くだらなくても喧嘩は喧嘩
「酷い」
「何で」
「酷いよ、それ」
「何でだよ。ホントのこと言っただけだろ」
「世の中にはねー! 言っていいことと悪いことがあるの」
「ぺちゃぱい」
「何よー!!」
どたばたと追いかけっこの始まった楽屋の隅でMEIKOはため息をついていた。
「リン、レン」
「はい!」
「はい、MEIKO姉さん!」
声をかければぴしっ、と二人は揃って並ぶ。息は合ってる。性格も素直で扱いやすい。だけど一つだけ問題があった。
「さっきの話なんだけど」
「酷いですよね! 私、謝りに行ってきますから!」
MEIKOが話をする前にさっさと結論付けているリンは、そのままレンの腕を引っ張って扉へ向かう。レンが抵抗するように思い切り腕を振った。
「一人で行けよ! 何でおれ、」
「元々あんたが悪いんでしょー!」
どうしても喧嘩になってしまう。
MEIKOは立ち上がると二人の腕を取り強制的にその場に座らせた。下は普通の床だ。自然正座の姿になった二人を見下ろしてMEIKOは言う。
「あのね。あんたらがミクのこと好きなのはよくわかったから、」
「おれは別に好きじゃない!」
「嘘ばっか。この前だって収録中のミク姉ぇにずっとみとれてたくせに!」
「それはお前だろ! 失敗ばっかするから苛々してたんだよ、おれは!」
……大体、こんな感じだ。
『男女だけど驚くほど仲が良い双子』MEIKOは二人のデビュー前確かにこう聞いていたのだが、実際はいつも喧嘩ばかり。それも原因は…ミクなのだ。会話を聞けば大体二人の思いは読めるだけに、何か対応策があるはずだと思うものの、MEIKOにはそれが思いつかない。これで私やKAITOのように本番中はきっちり切り替えられたらいいんだけど……。
MEIKOはちらりと時計を見る。
収録中に喧嘩を始めてしまい、休憩だと言われて30分。そろそろ戻らないとプロデューサーの二人の印象は悪くなるばかりだ。
どうしたものかと思っているとコンコン、と小さなノックが響いた。
「KAITO」
声をかけられる前に誰だか気付く。呼びかければそのまま中に入ってきた。KAITOはドア近くで正座している双子に目をやると続いてMEIKOの方を見て呆れた声を出した。
「え、説教中?」
「説教にもなんないわよ」
話を聞かない。聞いても最初の言葉だけで勝手に暴走する。どちらかといえばそれはリンなのだが、レンも乗ってしまうので同じことだ。今は反省してるようにうなだれているのだが、声をかければ多分、同じことの繰り返しだ。ひょっとしたら現在も脳内通信で喧嘩中なのかもしれないが。
「ミクの方は?」
「うーん……頑張ったんだけど」
「何を?」
「いや…一応ミクの胸の素晴らしさとか、」
MEIKOは思わずKAITOを蹴り上げていた。
この阿呆。
「ですよね! ミク姉ぇぐらいの胸がちょうどいいんですよね!」
「何でだよ、胸は絶対大きい方がいいだろ!」
「ミク姉ぇのはあれでいいの!」
とにかくもう……喧嘩の原因に口を出すのも馬鹿らしいのだ。
貧乳と言われて落ち込んだミクをKAITOは慰めに言ったはずなのだが…大体が、この男もどこかずれている。
「KAITO」
「はい?」
「あんたは貧乳と巨乳どっちがいいの」
「MEIKOがいい」
普通に言い放ったKAITOをリンレンコンビがぽかん、と見上げた。
「リンレン」
『はい』
繋げて呼べば同時に返事した。
「好きな子のが一番ってことじゃないの?」
「……うん」
「……おれ、別に好きじゃないし……」
レンの声は一気に弱くなった。そのせいか、リンも何も突っ込まない。
漸く落ち着いた二人を楽屋から出してMEIKOは一件落着かと伸びをする。KAITOが不思議そうにそれを見ていた。
「あれ、そんな話だっけ?」
……ごまかせりゃいいのよ、何でも。
MEIKOは声に出さず頭の中でKAITOに答えた。
根本的な解決になっていないので、またミク絡みの騒動があるのは確かだが。
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