人柱2

 何時間。いや、何日か。
 日が沈み、朝になってまた日が沈む。
 町の人々は水のない噴水を囲んだまま。泣いている者もいれば、祈っている者も居た。ただ呆然と見つめている者もいれば、笑みを浮かべている者も。
 それに気付いたとき、ようやく冷静になれたのだろう。
 レンは同じく隣でじっと噴水の中心を見つめるリンに声をかけた。
「……リン」
 瞬きすらしないリンの体をレンは乱暴に揺する。はっとしたようにリンが目を見開い た。
「あ……」
 ぱちぱちと目を動かして噴水とレンと、ついでに町の人々を見る。噴水を囲む人々の中に混じっていたリンは、気が付いたように突然立ち上がった。
「待て、リン」
「何でよっ、お兄ちゃん、このままじゃ」
 リンが噴水へ足を踏み入れる。途端、ぐいっと横から引っ張る者があった。リンがバランスを崩し倒れる前に、何とかレンが受け止める。リンを引っ張った女は、ただ淡々と言う。
「……触らないで」
「……お前ら」
「捧げものを持ってきましたよ」
 そこで一際高い声が上がった。花と果物を両手一杯に持った若い女性に、俯いていた人々がようやく顔を上げる。わっと歓声と共に、その女性へ群がった。
「良かった、ずっとこのままかと思ってたわ」
「もっと派手な花はないのか? そうだ、薔薇だ、薔薇をもってこい」
 ざわざわと辺りが騒がしくなる。先ほどまでの静けさが嘘のようだ。噴水の中倒れた男を、KAITOを飾り付けられるとわかって沸いた活気にリンとレンはひたすら戸惑う。
「……何なの、これ。お兄ちゃんを何だと思ってるの」
「……町の偶像、だよ。おかしい、おかしいけどさ」
 レンは頭を抱えた。
 そのとき、とんとんと肩を叩かれ思わずびくっと体を揺らす。
 振り向けば、レンたちと同い年ぐらいの子どもが手紙のようなものを片手に立ってい た。
「何だよ?」
「これ……リンとレン、だよね」
「は?」
 いきなり呼び捨てられて眉を寄せるが、それより差し出された手紙が気になった。リンとレンへ。はっきりと名前が書かれている。裏返して一瞬声が止まった。
「お前っ、これどこで貰った!」
 差出人の名前はミク。
 レンたちの、2番目の姉の名前。
 少年は怯えたように後退さると、腕を掴んできたレンを振り払って走る。
「知らないっ。おれ渡してくれって言われただけだから!」
「おいっ……!」
 少年は意外なすばしっこさで逃げていく。追おうかとも思ったが、それより手元に残った手紙が気になった。リンも近寄ってきて覗き込む。
「……ミク姉…?」
「……ああ」
「本物……?」
「わかんねぇ」
 中身を見ないことには始まらない。手紙の封を解くとき、レンは自分の手が震えているのに気が付いた。リンが気付いてその手紙を取り上げる。
「おいっ」
「……何これ」
「ん?」
 中に入っていたのは手紙ではなく、一枚のカード。リンが裏返してようやくそれに気付いた。
「招…待状……?」
 それは、お城からの。
 女王となった、ミクからの。






 

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