熱血馬鹿

「全員集合!」
 ミクの鋭い声に反応して、ばたばたと階段を下りてくるリンと、台所から駆けつけるレン。リビングで仁王立ちしているミクの前に2人が並んだ。
「結果報告!」
 続いてミクがあげた声に、まずリンが手を挙げる。
「はいっ! 捜索の結果、2階にネギとみかんはありませんでしたっ!」
「バナナを探せよ」
「レン隊員、口ごたえをしないっ!」
「はい!」
「ではレン隊員の成果は!」
「台所でバナナを1本。ネギは見当たりませんでした!」
「あんたもみかん探してないじゃない!」
「リン隊員!」
「はいっ、ごめんなさ……申し訳ありません!」
「よろしい。実は先ほど緊急連絡が入った」
「何でしょうかミク隊長!」
「上司であるMEIKO司令官とKAITO副官がもうすぐ帰ってくるとの連絡を受けたのだ!」
「ええええ!」
「そんな! 我々の仕事開始まで帰宅の予定はないはずでは!」
「残念ながら仕事が早く終わったらしい! というわけでこの隊は本日この時間を持って解散する!」
「ミク隊長!」
「何だレン隊員!」
「またこのような機会はあるのでしょうか!」
「司令官と副官が揃って出かけているときがチャンスだ! 次は隊長も公平にくじ引きで決めようと思う!」
「了解しましたミク隊長!」
「次は私が隊長を目指します!」
「リンは嫌だな」
「何でよ!」
「2人ともっ。役は最後まで演じきるように!」
「はっ。申し訳ありません」
「それでは解散! 各々の持ち場に帰って司令官たちを待つように!」
「はいっ。今日はありがとうございました!」
 最後にびしっと敬礼が決まり、双子はそのノリのままきびきびした動きでリビングの外へ向かった。
 そしてそれとほぼ同時。玄関の扉が開いた。





「行ってらっしゃいー」
「行ってきますー」
 ミク、リン、レンが入れ違いのように仕事に向かったのを見送り、KAITOはリビングへと帰る。リビングではMEIKOが堪えきれないように笑い始めていた。
「何がおかしいの」
「いやー、あれは良かったわ。あの3人、私たちが居ないとこでは意外に馬鹿やってるのね」
「まあ、ミクとリンはともかくレンまでノリノリなのはびっくりしたなぁ」
「あの子も意外と嫌いじゃないのよ、ああいうの。普段は突っ込み役求められてるから出せないけどねー」
「そうかー。じゃあ今後ああうのみんなでやる?」
「私たちが居たらやれないんじゃないかしらね。私たちが先に崩れるとどうしても一歩引いちゃうから、あの子は」
「じゃあおれたちが普通に巻き込まれてたら?」
「それもつまんないわー」
「……姉さん」
「何?」
「やりたいんだね?」
「…………」





「何、あれ……」
「ええと……」
「…………」
 帰宅したミク、リン、レンの3人は家の中から響いてくる声に思わず玄関先で足を止め、そのまま音を立てないようにゆっくりと扉を開けて中を覗き込んだ。
 リビングでは兄が仁王立ちしている。昼間のミクのように。
「MEIKO隊員! 口応えをするなっ!」
「はっ、隊長!」
「アイスはいくつあった!」
「合計3個、全て冷凍庫に入っていたものです!」
「では溶けないよう慎重に持って来い!」
「隊長!」
「何だ」
「わたくしにも酒を飲む許可を頂けませんでしょうか!」
「却下だ! これからミク隊員たちが戻ってくる! それまで素面でいろ!」
「了解しました! 直ちにアイスをお届けします!」
 MEIKOが台所へと走る。ミクたちは慌てて階段脇へと姿を隠した。
「……KAITO隊長と……MEIKO隊員?」
「えええ、何でそうなってるの?」
「いいなぁ。私も入っていいかな?」
「これ、見てたって言っていいのかな」
「っていうか……見られてたんだよな確実に……」
 レンが頭を抱える。
 リンとミクは出るタイミングを窺うように顔を出した。
 仕事が早まって、もうすぐ帰るという連絡を入れていなかったのにミクが気付く。
 本来の帰宅時間まで、あと1時間。


 

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