【ボーダレスの時代。人が人に境界を付けることは犯罪となった。男も女もない。大人も子供もない。差別の原因がない。そうだ、素晴らしい世界じゃないか。なのに何故テロが発生する……】
この話の中心人物は三人。
ユウとケイとヒカリである。
三人は同じ服を着ている。
ユウは帽子を被っている。
ケイは大きな蝶ネクタイをしている。
ヒカリはバンダナを巻いている。
ユウ、ノートに何か書いている。
ユウ 3時15分、踏み切り前のペットショップで一人捕獲。年齢、職業、性別不明。名前はアキラ。左手薬指に指輪をしていた……と。よっしゃー!ついに100人達成!ふっふっふっ。このままならこの都市のリーダーになるのもそう先のことではないな……。やっぱり都市のリーダーにはこの私のような有能な者がなるべきだろう!なあ、ヒカリ!
ヒカリ さあね。私にはあんたは底抜けの馬鹿にしか見えないけどね。
ユウ けっ。負け惜しみかい。あんた、まだ30人程度だったもんなあ。
ヒカリ 汗水垂らして走り回るのは下っ端のやることさ。私のように管理能力に長けている者こそ、リーダーに相応しいんじゃないか?
ユウ お、何だ。あんたも狙ってたのか。よせよせ。頭でっかちで暗ーいあんたにゃ誰も付いてきやしないって。
ヒカリ ずいぶんと自信満々じゃないか。さては買収でもしたか。
ユウ あんたじゃあるまいし。そんなセコイ真似はしないよ。
ヒカリ どういう意味だよ、それ。言っとくけど。あんたほどリーダに向かない人間はいないんだからね。
ユウ 何だと……
ケイ ねえー!聞いて聞いて。
ケイ、飛び込んでくる。
ケイ 私、ついに一人捕まえたんだよ!ね、ね。今日は私の記念日だよね!パーティーやろう!
ユウ、ヒカリ、ケイを見て深いため息。
ユウ 何でこんなのとメンバー組むはめになったかな……。
ヒカリ 前言撤回だよ。ユウ。あんたよりリーダに向いてない人間がいた。
ケイ ね、ね。ユウちゃんヒカリちゃん。お祝いしてよ、お祝い!ユウちゃんとヒカリちゃんが初めて捕まえた時もやったでしょー?
ヒカリ ケイちゃん。それが何年前の話か覚えてる?
ケイ うーんと……えーっと……
ユウ そんな聞き方しても無駄だって。ケイ、私たちがお祝いしてから、何回夏がきた?
ヒカリ 動物じゃあるまいし……。
ケイ 3回!
間。
ユウ ほうらな。
ヒカリ 原始人かよ、この子。
ユウ ヒカリ!
ヒカリ ああ、いやこの人。
ユウ ともかくね、ケイ。いまさらそんなもんでお祝いなんてやってられないわけ。私なんか今日、100人に達したんだからな。
ケイ じゃお祝いだ!
ユウ へ?
ヒカリ そうだね。それでいいかもしれない。ユウの100人突破とケイちゃんの……一人目。
ユウ ま、そういうことならなあ。
ヒカリ よし。じゃあ何か買ってこようじゃないか。ケイちゃん一人目の賞金貰ったんだろ?
ケイ うん。
ヒカリ なら全員金あるね。
ユウ ジャンケンだな。
ヒカリ 当然。
ユウ よーし行くぞー。
三人 最初はグー、ジャンケンポン!
あいこ。
三人 ふー。
ケイ よーし。もう一回。
三人 最初はグー。ジャンケンポン!
ヒカリ、負ける。
ヒカリ ああああああああああ!
ユウ ヒカリに決まり!
ケイ 行ってらっしゃーい。
ヒカリ あーあついてないー。
ヒカリ、ぶつぶつ言いながら出ていく。
ユウ ケイ。それにしてもあんたどんなの捕まえたんだい?あんたに捕まえられるんだから相当わかりやすかったんだろ?
ケイ うん。スカートはいてた。
ユウ うわ。
ケイ でね、お化粧もしてた。すっごく厚化粧で気持ち悪かった。
ユウ それ、よく今まで捕まらなかったな。
ケイ 久しぶりだったんだって。今までずっと我慢してたって言ってた。
ユウ なるほどー。運が良かったな。ケイ。で、そいつ、名前は?
