春のうららの森の中

【今日は森の長老を決める日。さあ森の中に一番長くいる人間は誰だ?ゾンビ?それは人じゃあないぞ……】

   台の上で寝ている男。名はショウ。
   ショウはぼろぼろの破れたマントを付けている。
   側には目覚まし時計らしき物。
   ショウのいびきが聞こえる。
   突然、目覚ましが鳴る。
   ショウ、眠ったまま目覚ましを止め、再び眠りに入る。
   リス、歌いながら登場。
   手には花。舞台のいろいろなところに置いていっている。

リス 咲いたー咲いたーちゅうりっぷの花がーならんだーならんだー赤白黄色ー。

   間。寝ているショウに気付く。

リス ショウちゃん。
ショウ うう……ん。
リス ショウちゃん、起きてよ、ショウちゃん。朝だよ。ショウちゃん。

   間。

リス ねずみ!
ショウ ねずみじゃねえっ!(飛び起きる)
リス おはよう。
ショウ あ……?リス、今のお前か。
リス えっとー。
ショウ お前だな!おれはねずみじゃねえって何度言えばわかるんだ!
リス でもでも。羽のないこうもりなんてねずみだってカナちゃんが……。
ショウ おれはショウだ!
リス ねずみじゃないの?
ショウ ねずみじゃない!
リス でも羽ないじゃん。
ショウ だ、だからっ。こうもりでもねえんだよ。
リス わかんない。
ショウ もういいよ。(寝る)
リス ショウちゃん、寝ないでよ。もう朝だってば。
ショウ おれはお前と違って朝日と共に起きる習慣はないんだよ。
リス 日が沈むと眠るくせにー。
ショウ 暗いと何も出来ないからな。
リス 月があればいいじゃん。今度月明かりで踊ろうよ。薄暗い中踊るのっていいよ。
ショウ 一人で踊ってろ。
リス 一人じゃつまんない。
ショウ てめえ毎晩一人で踊ってるじゃねえか。
リス 見てたの!?
ショウ 他に見るもんないからな。
リス ひっどーい。ショウちゃん日が沈んでも起きてるんじゃん。
ショウ おれはこれでも昔は日暮れと共に起きて夜明けと共に寝てたんだ。
リス 自慢になんないよ。不良。
ショウ やかましいっ。仲間もみんなそうだったんだ。
リス 見捨てられたくせに。
ショウ う……。
リス 生活習慣変えたのもみんなに会いたくないからでしょ。でもね、ショウちゃんのことなんかみんなもう忘れてると思うよ。
ショウ お前って笑ながら人の心の傷、えぐるのな……。
リス まだ立ち直ってなかったの?4年前の話じゃん。
ショウ お前が!そうやって度々思い出させてんじゃねえか!(首を絞めながら)
リス ぐう……苦しい、苦しいショウちゃん。
ショウ だいたい今日は何の用だよ。また変なもんでも見つけたのか。
リス あのね、ショウちゃん。もう春なんだよ。
ショウ だから何だ。
リス 隣村の蛙さんも、その向こうの蛇さんも冬眠から目覚めたの。
ショウ へえ。
リス もちろんこの村の熊さんだって目覚めたよ。
ショウ 熊が?
リス うん。
ショウ 何で哺乳類なのに冬眠するんだ?
リス 知らない。
ショウ で、何が言いたい。
リス だから!今日は森の長老を決める日じゃん。
ショウ あ。あああああああああああ!
リス ど、どうしたの。
ショウ しまった!忘れてた!どうしよう!逃げよう!

   ショウ、逃げる。

リス ショ、ショウちゃん?

   ショウ、戻ってくる。
   カナ登場。手には猟銃。

カナ リスちゃん。今日は新しい諺を教えてあげる。仏の顔も三度まで。はい、ショウ。意味は?
ショウ ほ、仏といえど、許してくれるのは三度目まで……。
カナ はい、よく出来ました。ショウ、約束を忘れたのはこれで何回目でしょう?
ショウ 3……いえ、4回目です。
カナ はい、よく出来ました。(言いながら銃を構える。突然口調が変わって)覚悟は出来てるわね。

   銃をぶっ放す。

ショウ わああ!ごめんなさーい!(逃げる)
カナ 待ちなさい!(追う)

