明日への追跡─5

 次の部屋には敵が居た。
 サソリは銃の方が楽だが……弱点が小さい。今狙えるとは思えない。
 その後ろには何かでかいのがいるし。あれもナイフ効きそうにねぇなぁ。
「……2人ともちょっと下がってろよ」
 仕方ない。勿体無いがこれでいこう。
 九龍は爆弾を取り出すとでかい敵の方に向かって投げつける。ついでにサソリも吹き飛んじまえ。
「おいっ、床に穴開いたぞ?」
「……気にするなっ!」
 びびったが、それどころではない。あれだけ簡単に崩れたなら、元々崩れるところだったんだ。多分。
 迫ってきた女型の化人たちの方は斬り付ける。うお、凄ぇスタイル! とかいつもなら思ってるけどな! 正直今はよくわかんねぇ!
 ナイフはよく効いた。って柱の影にもう1匹でかいのが!
「爆弾……」
 3つしか持ってきていない。九龍は膝を付いて銃を構えた。これだけでかい敵なら少々照準外しても大丈夫だ。この体勢なら大丈夫! そして見事に弱点にもヒットした。敵は悲鳴を上げて消えて行く。
「何だ、もう終わっちまったのか?」
 皆守はその後ろでアロマを吹かしながらそんなことを言った。お前な! 敵は素早く倒さなきゃまずいだろうが!
 それでもすっかり元の調子を取り戻した九龍は、立ち上がり落ち着いて弾薬を込め直す。
「葉佩くん、ここ壷があるよ?」
「おっけー。勝手に触んなよー」
 中身は秘宝だった。こんなところに無造作に置くか普通。
 その隣の扉は開かない。その隣は……あ、開く。
「おい、石碑もあるぞ?」
「ん? うーん……」
「読めねぇのか……」
「そ、そんなこと言ってないだろ!」
 ちらりとしか見なかった九龍は仕方なく石碑の前に行く。そうだ、次の部屋のヒントだったりするんだからちゃんと読んで……うん、読めない。
「……葉佩」
「開けるぜー」
 秘宝をベストに仕舞いつつ、とにかく開く扉を開く。中からむわっと潮の匂いがした。
「何だ? 変な匂いが……」
「潮の香りだよ。海水か、これ?」
 部屋は水で満たされていた。近付いてHANTで確認する。問題は、なさそうか?
 掬い上げてみる。……舐めていいかなぁ。
「おいっ」
 ぺろり、と手を舐めた九龍に皆守が突っ込んできた。
 大丈夫、毒ならHANTが反応してくれる。……多分。
「海水だよ、やっぱ。辛ぇ」
「単なる塩水じゃないのか」
「この量の? そっちのが凄いな。あ、ほら、この壷海草入ってた。海か……海を模したもの、かな……」
 九龍は元々海沿いで育ったので潮の匂いは懐かしい。しばらく浸っているところを八千穂に現実に戻される。はいはい、そっちにも石碑ね。
「読めるのか?」
「あーこっちは読める」
「ってことはあっちは読めないんだな」
「う……」
 あっさりばれた。くそ。
 そこに書かれていたのはまた神話の話。まだ伊邪那美が続いてるのか。火の神生んだ話の他は黄泉の国への迎えぐらいしか知らないからなぁ。ちょっと勉強しとこ う。
「じゃ、とりあえず戻るか」
 先ほどの部屋に戻り中を調べて行く。ついでに崩れた床も見た。ハシゴがかかってるってことはやっぱり元々開くとこだったんだな。そこから矢を回収しつつ、九龍は中央の柱の前に立つ。
「わかったのか?」
「多分、この秘宝をどこかに埋めこむんだな」
 見回してみると、四面に似たような石版がある。それぞれ模様が違った。
「ねえ葉佩くん、この穴何?」
「ちょっ! 覗き込むな! それ危ないから!」
「え? え?」
 壁にある穴を見ていた八千穂が慌てて離れる。そして九龍は皆守と八千穂に言った。
「……あのな。ここ、多分間違えると罠が作動する。ああいう穴は……何かが飛び出てくるんだ」
「何かって?」
「矢とか炎とか……。とりあえず2人とも通路の方に下がっててくれるか」
 多分そこまでは攻撃は届かない。
「毒ガスとかはないのか?」
「……あ、あるかもしんねぇけど」
「だったらどこに逃げても無駄じゃないか?」
「……まあなぁ」
 それでもまあ、この部屋に居るよりマシなはずだ。部屋の全てを狙えるようになっている。っていうか通路の正面にもあるんだよな、その穴……。
「あ、こっちの部屋に居ればいいんじゃないか」
