11.携帯電話

  リビングで笑い声が聞こえる。
  レンがバナナを取りに来たついでに覗くと、全員が何やら携帯をいじっていた。
「何やってんの?」
「あ、レン! レンもやって、やって、これ」
「は?」
「今度おれたちの声で着ボイスっての作るって言ってたでしょ。で、その前にみんなの携帯におれたちの声入れてるんだよ」
「お兄ちゃん、さっきのもう1回! 途中で切れちゃってる!」
「ええ? あの長さで切れる? もうちょっと早口の方がいいかな」
「長すぎるんでしょ。それよりリン、私のも録り直してよ、こんな暗い声でおはようとかありえないわ」
「えー、その方が面白いかなって」
「何? おはようとかもやってんの?」
「おはようと、おやすみとー、メール来たよ、と電話来たよ、と……あと何だっけ」
「時間だよー、って奴かな。アラームの」
「そうだそうだ。……よし、じゃあレン、まずおはようってやって!」
「ちょ、ちょっと待て」
「いくよー、みんな黙っててね。いち、にぃ、さん、はい!」
「………おはよう」
「くらーい!」
「普通過ぎるな」
「短いよー、それじゃ起きられないよレンくん」
「お前らどんなのやったんだよ!」
「あ、私の聞く? ちょっと待ってねー……はい、これ『……おはよう……リンだよ……朝だね……起きないと……遅刻するよ……? 遅刻してもいいなら……黙ってあげる……起きないの……? 今日はずっと一緒に居る? じゃあ……もう起こさないよ? ……いいの? ……いてくれるのね? ……ありがとう、嬉しい』」
「待て待て待て! 何だこれ!」
「朝の挨拶」
「ヤンデレ風味って言ってた!」
「暗い声なのにホントにちゃんと嬉しそうなのが凄いよね」
「まあねー。それは上手いと思うわ」
「何で普通に受け入れてんだよ、お前ら。そもそも最終的に起こしてないだろ、これ」
「そうだよねー。私もそれ思ってた。あ、私のはねー……あ、私のには入ってないや。 お兄ちゃん貸して。……ええと、これ! 『おっはよー! ミクだよー! 朝だよー! ミクだよー! 朝だよー! 起きてー! ミクだよー! 起きてー! ミクだよー! ミクだよー! ミクだよー!』」
「ミクのはテンション高いよなぁ」
「もうちょっと語彙があるといいんだけどね」
「っていうか怖いわ、それも!」
「おれのも聞く? 一応男の方が参考になるかも」
「多分ならないと思うけど、聞かせてくれ」
「よし、ミクちょっと携帯貸して。……うん、こんなの『やあっ、おはよう。KAITOだよ! 今日も爽やかな一日の始まりだね! でもちょっと眠いかな? よし、じゃあまだ起きれない君に元気の出る歌をプレゼントだ。おれの曲はダウンロードしてあるかな? まずはこの目覚ましを止めて携帯に入ったおれの曲の中からいち』」
「あ、切れてる」
「ねー、切れたでしょ」
「ううん、でもこれ以上早口にすると辛いな」
「だから台詞削りなさいって」
「それ以前に何かおかしいだろ、これも! 何で携帯操作させてんだよ」
「そしたら起きるかなって」
「そうだよね。人を起こすときは、とにかく体を起こして何か作業させるといいって言われたもん。でも私はそれ思いつかなかったなー。さすがKAITO兄ィ!」
「いや……うん、もうそれはいいや。……姉ちゃんのは?」
「私? 私のは普通よ。ええとね……あれ、まだミクのには入れてないわね。KAITO貸して」
「待って、おれが出す。ええと……これだね」
『おはようございます。MEIKOです。朝になりました。お目覚めはいかがでしょうか。寝坊されますと、会社・学校等に遅刻します。早く起き……『姉さん固いよー』……いいから起きろ』
「あー、やっぱあんたの声入っちゃってるじゃない」
「いやぁ、あれはだって突っ込みたくなるじゃん。なあレン?」
「……確かにおれも聞いてたら突っ込んでたと思うけど、お前と同じと言われると嫌だ」
「どういう意味だ」
「さあ、全員の聞いたんだし、レンもやって! さっきみたいなのはなしだよ」
「レンくん頑張れー」
「いや、ちょっと待て、お前ら方向がばらばら過ぎて参考になんねぇ!」
「何かテーマ決めるといいよ。リンはヤンデレでいったんだよな」
「私、考える暇なかったよー。いきなり向けられちゃったし」
「私もそうね。もうちょっとターゲット絞るべきだったかな」
「あー、ターゲットはそうかも。レンなら大人の女性相手とかやってみたら?」
「あ、レン得意そうだね!」
「何でだよ」
「男相手の方が得意?」
「いや……。いや、でも乱暴な口調使える方が楽じゃね?」
「何でもいいよ。はい、三秒前ー」
「ええ? ちょ、ちょっと」
「さんーにぃーいち、はい!」
「……おはよう! おはようございます! 爽やかな朝ですね、起きないと遅刻するぜ! 起きないなら今日はずっと一緒に居られるかな! いいの? 起きろー! いいんだな! 起きろー! 一緒に居てくれるなんて嬉しいです!」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「……急に……振んなよ……」
「ごめんなレン、いい突っ込みが思い浮かばない」
「ええと……いろいろ混ざったわね?」
「……いや、もう何も言うな……」
「レンくん自分の名前言ってないー。駄目だよ、それはちゃんと言わなきゃ」
「ああ、さすがミク姉は目の付け所が違うな。ありがとう」
「え? えへへ」
「というわけで録り直し!」
「あーずるい! これは一発録りなんだからね! あ、私の目覚ましこれにしよーっと」
「止めろマジで!」
「よし、じゃあおれは着メロに」
「もっと止めろー!」
  レンの絶叫が響き渡った。


 

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