9.これさえなければ

「レンー。レンどこー、レンー!」
「何だよ、リン」
「あ、居た。あのねレン!」
「うん?」
「私とデートしよう!」
「……………は?」
  双子の片割れからの言葉に、レンは戸惑いの声を上げた。




「だからねー、今時デートしたこともないとか遅れてるって言われたの!」
「……お前その単純さ何とかしろよ」
「そこがリンのいいところって前にお兄ちゃんに言われたよ!」
「適当なフォローしてんじゃねぇよ!」
  リビング内にて。側に居たKAITOにレンが蹴りを入れる。ソファに座ったままで、大した力は入っていない。KAITOは苦笑いして顔を逸らした。レンは改めて隣に座るリンに顔を向ける。
「おれら14歳だろ。別にそれぐらいでデートしたことないとか普通だ普通!」
「レンの言う普通は当てになんないのー。レンだって普通の中学生とかと一緒に居ないじゃん。それに私にそれ言った子、13歳だよ」
「………」
  レンが言葉に詰まる。助けを求めるようにKAITOを見ると、その隣のミクが意外な発言をした。
「そうだよ、デートはみんな普通にしてると思うよ」
「ミク姉、したことあるの?」
「あるよー。お兄ちゃんと」
  勢い込んで聞くリンにミクは頷く。レンが突っ込もうとしたとき、KAITOも続けた。
「おれと姉さんもしてるしね。レンもデートぐらいしてやればいいだろ」
「いやいや、お前らデートの認識絶対間違ってるから」
「どんなデートしたの?」
「聞くなよお前も」
「朝から2人で遊園地行ってー夕方は普通にご飯食べて帰った」
「姉さんとは映画見に行ったけなー。夜はバーにも行ったから結構遅くなった」
「……あれ、何か普通にデートじゃね?」
「だからデートだってば」
「男女二人で出かけて遊ぶのをデートって言うんだよ」
  教えるように言われ、レンは思わず顔を逸らす。
  あれ、デートってそれで良かったっけ。
  っていうか何で普通に2人きりで遊んだりしてるんだ?
「いいなぁいいなぁ! レン、やろうよー。私とデートいや?」
「いや……嫌とかじゃなくて……あれ、何かおかしくねぇ?」
「何が?」
「デートするなら男が引っ張るのが基本だぞー。教えてやろうか?」
「うっわ、何かすげー嫌だ」
「何でー? レンくんデートしたことないんでしょ」
「当たり前だろ。ってか何でお前らは普通にデートしてんだよ」
「楽しいから」
「レンは何がそんなに嫌なの」
  ミクとKAITOが軽くそう言う。レンは長く沈黙して、やがてゆっくりとリンに向かって言った。
「……2人で遊びに行こうってことなんだよな?」
「そうだよ?」
「それ以外にないよな?」
「ないよ?」
  何でおれがこんな念を押してるんだろう。
  そう思いつつ、レンはため息と共に頷いた。
「わかった。行く」
「ホント!?」
「良かったねーリンちゃん!」
「うん! もーレンってデート一つするのにもいろいろうるさいんだからー」
「……悪かった。おれのデートの認識が違ってた」
「そうなの? 何だと思ってたの?」
「いや、もういいから。いつ行くんだ? 明日仕事空いてるから行くか?」
「行くー!」
「いいなぁ。私も久々にデートしたいなー」
「ミクも行く? おれも明日は空いてるし」
「行く! あ、遊園地また行きたい!」
「あー私も遊園地がいいなー」
「じゃあ一緒に行くか。ダブルデートだな!」
「うん!」
  盛り上がる3人の言葉を聞きながら、レンは、それただ兄弟で出かけてるだけだよなぁと声には出さず突っ込む。
  話しているとたまに思う。間違ってるのは自分の方なのかと。
  ふと、ここには居ない一番上の姉のことを思い出した。
  ……普通にデートと言ってそうだ。


 

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