【自殺したい人集まれ。私たちと一緒に自殺してみませんか? みんなで自殺の理由を話し合おう!……あれ、何か くだらない?】
志保 自殺したい人この指とまれ。早くしないと切っちゃうぞ。 指切った。
巧 何だよ、あんたら。
志保 何ー?屋上でそーんな暗い顔して下見つめてる奴に
言われる筋合いないわよー。
巧 おれの勝手だろ。
志保 何言ってんの。ここはあなたのビル?違うわよねー。
みんなの物。あなた一人で自由になんて出来ないのよ。
巧 知らないよ。そんなこと。
志保 嘘付きー。それも知らない程子供じゃない癖に。
知らないふりしてればいいと思ってんのー?
そんな言い訳今時通じないわよー。
巧 ……一言いうと何倍にも返ってくるな。
志保 じゃあ二言いえばいいじゃない。私の返答なんて
変わらないんだから。ほら、私って口下手だし。
巧 どこが。
志保 あ。あんたさっき会ったばかりの人物をたったこれしきの
会話で理解しようとしてるわけ?それだけの分析力が
あるなら逆にそんなセリフ出てこないと思うんだけどなー。
雅人 もういい、志保くん。君がしゃべると話が進まない。
志保 私って口下手ですから。
巧 だから何なんだよ、あんたら。
雅人 これから説明しようと言うのに。そう聞く耳持たない、って
態度は止めてくれ。
知佳 自分から聞いてても聞く耳持たない態度って言うんですか?
雅人 あー、だからな。君。
巧 何だよ。
雅人 えーと……名前は?
巧 津川。津川巧。
雅人 巧くん。君は自殺しようとしてるね?
巧 …………。
志保 ちゃんと答えなさいよー。それくらいのこと。ハイかイエスで
すんじゃうのよ?
巧 どっちも肯定じゃないか。
志保 あら否定するの?
巧 ほっといてくれよ。あんたたちには関係ないだろ。ここで
するのが迷惑なら別のとこでするからさ。
志保 だーめ。
雅人 ほっとけないな。
知佳 せっかく見つけたメンバーですし。
巧 は?
雅人 君、我々と一緒に自殺しないか?
賢作 おいっちに、おいっちに。
雅人 精が出るな。
賢作 あ、隊長ぉっ!やはり自殺する人間に体力作りは
必要不可欠です!普段からのトレーニングがものを言うのですよ。
おいっちに、おいっちに。
雅人 もうすぐ集まりもあるから
ちゃんと服着とけよ。
賢作 わかってますよ!
巧 何なんですか?ここ。
雅人 君のような自殺志願者が集まって組合を結成してるんだ。
7人集まったら自殺しよう、とみんなで決めていた。君がちょうど
7人目なんだ。
巧 組合って……。
雅人 みんな集まれ!今日ついに7人目が見付かったぞ!
志保 私が探し出してきたんだからねー。感謝しなさいよ。
賢作 おおお!ついにこの時がきたのですね!
知佳 これで自殺出来るんですね。
雅人 のぞみと学はどうした?
知佳 のぞみちゃんは多分その辺にいます。
賢作 のっぞっみちゃーん!出ておいでー。
のぞみ ……大声出さなくても聞えるわよ。
賢作 呼ばれたらすぐ来るのが掟だぞ!
のぞみ 隊長が名指しで呼んだときはそうするわ。
志保 で、学くんは?
学 ここにいます……。
志保 あらいたの。
学 ……最初からいたんですけど。やっぱ気付いてなかったんですね
……。
志保 あなた存在感なさすぎなのよ!もっと自己主張しなさい、
自己主張!
学 これから死ぬ人間に何言ってるんですか。
志保 ……それもそうね。じゃ、隊長始めてよ。
雅人 ああ。さあみんな座れ。
巧 ちょっと、お前ら、
雅人 早く座れ!
