
 柔らかい光に包まれてほっとした。
 食塩水を秘宝に使い、あの秘宝を錠にセットすれば──最後の扉が開く。井戸から取り出したパンで腹ごしらえをしつつ、九龍は考える。
 先にいるのは──阿門か、喪部か──。
 九龍はちらりと拾ったメモに目を落とした。
 いつもの江見睡院のメモ。おそらく最後の──メモ。彼は何かに気付いた。だが、そこで彼の探索は終了した。彼は最後まで辿り着けなかったのだろう。九龍はこれから、彼を越えていく。
 超えなければ、ならない。


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