   袖から。
   銃声一発。ショウの悲鳴。

リス あ…………。

   リス、花を花瓶に入れてショウの寝ていた場所に置く。
   どこからか位牌や数珠などを取り出す。ご焼香。
   カナ、帰ってくる。

カナ ふう。すっきりした。
リス 相変わらず過激だね、カナちゃん。今日は一体何だったの。
カナ あのねずみ、また私との約束をすっぽかしたのよ。せっかく早起きして待ってたのに!今日は私が長老になる記念すべき日だから前祝いだっ、って言ったのはあいつの方なのに!
リス カナちゃん長老になるんだ。
カナ ふふ……当然でしょ。この森に一番長く住んでる人間は私だもの。あーこの春がどんなに待ち遠しかったことか。
リス 長老になると何かいいことあるの?
カナ リスちゃん。長老ってのは森の支配者よ。誰も長老には逆らえないのよ。わかる?
リス えっと……わかる。
カナ 今までは川の横に住んでた山姥みたいな婆さんに仕切られてたけど。今年の春からは若い風が吹き荒れるのよ。
リス 荒れるの?
カナ 荒れるの。
リス あのお婆さん、カナちゃんのお母さんじゃなかった?
カナ 気のせいよ。
リス 気のせいなの。
カナ さあて長老になる準備をしなきゃ。
リス 準備って何するの?
カナ 前の長老の家に行って、そこにある森の動物たちの秘密を書いた本を手に入れるの。これでみんな私の言いなり。ふふふふふ。
リス 言いなり!言いなり!(何故か喜んでる)
カナ じゃ、行ってくるわね。
リス 私も行くう。
カナ 邪魔しないでよ。

   カナ、リス、去る。
   間。
   台の下から不気味な手が伸びてくる。
   しばらく彷徨った後、線香をつかみ、突然上半身が出てくる。
   ゾンビである。

ゾンビ ひひひひひひひ………。

   全身が出てくる。
   髪はぼさぼさ。服はぼろぼろ。
   血や泥で汚れまくっている。

ゾンビ 聞いたぞ、聞いたぞ。森の長老!5年に一度起きるこの身にこんなチャンスが巡ってこようとは!ひひ……ひひひひひひ……。

   ゾンビ、線香を全て掴み、カナたちを追おうとする。
   ショウ、出てくる。

ショウ ふう。死ぬかと思った。いやあ特製血糊を用意しといて良かったー。

   ショウ、ゾンビ、目が合う。

二人 うわああああああああああああ!
ゾンビ ねずみいいいいいいいいいい!
ショウ ね……

   ゾンビ、狭いところに無理矢理隠れる。

ゾンビ ねずみ恐い……ねずみ嫌い……ねずみ恐い……ねずみ嫌い……
ショウ おれはねずみじゃねえっ!
ゾンビ 嘘だあ。そんな顔した奴、ねずみ以外いるもんかあ。みんな甘い言葉で近づいてぼくを齧るんだあ(泣いてる)
ショウ お、おれは!元こうもりだよ。
ゾンビ こうもり?
ショウ そうだよ。……羽は取れちまったけどよ……。
ゾンビ 何だ、それならそうと言え。
ショウ 何者んだてめえは……。
ゾンビ 貴様に名乗る名などない。
ショウ おれ、ねずみなんだ。
ゾンビ いやああああああああああああ!
ショウ 嘘だよ。
ゾンビ (咳払い)あー……そうだな。これから長老になる者、とでも呼んでもらおうか。
ショウ はあ?長老はカナだろ。
ゾンビ 何故だ。
ショウ 一番長く住んでる人間だからな。
ゾンビ ならばそれは私だ。
ショウ え?
ゾンビ 私は300年前からここに住んでいる。カナというのはいくつだ?
ショウ まあ……16、7かなあ。っていうかあいつ以外、もう人間いないし。あ、おっさんも人間なのか。
ゾンビ お、おっさん……。私はまだ20歳だぞ!
ショウ さっき300年前って……。
ゾンビ 死んだときは20歳だったんだ。
ショウ ああ。死んだとき。

   間。
   ショウ、大きく後ずさる。

ショウ て、てめえっ幽霊か!
ゾンビ 人聞きの悪いこと言わないでくれ。足あるだろ、足。
ショウ いいや。西洋の幽霊は足があるって聞いたぞ。牡丹灯篭のお露さんだって。
ゾンビ 私は実体があるだろ。
ショウ ほ、ほんとか……?