巧 ……はい。
雅人 えー我が隊が設立して半年。ついに7人の同志が集まった。
よってこれよりかねてからの計画を実行に移す。そのために
みんなには最後の言葉を発表して貰おう。まずは松本賢作。
賢作 はい!私は2年前、交通事故によりアキレス腱を切りました!
それにより世界で一番速い男になる夢は破れ去りました!
巧 ……おれのはそんなまともな理由じゃないんだ……。
賢作 それはさておき!私は去年、大好きだった女の子が結婚する
夢を見ました。……絶望のあまり、踏み切りへと向かったところ、
隊長に呼び止められたのです。
巧 は?
雅人 そうだったな。
賢作 あの夢のことは今でも頭をちらつきます。これならいっそ
死んでしまった方が……何度もそう思いました!が、一人で自殺する
ことはやはり私が最後まで一人だということ……。出来れば仲間と
共に死にたい!そう考えて私はこの隊に入ったのです。
志保 ちょっとーまだかかるの?
賢作 これからが本番です!私がこの隊に入って以来の愛と苦悩の
日々を……。
のぞみ じゃあ、次、私いくよ。
雅人 おう。
賢作 た、隊長……。
のぞみ 生きてるのがめんどくさくなった。それだけ。
巧 …………終わりか?
志保 はい!次私行きます!私は、前々からずーっと自殺したいと
思ってました。事故とか、病気とか、殺人とかで死ぬのはぜーったい
嫌。だって自分の命なら自分でケリつけたいじゃない。
だから私は一年前事故にあいそうになった時、決心しました。
このままじゃ私の命は私以外の人物によって消されてしまう!
……だからこそ。私はこの会に入ったんです。正しい自殺をするために!
巧 ……お前ら……。
雅人 次は学だぞ。
学 ……はい。
雅人 どうした?早く言え。
学 うん。ぼくは昔から人に存在感がない、って言われ続けてて。
いじめられることもなかったけど、友達はずっといなかった。
昔は成績も良かったんだけど。何もしない内にどんどん下がってきて。
母親はすっごく怒るんだ。悪い仲間にでも入ったのか、って。
ぼくは悪くてもいいから仲間が欲しい、って言ったらすごく悲しそうな
顔された。ぼくはいじめられてるわけじゃなかったんだ。
先生が好きな人同志で班を組め、って言ったら必ずぼくは余ったけど。
誰かがクラスのみんなで遊びに行こうって言ってもぼくには声が
かからなかったけど。それでもぼくは……。
巧 何か……お前はまともなんだな。
学 え?
巧 いや……。それで……死のうって思ったのか?
学 ううん。
巧 え?
学 大好きなアイドルが引退したの。あの子なしで生きていけない。
巧 おい……。じゃあさっきまでの会話はなんだ?
学 だから。それでもぼくは……あの子がいれば生きていけたんだ、って。
巧 うっわ。まともな気もする分腹立つわ。
雅人 何ださっきから君は人の理由にケチつけて。そういう君は
一体何故自殺するんだ?
巧 おれは……別に。
志保 何よー別にって。
賢作 私たちは同士だ!恥ずかしがることはないぞ!
のぞみ とっとと言えよ。話が進まないだろ。
知佳 そうです。私の出番が来ないじゃないですか。
巧 別に理由なんてないよ。ただ生きてるのが嫌んなっただけ。
のぞみ ありがち。
志保 つまんない。
知佳 理由にもなってないですね。
巧 お前らだって似たようなもんじゃないか……。
賢作 本当はもっと真っ当な理由があるんだろ?女の子に振られたとか
女の子に嫌われたとか女の子と別れたとか。
巧 何で全部女の子なんだよ。
賢作 え……?男の子なのか。
巧 そういう意味じゃない。
志保 んじゃあ成績が落ちたとか親に叱られたとか。
巧 子供じゃあるまいし。
のぞみ 悪い仲間に入ちゃって抜けられない。
巧 違う。
雅人 じゃあ私のように上司が嫌いで会社を辞めて収入がないとか。
巧 違う。
知佳 じゃあじゃあ私みたいに、友達が余命幾ばくもないとか。
巧 違う。……ってお前の理由それなのか?
