見捨てられた島への上陸3

「うっひょおおおおお〜! すげええええ!」
「おおおおおお……おいおいおいマジかよ…!」
 目の前に広がる金銀財宝。目利きなど出来なくてもわかる。これが相当なお宝だということが。
「ゆ、夢じゃねぇよなルフィ!?」
 ウソップは思わずルフィの肩を抱いてその頬を引っ張る。ゴムの肌がびよーんと伸びた。
「あれ、痛くねぇ」
「いや、ゴムだからだろっ!」
 自分でやっておきながら、つい突っ込んでしまう。とにかく、まあ、夢じゃない、はずだ。
 ウソップはどきどきする心臓を一度抑えると、深呼吸して目を閉じる。
 開いた先には金銀財宝。
「うおおおおおおお! すげええええ!」
 改めて驚きの声をあげて再びルフィと肩を抱き合った。
 ここは森の奥に進んだ採掘現場跡地。
 ルフィがどんどん山へ進んでいくのには不安も覚えたが、ある程度整備された道で猛獣も居ないと聞いていたおかげか、ちょっとした冒険気分のままで辿りついた場所。そこへ、まさかのお宝だ。
「これはナミも喜ぶぜー。あれ、宝石もあるな」
 ここで掘られたという宝石だろうか。そもそも何でこんなところにこんなものが?
 肉はねぇのかな、と宝を漁っているルフィの隣でウソップは少し考える。
 山に掘られた穴の中。洞窟のようになったその場所は、月の光も届かない。今、お宝は壁にいくつか残されていたランプに照らされている。火を入れたのはウソップだが、廃墟の島のものの割には…最近まで使われていた形跡がなかったか?
 正直じっくり見る間もなく次々火を入れたので覚えてはいない。不安が、そんな風に思わせるだけかもしれない。
 無人島で見付けたお宝──そう、そこだけを喜べばいいはずなのに。
「ウソップ! 風呂敷出してくれ風呂敷!」
「あ、おお、ちょっと待ってろ…って、あれ、こっちにも何かあるな」
 カバンから風呂敷を取り出しつつ、少し奥まった小さな穴に向かう。ランプの光があまり届いてない。そこに転がっていた携帯ランプに火を入れて中をかざしてみる。
「……んんん?」
 酒瓶や、樽。そして──食料品。
 ウソップのあとをついてきたルフィが、背中に飛び乗るようにして中を一緒に覗き込む。この入口は人一人通るのが精いっぱいで、今はウソップが入口を塞いでいた。
「食糧庫か! 肉あるか肉!」
「いや、あったとしても…」
 腐ってる。腐ってなきゃおかしい。いや、でもどう見ても…。
「……誰か住んでるよな、ここ」
 ウソップの呟きにルフィは反応せず、そのまま腕を長く伸ばして奥の棚にあった包みを取る。
「あ、ビスケットだ」
 肉じゃねぇのかーといいながらぽりぽり食べ始めるルフィ。
 缶詰に入っていたわけでもないのに、妙に新鮮な音がする。
「でも美味ぇぞ」
 あっという間に食い尽くしてルフィは次の食糧に手を伸ばした。
 新鮮な…とても新鮮なフルーツ。
 ああ。
 ああ、決定的だ。
「ん? どうしたウソップ」
「ここ、誰か居る…!」
 ウソップの叫びに、ルフィがちょっと真面目な顔になった。
 だがすぐ、「誰もいねぇぞ?」と首を傾げる。
 見聞色という奴だろうか。辺りを探ったような様子が見て取れた。
 確かに、今察知出来る範囲内には居ないのだろう。
 だが。
「今居なくても! すぐに帰ってくるぞ!」
 新世界で、こんなお宝をため込んでいる奴だ。どんな化け物かしれたものではない。
「何! じゃあ急がねぇと!」
 ルフィは慌てたようにウソップから風呂敷を奪い取ると、ウソップを超えて食糧庫に入っていった。
「いや、そっちじゃねぇだろ!」
 早速食糧を詰め込み始めるルフィに、ウソップはつい突っ込んでいた。










