バレンタイン公演─埋まらない空白─

【だーるまさんがこーろんだ。みんな止まれ !―――あれから五年。今再び少女たちの時 が動き始める……】

   薄明り。子供たちの声。

のぞみ (声のみ)だーるまさんがーこーろんだ。あっ、京ちゃん動いた!
京子 ええ?動いてないよ。
のぞみ 絶対動いた。動いたよね。美沙ちゃん。
美沙 動いた。動いた。
京子 嘘だー。見間違いだよー。
のぞみ ええい。往生際が悪いぞ。京ちゃん。京ちゃん、捕まえた。

   間。

のぞみ だーるまさんが――。
美沙 タッチ!
のぞみ あっ。一、二、三、四、五、六、七、八、九、十。止まれ!

   間。

のぞみ あれ?京ちゃん、誠君は?

   間。

のぞみ 誠君は?

   椅子に座っている京子。公園。
   のぞみがやってくる。

のぞみ きょーうちゃん。お久しぶり。
京子 お久しぶり。
のぞみ 何の用?京ちゃんから呼び出すなんて珍しいね。
京子 京ちゃんはやめろ。恥ずかしい。もう 高一だよ。私は。
のぞみ のんちゃんも!
京子 あんたも高一?
のぞみ 当たり前じゃん。同い年なんだから。……どうしたの?
京子 今の女子高生の次元の低さを見た気がする。
のぞみ ひどい……。 美沙 久しぶり。
京子 久しぶり。
のぞみ わあ。美沙ちゃんだ。懐かしいー。
美沙 美沙ちゃんなんて呼ばないでくれ。僕は瀬川誠だよ。
のぞみ あ……。
京子 久しぶり。誠君。誠君はもうすぐ誕生日だよね。
美沙 誕生日?僕の誕生日は九月だよ。
京子 九月は美沙ちゃんの誕生日だよ。
美沙 ……………。
京子 君の誕生日は二月十四日だよね。
のぞみ バレンタインデー!
京子 うるさい。
のぞみ しくしくしくしく。
京子 誕生会をやろうと思ってるんだけど。 あ、嫌だって言っても君んち行くよ。おばさんの許可は得てるからね。
のぞみ さすが京ちゃん抜け目ない。
京子 ほめるな。ほめるな。
のぞみ 京ちゃんせこい。
京子 けなすな。
のぞみ どうすりゃいいの?
京子 黙ってろ。
のぞみ ブー。
京子 時間はね―――

   坂本、駆け込んでくる。

坂本 うわー。間に合った。間に合った。えっと…… あっ、近藤美沙ちゃん言う子はおるかな?
京子 あなた誰ですか?
坂本 君か?
京子 違いますよ。
坂本 そうか。いや、僕は近藤美沙に用があるんや。
美沙 何の用ですか?
坂本 君が近藤美沙ちゃんか?
美沙 違います。
坂本 じゃあ君?
のぞみ 私はのんちゃん!
坂本 あれ?確かこの辺で友達と待ち合わせ してるはずやねんけど……。
のぞみ ねえねえ。近藤美沙ちゃんならこの子だよ。
坂本 え?さっき違う言うてたやんか。
美沙 僕は瀬川誠です。
坂本 ほら、やぱり違う……え?僕?君…… 女の子……え?
美沙 僕は男です。女に見えますか?
坂本 いや、言うても女の子にしか見えへんねんけど……。
美沙 失礼なこと言わないで下さい。
京子 あなた何の用できたんですか?
坂本 あっ。申し遅れました。私、こういう もんです。あれ?名刺……あ、あったあった。
京子 坂本五郎……。平凡な名前ですね。職業……死神?
坂本 はい。日本死神協会東京支部の死神。 坂本五郎言います。よろしくお願いします。
京子 行こう。のんちゃん。
坂本 ああー。信じてませんね。
京子 信じろと言うんですか?
坂本 話くらい聞いてくれたってええやないですか。それにね、 僕が用があるんは近藤美沙さん、あなたですから。聞かないと後 悔しますよ。
美沙 後悔なんかし尽くしました。
坂本 え?
美沙 美沙はここにはいません。用があるなら地獄にでも行くんですね。
坂本 地獄……。
京子 坂本さん。構いません。勝手に言って 下さい。
坂本 はあ……あ、信じてくれたんですか?
京子 そして早くどっかに行って下さい。
坂本 あら。
のぞみ どうぞ。
坂本 ええー。ゴホン。東京在住の無職、近藤美沙。あなたを迎えに 参りました。
美沙 は?
坂本 あなたは一週間後の二月十四日、死にます。ああ。そんな 心配せんでええですよ。
僕はベテランですから楽ーに死なせてあげれます。
美沙 何を言ってるんですか?あなた。
坂本 やから僕は死神。君は死ぬ予定の人間。 お迎えが来た言うことです。近藤美沙さん。
美沙 僕は近藤美沙じゃありません!そんな 女五年前に死にましたよ。死んだ人間がもう 一度死ぬなんて不可能です。