ユウ、大きく「ケイ」と書かれたノートを取り出す。
ケイ ヒロミ。
ユウ ヒロミ……と。賞金は?(ノートに書く)
ケイ 3万。
ユウ 3万ね。ま、妥当か。
ケイ ユウちゃんは今いくら?
ユウ ふふふ……聞いて驚くなよ。590万1200だ!
ケイ すっごーい!
ユウ ははははは。これで都市リーダーは私に決まりだ!
ケイ 駄目!
ユウ え?
ケイ 駄目だよ!都市リーダーは私がなるんだ!
ユウ な……ケイ、あんたまで狙ってたのか?
ケイ 当たり前じゃん。ユウちゃんみたいな猪突猛進タイプはリーダーに向いてないでしょ。私みたいにみんなに愛されるタイプが理想なの。
ユウ 何が愛されるだ!一人捕まえるのに3年もかかるような奴を誰が認めてくれるってんだ!
ケイ 結果じゃなくて経過!ユウちゃん、何人誤認逮捕してると思ってんの!
ユウ やかましいっ。一人も逮捕出来ないよりマシだ!何をおいても実力なんだ!
ケイ 人に愛されること優先じゃない!愛なくして何が生まれるって言うの!
ユウ さりげにクサいこと言ってんじゃねえ!
ヒカリ はい、そこまで。
ヒカリ、帰ってくる。
ヒカリ お二人さん。熱くなることは厳禁だろ。興奮したら何言い出すかわからない。私たちが捕まったんじゃ洒落にもならないじゃないか。
ユウ ご……ごめん。
ケイ ごめんなさい……。
ケイはさりげにユウに舌を出している。
ユウ、怒るが何とかこらえる。
ユウ あれ、何でヒカリ手ぶらなの?
ケイ パーティーはー?
ヒカリ それどころじゃない。
ユウ へ?
ヒカリ テロだ、テロが発生した。
ユウ な、何だって?
ケイ テロってあのテロ?
ヒカリ どのテロかわかなんないけど……。テロはテロだよ。
ユウ おい、じゃあ私、やばいんじゃない?
ヒカリ ああ。これ見てみな。テロリストの持ってたブラックリスト。
ヒカリ、懐から紙を取り出す。
ユウ 私、一番高額じゃん!
ヒカリ 喜んでる場合か!
ケイ あれ、私乗ってない!何でよ!
ヒカリ 怒ってる場合か!
ユウ・ケイ ど……どうしよう?
ヒカリ 私たちだけじゃテロを止めるのは難しい。人数すら正確にわかってないからね。
ユウ 畜生。何で今更。
ケイ ねえ、私たちどうなるの?
ヒカリ ……さあね。3人編成のチームじゃ勝てないね……。その内、組織から召集があるかもしれない。
ユウ まてよ……。ってことはテロを捕まえりゃあ昇進は確実なんじゃないか!?
ヒカリ 無茶言うなよ。何人いると思ってるの。
ユウ リーダー捕らえりゃいいんじゃないか。よーし、そうと決まれば善は急げ。
突然、電話が鳴る。
三人、何となく電話を見る。
ユウ ……ボ……ボスからかな?
ヒカリ さ……さあ……。でも……ボスでしょ。やっぱ。
ケイ 誰が取る?
三人、電話から離れる。
ユウ ヒカリ取れよ!こういうの得意だろ。
ヒカリ 冗談じゃないよ。あんた、都市のリーダーになるつもりなんだろ?
ユウ 関係ねえよ、そんなこと。それにあんただってなるって言ってたじゃないか。
二人、ケイを見る。
ケイ 人の嫌がることを進んでやる。それが愛!
二人、思わず拍手。
ケイ、びびりながら電話を取る。
ケイ はい。第4編成部隊……ひゃ!
ケイ、うずくまる。
ユウ、ヒカリ、顔を見合わせてる。
ケイ は……はい。す、すみません。……はい。はい。……わ、わかってます、もちろん。え?はい、ちょっと待って下さい。
ケイ、メモ用紙を取る。
ケイ はい。はい。(メモを取りながら)はい。わかりました。はい、失礼します。
ケイ、電話を切る。
ケイ ああー恐かったー。
ヒカリ また怒鳴られたんだろ。あの人、何でいつもあんなに機嫌悪いんだろ。
ユウ で、ケイ、ボスはなんて?