   ショウ、おそるおそる近づき、触れてみる。

ショウ ……あー良かった。おれ、幽霊だけは駄目なんだよ。それにしてもおっさん、何でそんなに臭いんだ。
ゾンビ 300年の間に大分腐ったからな。ま、白骨化しないだけマシか。(袖口を覗き込む)あ、骨見えてる。
ショウ こ、恐え……。おっさんゾンビだったのか。しかしおっさん。
ゾンビ 私はおっさんじゃない……。
ショウ じゃあゾンビさん。死体になってまで何してるんだ。
ゾンビ それは……聞いてくれよ!涙の話!私はな、ある日殺人鬼に腹を撃たれて殺されたんだ。
ショウ 腹を?
ゾンビ そう、腹を。
ショウ この辺?(自分の腹を指す。勿論、血まみれ)
ゾンビ 君、それ……。
ショウ はっはっはっ。おれも撃たれたとこだ。
ゾンビ 仲間か!
ショウ 違うっつうに。これは血糊。
ゾンビ ま、紛らわしいことを。と、とにかくな。撃たれた私は死に、殺人鬼は捕まらず。成仏出来ずに彷徨ってるわけだよ。
ショウ ふうん。で何で長老なわけ?
ゾンビ いやあ。このまま土の中で眠ってるのもあれだし、いっそ長老になって森を支配すれば楽しく過ごせるかな、と。
ショウ 正直だな、お前。
ゾンビ と、いうわけで君、前の長老の家まで案内してくれたまえ。
ショウ 何で。
ゾンビ そりゃあ長老になるためにはそこにある本が必要だからだよ。
ショウ よく知ってんなーお前。ま、いいぜ。おれもな、カナなんかに長老になってほしくないんだよ。あいつが長老なんかになったらどんなわがまま言い出すかわからないからな。今だっておれにあれ持ってこい、これ取ってこいと……

   カナ、出てきてショウの後頭部に銃を突きつけてる。
   リスも一緒である。

ショウ えっと……。

   間。

ショウ カナっ。こいつ、お前を差し置いて長老になろうとしている。おれが引き止めておいてやったから。さあ撃て。
カナ ほんとに撃ちたくなってきたわね……。ま、いいわ。
ショウ ホッ。
カナ 後で。
ショウ 後で!?
カナ あなた、誰。
ゾンビ これはこれは初めまして。今度新しく長老になりますゾンビでございます。以後、お見知りおきを。
カナ 長老は私よ。
ゾンビ しかし私の方が長くこの森に住んでいます。
カナ 何年?
ゾンビ 約300年。
カナ 嘘ね。
ショウ 嘘なのか?
ゾンビ これはこれは何を根拠にそのようなことを……。
カナ 服よ。
ゾンビ 服?
リス 服、服。300年前は江戸時代だもん。江戸時代にそんな服の人いないもん!
カナ と、いうことよ。
ゾンビ しまったー。
ショウ よく知ってたな、お前。
リス カナちゃんが教えてくれたの。
ショウ で、どこ行ってたんだお前。
リス あのね、カナちゃんと一緒にお婆さんが住んでた家に行ったの。
ゾンビ 何!もう行ったのか。
リス でもなかった。
ゾンビ 何!なかったのか。
ショウ 何だ、じゃあお前長老なれねえじゃん。
カナ そんなものなくてもなれるわよ。森の動物の弱みならだいたい握ってるし。
ショウ 確かにな……。
リス ショウちゃんにも秘密あるの?
ショウ う……。
カナ これよ、これ。(ショウのマントを持ち上げる)
ゾンビ それは羽か。
カナ 羽の成れの果てよ。
ゾンビ 何故そんなことに?
カナ こいつはエサにつられて人間についていき、羽を引き千切られたのよ!
ショウ ああああああああああああ。
ゾンビ 悲しい話だ。
カナ 喜劇ね。
ショウ 悲劇だ!
リス ねえねえ私はー?
カナ リスちゃんはね、知能が人間の幼児期にほぼ匹敵すること。
ゾンビ 何だ、それは。
ショウ つまり弱みを握るまでもなく支配できるっつうことだ。
カナ 知識欲旺盛なとこが玉にキズ。
ゾンビ なるほど。で、他の奴は?
カナ 向こうの熊はいまだに独身なのを相当気にしてるわ。狐は昔プレイボーイだったことを奥さんにひた隠しにしてるみたい。それから、
ショウ お前、全部ばらすつもりか。
カナ え?はっ!誘導尋問ね!汚いわよ!
ゾンビ うるさい。長老になるためには必要なことなんだ。
カナ だから、何であなたが長老なのよ。
ゾンビ 一番長く住んでるからな。300年というのは大げさにしても!確実に君よりは長い。
カナ あなたなんかが長老になったらこの森がめちゃくちゃになるわ!そうでしょ、ショウ!?
ショウ いや……どっちがなっても変わらんような……。
リス カナちゃん、長老になったら何するの?
カナ 何もしないわ。命令するだけ。
リス ゾンビさんは?
ゾンビ 森の者たちを言いなりにするさ。
カナ ほら!こっちの方がひどい。
ショウ 多分やることは変わらん。
カナ ひどい、あなたどっちの味方よ?
ショウ どっちでもいいよ……もう……所詮おれたち動物にゃあ関係ないことだ。な、リス?
リス ううーん……わかんない。
カナ リスちゃん、私とこのおじさんどっちが好き?
リス カナちゃん!
カナ はい。良く出来ました。どう!?長老になる者は森の者たちに好かれてなくてはならないのよ!あなた、臭いから失格。
ゾンビ 失礼な!私にはまだこういうものもある。

