地獄の才能─4

 もう部活の時間だからと八千穂は慌てて去って行く。あまり危ないことには突っ込むな、という忠告を残して。
 人のこと言えた義理じゃないと思うけどな、八千穂は。
 まぁ、日中の校内で銃、なんてのが出てきたらな。遺跡内はある意味異世界だが、異世界の化物より日常に潜む敵の方が怖いか。
 皆守と2人で八千穂を見送ったあと、何となく2人で歩き始める。
「生徒会は本当は何なのか、か」
「何か今更だけどな……」
 転入当初から、ここの生徒会は何かおかしいとは思っていた。むしろ学園の生徒がそれに気付いていないことに驚いたぐらいだ。だがこの学園ではこれで普通なのだといつの間にか納得して──取り込まれていた。それが今崩れつつあるのだろう。
 ……おれのせいか?
 事態が動き始めたのは、多分九龍が来てからなのだと思う。
 ファントムは常に生徒会と対峙してきた存在らしいが、今までその姿は見せなかったらしいし。
「ん?」
「なんだ? あ、メールか」
 あまり聞き慣れない着信音。皆守の携帯だった。皆守はそれを見て顔をしかめる。八千穂からか、と言おうとしたが、それより早く皆守は面倒くさそうに九龍に言う。
「悪ぃ、ちょっと用事が出来た」
「え、用事?」
 皆守が?
「ああ。もう下校の鐘が鳴ってる。お前はとっとと帰れよ」
「えっ、ちょっ、お前は?」
 引き返して階段を上っていく皆守に慌てて声をかける。
 何だよ用事って。っていうかお前八千穂とおれ以外からメール来んのか。
「用が済んだらすぐ行く。お前が校舎を出る頃には追いつくさ」
「あ、そうなの……」
 本当にすぐ済む用事らしい。じゃあ、まあいいかと九龍も再び階段を降り始める。別に待っても良かったが、こんなところでじっと立っているのも何だか間抜けだ。それでも皆守が追いつきやすいようにゆっくり歩いていたら、いつの間にか校舎内に人影がなくなっていた。
「下校の時刻はとうに過ぎているぞ転校生──」
「!?」
 突然の声に九龍は足を止める。咄嗟には振り向けなかった。一瞬教師かと思ったが、おそるおそる背後を見れば、明らかに学生服を着た男子生徒が一人。コートを羽織り、異様に威圧的な雰囲気を醸し出している。男は阿門帝等と名乗った。この学園の──生徒会長。
「うわぁ……そういえば見たことなかったな……」
 執行委員は謎の存在だが、生徒会役員は普通に調べればわかるんだよな。っていうか本物か? 何か、裏生徒会とか言ってそれが墓のこと仕切ってるとかそんな話じゃないだろうな。
 やっぱりどうにも、九龍の「生徒会」のイメージと墓守は結びつかないらしい。だが阿門は九龍のそんな考えをあっさり否定した。生徒会長と呼ばれる人物は阿門一人だと。じゃあ、こいつが普通に学園の生徒会長? 卒業式で答辞読んだりすんの?
 あまりにも普通の学生とかけ離れた雰囲気にそんなことまで考えてしまう。
「お前には聞いておかねばならないことがある。教えてもらおうか。あの墓の中で何を見たのかを」
「…………」
 何て直球な。
 墓に関わりがあると、ばらしてしまっていいものだったのか。いや、九龍は既に墓に入り、執行委員の解放まで行っている。それをわかって……来ているのだ。
「……お前は知ってんだろ」
 まさか知らないものを守ってるなんて言わないよな?
 執行委員にだけ墓守を押し付けて知らんぷりとか。
 ……ああ、権力者にはそういうことはある。
 阿門は少し笑うと、まあいいだろうと勝手に納得したように頷いた。
「だが、これ以上墓に足を踏み入れるつもりならば、生徒会はお前を不穏分子と見なし、相対せねばならない」
「今更かよ? 既に十分敵対してんだろ」
 ここで終わりにしとけばこれ以上手は出さないって?