ケイ えっと……テロ発生。第4編成部隊地区周辺。特に第1課から第3課までが要注意区。リーダーの名はケンジ。ただし本名不明。えっと……今現在把握されているメンバーは11人。これからも増えると予測される。
ユウ 11人?
ヒカリ 少ないね。じゃあ今の内に叩いておけってこと?
ケイ うん。作戦は、第1課と第2課がメンバーのあぶり出しにかかって、第3課と第4課が、逃げたメンバーを追えって。
ユウ 逃げたメンバーたって私らメンバーの顔知らないじゃん。
ケイ 見ればわかるだろうって。
ヒカリ ま、テロ起こすくらいだからね、かなり極端なんだろうね。
ユウ リーダーの名前はケンジ……ねえ。確実に本名じゃないな。
ケイ それとね、賞金はメンバー一人に付き10万。リーダーは50万だって。
ヒカリ 10万!
ユウ 50万!
ヒカリ、ユウ、顔を見合わせる。
ユウ よーし燃えてきたー。
ヒカリ やるか。
ユウ ヒカリ、武器の準備だ。
ヒカリ OK。
ヒカリ、袖へ。
ケイはリュックの中をいろいろ出し入れしている。
何故かお菓子が多い。
ユウ 燃えてきた、燃えてきた。久々の大仕事だー!
ケイ ユウちゃん、はりきってるね。
ユウ 当ったり前だ!ほら、警察としての使命感に燃えるじゃないか。こういうの!
ケイ うーん……。
ユウ あーヒカリはまだか!
ケイ さっき行ったばかりだよ。
ユウ それにしたって……
アヤ 動くな。
いつの間にかユウに拳銃をつきつけているアヤ。
スカートをはいている。
かなり女っぽい。
ユウ だ……誰?
アヤ 第4編制部隊、第四課のユウね?
ユウ ち、違う。
アヤ 違う?
ユウ そう、私はケイ。
アヤ じゃああなた?(ケイに)
ケイ え!?私……私は……ヒ……ヒロミ!
アヤ ヒロミ……。
ユウ あ、あんた誰だよ。
アヤ 私はアヤ。ブラックリストハンターよ。
ユウ 警察捕まえるハンターなんて聞いたことないよ。
アヤ あなた、警察の人間?
ユウ あ、……いや、その……。
アヤ 一緒に来てもらうわよ。
ユウ ま、待て!
銃声。
アヤ、銃を落とす。
ユウ、銃を拾い、アヤに向ける。
ヒカリ、袖から銃を構えたまま出てくる。
ヒカリ 何ドジなことやってんの、ユウ。
ユウ ヒカリ!危ないじゃないか。私に当たったらどうするんだ!
ヒカリ その時はその時。
ユウ あのなー!
アヤ ユウ……やっぱりあんた……。
ヒカリ テロリストかい?
ユウ ブラックリストハンターだって。
ヒカリ は?じゃあ何であんたに銃突き付けてたんだ?
アヤ 当たり前じゃない。ユウは賞金額ならナンバーワンなんだから!
ヒカリ ああ、テロリストに出回ってる奴か。
ケイ テロリストにそんな金払えるの?
ヒカリ っていうかあんたもテロのメンバーだろ。
ユウ え、そうなのか?じゃ、じゃあこいつ捕まえたら10万貰えんの?
アヤ 私はテロリストじゃないわ!
ヒカリ でも立派な犯罪者だ。その服装といい言葉遣いといい。
ケイ 女の子の格好してる!
アヤ 女でいることの何がいけないの!
間。
アヤ ちょっと前まではこれが普通だったじゃない。女の子は女らしく、男の子は男らしく。女の子はスカートはいて、お化粧して、乱暴な言葉なんて使わなくて。
ヒカリ、銃を構える。
ヒカリ 危険思想の持ち主だ……。
アヤ 何がいけないのよ!私は女よ!女らしくしたいのよ。
ヒカリ この世に性別はない。
アヤ あるわ。
ヒカリ ない!
沈黙。
アヤ どうして……どうしてわからないのよ。何で女であることが罪なの……。いやよ、私は……こんな世界……。私は女の子らしくしたいのよ……。
ケイ 何で?