知佳 はい。あの子一人死なせられません。
巧 何考えてんだお前ら。
のぞみ 複数形にするなよ。
巧 とにかく、おれの理由はそんなんじゃない。
学 いじめ?
巧 ……違う。
雅人 じゃあ何故自殺するんだい。
志保 じゃあ何で屋上にいたの。
のぞみ じゃあ何で死にたいんだ。
巧 別に……死にたいわけじゃない。ただ、生きてるのが嫌なだけ。
雅人 君は失格だ。
巧 は?
雅人 この会に入るにはちゃんとした自殺理由がないとな。
君の入会は認められない。
巧 そんなもんどうでもいいよ。でもそういうお前らはどうなんだよ?
女に振られたとか好きなアイドルが引退したとか、
生きるのが面倒だとか死に方は自殺がいいとか、そんなの
真っ当な理由と言えるのか?何でそんなんで死ぬんだよ!
知佳 ……同じことじゃないですか。
学 君の理由も。ぼくらと大差ないんだ……。
志保 自殺しようって人間が自殺志願者に説教なんて
馬鹿みたい。
賢作 君が同じこと言われたらこういうだろう!お前らには
関係ない。ほっといてくれ!ってな!
巧 ……そうだよ。別に、おれはお前らが死のうがどうしようが
関係ないんだよ。そうだよ。勝手に死ねよ。
雅人 で?また君は死にに戻るのか。
巧 ……うるさいな。ほっといてくれ。
賢作 おお!私の考えは大当たりだ!
巧 悪かったよ。あんなこと言って。お前らの自殺に口出す
つもりはない。おれはおれで勝手に死ぬよ。
のぞみ 何でさ。
巧 だから。……別に理由なんてないよ。
雅人 君は自殺したいのか。
巧 だから!別にしたいわけじゃなくて。ただ……。
志保 生きてるのが嫌?
学 堂々巡りだね。
巧 だからもうほっとけって!
知佳 いいえ。あなたの自殺の理由を知るまでは帰しません。
巧 ……別に。ただ何か、受験勉強するのが面倒くさいし。
大学行ってやりたいことがあるわけでもないし。
だからといって働くのも嫌だし。働かずには生きられないし。
それで……。
賢作 具体的になったじゃないか!
学 ぼくらより。さらにくだらないね。
巧 ……おれもそう思うよ。
のぞみ それでも自殺したい?
巧 ……やめりゃいいんだろ、やめりゃ。ったくなんなんだよ
お前ら。
雅人 我々は自殺撲滅運動隊!
巧 は?
雅人 新たな説得方法を探っている最中なのだ!
巧 ……馬鹿かお前ら。
雅人 馬鹿で結構。これで自殺する人が一人でも減れば
成功だ。
巧 確かに。お前らと同列視されると思うとおちおち自殺出来なく
なるな。
知佳 狙いが微妙にそれてますね。
雅人 気にするな知佳くん!さあ巧くん。もう自殺なんて考えるんじゃ
ないぞ。
巧 最後は在り来たりな説教か?
のぞみ 脅迫の方がいい?
巧 ……結構です。
志保 じゃあね〜巧くん。また自殺したくなったらここにおいでね。
あ、自殺撲滅運動隊に入隊したい場合でもいいけど。
巧 誰がするか。じゃ、おれは帰るぜ。
雅人 ああ、気をつけて……(途中でドアの閉まる音)。
のぞみ 怒らせたかな?
学 大丈夫だよ。少なくとも怒ってるなら自殺はしない。
志保 そうね。
知佳 とりあえず作戦ナンバー11、事例1は成功、と。
賢作 さあ、それじゃあみんな、次のターゲットを探すぞ!
雅人 よし!志保、行くぞ。
志保 は〜い。
志保 自殺したい人この指止まれ。早くしないと切っちゃうぞ。 指切った。