 どうせそっちに出されなくてもこっちは行く……って、あれ、ひょっとして退学にするとかそういう方向だったり?
 反射的に攻撃的な口調で返した九龍はそれに気付いてちょっと焦る。
「そうか、それがお前の選択か」
 だが阿門は怒った様子も面白がる様子も見せず淡々と無表情に言い、去って行った。これ以上墓に入るようなことがあれば、身の安全は保障できないと言う脅しのような言葉だけ残して。
「……怖ぇなぁ、あいつも」
 あれを捕まえて墓を開くように脅す、とか無理そうだ。せめて執行委員たちを呪いから解放しろと……そんなことすら言えなかった。九龍は頭を振って外へ向かって歩き出す。あれも倒すべき敵。戦う前から風格に負けてちゃ話にならない。今度不意打ちで襲ってみようか。
「遅いっ! 下校の鐘はとっくに鳴り響いたゾ!」
「うおっ!?」
 不意打ちは向こうから来た。
 明らかに執行委員であろう男からの銃撃。
 どこだ? どこから撃った?
 慌てて、とにかく校舎の影に、と走る。だがその瞬間、銃弾が九龍の体をかする。
「痛って……」
 痛みに一瞬よろけたが、それでも何とか走り続ける。辺りを見回すが、やはり執行委員の姿は見えない。
「葉佩っ!」
「皆守!? ちょっ、待て、来るな!」
 こちらに向かって駆けて来る皆守に慌てる。執行委員も皆守に気付いたようだ。
 くそっ、結局お前も違反内の時間じゃないかよ、阿門に会ってなかったらおれとっくに帰ってたぞ……!
 そもそも生徒会長に呼び止められたのが校舎を出るのが遅れた理由なので理不尽な思いも感じる。っていうかこれが狙いか? そういえば生徒会は、暴走執行委員のことをどう思っているのだ。まさかファントムに唆されていること、気付いてないのか?
 ああ、それも聞けば良かった!
 思いながらも九龍は皆守と共に走る。
 全力で走っているおかげで相手の狙いが定まらないのか、それから銃弾を受けていない。だが、途切れない。
「くそっ。あの銃、一体何発弾が入ってやがるんだ」
「確実に30は越えたなぁ……」
 息を切らしながら九龍も答える。立て続けに聞こえた銃声から言って二丁は持っているだろうか。
「つうか……もう限界……」
 立ち止まってしまった九龍だったが、同時に銃声も止む。もう逃げないのか、などと聞かれても答えられるはずがない。ああもう、ホントにどこから撃ってんだよ……!
 弾切れを狙おうとしても無駄だ、などと叫ぶ男の声を聞きながら、九龍は顔を上げて真っ直ぐに立つ。こうなったらちゃんと立ち止まって銃弾の方向を見極めよう。この状態だと相手も狙いを付け放題になるが、さすがに殺そうとはしないだろう……。
 ……いや、やっぱ怖い。
 敵の姿が見えないのは思った以上のストレスだ。
 皆守もそうだったのか、正義の鉄槌などと言い出した男に挑発的な発言をする。
 だよな。喧嘩ならともかく、処罰なんて影からこそこそやるもんじゃねぇよ。
 皆守の言葉尻に乗っかって九龍も言うと、男はようやく姿を見せた。
「な、何だあれ?」
「……見たことはあるな。確かD組の……」
「墨木砲介でアル!」
「あんのかよ! ってかお前も名乗っちゃうのかよ……!」
 男はガスマスクで顔を完全に覆っていた。
 しっかり名乗ったことから考えて別に顔を隠すためのものではないらしい。
 というか、皆守の言葉からすると、普段からあれか?