アヤ 女だからよ。
ケイ この世に性別はないよ。
アヤ 昔はあったのよ。
ヒカリ 今はないんだ。今、男とか、女とか、子供とか大人とか。そういう境界を設けることは罪なんだ。
アヤ わかってるわよ!そんなこと。……でも……理解はしても納得は出来ないわ。
ケイ ヒカリちゃん……。
ヒカリ ユウ、この女……こいつを縛れ。
ユウ ああ。
アヤ、突然逃げ出す。
ユウ あ、待て!
ユウ、ヒカリ、追い掛けて出ていく。
ケイ、戸惑ってると電話が鳴る。
ケイ はい。第4編成部隊第四課。……ケイです。はい。……今、テロリストを追って出ていきました。……アヤです。はい。わかってます。……え?……本当ですか!?はい、はい!わかりました!失礼します!
ケイ、電話を切る。
ケイ ユウちゃん!
間。
ケイ あ、いないんだっけ。せっかく都市リーダーになれるチャンスなのに。……そっか。みんな知らないんだ……。
ケイ、落ちているちらしを拾う。
ケイ 女であること……。間違ってるよね……。
ケイ、リュックを背負って去る。
ほとんど入れ違いにアヤ入ってくる。
アヤ、辺りを見回して、
アヤ 誰もいないわね。今の内に……
アヤ、かばんの中の物を辺りに散乱させる。
スカート、化粧品、タキシード等。
男、女を連想させる物を片っ端からばらまいている。
そして、アヤは隠れる。
ユウ、ヒカリ帰ってくる。
ユウ 何だ、これは!
ヒカリ 何……何?これは。スカート……口紅……
ユウ ネクタイ……野球帽……。
ヒカリ テロリストか……。一体何を考えてこんなもの……。
ユウ 畜生!警察の部屋に対していい度胸だ!探すぞ、まだ遠くには行ってないかもしれない!
ユウ、飛び出す。
ヒカリ、追おうとするが、辺りの物が気になる。
ヒカリ、ついに口紅を取出し、鏡の前で付けようとする。
ヒカリが口紅を付けた瞬間。
フラッシュが光る。
ヒカリ、慌てて口を拭うがもう遅い。
アヤ 見たわよ……。
ヒカリ あなた……。
アヤ 見たわ。……あなた、女ね。
ヒカリ 違う、私は。
アヤ 女よ。
ヒカリ 何を……警察を陥れる気……?
アヤ あなたが女だとわかれば十分よ。
ヒカリ 私は女じゃない。
アヤ じゃあ何で口紅を付けたの!
ヒカリ …………。
アヤ 女は口紅を付けるものよ。化粧をするものよ。
ヒカリ そんな考え方……
アヤ それでいいのよ。美しく着飾りたいと思うことのどこがいけないの!女なら当然のことなのよ。あなただってそうなんでしょ。
ヒカリ 私は……。
ユウ ヒカリ!
ユウ、飛び込んでくる。
銃を構えている。
ユウ ヒカリ!離れろ。
ヒカリ ユウ。
アヤ、銃を構える。
ユウ ヒカリ。
銃声。
倒れたのはユウ。
ヒカリ あ……。
アヤ、とどめをさそうとする。
ヒカリ、止める。
ヒカリ 止めて。撃たないで!
ユウ ヒカリ!興奮するな!興奮すると……、
アヤ この人は女よ。
ユウ 違う。
ヒカリ いいから。何でもいいから。銃を放して。
ユウ ヒカリ、駄目だ……。
アヤ もうこの人は重犯罪者の仲間入りよ。警察がそれを見逃す?
ユウ ……………。
ユウ、起きる。
ユウ 二人とも犯罪者なんだな……。
ユウ、銃を構える。
そこに入ってくるケイ。
ケイ 見付けたー。何でここに帰ってるのー。探してたのにー。
ユウ あんた……その場の空気っての感じられないか。
ヒカリ 緊迫感のない子よね……。
ユウ ヒカリ。
ヒカリ ユウ。もう認めるしかないわね。私は女よ。
ユウ もう戻れないのか……。
ヒカリ ……あなたは警察でしょ。警察は法律のみ考えればいいの。
ケイ ねえ……何がどうなってるの。
ユウ あんたには関係ない。
ケイ あ、そうだ、ユウちゃん!アヤって女の話、ボスにしたらね。そいつ捕まえたら次の選挙に出れるかもしれないって。
ユウ 選挙?
ケイ 都市リーダーの選挙だよ。
ユウ な、何だって!?