   美沙、去る。

坂本 なあ、どういうこと?
京子 複雑な事情があるんですよ。あなたみたいな人にお話するわけ にはいきませんね。
坂本 うわー。信用ないんスねえ。ちゃんと 名刺も渡したやないですか。
京子 あんなものいくらでも偽造できます。
坂本 そらそうですけど。
京子 それに私は大阪弁の男は信用しない主義なんです。
坂本 それ偏見ですねえ。第一これ大阪弁と ちゃいますよ。
京子 何弁ですか?
坂本 え?えっと……まあええやんか。言葉くらいで偏見もたんでも。 なあ。
のぞみ うん。京ちゃんが悪い!
京子 うるさい。
坂本 まあでもあの子が近藤美沙なんは間違いないんやろ?そうや。 ほんとはそれだけわかったらええねん。よっしゃ、今日の仕事終わりや。 帰ろ帰ろ。

   坂本、去る。坂本、戻る。

坂本 あかん。やっぱ気になるわ。彼女が言うてた瀬川誠て誰やねん。
京子 言わないと言ったはずです。行くよ。 のんちゃん。
のぞみ ああー待ってよー。

   京子、のぞみ去る。

坂本 何や余計気になるやんか。あれ?瀬川 誠てどっかで聞いたような気がするな。瀬川 誠……瀬川誠……

   坂本、呟きながら去る。

のぞみ ねえ、美沙ちゃんってずっとあのままなの?
京子 うん。治ったって話は聞かなかったからね。
のぞみ 何で美沙ちゃん、誠君だって言うようになっちゃったんだろ。 誠君の魂が美沙ちゃんに乗り移ったのかな?
京子 まさか。私は霊魂の存在なんて信じないよ。 あれは美沙ちゃんの精神病なんだよ。 目の前で誠君が死んだから。
のぞみ あの時……だるまさんが転んだしてたよね。
京子 のんちゃん鬼だったよね。何があったか覚えてる?
のぞみ 美沙ちゃんの悲鳴が聞こえて、振り返ったら誠君がいなかった。 それで美沙ちゃんと京ちゃんがずっと川を見てた。それしかわかんない。 それ以上聞いても答えてくれなかったでしょ。何があったの?
京子 美沙ちゃんが誠君にぶつかったんだ。 美沙ちゃん、後ろ向いて走ってたからね。不可抗力だとは思うけど。
のぞみ うそ!そんなこと聞いたことない。
京子 言ったことないもん。見てたの私だけだったからね。
のぞみ 何で言わなかったの?
京子 言ったら美沙ちゃんの病気を悪化させるだけだろ。最も、 当時はそこまで考えてなかっただろうけど。ただ美沙ちゃんが黙 ってるなら言っちゃいけないだろうし。誠君もその方がいいだろ うなって思って。まさか美沙 ちゃんがあんなことになるとは思わないから。
のぞみ 美沙ちゃん可哀相……。ずっと責任 を感じてるんだ。あ、そうだ。京ちゃん、さっきの男の人なんだと思う?
京子 死神……だろ。
のぞみ 信じてるんだ。
京子 ……知ってるからね。死神がいるってことは。 私の従姉も、死神に名刺貰って、一週間後に死んだ。
のぞみ そっかー。美沙ちゃん……誠君はどう思ったのかな?
京子 近藤美沙は五年前に死んだ。一度死んだ人間がもう一度死ぬこと はない……。信じてるのが前提の発言だね。
のぞみ 誠君笑ってた。自分を殺した美沙ちゃんがやっと死ぬって 思って嬉しかったのかな?
京子 誠君は美沙ちゃんのこと恨んだりしてない。あれは美沙ちゃんが 勝手に思い込んでるだけなんだ。自分で被害者になりきって自分を 責めて……そんなことしたら一番辛いのは誠君のはずなんだ。…… 鈍感すぎるよ。美沙ちゃんは。
のぞみ 京ちゃん……。

 

坂本 先輩。先輩。聞いてますか?先輩。
先輩 あら。坂本君。お久しぶり。あなたが私のところへ 来るなんてどういう風 の吹き回しかしら?
坂本 今日は先輩に聞きたいことがあって来たんです。
先輩 そんなとこでしょうね。仕事のこと?
坂本 当たり前やないですか。あの、先輩。 瀬川誠って知ってますか?
先輩 瀬川誠……。
坂本 何か先輩から聞いた覚えあるんですよ。知ってますか?
先輩 あなたはそれをどこで聞いたの?
坂本 えっと……今度の僕の担当の近藤美沙言う子に死の宣告しに 行ったときです。何か自分は近藤美沙やない瀬川誠や言うてるんで すよ。でもどうみても女の子やし僕をからかってるようにも見えへ んかったし。何か友達は複雑な事情がある言うてたし。それで気に なって。
先輩 そう……。
坂本 先輩、瀬川誠て知ってますよね。
先輩 知らないわ。
坂本 ええ?僕、先輩から聞いたんですよ。
先輩 あなたの勘違いよ。坂本君、近藤美沙 の魂刈ったら瀬川誠のことは忘れること。いいわね?
坂本 やっぱり知ってるんやないですか。教えて下さいよ先輩、先輩!

