ねらわれた学園─4

 今日の探索は誰を誘おう。
 皆守と八千穂は昨日一緒に行ったし、それ以外かな、ファントムが居るかもしれないことを考えると慣れない相手は怖いかなぁ。
「大和ー、いるかー?」
 そんなことを考えながら夕薙の部屋に向かう。
 先ほど来たメール。何か話があるとのことだし、先に済ませてしまおう。昨日の今日だし探索に付き合わせるのは……止めた方がいいかな。
「来たか九龍。とりあえず入ってくれ」
「おー」
 夕薙はいつものように半袖のシャツに学ラン。今日は学校に出てなかったが、行くつもりはあったのだろうか。……いや、ずっと寝てたなら単にあれから着替えてないだけか? 九龍が部屋に入ると早速夕薙は話始める。
 九龍の力になりたい、と。
 少しこちらを窺うように言ってくる夕薙に、なんだか九龍は笑いそうになった。
「何だよ、お前らしくないなぁ。もっと自信持てよ」
 断られるかもしれない、という思いがその裏に見える。
 それだけ──自分のしたことが酷いと思っているのか。
 九龍はあまり夕薙に騙された、という思いはない。単に話してなかったことがある、といった認識だし、夕薙が何かを隠していることには気付いていた。
「今までもヒントとかくれてただろ。変わんねぇよ」
 よろしく、と言うと夕薙はようやく笑みを見せた。
 お前らしい、と言ってプリクラを差し出してくる。……そういや、これの交換もしてなかったんだよな。ずっと友達だと思っていたけど──お互いやはり、どこか一歩引いたところがあった。九龍がなかなか夕薙に正体を打ち明けられなかったのも、そのせいか。
「もっと早くに言ってたら良かったなぁ、仕事のこととか……」
 思わずそう呟く。
 だが夕薙はどうだろうな、と僅か否定するような口調で言った。
「最初の頃に言われたなら……今のような気持ちにはならなかったと思う。 君を信じて、君に託してみようと思えたのは──いつ頃だったかな」
「あー、タイミングの問題か。ま、そりゃそうか……」
 友達だと思えるようになったのもいつ頃だったか。
 夕薙が悩み始める辺りがベストか?
 でも全然気付いてなかったもんな、おれ。
「じゃ、悪いけど今日は用があるから、これでな」
「ああ……気を付けていけよ。おれの力が必要になったらいつでも呼んでくれ」
「おお。でも今日は寝てろよ。それじゃ」
 手を振って夕薙の部屋を後にする。
 そのとき、背後から声がかかった。
「九龍? 何やってんだお前」
「あ、甲太郎」
 廊下から歩いてきたのは皆守。私服でタオルなどを持ってる。風呂に行くところか。
「いや、ちょっと大和んとこ」
「それはわかってるが、その格好で寮内をうろつきまわるな」
「あ……」
 九龍はアサルトベストを着込み、武器を身につけた格好だ。
 慌てて辺りを見回し、自室に引き返す。
 皆守が着いてきた。
「しかも随分汚れてるな。まさか遺跡帰りか?」
「いやー、これから行くとこだけど。さっきファントムに会ってな」
「……ファントムに?」
「そうそう。追いかけてて汚れたかな。多分遺跡に居ると思うからこれから行くとこなんだけど」
 一旦武器を外しながら、ドアを半開きにしてこちらを見ている皆守に返事する。
 九龍の部屋は一番奥なので誰かが通りかかる心配はないが、武器扱ってるときは閉めてくれ。
「ファントムねぇ……」
「何かなぁ。封印の鍵とか言うの取られて……取られたのか? 阿門が渡したんだけど」
「ファントムと戦うのか?」
「そうなるかもな。ただ……あれは誰かに乗り移ってる姿っぽいしなぁ。どうやって倒せばいいんだか」
 霊に効き目のあるもの?
 何だろう。
 神鳳にでも聞いてみようか。
「誰と行くんだ?」
「ん?」
 外に出る準備の終わった九龍は、皆守の言葉に首を傾げる。
「まだ決めてねぇ。お前は……無理だろ?」
 二日連続で誘うことは滅多にない。前日が短時間で終わったとか、あとは他のみんなが都合が悪いときとかか。
 皆守が行けない、ということは基本的にない。
「別にいいぜ? どうせさっきまで寝てたしな」
「……あ、そうか? なら頼むわ。じゃもう一人──神鳳に頼むかなぁ。でも神鳳も昨日の今日だしな……」
 霊関係なら神鳳か、とも思ったが。
 むしろ……瑞麗?