 そうだ。開いてる扉がある。だがそれには八千穂が反対した。
「でもっ、それじゃ葉佩くんに何かあったときわかんないよっ」
 そりゃおれだってこんなとこで一人死にたくないけど。
 よく考えたらさっきも殺しかけてるんだよな、2人のこと。自分ばっか怖がってる場合じゃない。
「いいからとっととやれよ。矢が出たら弾き返せ」
「無茶言うな! ああ、もうわかったっ、お前ら伏せてろよ!」
 噴射口の位置は結構高い。むしろあれの真下に伏せてるのが一番いいかもしれない。
 九龍は秘宝を取り出すと、目の前の石版にそれを埋めこむ。
 ……罠の作動。
「ここじゃねぇっ!」
 幸い秘宝は直ぐに取り外せた。慌てて次の面に行く。皆守たちも付いてきた。いや、伏せてろ──
「あー眠ぃ」
 どかっ、と皆守が後ろから背中を押す。頭上を横切る何かの感覚。……うわぁ。
 ぞくっとした。っていうかもういい加減普通にやってくれよ!
 秘宝をはめる。だが、これでも止まらない。次の面……ってこっちも駄目だ。
「がっ……」
 その瞬間、何かに弾き飛ばされた。八千穂と皆守の声がする。罠に真正面からぶつかってしまったらしい。体が痛い。
 それでも何とか起き上がり、秘宝を最後の面に入れる。
 ようやく、開錠音と共に罠の作動が止まった。
「葉佩っ、大丈夫か!」
「葉佩くんっ!」
 覗き見て気付いた。皆守は八千穂の方を守っていて九龍に手が回らなかったのだろう。うん、まあ仕方ない。
「……何とかな」
「……井戸に戻るか?」
「いや……それほどじゃねぇよ」
 手を握ったり閉じたり。腕を回してみたり。
 大丈夫そうだ。
「でも最後の面で成功かー。葉佩くん、結構運悪いんだね」
「おかしいなぁ、勘はいいはずなんだけど」
 全部試せばいいや、の気持ちが悪かったのだろうか。どうにも自分は楽観的に考え過ぎる。
「こっち、開いてるぜ」
「おお。行くか」
 次の部屋にはサソリと女性2体。……うん、やっぱ落ち着いて見ても化人じゃ色気感じないな。人形に興奮しないのと一緒だな。……いや、世の中にはそんな奴もいるけど。
「私の血……私の血がぁあああ!」
 女は先ほどと同じく絶叫しながら消えていく。
「あー悲鳴が耳に残る」
「女の叫びは嫌だな……」
 皆守もぼそっと九龍に同意する。
 ハシゴを上った部屋には柱がやたらに立っていた。そして、その間に像。
 すどりんメモも発見。
「……九龍、読んどけよ」
「……えー。八千穂ちゃん読んでくれる?」
「うんっ、いいよ」
 ちらりと覗き込んで九龍は目を逸らした。何だ、あのキスマーク。
「ええとね、何か暗いし臭いし、これだから遺跡に入るのは嫌なのよ」
 八千穂が声に出して読み上げる。いや、聞かせなくてもいい! と言おうとしたけど、「遺跡」の言葉に止まる。……やっぱり、何度も来てんだな、ここ。
 と、そちらに思考がいった九龍は、そのまま最後まで八千穂が読み上げるのを聞いてめまいを起こした。
「凄いね、届けあたしの二酸化炭素、だって」
「もう1回言わなくていいっ!」
 濃い。濃過ぎるぞ朱堂。
 メモは結局また八千穂に持ってもらい、部屋の中の探索に移る。台座に座った像がいっぱい。首のない奴もあるな。何か意味あんのか? 目が光ってる奴は間違いなくあるよな。
 お、宝箱発見。石碑もあるな。こっちもまた伝説の話。
「そしてこれは動かない、と……」
 蛇の形のレバー。ぐるぐる回すタイプ……なのだが……。
「何だ、それも壊れてんのか?」
「ここじゃ直せそうにねぇなぁ……。一旦引き返すか」
「えー。ここまで来たのに?」
「八千穂ちゃんたちは待ってていいよ。ここ、敵居ないみたいだしな」
 九龍だってはてしなく面倒くさいが仕方がない。八千穂は一刻も早く覗き犯のところへ辿り着きたいのだろうが。悪いな、多分今日も日付変わる。










 実は体の痛みもまだあったから、まあ井戸への寄り道はちょうど良かった。
 無事レバーを直してギミックを解除し、次の部屋へと向かう。
 暗い。
 そして、敵が居る。
 九龍は暗視ゴーグルのスイッチを入れた。部屋全体は……そんなに広くない。一気に片づけてやる!