   ゾンビ、香水を取り出す。

カナ なっ!香水……!?
ゾンビ ふはははははは。なにせ高いからな。少しずつ使ってたが、長老になれば遠慮なく買える。
リス うわあ……いい匂い。
カナ ああ!リスちゃん。
ゾンビ 一人ゲットだ。
ショウ あーあ。単純な奴はこれだから。
カナ こうなったら本格的に勝負ね。春が終わるまでに決着付けるわよ。
ゾンビ 望むところだ。
カナ ショウ、行きましょ。作戦を練るわよ。
ショウ ああ。

   カナ、ショウ、去る。

ゾンビ さあてこちらも作戦を練るか。リス、長老になるためには何が必要だ。
リス 知力、体力、時の運。
ゾンビ 何か違うぞ、それは……。
リス だっていつも一番年上の人がなってたもん。
ゾンビ それなら私じゃないか。何故認めないんだ!?
リス 誰もゾンビさんのこと知らないからじゃない。
ゾンビ 誰も……いや。そんなはずはない。私は5年に1度は起きるんだ。おい、向こうの広場の側に狸が住んでただろ。あいつはどうした。
リス 3年前死んだ。
ゾンビ じゃ、じゃあその向かいの猪は?
リス 人間に捕まった。
ゾンビ その隣の羊は?
リス 牧場に帰った。
ゾンビ その上の木の山鳥は?
リス 人間が保護した。
ゾンビ ほ、保護……何で……?
リス 矢がささってたの。
ゾンビ (頭をかかえる)あーなんてことだ。私の唯一の友たちがいなくなってしまってるなんて!
リス 友達少ないね。
ゾンビ うるさい!春の間しか起きてないから友達を作る暇がないんだ。
リス えー何で春しかいないの。
ゾンビ 夏になると腐食が増す。
リス 腐食って?
ゾンビ 腐るってことだ。だからその間は土の中にいるんだ。
リス 秋は。
ゾンビ 秋に外に出ると食べ物が豊富で太る。
リス 冬は。
ゾンビ 寒い。
リス ……そういえばゾンビさん毛が少ないね。
ゾンビ 何っ!?私はまだはげてないぞ。そ、そりゃ親父を見る限り危ないが。
リス カナちゃんと同じだ。何で人間って毛がないの?
ゾンビ そんなものがあったら邪魔だろう。服が代わりにあるじゃないか。だから毛のある動物に服着せてる奴は馬鹿だな。服だけで十分暖かいのだ。
リス じゃ何で寝るの。
ゾンビ ……うん……そうだな……じゃ、今年は起きてみるか……。ああ、しかし冬は食べ物が乏しい……。この私の理想的体重を維持するためには冬眠は止むを得まい。
リス でもずっと寝てたら長老出来ないよ。
ゾンビ 大丈夫さ。土の中で指示を出す。
リス ゾンビさんってどこに住んでるの。
ゾンビ 来てみるかい?なかなか素敵なとこだよ。
リス うん!

