バッシャーン。
盛大な水音を立ててチョウジが川の中へと落ちた。
辺りの魚が慌てて逃げ出している。川は大した深さではなく、
座り込んでも胸から上は出るくらいだ。
勿論ところどころ深くなってはいるのだが。
「チョウジー。目は覚めたか」
木に背をあずけたまま不機嫌な声で言っているのはアスマ。
先程チョウジを川の中へと蹴り飛ばした張本人だ。
シカマルといのはあーあといった感じでチョウジを見て笑っている。
助けに行く気はないようだ。
「ぼくは眠ってたわけじゃないよ!目を瞑ってただけだよ!」
「へいへい。言い訳はいいからとっととあがってこい」
ぎゃあぎゃあわめくチョウジをうるさそうに見てアスマは
軽く手招きをした。だがチョウジは手をばたばたさせるだけで
一向に立ち上がろうとしない。さすがにシカマルといのも
それに気付いて川へと近付いていった。
川辺は先程の水しぶきで辺り一面が濡れている。
かなり盛大に落ちたということだろう。勿論チョウジの質量も
大いに関係しているが。
「おら、チョウジ何やってんだよ」
「とっととあがってきてよねー。その分じゃ乾くのにも時間かかるでしょ。
また遅くなるの嫌だからね」
優しさの欠片もない口調でいのは言う。
それでもチョウジはうーうー唸っては手をばたばたさせる。
「何だあ?ホントに動けないのか?」
シカマルがそれまで以上に顔をしかめて言う。
嫌なことを予感したのだろう。
「おい、シカマル、いの。引き上げてやれ」
「げ」
案の定、アスマからため息交じりの言葉が呟かれる。
二人は顔を見合わせて、やれやれと立ち上がる。
「あーあ。こりゃ尻がはまっちまってるんだな」
シカマルが水を蹴りあげながら呟く。
これは無理矢理引き上げるしかない。
「シカマル、そっち持ってよ」
とっとと終わらせたいいのはチョウジの右手を掴むとシカマルに
そう促す。
シカマルは面倒くさそうにチョウジの左腕を片手で掴んだ。
「あんたやる気あんのー!」
「うるせえな。引き上げりゃいいんだろ。せーの」
二人で一緒に力を入れる。チョウジが痛い痛いとうめくのを
無視して一気に引き上げた。
ばっしゃぁあああん。
先程よりも派手な音を立てて水しぶきがあがる。
晴れた空に眩しく光を反射する水を見ながら、アスマは
心の中で呟く。
あーあ……。こりゃ1時間は任務遅れるな……。
二本目の煙草に火をつけてアスマはその場に座り込んだ。
「気持ち悪い〜!この辺コケ生えてるじゃない!」
チョウジを引きずり出した勢いで後ろにひっくり返ってしまった
シカマルといのは立ち上がる気にもなれずその場に座り込んでしまった。
この昼間の気温に、少し心地よかったのは確かだが。
「ってかいの、お前……」
チョウジとシカマルがじっといのを見る。
「へ?」
いのは一瞬怪訝な顔をした後、自分の姿を見下ろして真っ赤になった。
「ちょ、ちょっと二人とも!向こうむいてなさい!」
「へいへい」
ちょっぴり頬を染めつつ素直に後ろを向く二人。
水をかぶったせいでいのの服は透け、体に貼りついてしまっていたのだ。
「う〜……」
服を引っ張りとりあえず見えないようにはしてみるがずっとこの状態と
言うわけにもいかない。
服を貸してもらおうにもシカマルとチョウジもずぶぬれなのだ。
ちらり、といのはアスマの方を見る。
アスマは興味なさそうに手の中の煙草を持て遊んでいた。
いのは決心したように川から出て、アスマの方に歩き出す。
勿論、張り付いた服は引っ張ったままだ。
「ん?」
アスマが漸くこちらを見た。
「先生。ベスト貸して下さい」
怒ってるような顔で言ういのにアスマも思わず苦笑がもれる。
「それくらい恥ずかしがってちゃ、くノ一にはなれないぞ?」
「先生!」
今度こそ本当に怒りの表情を見せていのは怒鳴った。
わかった、わかった、怒るな、とやる気のなさそうな声で
告げてアスマはベストを渡す。
「とりあえずお前らとっとと乾かせ。この任務は今日中だからな」
楽しんでるのか不機嫌なのかよくわからない口調でそう言うと
アスマは再び木に背をあずける。
シカマルとチョウジはその場で脱ぎ始めたがさすがにいのは木の
陰へと走っていく。
「いの」
「な、何ですか?」
「そこのリュックにタオルが入ってる。使っとけ」
「あ、はい!」
いのが慌てて引き返して来てリュックを探る。
見えないところまで行ってたからか、もう服を引っ張ってはいなかった。
おいおい……。
アスマはそちらに目をやってしまい、慌てて顔をそらす。
自分らしくない行動に苦笑しつつシカマルたちの方を振り返ってみる。
どうやら二人は気付いてないようだ。
何故か少しほっとしてアスマは目を閉じた。
どうせだから1時間程眠ってしまおう。
先程見たいのの体を頭から払いのけるように無理矢理思考を
切り替えようとする。
最近のガキはあなどれねえなあ……。
何の話か、と突っ込まれそうなセリフを心の中で呟いてアスマは
眠りへと落ちていった。
結局いたずらしようと近付いてくる生徒たちのために
睡眠を得ることは出来なかったが。
アスマは早くこの日のことを忘れたいと願った。