 皆守たちを置いてまずは右へ。女型の化人を1匹。すぐさま引き返して反対側に向かうが、皆守に襟首捕まれた。
「おいっ、あっちまだ残ってるぞ?」
「げっ、マジで?」
 慌ててもう1度引き返す。ホントだ。もう1匹居た!
 そちらは倒したが、代わりに反対側の敵が迫ってる。あああもうっ!
「いっくよー!」
 そこで八千穂の声が聞こえた。スマッシュを使ってくれている。ありがたい。九龍も直ぐに前に出て一匹ずつ倒していく。一本道なら敵の攻撃も一体ずつだ。何とかなる。全てを倒したときには、ゴーグルのバッテリーは切れていた。
「ああ、くそっ、見えねぇな」
「ホントに暗いねー」
「これがギミックか? どっかに石碑あったっけ」
 最初のところまで戻ると、女型の化人が居た辺りにあった。読めなかった。
「葉佩。さっきと同じ穴があるぜ」
「うええ……」
 ここも間違えたら罠、だ。
「八千穂ちゃん一番奥に。皆守は……罠発動しないか見ててくれ」
「はぁ?」
 ギミックのところまで戻る。
 多分レバーを動かせばいい。重要なのは……その順番。
 今度こそ全部試そう、とは考えない。そんなことやってる間に死ぬ。
 ……右から順番とか、左から順番ってのはなさそうだよな。
 全部試す奴がやる最初の1回で当たりそうだし。
「おい、本気か?」
「うるせぇ、今考えてる」
 結局は勘に頼るしかないのだが。
 そして……皆守の回避能力に。って、こんな暗いとこでは無理か?
「……罠発動したら伏せろよ」
 さっきのは冗談だとばかりに九龍は言って、一番右のレバーを動かした。
「おいっ……」
 まだ。罠は作動しない。
 だが、これが一番目で正解という保障はない。もしそうなら答えを見つけるのが簡単になってしまう。……いや、それでもいいんだけどな。
 九龍は真ん中を飛ばして、一番左のレバーを動かす。……これでも、まだ何も起こらない。
 皆守と八千穂の視線を感じつつ、九龍は最後のレバーに手をかけた。
「あっ」
「……開いたな」
 かちっ、と開錠音。
「一発ビンゴ!」
「凄いよ葉佩くん!」
「だから、おれ、勘はいいんだって!」
「石碑読めない分な」
「その通り!」
 開き直って叫ぶ。
 睨まれた。
 ……うん、勉強しよう、ホントに。
 九龍は次の部屋への扉を開けた。
「うおっ」
「どうした?」
「葉佩くん? ……あっ。眩しい」
「くそ、敵居るぞ」
 暗闇からいきなり明るい部屋に入って目が慣れない。瞬きしながら九龍は銃を構えて飛び出した。うわぁ、またあのでかぶつ! しかもさっきまたリロード忘れました、おれ!
 ばんばん撃っていくが、弾切れ。九龍は慌てて通路の影に身を隠す。
「まだ居るのか?」
「居るな。ちょっと待ってろよ〜」
 敵がこちらに向かっている間に弾を込め直す。幸いここへの道は狭い。一体ずつが限界だろ!
 もう1度顔を出してまたひたすら撃つ。女型の化人も近付いてきているのがわかった。
「あれで最後かな」
 部屋の中を見渡す。とりあえずでかぶつはもう居ない。飛び出してナイフで2匹を斬り付ければ、HANTが戦闘の終わりを告げた。
「葉佩くん、この扉……」
「うん、ようやく最後まで来たな」
 派手な金色の両開き扉。
 当然錠が付いている。しかも何だ? 何かばちばちいってるし。
 まあ、とりあえずは、またこの部屋の探索だ。


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