   ゾンビ、リス、去る。
   カナ、ショウ、出てくる。

ショウ なあー作戦ったってどうするんだ?おれたちお前が長老になるもんと思ってたから、みんなに連絡しちまったぜ。
カナ 私が長老になるの。大丈夫よ。
ショウ でもあいつの方がここ、長いんだろ。
カナ 誰も知らないわ。いい?物事ってのはね、誰も知らなきゃ事実は事実にならないのよ。あいつがいたことを誰も知らなきゃ、事実上、私が年上。
ショウ なるほどね。でもあいつが言い回ったらどうするんだ?
カナ 言い回る前に阻止するわよ。今度こそ永遠の眠りにつかせてあげる(銃を構える)
ショウ とことん暴力的な女だな、お前。それじゃ他の動物が反対するぜ。
カナ 大丈夫よ。あんた以外の前では猫かぶってるから。
ショウ そうなのか……?じゃあおれにもその対応してくれよ……。
カナ 何よ、私の本性、あんたの前で隠せっての?嫌よ。
ショウ ………………………………ま、いいけどよ。それじゃ具体案は決まりなんだな。でもリスはどうする。あいつに付いてっちゃったぞ。何も考えてないからゾンビのこと話まくるだろうし。
カナ あの子は私たち以外友達がいないからいいの。
ショウ ……いいのかな……。あいつ、お前以外の人間見たの初めてだろうからな。
カナ そうなの。
ショウ そういやしょっちゅう聞かれてた。何でカナちゃんは毛が少ないのってな。
カナ 何て答えたの。
ショウ そりゃあ……人間は火を使うからだろ。だから毛が退化しちまったんじゃないか。
カナ 違うわね。
ショウ 違う?
カナ そうよ!毛があったら猿と区別が出来ないからよ。
ショウ さ、猿……?
カナ 見た目が良くないわ。毛深い人間って嫌われるのよ。
ショウ へ、へえ……。でも猿ってのは……。
カナ あなた、私を初めて見たとき猿って言ったじゃない。
ショウ あ、あれは……ちょっと人間に恨み持ってた時期だから。
カナ ふうん……別に猿って思ったわけじゃないのね。
ショウ 違う!リスだって人間と猿の区別ぐらいつくんだから。
カナ リスちゃんも!?
ショウ そうだよ。前に言ってたぜ。毛がないのが人間でお尻が赤いのが猿だって。
カナ 間違いじゃないわね……。でも何か不愉快だわ。人間と猿の違いってそれだけ?
ショウ リスは目が悪いからな。
カナ そういうもんかしら。
ショウ さて、行動起こすんなら早くしようぜ。あのおっさん目立つからな。すぐ森中の噂になっちまう。
カナ ゾンビなんて初めて見たなあ、私。あんなに臭いとは思わなかった。私が死んだらちゃんと燃やしてね。

   カナ、去る。

ショウ おれ、お前より先に死ぬと思うけどな……。

   ショウ、カナの去った方向に背を向け、そっと本を取り出す。

ショウ それにしても……どうしようかな、これ……。

   ショウ、去る。
   ゾンビ、何かを持って横切る。
   ゾンビ、何かを持って横切る。
   何度か繰り返す。
   どたどたと片付けてる様子。
   最後に香水を撒き散らす。

ゾンビ よおし、こんなもんか。リスちゃーん。入っといで。

   リス、おそるおそる入ってくる。

リス うわあ、いい匂い。
ゾンビ そうだろう、そうだろう。
リス 結構片付いてるね。
ゾンビ そうだろう、そうだろう。
リス でもこんなところに5年も閉じこもってるの?暗ーい。
ゾンビ うぐっ。し、しかしだな、あんまり動くと体が腐ってしまうじゃないか。
リス もう腐ってるじゃん。
ゾンビ 気のせいだ!
リス 気のせいなの。
ゾンビ さあて、準備だ。準備だ。
リス 何の準備?
ゾンビ 長老になる準備さ。ええと……これこれ。