 

のぞみ ねえ……どうするの?美沙ちゃん……一週間後に死んじゃうんだよ。
京子 わかってるよ。だから悩んでるんだよ。美沙ちゃんを あのまま死なせたくない。せめて美沙ちゃんとして死なせてやりたい。
のぞみ 美沙ちゃんを美沙ちゃんに戻すんだね。大賛成!やろう。やろう。
京子 気楽だなあ。どうやるかが問題だろ。
のぞみ 考えるのは京ちゃん。
京子 言うと思ったよ。……私は時間をかければ何とかなると思ってたんだ。 ようするにその内治るだろうって思ってたんだ。でもその時間がない。 五年もあの状態なのにいきなり一週間で戻すなんて……。
のぞみ 京ちゃんらしくないぞ。あきらめるな。
京子 あんまり傷口にふれると逆効果になる 恐れがあるしな。美沙ちゃんは周りに甘えて るだけだと思うんだ。あなたのせいじゃない よって言ってもらいたいだけなんだ。だから 美沙ちゃんは美沙ちゃん自身を憎みながらも 自殺はしてない。
のぞみ 戻る前に死んだら意味がない!頑張って考えろ。
京子 でも何か言って発作的に自殺する可能性はある。 特に私は人の傷口を広げるような こと多いからな。
のぞみ そんなことないぞ。自分に自信を持て。
京子 やっぱりそっとしておくのが一番なのかな。 一週間後に死ぬなんてあの男の話を信じればなんだし……。
のぞみ 弱気になるな!

   京子、のぞみを見る。

のぞみ ……終わり?
京子 馬鹿野郎。お前も何か考えろ。
のぞみ 応援してたのに……。それに女の子に野郎はひどい!
京子 馬鹿女。
のぞみ あ。そっちの方が傷つく。
京子 じゃあこれからそう言おう。
のぞみ ひどい!京ちゃん。
京子 いいから考えろ。
のぞみ うーん……。

   二人、何かに気付く。

京子 今のは……
のぞみ 死神さんだ!
京子 ちょうどいい。もう一度話を聞いてみよう。

   京子、のぞみ、去る。
   美沙、出てくる。

美沙 やっぱりさっきのは京ちゃんにのんちゃん。 ……それにしても京ちゃんまであの男の話信じてるの かな?いや、僕は信じる。だいたい近藤美沙が今まで 生きてきたこと自体おかしいんだ。僕を殺しておきな がら。あの恐怖の瞬間は忘れられない。川は深かった。 水は黒くにごっていた。僕は流された。知らない町ま で流された。近藤美沙は僕を突き落としておきながら 泣いた。大人の前で悲しそうに泣いたんだ。許せない。 (急に変わって)……どうして泣いたんだろう。

 

のぞみ 死神さん!
坂本 わっ。何や君ら。どっから湧いた。
のぞみ 死神さん。聞きたいことがあるの。
坂本 あ!ちょうど良かった。ぼくも君らにちょいと聞きたいことがあるんですよ。
京子 聞きたいこと?
坂本 君ら前んとき言わんかったやろ。瀬川 誠て死んだ男やないですか。
京子 調べたんですか。
坂本 まあ……興味ありましたからね。それに瀬川誠言うんは 僕の先輩が担当してた奴なんですよ。先輩の初仕事や言うてた ような気がするんです。
京子 それで?
坂本 何か失敗したらしくて先輩も詳しく語らないんですよ。 やから正確なとこはいまだ わからないんです。それで近藤美沙にでも会って話聞こうかなと。
のぞみ それって死神の仕事?
坂本 いやあ。単なる好奇心です。
京子 じゃあそういう詮索はやめて下さい。 私たちはもう誠君のことに触れたくないんです。
坂本 そんなこと言うてもあの子が瀬川誠を 名乗ってる限りふれないわけにはいきませんよ。 のぞみ あっ、美沙ちゃん。
坂本 えっ?

   美沙、入ってくる。

美沙 やっぱり京ちゃんその男の話、信じて るんだね。死神さん、美沙はどうやって死ぬ んだい?なるべく苦しませてやってくれよ。
坂本 君なあ自分のことやねんど。
美沙 僕は瀬川誠です。
坂本 あかんわ。話にならん。なあ君、なんでそんなこと言うようにな ったんや?昔は普通の子やったんやろ?
京子 単なる逃避行動ですよ。自分の犯した 罪から逃げてるだけです。
美沙 そうだ。美沙は僕を殺したんだ。そしてのうのうと五年間も 生きてきたんだ。苦しまなくちゃ嘘だ。
京子 じゃあ何で自殺しなかった?自分が生きてることが許せなかった なら自殺でも何でもすれば良かったじゃないか。今だって恐い んだろ?自分が死ぬことが恐いんだろ?自分 で死ぬ勇気もないくせに苦しみたいなんて嘘 を言って。……いつまで甘えてるつもりだよ。君は後六日で死ぬんだ。 そろそろ大根芝居はやめろよ。
美沙 芝居だって?僕は瀬川誠だ。五年前美沙に殺された男だ。 死んだ人間なんだ。だから美沙を殺せなかった。美沙は拒否するんだ。 死ぬことを。僕に死の恐怖を味あわせておいて美沙はそれから逃れよう とするんだ。不公平じゃないか!僕だけ苦しむなんて。
のぞみ 美沙ちゃん。誠君はそんなこと考えてない。それに死んだのは 美沙ちゃんじゃないよ。死の恐怖を味わったのは誠君だよ。このまま 誠君のままでいると美沙ちゃん二度も 恐怖を味わうことになるよ。
坂本 いやあ、僕はベテランですから、死の 直前に恐ないよう魂抜いてやな……
美沙 だいたい京ちゃんは僕の死を見ておきながら涙ひとつ流さなかった。 いつものように冷静な顔をしてただじっと川を見つめていたんだ。 僕が死んだ後も何事もなかったような顔をして美沙に「遊ぼう」 って言ってきたんだ。笑ってるんだ。僕が死んだのに。笑ってたんだ。 美沙がいなくなったのに!
のぞみ 美沙ちゃん!美沙ちゃん。
美沙 美沙が死んだ後もまたああやって笑う んだろ。何事もなかったかのように笑うんだろ!
のぞみ 美沙ちゃん!やめてよ!……京ちゃん……。
京子 お願いだよ。戻ってきてよ、美沙ちゃん。……私……あれから ずっと一人だ……。