「生徒会執行委員として、校則に反した貴様等に処罰を与えルっ。処分を下す前に、名を聞いておこう」
「……C組の葉佩九龍。こっちは皆守甲太郎。一蓮托生でよろしく」
「おい」
「とっとと逃げないお前が悪い」
「……一人だけ逃げられるか」
「……よし、ここはおれに任せてお前は逃げろ!」
「いきなり何言いやがる」
「お前だけ何かかっこいいこと言うからだ……!」
「それはせめておれの名前を告げる前に言え」
「あれ、もう遅い?」
 墨木と名乗った男の方に目をやってみる。表情は見えないが銃が僅かに引かれ、戸惑っているように見えた。
「その声は、昼間の──」
 てっきり皆守とのやり取りに呆れられたのかと思ったが、墨木はそんなことを言い出す。
 昼間?
 一瞬考えて、すぐにわかった。
 ……視線が怖いと話した、あの男。
 あれが執行委員だって……?
 九龍の視線に動揺するかのように墨木は一歩引いたが、すぐに思い直したのか、頭を振って声を張り上げる。
「ただの違反者ではなく、相手が転校生とあらば話は別ダ。貴様は神聖なる墓を侵した大罪人でアルっ」
 確かに間違いはないが。
 話が別、ってことは普通の処罰じゃ済まされないってことか?
「……皆守。これはマジで逃げた方がいいかも」
「今更言うか」
 皆守は余裕でアロマなんか吹かしている。いつの間に火を付けたんだよ、お前!?
 皆守の視線は墨木の方に向かっていた。
 ゆっくり息を吐き出しながら、皆守は言う。
「お前が近頃評判の暴走執行委員か……。お前は本当に、自分のしていることが正しいと思ってるのか?」
 淡々とした、それでいて逃げを許さない厳しい口調。墨木はそんな皆守から顔を逸らす。言い聞かせるように、自分は正義だ、法の執行者だと叫ぶ姿からは逆に揺らぎが感じられる。
 これは……呪いのせいなのか、ファントムのせいなのか。
 九龍の視線に更に墨木は動揺したようだ。
 狙いの定まっていない揺れる銃口が九龍に向かう。
「ちょっ……」
「葉佩っ……!」
「そんな目で! そんな目で! 見るなぁああああっ!」
 固まってしまった九龍はその場から動けない。だが、銃弾は発射されなかった。
 何故避けないって?
 避けられるか銃弾なんて! 皆守じゃあるまいし……!
 その皆守は九龍の直ぐ側に居た。お前はお前で何で寄ってきてるんだよ、逃げられても怒るけどな……!
 頭を抱えてしまっている墨木に、九龍は何と言っていいものか迷う。
「墨木──」
 一歩前に出た。
 だが、それは引き金になってしまった。
「来るなっ……!」
「……っ!」
 再び向けられた銃口。そして今度は真っ直ぐに九龍に向かって──発射された。
「斬っ──!」
「!?」
 思わず目を瞑った九龍だったが、衝撃は来なかった。
 代わりに自分の目の前に、真里野が立っている。
 え?
 一瞬呆けてしまった九龍は状況が理解出来ない。
 墨木の言葉からいって……銃弾を、斬った?