   ゾンビ、先ほど運んだダンボールから服を取り出す。
   中世英国紳士風。
   ステッキ、シルクハット付き。
   ただし、ぼろぼろ。

ゾンビ おしゃれな私はこうして起きる度に服を変えているのさ。
リス でもぼろぼろだね。
ゾンビ ゾ、ゾンビとはそういうものだ。
リス そういうものなの。
ゾンビ さあ私は着替える。
リス うん。

   間。

ゾンビ あの……着替えるんだけど。
リス うん。
ゾンビ その……私、これから脱ぐんだな。
リス うん。
ゾンビ ……着替えてきます。

   ゾンビ、服を持って去る。

リス 何でここで着替えないのー?……変なの。カナちゃんは私の前でも着替えるのになー。そうだ、何か面白い物ないかな。

   リス、辺りの者を探る。

リス あれえ?これ、見たことある。

   リス、ピストルを取り出す。

リス ええと、どうやるんだっけ。確かこうやってこうやって。

   リス、自分にピストルを向けている。

リス これで撃つんだっけ。ね、これで撃つんだよね?(客に聞く)わかんない?私もわかんないや。後でカナちゃんに聞いてみよう。(リス、ピストルを懐にしまう)

   間。

リス ゾンビさーん。まだー?

   間。

リス つまんない。帰ろ。

   リス、去る。

ゾンビ うわ、待って、ちょっと、リスちゃん。(着替えながら追う)うわ。(こける)ふう。(起き上がって何事もなかったかのような顔。咳払い)さ、さあて作戦でも練るかな。あんな小リス相手にしてる暇はないな、うん。よし、まずはあの小娘を……小娘を……待てよ。資格なら私の方があるんだよな。何だ、何もしなくても私が長老ではないか。ようし。明日、朝一番で森のみんなに知らせてやろう。

   間。

ゾンビ (小声で)リスちゃん?ホントに帰っちゃった……?

   暗転。すずめの声。
   明かり。
   台の上にカナとショウが座っている。
   カナは猟銃。ショウは刀を持っている。

ショウ とうとう見付からなかったな……。(眠そうな声)
カナ あいつ……一体どこに住んでんのよ……。(眠そうな声)
ショウ 土の中なら捜しようがないよな……。墓石でも立ってりゃともかく。
カナ 立ってないわよねえ……。だいたい何であいつこんなところに埋まってんの。
ショウ 殺人犯に殺されたとか言ってたぜ。
カナ 嘘ね。
ショウ 決め付けんなよ……。
カナ あいつ、悪役顔だもの。
ショウ そうかあ?どっちかってっとお前の方が……すみません。何でもないです。
カナ とにかくね、最後に正義は勝つんだから。と、なると必ずあいつが長老になる前に見付かるはず。
ショウ そうかあ?パターンとしてはまず正義がピンチになってそれから逆転!だろ。
カナ いやよ。中略でいきましょう。
ショウ いい加減なヒーロー……。
カナ ヒロインよ。
ショウ どこが。
リス あー!ショウちゃーん。

   リス、登場。

ショウ リス!
カナ リスちゃん!
ショウ お前、今までどこいってたんだよ。
カナ ゾンビは?どうしたの。
リス つまんないから帰った。でもいい匂いだった。どんぐりよりいい匂いなの。
ショウ そうかなあ。おれ、ああゆう匂いは嫌いだな。
リス ええーなんで。
ショウ うう……嫌なこと思い出しちまうんだよ。ちょうどこの羽が、
カナ そんなことより!リスちゃん。
ショウ そ、そんなこと……。
カナ ゾンビは?どうしたの。
リス つまんないから帰った。でもいい匂いだった。どんぐりよりいい匂いなの。
ショウ 繰り返すなよ。同じこと。つまんないから帰ったってお前がか。
リス うん。だってゾンビさん、着替えが長いんだもん。何で私の前で着替えないんだろ。
ショウ そりゃ……男だからだろ。
カナ リスちゃん、女だしねえ。
リス でもショウちゃんとカナちゃん同じとこで着替えてるじゃん。

   ショウ、カナ顔を見合わせ咳払い。

ショウ お、おれたちはなあ……。まあ、その……。
カナ うん……。私たちはねえ……。
リス なあに?
カナ その……大人になったらわかるわよ。
リス ふうん……。