 

坂本 もうわけわかりませんよ。先輩、そろそろ説明してくれても ええんちゃいますか?
先輩 私にもわからないわよ。あの後何が起こったかなんて。
坂本 あの後?
先輩 瀬川誠が死んだ後。そもそもあの子は 死ぬ予定じゃなかったのよ。
坂本 ええ?
先輩 死の宣告はしていたわ。だけど急に自殺者が出ちゃってね。 あの子の死は先送りされる予定だったの。でもその時の私はまだ 駆出しの新人で早く魂を刈ってみたかったのね。だから……連絡 不行き届きと言うことにして私は瀬川誠の魂を刈ったの。
坂本 それって……殺人やないですか!
先輩 殺人よ。でも人間は気付かないわ。人間の法律で 私たち死神を裁くことなんて出来ないしね。
坂本 そんな……先輩がそんなことしたからあの三人の運命が 狂ったんですよ。いや、一番かわいそうなんは瀬川誠や。死な んでもええとこで死んでもうて。
先輩 あの子は頭のいい子だったわ。死の覚悟はしていたはずよ。 ちゃんと死の宣告はあったんだから。
坂本 でも!
先輩 なーに?坂本君。私に意見するの?
坂本 いや……。
先輩 いい?死神なんてね。ただ魂を刈って ればいいの。死の宣告はほんのおまけ。困ったことにやらない人の 方が多いのよね。その 点今でもちゃんと死の宣告をやってる私は死神としちゃ合格のはずよ。
坂本 死神言うても元人間やないですか。人間として失格ですよ。 僕は今でも魂刈るの恐い。人の命左右するんですよ?人間やった時 は考えられへんかった、そんなこと。人の運命とか人生握るってそ うとう恐いことやないですか。そうとう勇気いることやないですか。 僕は遊び気分でやれるもんちゃうと思てます。
先輩 あなたよく死神 になれたわね。死神になるのはもっと非情な心を持った悪人だけなんだけ どね。残虐な犯罪者が増えてる今、あなたみたいなのがなったりするのか しら。
坂本 人間の数の方も増えてますからね。人材不足なんちゃいますか。 それに僕も犯罪犯したもんには違いないですし。でも子供の担当だけは なりたなかった。子供は死の宣告の 意味も理解せんとじーっと見つめるんです。 無邪気な目して。
先輩 もうやめなさい。あなたの愚痴を聞いてる暇なんかないのよ。 死神やめたいならとっとと地獄に落ちればいいじゃない!
坂本 先輩!

   間。

坂本 ……それが出来へんねんからここにおるんやないですか。 ……死ぬ勇気か……地獄に落ちる勇気と一緒かな……。

 

のぞみ だーるまさんがーこーろんだ。京ちゃん動いた。駄目だよ。 嘘ついたって。みんな見てるもんね。だーるまさんがーこーろんだ。 誠君!……誠君がいなくなってのんちゃんはほんとに淋しかったんだ。 美沙ちゃんは壊れちゃった。みんながそう言ってる。のんちゃんは あの時の美沙ちゃんの悲鳴が忘れられないんだ。のんちゃん、あの 時鬼だった。鬼が止まれって言ったらみんな止まるんだ。 ……もっと早く言ってれば良かったのかな。一二三四五六七八九 十止まれ!……数えるの早くなったよ。今なら誠君が川に落ちる 前に止められるよ。きっと。京ちゃん、美沙ちゃん、誠君。もう 一度やり直そうよ。誠君…… もういないんだ……。

 