 港近くになると、建物は少しまばらになりはじめていた。採掘作業が行われる山に近い方面に人が密集していたのだろう。広場のように開けた場所も多く、昔は何かを置くのに使っていたのかもしれない。そして肝心の船着場付近の建物は。
「何これ…」
「ひどいわね…」
 廃墟、とは明らかに違う。燃えた残骸。ロビンが先に進み、燃えカスのようなものを手にする。
「燃やされたのはおそらく最近。──と言っても数年は前でしょうけど。廃墟になった当時は多分残っていたわ」
 その後、燃えた。人の居なくなった島に何があったのか。雷など、自然のものが火事を引き起こすこともある。だが、こうもピンポイントに港の建物だけが燃えるものか。近くの民家らしき家は、多少焦げ目はあるものの、燃えた様子がない。隣はこれでもかというほど徹底的に燃え尽きているのに。
 ロビンは「燃やされた」と言った。そういうこと、なのだろう。
 おそらく海流の手がかりとなるようなものが、全て。
「参ったわね…」
 民家も多いし、探せば資料は見付けられるかもしれないが、当てがなさすぎて途方に暮れる。全ての家を見て回っていたら一晩どころか一週間あっても足りない。
「何だってこんなことを…」
 奇跡的に吹き飛んでいない、本の残骸のようなものを手に取る。ぱらぱらとそれはすぐに崩れ落ちた。手に黒い汚れが残る。本を、つかむことすら出来ない。
「見捨てられた島に人が居ること自体は驚くことじゃないわね。残った住民、難破した船の乗員、それから──」
 ロビンが港から少し外れた浜の方へと目を向けた。つられるようにそちらを見て思わず目を見張る。
「!?」
 明かりが、見える。明らかに、人為的な明かりが。よく聞けば人の声のようなものも耳に届いてきていた。
「誰も来ない場所を根城にしたい海賊…なんてものもいるかしらね」
「ああ……」
 ロビンのあとをついて浜に向かえば、近づく度に大きくなる下品な笑い声。覚えのある雰囲気に、経験が判断をくだしてくれる。あれは確かに海賊だ。
「あいつらが燃やしたの?」
「海流のことを知る人間は自分たちだけでいい──ってとこかしら」
「じゃあ、まあ、あいつらは知ってるってことよね」
 姿が見えてきた。数は思ったよりは少ない。それでも10人程は居るか。浜に座り込み、火を焚いて宴をしているようだった。海賊というのはどいつもこいつも、こんなものだ。
 全く足を止めることなく浜に降りて行くロビンに、ナミも続く。念のため、武器だけは手にしておいた。
「ねえ…ちょっと聞きたいことがあるのだけど」
 ぴたり、と海賊たちの声が止まる。
 人の居ないはずの島に突如現れる美女2人。
 さて、どんな反応をするか。
 ナミがじっくり男たちを観察していると、しばらく呆然としていた男たちは合図でもあったかのように一斉に立ち上がった。
「女だ!」
「女が居るぞー!」
「え、ちょっ…」
 交渉の暇すらない。男どもが同時に鼻息荒く2人に向かって飛びかかってきた。さすがに少し後退さるナミに対し、ロビンは落ち着いて構えると、それらをまとめて押さえつけた。
「クラッチ」
「ぎゃあ!」
「ぐわあ!」
 そして数人がそのまま沈没する。
 残るは3人。ロビンが咲かせた手に体を押さえつけられ、身動きの取れないまま青ざめて辺りを見回している。「あまり残すと邪魔かと思って」ロビンはナミを見て笑う。3人残した理由ではなく、残りを潰した理由を説明されてナミも少し笑った。
「まーそうね。さて、じゃあちょっと話を聞かせてもらいましょうか」
 残った中で一番偉そうな奴に目をつけてみる。
「くっ…おいニール! ウィルとカールたちはどこだ!」
「あ、あいつらならさっき酔い覚ましに泳いでくるって…」
「ああ!? またか!? しかもこの海流の中をか!」
「まあでも、魚人の血引いてる奴らですし、溺れることはないんじゃ…」
「あほか! 前もそれで海流に流されて迷子になってただろうが!」
「お、おれに言われても…!」
 何やら関係のない会話が始まってしまっている。だが相手の戦力を知るためには重要な話だったので黙って言わせておいた。ここに居るので全員ではないのか。少し場を離れた方がいいだろうか。
 そう思ったのと同時、突然銃声が響いた。
「うっ……」
「ロビン!?」
 ロビンが、撃たれた!? ぐらり、とロビンの体が揺れる。一瞬男たちの拘束が解除されるが、倒れかけたロビンは踏みとどまり、能力を再度発動させた。
 駆け寄ったナミは、すぐさま海へと目を向ける。
「何あいつ…!」
 海の中から、こちらに銃を向けている男が居る。腰まで海に浸かっているが、あそこは浅瀬なのか立ち泳ぎでもしているのか。先ほど話に出てきたウィルかカールか。魚人の血を引いているなら、海の中の方が都合がいいだろう。銃がぶれる様子はない。
 これはまずい。
 ロビンもそちらに目を向けたが、男はそれを見るとすぐさま潜ってしまった。銃まで一緒だが、あれで使えなくならないだろうか。だが再び浮いた男はすぐさま銃弾を放ってくる。今度は当たらなかったが、ナミのすぐそばの砂浜に突き刺さってぞっとする。銃には、やはり何か細工があるか。ロビンが目を向けるとすぐ潜ってしまうので、能力が使えない。
「ロビン…大丈夫?」
「ええ…。少し離れた方がいいわね」
 そう言ってロビンはナミを軽く押す。離れるのはナミだけ──でいいはずがない。
 よく見ればロビンの肩からは血が流れていた。それも、かすった程度には見えない。
「いいえ」
「ナミ?」
「あいつは私に任せて。ロビンは、そいつらの尋問お願いね」
 軽くウインクしてナミは海へと近づく。もう少しで浮いてくるだろう。少し遠いが、ここからなら届く。少々離れていても海の中。
「サンダーボルトテンポ!」
「ぎゃああああ!」
 この距離なら電撃は、伝わる。
 少し待てば、焦げた男たちが浮いてきた。
 ……男たち?
「3人も居たのね…」
 気付かなかった。そういえばウィルとカールたち、と言っていたか。まだ他の場所に散らばっている可能性もあるだろう。それも含めて尋問すべく、ナミはロビンの元へと戻った。


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