 いや、瑞麗もほぼ徹夜で夕薙を見てたんじゃないか。ここは墨木か真里野か……。
 ファントムとの戦闘のことを考えて武道派コンビを思い出す。でもあの2人、手加減出来るのかなぁ。
「おい、何やってんだ」
「いや、だから誰にしようかと」
 手帳をぱらぱらめくって悩む九龍に皆守がため息をつく。
「おれは着替えてくる。行くならさっさと行くぞ」
「あー、わかった。それじゃ」
 ぱたん、とドアが閉められて皆守が帰っていく。隣の部屋だ。大して時間はかからない。
 九龍はHANTを取り出しメールを打ち始める。
 今日は何となく、嫌な予感がする。










「八千穂かよ……」
「いやー、行きたいって言うしさぁ」
「あいつが行きたくないなんて言ったことあったか?」
「ないな。お前と同じで」
 言うと皆守が顔をしかめた。
 駆けて来た八千穂を迎え、3人は遺跡へと降りる。
 八千穂も2日連続になるが、まあ体力もあるしな。ファントムの件だから、まず真里野に、と思ったのだが今日ちょうど好きな人は居るか、などの話をされたのを思い出して止めた。真里野は──七瀬に恋している。
 あのときのこと、ファントムにばらされたらたまったものではない。
 墨木が冷静さを失っても嫌だしな。
 と、いろいろ理由を付けるが結局──一番気を遣わなくていい相手ということだろう。初めての敵には苦戦しやすいし、九龍は出来るなら──他の奴らの前ではかっこつけていたかった。凄い奴、とだけ思われていたい。
 そしてその選択はそれほど間違いでもなかった。
 新しい区画が、開いている。
「な、何でだ……?」
 今まで2日連続で開いていたことなどなかった。
 ファントムが開いた? それが──鍵の力?
 そこを守る役員はどうした? 順番的には夷澤だろ?
「何やってんだ九龍」
「九ちゃん行かないの?」
「行くけどな……」
 新しい場所ならこの2人。いつの間にか決まっていたルール。
 九龍は立ち止まっている2人を追いこして、その場に向かう。
 思い切って扉を開け──咳き込んだ。
「げほっ……な、何だここ」
「何だ? 砂が降ってるぞ?」
「わっ、ホントだ。九ちゃん大丈夫?」
「あー、思い切り吸い込んだ」
 ぺっぺっと砂を吐き出そうとするが、この空間の中では気休めにもならない。仕方ないので水で無理矢理飲み込んだ。少しすっきりする。
「出るまでには確実に砂まみれだな、これは……」
「風呂入る前で良かったじゃんか」
「あー、そうだな。じゃあとっとと終わらせてくれ」
「ごめん、無理」
 寮の入浴時間は決まっている。
 風呂に入れる時間内に終われ、ということだう。
 それは無茶だ。新しい場所の探索では、いつも日付が変わる。
 シャワーなら使えるので、それで我慢してくれ。
 というか九龍は湯船に浸かったことが数えるほどしかない。2年半のバディ生活から考えると、シャワー浴びれるだけでも十分だしなぁ。
「っつうか視界が悪過ぎるなぁ……。2人とも、目大丈夫か?」
 九龍はゴーグルをつけているからいいが、この砂だと目も開きにくい。振り向けば、案の定2人は目を細めて辺りを見回している。
「うーん、見えないほどじゃないよ」
「これは、あの穴から吹き出てんのか? うっとうしいな」
 皆守は九龍の問いには答えやしない。
 気にしない、という回答だということにして九龍は先へ向かった。
 真ん中辺りならあまり砂もないか──って、下り坂! 何か砂がもうもうと……!
「2人とも、ここ口閉じて降りろよー」
 それだけ声かけて、九龍も口を閉じる。
 下り坂は板が適当な感覚で打ち付けてあるだけで、油断すると足を踏み外しそうだ。それでも、下に落ちるほどではないが。
「最初の部屋発見ー。板で囲まれてるとこは大丈夫だな」
 この砂を防ぐために板で囲いがしてあるのだろうか。それにしてはやり方が中途半端だが。
 天井塞げ天井。
 扉の前の小さな空間だけが、そうなっていて、そこで少し息をつく。
「さて、行くぞ」
「おうっ!」
 元気良く返事したのは八千穂。
 九龍は少し笑って扉を開けた。
 だが次の瞬間気が引き締まる。
 敵。それも、見たことない敵だ。
「くっそ、真正面かよ!」
 遮るもののない部屋。厄介だと思ったとき皆守が後ろから言った。
「九龍っ、両端にも居る!」
「えっ、げっ!」
 たまねぎ!