京子 明日は誠君の誕生日だね。
坂本 バレンタインデーが誕生日か。ええのか悪いのかようわからんな。
京子 坂本さんはチョコなんかもらったことないんでしょ。
坂本 ありますよ!母さんからと妹からと姉さんからと……。
京子 指折りしながら数えるようなもんですか。
坂本 いや、妹は二人おってね。やから……
のぞみ 兄ちゃんは?
坂本 僕は兄ちゃんなんかいませんよ。弟ならおりますけど。
のぞみ 弟からチョコもらったことある?
坂本 ありますよ。……って、変な意味ちゃいますよ!弟はなんやえらいもててたんで バレンタインデーなんかチョコようけもらってくるんです。 それでおすそわけ言うやつで。
京子 情けない……
のぞみ 情けない!
坂本 別に欲しいと思たことないですけどね。チョコ自体があんまり 好きやないんですよ。 甘くて。甘くて。
京子 ひがみととりましょうか?
坂本 好きにして下さい。
のぞみ チョコあげようか。
坂本 ほんとですか!?
京子 欲しいんじゃない。
坂本 いやあ。もらって困る言うことはないです。 食べれん言うほどでもないし。今やったらにきびも出来たりせんやろし。
京子 男の人って嫌いな子からもらっても嬉しいんですか?
坂本 え?どうかな。僕みたいなもてへんもんは好いてくれる子が 一人でもおれば嬉しい ですよ。それに僕は人の好き嫌いはせえへんし。まあそれも人によるで しょうけど。
のぞみ のんちゃんからもらったら嬉しい?
坂本 ……気持ちだけで十分です。
のぞみ ブー。
京子 ほんとは気持ちの方がいらないんじゃない?
坂本 いや……
のぞみ のんちゃんのこと嫌い?
坂本 だって僕はもう二十歳……あっ、君ら高校生やったな。
のぞみ 花の女子高生!
京子 何の花だ。
坂本 そうか……高校生やねんなあ。
京子 見えませんか?
坂本 見た目はともかく……のんちゃんてまるっきり子供やで。
のぞみ バブー。
京子 誠君の死で人生変わったのは美沙ちゃんだけじゃないんですよ。
坂本 ……のんちゃんもそうや言うことか?そういや君、前に自分、 一人ぼっちや言うてたな。美沙ちゃん戻ってきてとか。君には のんちゃんがおるんやないですか?
京子 小学校の頃ののんちゃんならいますけどね。私ももう 高校生ですから。高校生の友達が欲しいんです。
坂本 ふーん。なんとなくわかりましたわ。 ようするにあれやろ?のんちゃんはあの事件 以来、こころの成長を止めてしまった。
京子 そうですね……
坂本 結局あの事件で何も変わらんかったんは君だけですか?
京子 ……。
坂本 君はあんまり気にしてなかったんか。 そういや美沙ちゃんも言うてたな。泣きもせんかったって。
京子 人に涙は見せない主義なんです……

   沈黙。

坂本 あ、明日は誠君の誕生日ですね。僕も 行ってええですか?
のぞみ ええー。女だけのパーティーなのに。
京子 誠君は男だよ。……別にいいんじゃないの。 美沙ちゃんのお母さんに追い出されない限りは。
坂本 美沙ちゃんのお母さんて美人ですかね。
京子 会ってみればわかりますよ。

 

坂本 先ぱーい。坂本です。お呼びですか。
先輩 最近気になってることがあるの。
坂本 何でしょうか。
先輩 あなた、近藤美沙に関わりすぎじゃないの?
坂本 え?
先輩 誕生会に出るんですって?しかも京子、のぞみという二人と 何度も会ってるそうじゃないの。
坂本 あ、知ってはったんですか。
先輩 あなたの行動くらいつかめなくてどうするの。 私はあなたのことなら何でも知ってるわ。私は後輩た ちの中で一番あなたのことを心配してるの。
坂本 そうなんですか……
先輩 だから警告しておくわ。明日の誕生会 に行くのはやめなさい。
坂本 え?
先輩 危険だわ。死神の仕事を失敗すれば地獄に落ちる。 嫌よね?地獄なんか。
坂本 そりゃ……
先輩 あなたが誕生会に行けばあなたは失敗 する。私にはわかるわ。
坂本 でもあの子は時間的に誕生会の最中に 死にますよ。やからどっちにしても行かんことには仕事にならんのです。
先輩 そうね……私もそのことは気になってるのよ。死が誕生会の最中に 突然くるわけでしょ?おかしいじゃない。病気でもないのに。 死因は何なの?
坂本 さあ……知りません。
先輩 あなた担当の子の死因も知らずに仕事 してるの?
坂本 死に場所と死ぬ時間さえわかっとれば 仕事は出来る言うたん先輩やないですか。
先輩 あら。そうだったかしら。じゃあ死ぬ 場所はどこなの?
坂本 えーっと公園の木の下……。あら。何でこんなとこで死ぬんやろ。
先輩 あなたね……
坂本 わー。これは僕も気になりますわ。ちょっと調べてきます。

   坂本、去る。

先輩 公園ね……。誕生会を抜け出していくのかしら。……気になるわ。

 

のぞみ お誕生日おめでとう誠君!
美沙 ありがと……
京子 坂本さんは遅いね。来るって言ってたんだけど。
美沙 あの死神か?来るだろ。だって美沙は 今日死ぬんだから。
のぞみ 死神さんに頼んで、死ぬの先伸ばし してくれないかなあ。
美沙 美沙は死ぬんだ!死神が拒否するなら 僕が殺してやる。
京子 まだ出来もしないことを言う。
美沙 京ちゃん。僕は本気だよ。
京子 ……