   突然、目覚ましの音。

ショウ な、何だ。
カナ ショウ、あんたのじゃないの。
ショウ 違うだろ、おれのは今日はセットしてない……。
ゾンビ 寝過ごしたー。

   ゾンビ、台の下から登場。

ショウ うわああ!
ゾンビ ん?ぎゃあああああ!ねずみいいいいいいい!(隠れる)
ショウ 昨日と同じ反応してんじゃねえ!おれだよ!
ゾンビ ん?はっ。貴様か。何故ここにいる。
ショウ 何故ってここおれの家……。
リス この下、ゾンビさんの家だよ。
ショウ 何いいいいいいい!
カナ あっ、そっか、だから昨日私たちの会話聞けたんだ。
ショウ お、おれの真下にいたのか……。5年間。
カナ あんた何、その格好?
ゾンビ お、これはこれは。ボンジュール、エブリバディ。
リス うわー。かっこいいー。
ショウ 英語とフランス語が混じってんじゃねえか。
カナ 何者よ。あなた。
ゾンビ 申し遅れました。私、今度ここの長老になる者です。やはり長老たるもの、身だしなみは整えないとね。さあ、リスちゃん。早速だがこれから森のみんなに私が長老になる旨、伝えてきてくれないかね。
リス うん、わかった。
カナ ま、待ちなさい!
リス なあに?
カナ 長老になるのは私よ。
ゾンビ 私だ!
カナ 私よ!
リス え?え?わかんない。ショウちゃん、どっち?
ショウ ええ?えっとな……リス、ちょっと後ろ向いてな。
リス うん。
ショウ 5秒数えて、立ってた方が長老な。
リス うん。いーち、にー。

   カナ、ゾンビ、互いに銃を構える。

リス さーん、しいー。

   銃声二発。

リス ごお!(振り向く)あれ?
ショウ てめえら……。この至近距離で外すなよ……。

   二人とも立ってる。

リス ……どっち?
ショウ えっとだな……。おれはどっちでもいいんだけどな。
カナ ちょっとショウ!
ショウ だってなあ……。どっちがなってもあんま変わんねえだろ。おっさんがとんでもねえ悪者ならともかく。
カナ このゾンビは殺人犯よ!
ゾンビ な、何をっ!言いがかりだ!私は殺人犯に殺されたと言ったろう!
カナ ふん……あなた、名前は!
ゾンビ 阿部だ!
カナ 決定的ね。
ゾンビ な、何でだ?
カナ これを聞きなさい。

   カナ、どこからかテープレコーダーを取り出す。
   スイッチを入れる。

テープの声 ああ?あー知ってる知ってる。阿部だろ、阿部。おれを殺した奴だよ。あいつ、ゾンビなんかやってんのか。おれは幽霊だっつうのに。あいつに殺された恨みで成仏出来ねえんだよ。あんた、何とかしてくれよ。あいつ、凶悪な殺人犯でさあ。もう何人も殺してんだよね。そうそう、確か……

   テープを切る。

カナ どう!?こんなこともあろうかと3日前に用意してたのよ。
ショウ 何故3日前……?
リス それ、狐さんのこえ……(口をふさがれる)
カナ さあ観念なさい。あなたに長老になる資格なんてないのよ。
ショウ お前の方が悪役っぽなあ。
ゾンビ そうか……。
ショウ ん?
ゾンビ ばれてしまっては仕方ない。
三人 え?
ゾンビ 確かに私は殺人犯さ。だがね、人にはどうしようもない事情ってものがあるんじゃないかね?
ショウ お、おいマジだぞ。
リス 事情って何?
ゾンビ 私の妹が殺されたのさ。ヤクザにね。可愛い奴だった。私は奴らを許せなかった。1人1人追い詰めてついに復讐を果たしたのさ。
カナ 嘘でしょ。
ゾンビ な、何故わかった!
カナ あなた、悲しい過去があるように見えないもの。
ショウ 女の勘ってすげえ……。
カナ 本当はどうなの。もっと明るい話でしょ。
ゾンビ はっはっはっ。よく見破った。私は1年に1度人を殺したくなるのさ。禁断症状って奴だな。はっはっはっ。
ショウ 話は全然明るくないぞ……。
カナ そうだと思ったわ。
ショウ おれ、もう付いていけねえ……。
ゾンビ まあ死んでからは5年に1度くらいで我慢できるようになったがな。今回のターゲットは決まったさ。(銃を構える)長老にもなれるし一石二鳥さ。
カナ あら、結構マジね。でも本がないと長老にはなれないのよ。私は本を見付けたわ。長老は私よ。