 何だそれ。
「またつまらぬ物を斬ってしまった……。だがこれも友の身を守らんがため。葉佩、無事か?」
「……はい」
 思わずそんな返事をした。
 凄ぇ。
 真里野凄ぇよ。
「貴様っ……裏切りものメ……!」
 墨木の視線は真里野へと向いた。
 そうだ、解放された執行委員は皆九龍側についている。現在の生徒会からすれば彼らは裏切り者……。
 思わず九龍も真里野を見たが、真里野は真っ直ぐに墨木を見つめて、動揺することもなく墨木への忠告だけを返す。
 これだけ揺らいでる男に、寝返った男の言葉はどう聞こえるのだろう。
 まだ銃を下ろしていない墨木に、九龍も迂闊なことは言えない。
 緊張状態を破ったのは、遠くからの元気な女生徒の声だった。
「……八千穂?」
 警備員を連れてきたらしい八千穂の声。墨木がはっとしたように顔を上げる。
「葉佩……次に会うことがあれば、そのときは容赦なく撃つ」
 そう捨て台詞を残して墨木は去って行ってしまった。
「今だって撃ってただろ……」
「皆守、それは言わない方が」
 こんな状況でもそんな突っ込みか。
 まあ九龍もちょっと思ったが。
「警備員か……。お主ら2人なら何事もなく切り抜けよう」
「そうだな。腰に刀ぶら下げた奴がいるよりは丸く収まるだろ」
 皆守の言葉に真里野は少し笑って去っていく。
「……なぁ。執行委員が警備員から逃げるっておかしくね?」
「そうか? 刀や銃持ってるのはさすがに説明が面倒だろ」
「執行委員です、じゃ通じねぇのか警備員には……」
「2人とも大丈夫ー?」
 そこへようやく八千穂が姿を現した。警備員の姿は──ない。
「あれ、警備員は?」
「嘘かよ……」
「だ、だって、連れてくる時間なかったんだもん! ランニング中に銃声がしたと思ったら2人が襲われてて! びっくりしたよも〜」
 まあ結果オーライか。意外に機転が効くんだな、八千穂。
「って九龍くん! 血、出てるじゃない!」
「あ……」
「これぐらい舐めときゃ治るんじゃないか?」
「おれが言うならともかくお前が言うな……!」
 確かに大した傷じゃないけど。
 遺跡内で負った怪我じゃないから、井戸じゃ治らないんだぞ……!
 当然のように八千穂は皆守の言葉に怒り、九龍の手当てをしてくれる。相変わらず手当ての手際はいいんだよなぁ、八千穂。
 何で包帯なんか持ち歩いてるのか知らないが、九龍は大人しくその治療を受けていた。
「ねえ……あの子、放って置いて大丈夫かな」
「墨木のこと?」
「どういう意味だ」
「ん……なんか苦しんでるみたいに見えたから……」
 八千穂が九龍の手当てをしながら、墨木が去って行った方角に目をやる。
 放って……おけるわけがない。
「今日遺跡に行くよ。多分居るだろ。皆守、八千穂、頼むぞ?」
「……うんっ」
「……やれやれ。今日もまた寝不足になるのか……」
「あー、お前昨日もだったな。まあどうせ授業中寝てるんだから関係ないだろ。八千穂は部活いつ終わる?」
「今日はいつも通り……ってあああっ、そういえばランニングの途中だったんだ……!」
 突然大声を上げた八千穂は、慌てたように駆け出して行く。
「ごめんっ、皆守くん、あとお願い!」
「おいっ!」
「鬼の副部長にしばかれる〜!」
 巻きかけの包帯を放り出し、八千穂はあっという間に去ってしまった。
「……ええと」
「ったく、どうすりゃいいんだ、これ?」
「痛ぇっ! おま、もっと優しく巻け……!」
 一応渡された包帯を掴んでいた皆守がそのままそれを引っ張る。テープも何もないので縛るしかないのだが、皆守の手つきは非常に乱暴だった。
「絆創膏じゃ駄目なのか、これ」
「さすがにそれは……」
 結構傷口が広い。ガーゼじゃないと覆いきれないだろう。
 帰ったら夕薙にでもやり直してもらおうかと思いつつ、とりあえず大人しく皆守が包帯を縛るのを見つめる。夕薙も結構器用なんだよな、こういうの。
 思っていると、頭上から聞き覚えのある声がした。
「やはり生き残ったか転校生よ──」
「ファントムっ……!」
 白い仮面、黒いマント。
 今日はあのときより随分明るいからその姿がはっきりわかる。よく見れば頭の辺りにも何やら黒い布を巻いていた。髪形すらわからない。
「あれがファントム……?」
 皆守も同時にファントムを見上げ、そう呟く。
「葉佩九龍、我が求めていたのは、お前のような純然たる強さと欲の持ち主だ。力を持つ者とはいえ、所詮スミキも生徒会に属する者。あのヒゴといいマリヤといい、魂なき者は、肝心なところで役に立たぬ」
「お前……! 何のためにあいつらをあんな……!」
 何だか無性に腹が立った。
 生徒会は九龍の敵だけど。
 やっぱりおれは、こいつの方が嫌いだ。影でこそこそと。戦うなら自分でやれよ……!