   母、入ってくる。

母(先輩)あら?お誕生会なのにずいぶん暗い雰囲気ねえ。 もっと明るくしましょうよ。 ほらハッピバースディトゥユウ……(歌う)
のぞみ ハッピバースディトゥユウ(一緒に 歌いだす)
京子 (ひそひそ声で)何か美沙ちゃんのお母さん変わった?
美沙 さあ。朝からああなんだ。
 ハッピバースディディア誠君。ハッピバースディトゥユウ。 さ、誠君。火を……。ああ!ろうそくがない。どうしましょ。
坂本 すみませーん。
 あっ、誰か来たわ。
坂本 お邪魔しまーす。
 あらあ。あなたが坂本さんね。美沙とは どういう関係か知りませんがどうぞよろしく。
坂本 せ……先輩!
京子 え?
 え?いえ何かしら!
坂本 何してるんですか先輩。そんな格好で。どうやって 潜り込んだんですか?
先輩 あの子たちには私は美沙の母親に見えてるの。
坂本 先輩〜。また規則違反ですか。
先輩 あら。私これくらいのことならしょっちゅうやってるわよ。
坂本 主任に怒られないんですか?
先輩 大丈夫よ。そこはほら私の魅力で。
坂本 でも先輩は近藤美沙の担当ちゃいますやろ。仕事外ですよ。
先輩 可愛い後輩のため。ね?
坂本 …………
先輩 それより死因はわかったの?
坂本 はあ……。
先輩 何だったのよ。教えなさい。
坂本 先輩。
先輩 何?
坂本 先輩は瀬川誠殺したこと後悔してますか?
先輩 え?
坂本 後悔してますか。
先輩 そうね……あなたにああ言われちゃったからね 。悪いことしたなあとは思ってるわ。
坂本 この上近 藤美沙を殺すんはどう思いますか。
先輩 殺すって……それは……仕方ないじゃない。寿命よ。
坂本 ほんまにそう思てますか?近藤美沙は 五年間近藤美沙として生きてないんですよ。 近藤美沙の五年間は空白なんです。
先輩 どうしたの?それより近藤美沙の死因 はなんなのよ。
坂本 先輩……僕ちょっと用があるんでこれで……
先輩 え?ちょっと!

   坂本、去る。

のぞみ 京ちゃん。死神さん帰っちゃったよ。
京子 え?
 ああ。あの人なら気分が悪くなったって。じ ゃあ私もこれで。
京子 気分が悪くなったって……どうするんだろう。仕事。
美沙 やっぱりインチキだったのかな。
のぞみ え?
美沙 やっぱりインチキだったんだよ。死神 なんてこの世にいるわけないんだ。
のぞみ じゃあ美沙ちゃんは死なないんだ。
美沙 言ったはずだ。死神が殺さないなら僕 が殺す。近藤美沙は死ぬべきだ。
京子 まだそんなこと言ってるの……
美沙 僕は美沙が憎いんだ。
のぞみ 駄目!誠君は美沙ちゃんのこと嫌い じゃないよ。誠君はみんなが好きだよね?ね !
美沙 のんちゃんのことは好きだよ。あの時 のままだもん。のんちゃんを見てるとすごく 懐かしくなれる。
のぞみ 誠君……
美沙 京ちゃん。僕は京ちゃんのこと好きだったんだよ。 一番好きだったんだ。なのに京 ちゃんは僕のこと嫌いだったんだ。 いや、気にもとめてなかったんだろう。だから僕が死んだ後も 平気でいられるんだ。
京子 何でそんなことがわかるんだ。私は誠 君のこと好きだったよ。逆なんだ。誠君の方 が私の存在なんか気にもとめてなかった。
美沙 ……嘘だ。
京子 ホントだよ。私は嘘はつかない。それに君も誠君なら、 自分の気持ちくらいわかるだろ?
美沙 ……嘘だ!誠君はいつも京ちゃんと一緒にいたじゃないか! いつも誠君の方から京ちゃんに話しかけてた。私はずっと京ちゃん に嫉妬してた!
京子 美沙ちゃん……
のぞみ 美沙ちゃん……
美沙 私はあの日誠君に告白するつもりだった。ずっと前から 誠君の誕生日のバレンタン デーに告白するつもりだった。でも誠君はプレゼントをいらない って言った。なのに京ちゃんには何も言わなかったんだ。 京ちゃん覚えてる?私が誠君の誕生日プレゼントを買おうとしたら 買っちゃ駄目だって言ったの。ずるいよ!私より誠君に近かった くせに。私が 誠君のこと好きだって知ってたんでしょ?なのに……ひどいよ!
京子 美沙ちゃん勘違いしてる。確かに私は あの当時誠君と一緒にいたし美沙ちゃんが誠 君を好きなのは知ってた。
美沙 ほら!やっぱりそうじゃないか。
京子 その理由を勘違いしてる。誠君が好き だったのは……私じゃない!
美沙 京ちゃんが気付かなかっただけだよ。 誠君は京ちゃんのことが好きだった。
のぞみ 違うよ!
美沙 え……
のぞみ 誠君が好きだったのは美沙ちゃんだよ!
美沙 ……。
のぞみ 誠君は京ちゃんにそのことを相談してたんだ。 どうやって告白したらいいかとか。今の関係を壊したくないとか。 誠君もすごく 悩んでたもん。
京子 のんちゃん……知ってたの?
のぞみ うん……
美沙 嘘よ。だって……誠君は……
京子 誕生日プレゼントはいらないって言った。 でも美沙ちゃん肝心なこと忘れてる。誠 君はこう言ったんだ。「僕の誕生日にはプレゼントはいらない。 チョコレートが欲しい」 って。
美沙 そんなこと……
京子 言ったでしょ?いくら鈍感な美沙ちゃんでも今ならその 意味わかるでしょ?
美沙 何で京ちゃんはそんなこと知ってるの !
京子 ……私がそう言えって言ったんだ。そしてチョコをくれたら ちゃんと告白しろって。誠君は不安だったんだ。美沙ちゃんが自分 のことを好きかどうか。
美沙 京ちゃん知ってたじゃない。何で言わなかったの?
京子 私に言えるわけないじゃないか……
美沙 何でよ!
のぞみ 美沙ちゃんは鈍感すぎるよ!美沙ちゃんが鈍感すぎるから こんなことになっちゃったんだよ。もう誠君になるのはやめたの? ううん……誠君じゃないよね。美沙ちゃんのこと嫌いな誠君なんて 誠君じゃないもん。
美沙 だって……知らなかったから……
のぞみ 嘘だ。チョコ欲しいってセリフは覚えてたはずだ。 わざと忘れたんじゃない?誠 君になるために。自分のせいって言う責任から逃れるために。 京ちゃんの言った通りだ。 美沙ちゃんは甘えてただけだった。
京子 のんちゃん……
美沙 ……じゃあのんちゃんはどうなの?自分にも責任があるって 思ったからわざと何もわからない子供のふりしてるんじゃないの? さっきから聞いてたら全部わかってるじゃない。何もかも知ってる んじゃない。逃げてたのはどっち?甘えてたのはどっちよ!