ヒカリ 嘘!?
ケイ だってね、アヤって女はものすごく賞金が高いんだよ。三人で分けても十分選挙に出られるくらい……。
ヒカリ そ、そういうことだ!残念だったね。
ヒカリ、ユウの位置に行き、銃をアヤに向ける。
ユウ あんた……軽いな。
ヒカリ 都市リーダーは幼い頃からの私の夢。そう簡単に諦められないね。
ユウ 女だって認めたんじゃなかったか。
ヒカリ 気のせいさ。
ユウ 気のせいか。
ヒカリ そう。
ユウ ま、そういうことにしとこう。
アヤ き、汚いわ!警察がそれでいいの。
三人 いい!
アヤ さ、三人揃って言い切る?普通……。
ユウ さあ観念しろ。
アヤ するわけないでしょ。ヒカリ、これを覚えてる?
アヤ、カメラを出す。
ヒカリ ああああああー!
ユウ な、何だ。
ヒカリ そ、そ、そ、それ……。
アヤ 勿論あなたが口紅を付けた瞬間をしっかり捕らえてるわ。これを警察に送ったらどうなるでしょうね。
ヒカリ くっ。
銃声。
アヤ、カメラを落とす。
ユウ ふっ。これで証拠はなしだ。
ヒカリ さっすがユウ!射撃の名手。
アヤ 甘いわね。本物はこれよ!
アヤ、別のカメラを出す。
またも撃つユウ。
アヤ 本物はこっち……。
まだ出すアヤ。撃つユウ。
アヤ ま、まだまだ……。
ユウ ええい、そのかばんをよこせ!
ヒカリ ユウ、興奮するなよ。
ユウ わかってる!
ユウ、アヤを取り押さえる。が、振りほどかれる。
ユウ こ、こいつ……馬鹿力……。
アヤ、ヒカリやケイを突き飛ばして逃げる。
ユウ 待て!ネガを出せ!
ヒカリ 返しなさい!
ユウ、ヒカリ、アヤを追う。
ケイ また置いてけぼりの私……。追う方がいいのかな。ここで待ってるのがいいのかな。占ってみよう。
ケイ、花を取り出す、
ケイ 行かない。待ってる。行かない。待ってる。行かない。待ってる。行かない。行かないんだ!ってことは待ってる。……あれ?
その時、激しい銃声。
ケイ うわあ……戦ってるのかな、行った方がいいかな……。
爆発音。ヘリコプターの音。
暴走族の音(ケイ、目を丸くする)
電車の音。
動物の群れの音。
ケイ そ、外で何が起こってるのかな……。えっと……待ってる!
ユウ、ヒカリ、入ってくる。
ケイ ほら、待ってて正解。
ユウ やったよ、ケイ!アヤを捕まえた。
ヒカリ 賞金額も高いね、やっぱ。私とユウで捕まえたから分け前は4、4、2ね。
ケイ 待ってて不正解……。
ユウ これだけあれば選挙に出られる。
ヒカリ あんたには向いてないって。
ユウ ふん。あんたなんか女のくせに。
ヒカリ う……一時の過ちをそうしつこく言うもんじゃないよ。
ユウ でもお前……本当に女だったんだなー。ここではそういうことを意識すると犯罪だからな。知らなかったけど。
ヒカリ そういえばね、ケイちゃん。あのアヤって奴、男だった。
ケイ へ?
ヒカリ 本名ケンジ。ようするにテロのリーダーさ。でも偽名じゃなく本名が漏れてるとは思わなかったな。
ユウ 今時あんな男みたいな名前付ける親がいるんだな。
ヒカリ よく受理されたもんだよ。何か不正があったかもしれないね。
ケイ でもあの人、女だった……。
ヒカリ そう、あの人は女になりたかった。
ケイ ようするに……
ヒカリ・ユウ おかま。
ケイ やっぱり。
ユウ 馬鹿力だと思ったけど男だったとはなー。
ヒカリ ユウは?男なのかい、女なのかい。
ケイ それを聞くのは犯罪だよ。
ヒカリ 今日だけ。やってみない?本来の性に戻ってさ。
ユウ 見付かったら捕まるな。
ヒカリ それなら私はとっくに捕まってる。はい!自己紹介いきます。私はヒカリ。性別女。16歳。
ユウ 16!そんなに若かったんだ……。
ヒカリ 次はユウだよ。
ユウ よおし、私……おれはユウ。性別男。19歳。
ヒカリ へえー。まあ男だとは思ってたけどねー。
ケイ 次、私ー。
ヒカリ はいはい。
ケイ わた……あ、じゃないね。ぼくはケイ。性別男28歳。
ヒカリ 2……20……
ユウ 8……歳……?