 しかも何か色が違う! 間違いなく強いぞ、これ!
「九ちゃんっ……!」
 九龍は慌てて、銃をそちらに向けた。このたまねぎ、厄介なんだ。以前こいつに眠らされて死にかけたことがある。
 攻撃を食らうわけにはいかない。九龍は新しい敵に背を向けて、ひたすらたまねぎの方を撃つ。
「おいっ、九龍……!」
「ちょっと待ってちょっと待って……! やっちー、後ろの、頼む!」
「う、うんっ!」
 敵が近付いてきているのはわかっている。だが、先にこいつらを何とかしないと……!
「みぎゃあ」
「来んなっ!」
 もう1歩下がって──背後の敵に近付いて──九龍はたまねぎを倒した。
 背後の敵は八千穂のスマッシュでは……倒れてない!
「黄泉へ落ちろ」
「ひゃっ……」
「八千穂!」
 皆守が八千穂の腕を引く。だが体勢が悪い。おまけに下は深い砂。足を取られて八千穂が転んだ。
 敵は更に迫っている。
「こっの!」
 近付いてきた敵に、九龍は思わず蹴りを入れた。勿論ほとんど効いてない。即座に銃を構える。弱点は……ここか!?
「おの…れ…」
 顔面を弾かれた敵が苦悶の声を上げる。
 一発ヒット!
 だが、もう一匹。八千穂が皆守に助け起こされたが、まだスマッシュは間に合わない。
「さ、下がれっ……!」
 敵が剣を手にかけて、九龍は後ろ向きに後退する。だが八千穂と皆守が──
「黄泉へ落ちろ!」
「がっ……!」
「甲太郎っ!」
「み、皆守くん!」
 八千穂を支えて敵に背を向けていた皆守がもろに攻撃を受ける。八千穂は皆守が盾になる形になったが、倒れ掛かった皆守を支えて身動きが取れない。2人のこの距離、爆弾も使えない。
 九龍は焦りつつ前に飛び出すと、左手に銃を持ったまま剣を取り出した。
 荒魂剣。
 炎を纏ったこの剣は、軽い力でも相手を弾き飛ばした。
 それを、思い切り振る。
「ぐああっ……!」
 敵が下がる。だが九龍は前に出た。
 皆守と八千穂を追い越し、至近距離で銃弾を撃ち込む。もう一匹が迫っていたが、まずは一匹!
「馬鹿なぁああ!」
 断末魔の悲鳴を残して消える敵を見届けず、もう1匹にも同じように銃弾。剣を振る間は与えない。
「九ちゃんっ! 向こうからも!」
「っわかってるっ!」
 本当はわかってなかったが、そう叫ぶ。
 奥から同じ敵が、2匹。
 目の前の敵を片づけると急いでリロード。
 だが敵はすぐ目の前。
「やっちー!」
「いっくよー!」
「ありったけ頼む!」
 弾薬をこめている間に八千穂のスマッシュが敵2体をまとめて攻撃する。
「お、終わりっ!」
「まだ倒れねぇのかよっ!」
 九龍は叫んで更に銃撃。
 残りの力は少なかったのか、その先は呆気なく決着がついた。
 恨みの言葉を残して2体が消えていく。
「皆守くんっ、大丈夫!?」
 そしてその言葉にはっと我に返った。
 慌てて戻る。皆守の学ランが破れ、血に染まっているのがわかった。
「甲太郎っ……! だ、大丈夫か!」
「っつ……。大丈夫に見えるか、これが……」
 顔をしかめつつ、それでも皆守は苦笑いをした。
 逆に大丈夫そうだと言いたいが、食いしばった歯と額に滲む汗に、そんな言葉は出て来ない。
 九龍は救急キットを取り出して皆守の学ランを脱がせると急いで応急手当をする。
 脱がせるときに痛みが走ったのか、皆守が呻く。
 砂の降り注ぐこんな場所では消毒もろくに出来ない。
「……悪ぃな、学ラン……」
「そっちかよ」
「とりあえず井戸に戻るぞ。やっちーのスマッシュも使っちゃったしなぁ」
「み、皆守くん。た、立てる?」
「あー……ああ」
 自分で確認するようにそろそろと立ち上がる。痛そうだったが、それには少しほっとして、九龍は皆守に肩を貸した。
 血だらけの学ランを回収するのは忘れていた。


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