   美沙、泣きだす。
   沈黙。

京子 美沙ちゃん。のんちゃん。もうやめようよ。私も疲れた。 誰のせいでもない。運が 悪かったんだ。あの日に誠君が死んだから。 何もなければ誠君は美沙ちゃんに告白するはずだった。 誠君が死んだのだって運だ。あの日はたまたま雨の後で川が 増水してていつも 遊んでる場所が使えなくて、慣れない場所で 遊ぶことになった。全部運なんだ。
美沙 ……そんなふうに割り切れないよ、私は。京ちゃんみたいに 何もかも知ってたわけじゃないんだから。私は何も知らずに誠君 として自分を恨み続けてた。結果的に私は誠君を傷つけただけだった!

   美沙、出ていく。

のぞみ 美沙ちゃん!(間)……京ちゃん……
京子 美沙ちゃんは美沙ちゃんに戻ったね。 ……でもやっぱりまずかったかな……。せめてもう少し早くに……。
のぞみ 京ちゃん、そんなこと言ってる場合 じゃないよ。
京子 のんちゃん。のんちゃんはあの誠君の 告白、私が考えたものだって知ってた?
のぞみ うん。……だってキザだもん。あんなこと考えるの 京ちゃんしかいないなって。
京子 キザか……。知ってる?キザっていう字は気に障るって書くんだ。
のぞみ え?
京子 誠君の思いが通じなかったの、美沙ちゃんのせい ばかりには出来ないかもね。原因 は何もひとつじゃない。
のぞみ …………
京子 行こう。美沙ちゃんが心配だ。
のぞみ ……やっぱり止まれが遅すぎたのかな……
京子 え?
のぞみ 何でもない。

 

美沙 死神さん……。
坂本 やあ。来ましたね。
美沙 どうしてここに……。
坂本 決まってますやろ。仕事です。
美沙 ……本物だったんですね……。
坂本 何や信じてなかったんですか?
美沙 信じろと言うんですか?
坂本 何やいつかの京子ちゃんみたいなこと 言うなあ。まあええわ。僕らのこと信じてくれる方が珍しいしな。 でも君は信じてくれてる思てたんやけどな。
美沙 表面上、信じたふりをしてました。いや実際誠君でいるときは信じてたんです。たぶん……
坂本 君は……美沙ちゃんか。
美沙 はい。
坂本 いや、ようたく会えたってとこかな。 どうやったんかは知らんけどあの二人、成功 したっちゅうことかな。
美沙 そうですね。
坂本 僕も心配してたんですよ。何かあのまま魂取ってたら僕、めっちゃ悪者やんとか思て。
美沙 死神さんは大阪の方ですね。
坂本 ……どういう意味?
美沙 いえ……
坂本 僕は大阪人ちゃいますよ。まあ僕ら死神に過去 なんてないんですけどね。故郷なんてあってないようなもんや。
美沙 あるんですか?
坂本 人間やった時はあったやろな。でも今 は死神やけん。うん。ない。
美沙 人間……だったんですか。
坂本 ああ。元人間ですよ。
美沙 人間って……死ぬと死神になるんですか。
坂本 ごく一部のもんだけですよ。魂刈る素質のあるもん。
美沙 私には素質あるんでしょうか。
坂本 何や?なりたいんか?
美沙 いえ……。でもなれば死んでからも京ちゃんと のんちゃんが見れるじゃないですか。
坂本 あ、それ駄目ですよ。みんなそういう 変な感情持たんよう自分に関係あるもんが住 んでないとこで仕事するんです。いや僕も始 めは地理に詳しないから迷った迷った。死神 が仕事に遅刻すると大変やからなあ。……ま 、結構してんねんけど。それにしても君、死 んでからも二人のこと見たい言うてたけど生 きてたらいくらでも見れるやないか。
美沙 死神さん……私が何するかわかってるんですね。
坂本 そら死神ですからね。
美沙 止めるつもりなんかないんでしょ? 何でそんなこと言うんです?
坂本 いや……何で言われても……やっぱ 僕、死神向いてないんかな。
美沙 私……誠君を傷つけたんです。一番 傷つけちゃいけない人を。自分のわがまま のために。だから……
坂本 そうやって余計に誠君を傷つけることになるんちゃうか?
美沙 わかってます。でも……私はもう生きられない……