 大体おれを倒したいのか、生徒会を倒したいのか、どっちなんだよ……!
「こいつをけしかけて共倒れでも狙っているのか?」
 ……ああ、それか?
 皆守の言葉にはっと気付く。
 だがファントムはそれを否定した──ように思えた。
 生徒会を倒すことこそ、ファントムの目的?
 執行委員の暴走は……ファントムがかけた揺さぶりのせいか。
 先ほどの墨木の様子を思い出し、益々ファントムに対する怒りがわく。
 何でこんな奴を、生徒たちはあがめてんだよ……!
 何も知らないからだ、などと言う冷静な思いが吹き飛ばされる。ファントムはそんな九龍の怒りを気にも留めず、九龍に何かを投げてよこした。
 ……校舎の鍵?
「我は鍵を探さねばならない。忌々しい墓守どもの相手はお前に任せるとしよう」
 鍵?
 九龍が疑問を挟む余地もなく、ファントムはそのまま消えるように去って行った。
「……くそっ、何かむかつくな」
 執行委員を倒していけば、ファントムの思い通りというわけか。
 それでも九龍は、止まるわけにはいかない。
「あれがファントムか……あの仮面はどこかで見たような気がするが……」
「え、そうなのか?」
「まあ、考えてても仕方ないか。帰ろうぜ葉佩」
「ああ……」
 校舎の鍵はポケットに入れて。
 九龍は皆守と並んで歩き出す。
 何となく、お互い無言のままだった。皆守には、九龍の苛々が伝わってしまっているのかもしれない。寮が近付き、皆守がぽつりと言う。
「なぁ、葉佩。お前は……死を恐れたことはないのか?」
「何だよいきなり……」
 思わず足を止める。
 少し前の九龍なら即答していただろう。
 ない、と。
 考えると怖いから考えない、などと笑って言っていた。
 だけど九龍はもう知っている。
 死が目前に迫る恐怖。
「まぁ……あるけどなぁ。考えないようにはしてる」
 考え始めたら九龍は一歩も動けなくなる。
 そしてこういう話題をするときは……皆守たちを巻き込んでいることをつい意識してしまう。嫌なら嫌って言え、怖いなら付いてこなくていい……そんなこと言えやしない。
「なるほどな……。そうして今日もあの遺跡に行く、と」
「考えたら行けないだろー、あそこは」
 出来れば気楽な話にしたかったが、皆守は笑わなかった。
 この学園の全ての答えはあの遺跡にあるんだろう、と呟くように言って寮へと入っていく。……何なんだよ。
 九龍も続こうとしたとき、背後から鈴の音が聞こえた。
「ん……?」
 振り返ると、そこには二人の少女の姿。
「な……」
 妙に幻想的な雰囲気を醸し出す2人は、声を重ねながら行っては駄目だ、学園の平穏を乱さないで、と懇願するように言う。
 これ以上──墓を荒らさないで、と。
「…………」
「どうかもう、これ以上扉を開かないで。これ以上誰の血も流さずにすむように──」
「…………」
 少女たちはそれだけ言うと、すうっと消えていく。
 ……ゆ、幽霊?
「おい、葉佩っ」
 固まっていた九龍を我に返したのは皆守だった。不思議そうな目でこちらを見ている。
「どうした?」
「いや、今……」
「何だ?」
「……幽霊、見たかも」
「はぁ?」
 私たちはこの場所を守らなければならない、と。彼女たちは言った。
 ……おれが、平穏を乱していると。
「……何かな、あの墓にはホント……色んな奴の思惑があってわけわかんねぇよ……」
 誰が正しいのか何が正しいのか。
 ……知ったこっちゃない。
 これも、考えていては進めなくなりそうだった。


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