ケイ はーい。
ユウ おれ、この世界に多少問題がある気がしてきた。
ヒカリ 私も。
ケイ 何?何、何?
ヒカリ 知らなくていい……。
ケイ ぼくは絶対都市リーダーになるぞお!(ケイ、台の上に立って燃えている)
ヒカリ しかも男だったんだねー。
ユウ 勝手に女だと思ってたな。それに……さすがにおれたちより上だとは……。
ヒカリ 最初っから年齢言われてたらケイちゃんにあんな態度取れなかったね。それにしても私が一番年下とはねー。
ユウ 意外だったよな。
ケイ ぼくがリーダーになった暁には、この都市を愛で溢れる素晴らしい町にしようと思う。一人はみんなのために、みんなは一人のために!これが公約です!
ヒカリ 公約って言うのかな。
ユウ あいつの座右の銘だよな。
ヒカリ ユウは?
ユウ 座右の銘か。自分勝手!
ヒカリ ある意味合ってるかもね……。
ユウ ヒカリはどうなんだよ。
ヒカリ 私?私はね。
電話。
ケイ、とる。
ケイ はい、第4編成部隊第4課。はい!ここにおります!はい。はい、わかりました。ありがとうございます。…………はい?え、ちょっと……何で……ええ?そんな……はい。わかりました……。代わります。
ユウ (電話を受け取って)もしもし……はい!はい、ユウです!はい!……はい!……は……?……はい。はい……。わかりました……。
電話、切る。
ヒカリ な、何。
ケイ ボスから。
ヒカリ ああ。
ケイ 都市リーダー選挙は出れないって。
ヒカリ な、何で。
ケイ 公務員だから。
ヒカリ ……………でも警察止めてから選挙、ってんじゃリスクが大き過ぎるよ。
ケイ 失業しちゃうもんねー。定年まで待つしかないんじゃない。
ユウ 嘘だ……。
ヒカリ ん?
ユウ 私は……都市リーダーになるのが夢だったんだ。その夢を叶えるためだけに。警察になったんだ。資金を集めるためだけに。賞金稼ぎになったんだ!
ヒカリ じゃあ警察止めりゃあいいじゃん。
ユウ 止めれないんだよ……。
ケイ 何で。
ユウ 給料10年分前借りしてるから。
ヒカリ は?
ユウ その……特別に……。
ヒカリ 何で10年も。
ユウ 私、誤認逮捕、多いから。被害者への慰謝料で……。
ヒカリ それ、払い切るまではやめられない……と。
ユウ 結構な金額だからなあ……。
ケイ 賞金で返せばいいじゃん。
ヒカリ そしたら選挙に出られない。どっちにしても意味がないよ。
ユウ ケイー。ヒカリー。ちょっとでも私に友情感じるんなら。
ケイ・ヒカリ うん。
ユウ 金貸して。
ケイ・ヒカリ やだ。
ユウ うう……。
ヒカリ 私、警察止めよー。
ケイ 私も!
ヒカリ 次の選挙に間に合せないとね。
ユウ あんたら……。
ヒカリ あ、そうそう。さっき言い掛けてた私の座右の銘だけどね。
ユウ ああ。
ヒカリ ネバーギブアップ。チャンスはいくらでもある!
ユウ この状況で言われてもな……。
ヒカリ じゃあね、ユウ。
ケイ ばいばーい。
ヒカリ、ケイ、去る。
ユウ ホントに行っちまいやがった……。友情なんて……友情なんて……。
ユウ、一人悲しくいる。
電話が鳴る。
ユウ はい。第四編制部……あ、ボス……。え?選挙……でも選挙は……3人ひと組みって……。ええ!?登録済み!?どうして……あ、ヒカリとケイが……。でも私の借金……賞金って……でも……ヒカリとケイも出してくれたんですか?……あ、はい。……はい。わかりました。ありがとうございます!
電話を切る。
ユウ 友情なんて……大好きだー!
暗転。
ヒカリの声 恥ずかしい奴……。