 

のぞみ 美沙ちゃん!美沙ちゃん。美沙ちゃん!京ちゃん、美沙ちゃん息してないよ! 美沙ちゃん!
京子 坂本さん。
坂本 いやあ。ようこの場所わかりましたね。女の勘いう奴ですか?
京子 坂本さん……
坂本 これも仕事ですから悪く思わんで下さいよ。 京ちゃんとのんちゃんののぞみ通り一応美沙ちゃん は元に戻ったんやし。 先輩 坂本君……
坂本 先輩。
先輩 この場所は私が教えたの。と言っても 私は公園としか知らなかったからね。大分駆 け回ることになっちゃったけど。
坂本 何でそんな……
先輩 規則を破りにきたんじゃない 間に合わなかったみたいだけどね。 私ずっと気にしてたの。主任に言われてわざ とやったってことにしたけどあれは本当に連 絡不行き届きだった。聞いた時は本当に恐か ったわ。死ぬ予定のなかった者の魂を刈った なんて。あなたの言う通りそんなの単なる殺 人だもの。
坂本 先輩……
先輩 こんな感情に走った行動は死神として 許されないわ。でも主任は私に対して弱みが あるからね。多少のわがままは大丈夫なのよ 。だから救いたかった。あなたの責任もある のよ。あんなに詳しく状況を説明しちゃって。 感情に走るなって方が無理だわ。事情なんて 知らない方がいい。魂を刈る相手に接するの が……そもそもの間違いだわ。ほかの死神が あまりやらないのはそれが嫌だからかもね… …。
坂本 …………

   間。

坂本 先輩、
のぞみ あ……美沙ちゃん?美沙ちゃん!
先輩 どうしたの?
のぞみ 美沙ちゃんが動いた!ほら。美 沙ちゃん。美沙ちゃん!
先輩 どういうこと?……坂本君。そういえ ば……近藤美沙の魂は……
のぞみ 京ちゃん!美沙ちゃん、目を開けた。
美沙 のんちゃん……。
のぞみ 美沙ちゃん!美沙ちゃん!
先輩 坂本君……。
坂本 ……僕は先輩みたいに主任の弱み握ってる わけじゃありません。素直に地獄に落ちとりゃこ んなに悩まんですんどったんです。……先輩、い ろいろお世話になりました。
先輩 坂本君。……馬鹿ね。主任の弱み握ってる のは私よ。私はあなたの先輩。わかる?
坂本 先輩……。
先輩 処分くらいですむわよ。私も一緒に受ける わ。ほら、主任に言って今日瀬川誠が死んだこと にしましょ。実際瀬川誠は近藤美沙 に乗り移ってたようなもんなんだから。
坂本 先輩……ありがとうございます。
先輩 いーの。いーの。坂本君、あなたやっぱり 私の思った通りの人だったわ。
坂本 え?
先輩 行きましょう!

 

美沙 私……死ななかったってこと?
京子 みたいだね。あの死神さんの仕業だよ 。いいとこあるじゃん。
美沙 よくない。私、誠君を傷つけちゃった んだ。もう生きてたくない!
京子 またわがまま言い出す。そんな気持ち 今だけだよ。死ぬとまた後悔するよ。誠君を 傷つけた!ってまた泣くことになる。それに 美沙ちゃんまた自分が生きたくないの誠君のせいにしてる。
美沙 あ……
京子 自殺してまた泣きたい?
美沙 死んでからじゃ泣けないじゃん。
京子 屁理屈言ってんじゃない。ゃん?美沙 ちゃん。私の言うことを信じろ。
美沙 京ちゃんはいつも最もらしいこと言うからなあ……。
京子 これは事実。私だって誠君が死んだ時 死にたかったもん。
美沙 京ちゃんが?だってあの時は……
京子 忘れることが私の死に対する対抗手段。 誰かさんのおかげで忘れられなかったけどね。
美沙 ……ごめん。
京子 いいよ。忘れなくて良かったのかもしれない。
のぞみ 知れないじゃない。忘れちゃ駄目。 誠君は大切な友達だよ。
京子 そうだね。タブーにしちゃいけなかった。 まあそれが私の性格だったんだけどね。
のぞみ 誠君のこと忘れない?
京子 忘れないよ。大切な友達。そして私と 美沙ちゃんの初恋の人。
のぞみ よろしい。
京子 のんちゃんはそのまんまなの?
のぞみ これが私の性格だから。
京子 上手いこと言うようになったな。
のぞみ ……ね、だるまさんがころんだやろうか。
京子 ええ?あんた高校生でしょ。恥ずかしくないの?
美沙 私、やりたいな。
のぞみ あの時の続き。誠君はいないけどさ。ね、やろうよ。
京子 ……全く。一度だけだよ。こんな公園のど真ん中で……。
のぞみ いいじゃん。少しくらい。童心にかえろう!
京子 のんちゃん鬼だね。
のぞみ うん!いくよ。だーるまさんがーこーろんだ。あ、京ちゃん動いた。
京子 ええ?動いてないよ。
のぞみ 絶対動いた。動いたよね?美沙ちゃん。
美沙 動いた。動いた。
京子 見間違いだよ。
のぞみ ええい。往生際が悪いぞ。京ちゃん。京ちゃん捕まえた。だーるまさんが―――

   音楽とともに…… 

―幕―


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