   ショウ、その言葉に慌てて懐をさぐる。

ショウ お、お前……いつの間に。
カナ あんたが持ってるだろうなーとは思ってたのよ。川向こうの婆さんはあんたがお気に入りだったし。
ショウ ……昨日までは持ってたよな?おれ……。
ゾンビ そうか……。貴様が持ってたのか。おい。今、本はどこにある。
カナ 言うと思う?
ゾンビ 撃つぞ。
カナ 撃ってどうするの。永遠にわからなくなるわよ。
ゾンビ 隣の男を撃つぞ。
カナ ………………。

   間。

カナ ……あなたの銃の腕は見たわ。
ゾンビ 私は男を撃つ時に遠慮はしない。真ん中狙えば当たるんだ。

   間。

カナ ……わかったわ。
ショウ お、おい!
カナ しょうがないでしょ。あんたが死ぬとこなんて見たくないもの。その代わり、後を追ってね。
ショウ …………ああ。
カナ ゾンビさん。本はその花の下よ。
ゾンビ うう……こういう話には弱い(泣いてる)し、しかし!場合が場合だ。情けは無用!覚悟はいいな。
リス はい!
カナ リスちゃん……緊張の場面なんだから外さないでよ。
ゾンビ (銃をカナに向ける)
ショウ カナ。
リス カナちゃん。

   銃声。

ゾンビ ……………………あれ?

   銃声、銃声。

ゾンビ お、おかしいな。……やはり拾い物じゃ駄目かな……。
カナ 拾い物って……。
リス ああ!そうか、これだ!(銃を出す)
カナ リスちゃん、それは……。
リス ゾンビさんとこで見付けたの。
ゾンビ わ、わたしの愛用拳銃……。
カナ これを愛用?古い型ね。でも……手入れはしてあるのね。

   カナ、リスから銃を奪い、ゾンビに向ける。

カナ ここで撃ちあえばどっちが勝つかしら。
ゾンビ くっ……!
カナ 森の長老は私よ……(引き金を引こうとする)
ショウ 待て!カナ。
カナ ……何よ。
ショウ 駄目だ。長老が……生き物を殺しては駄目だ……。
カナ そんなこと言ったって……。
ショウ 森の長老は……森に住む生き物たちのためにいるんだ。木も草も動物も……全てお前が護らなくてはいけないんだ。自然に反した人間に……長老の資格はない……。
カナ …………。

   ゾンビ、きょろきょろ辺りを見回し、
   ゆっくり逃げようとしている。
   逃げ切る寸前、

カナ 待ちなさい!

   銃声一発。
   ゾンビ、悲鳴をあげながら倒れる。

ショウ カ、カナ……あのな……。
カナ よくよく考えたら……ゾンビは生き物じゃないわっ!
ショウ ああ!
カナ 死人よ、すでに死んでるのよ!
ショウ 気付かなかったなー。じゃ、これでいいのか、別に。
カナ そういうこと。
ショウ これで晴れて長老だな。
リス 長老?カナちゃんが長老?それでいいんだね?
ショウ ああ。
リス よおし、みんなー(言いながら駆けていく)

   ショウ、カナ、台の上に座り、

カナ ねえ。
ショウ 何だ。
カナ 本当に……私が長老になるの……嫌?
ショウ え……。
カナ 嫌かな……やっぱり。
ショウ そんなこと……。
カナ 言ってたじゃないの。散々、それに、嫌だから本を渡さなかったんでしょ。
ショウ まあ……な。
カナ 何で。
ショウ だってな……長老になったら……カナはみんなのものになっちまう。
カナ ……………。
ショウ カナはずっと……おれだけの……。
カナ ショウ……。

   カナ、台から降りて。

カナ 私、長老になるのやめるわ。
ショウ カナ。
カナ いいじゃない、長老なんていなくても。そんなことよりせっかく春になったんだから。遊ぼうよ。
ショウ ああ。そうだな。

   二人、去る。
   心地よいBGMが流れて……

ゾンビ 認めん……認めんぞお……(起き上がる)こんな……こんな結末……ああ……臭い……。

   暗転。

─幕─


※ タイトルの「麗」、読めない人が多かったので平仮名にしました。

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