続きのない物語

【幼い頃に書いた話を覚えていますか。結末はちゃんと書きましたか。結末のない話は、今でもあなたを待っています……】

   ぼろぼろの服を着た少女。
   窓を拭いている。しばらくしてため息をつき、

少女 あーあ。もうやってられないわよ!こんな広い家毎日毎日掃除してたら身が持たないわ。こんなとこ、人なんか入ってこないんだからいい加減にやっとけばいいのよねー。……でも真面目にやっちゃう正直な私。ああ……どうして私ってこう要領悪いのかしら。
 窓拭き終わったのー?終わったら洗濯物取り込んどいてねー。
少女 はいはい。……何よ。あれしろこれしろって。本当の母親でもないくせに。少しは自分の娘にやらせなさいよね。お父さんが生きてりゃあんな奴ら……。

   再び掃除を始める。

少女 あーあーこんな不幸な少女を見て神様は何も思わないのかなー。あしながおじさん!……とまではいかなくても白馬に乗った王子様!くらい現れて欲しいわよねー。…………あれ?どっちの方が贅沢なんだろ?

   玄関の呼び鈴の音。

少女 はーい。

   少女、袖に駆けていく。
   入れ違いに入ってくる少女。名は早希。

早希 あれ?今誰かいたかな。
千鶴 早希、何やってんのよ。こんな埃っぽいとこで。
早希 あ、お姉ちゃん。いたの。
千鶴 いたのってあんたねえ……。
早希 お姉ちゃん、ここ来たことないよね?
千鶴 あるわけないでしょこんな埃っぽい……
早希 じゃあこれ誰が出したんだろ。

   早希、バケツを示す。

千鶴 前の持ち主じゃないの?何か色々家具とか残ってるし。
早希 前住んでたのって私たちじゃないの?
千鶴 私たちの後、1回誰か住んだんだって。その人のでしょ。
早希 でも水入ってるよ。
千鶴 雨漏りでもしてんじゃない?
早希 あ、なるほど。
千鶴 もう出ましょうよ、こんなとこ。埃っぽくて……。
早希 お姉ちゃんそればっかり。
千鶴 私はね、デリケートなの。真っ黒クロスケ出ておいで、なんて言ってられないの。
早希 真っ黒くろすけ?
千鶴 あんた知らないの?有名よ。
早希 うそ。何なの、それ。
千鶴 えーとね、屋根裏とか埃っぽいとこに住んでる生き物で、呼ぶと出てくるの。でも捕まえたと思ったら消えちゃってるのよ。
早希 そんな生物ホントにいるの?
千鶴 ばっかねー。お話の中のことよ。あんたホントに知らなかったの?トトロも見たことないの?
早希 トトロ?
千鶴 となりのトトロよ。あーあれ見てないなんて。駄目ね。トトロはアニメの王様よ。
早希 ええ?
千鶴 今度ビデオ借りてきなさい。私も見るから。
早希 お姉ちゃんが見たいだけじゃん。
千鶴 違うわよ!私は何回も見たんだから。あんたも見るの。
早希 面倒くさいなあ。
千鶴 見なさい!
早希 はーい。

   二人、袖に引っ込む。
   すぐに早希、出て来て、

早希 真っ黒クロスケ出ておいでー!
少女 はーい。

   少女、荷物を持って入ってくる。

早希 だ、誰?
少女 なあに?今呼んだのあなた?
早希 真っ黒クロスケ?
少女 うるさいわね!好きで黒くなってんじゃないわよ。この家が汚れまくってるから。
早希 あなた誰?
少女 何よ。あなたこそ誰よ。
早希 ここは私の家よ。
少女 ここは私の家よ。

   二人、睨みあう。

少女 あーそんなことより掃除しなきゃ。あ、あんた何でバケツ持ってるのよ。あんたも手伝ってくれるの?
早希 ええ?
少女 手伝ってくれるのね!じゃあこれぞうきん。大丈夫私のはもう1個あるから。
早希 あの……。
少女 何よ。私1人に掃除させようって気?
早希 いや……掃除は別にいいけど……。何であなたここの掃除やってるの?
少女 やれって言われてるのよ。別にいいでしょ。そんなこと。
早希 誰がそんなこと言うの?
少女 意地悪な継母やお義姉さん方!こき使われてんのよ、いつも。
早希 嫌にならない?
少女 なるわよ!そりゃ。こんなとこで私の一生が終わるかと思うと……でもね!やっぱりこういう不幸な少女は最後には玉の輿に乗るの。そして幸せな生活を送るのよ。
早希 結構楽観的だね。
少女 あら、絶対そうなるわ。パターンじゃないの。
早希 そりゃお話ならね。

   二人、話しながら掃除をしている。
   早希、少女の持ってきた荷物につまずく。

早希 わ、何これ。
少女 あーけとばさないでよ!お義姉さんの荷物なんだから!
早希 お姉さん?
少女 届け物よ。後で渡さなきゃ。
早希 何いが入ってるのかなあ。
少女 開けちゃ駄目よ。
早希 いいじゃん。すぐ閉めるから。
少女 何よ、そんなもんに興味あるの?
早希 何かいい匂いがする。
少女 匂い?あ……ほんと。
早希 香水かな?
少女 化粧品か。
早希 でも大きいね。
少女 開けてみよう。
早希 え?

   少女、さっさと荷をといてしまう。

早希 い、いいの?
少女 いいのいいの。実はしょっちゅうやってるもん。あ……

   中からはドレスが出てくる。

少女 何これ!あのブスの姉貴がこんなもん着るわけ!?絶対私の方が似合うのに!
早希 っていうかいつの時代のドレスよこれ……。
少女 だいたいお義姉さん、こんなんでサイズ合うわけないじゃない。
早希 ひょっとしたらあなたのために買ってくれたとか……
少女 ないない。あるわけない。あなた、あの人のこと知らないからそんなこと言うのよ。あの人はね……
千鶴 ねえー私の荷物届いたー?

   千鶴が入ってくる。

千鶴 あ!あんた何開けてんのよ!それは私の荷物よ?私の荷物。あんた字も読めないわけ?
少女 あの……すみません。
千鶴 すみませんじゃないわよ。せっかくのドレスが汚れたらどうするの。
早希 お姉ちゃん、この人知ってるの?
千鶴 だいたいね。あんたがウチに来た荷物を受けてること自体間違ってるのよ。どうせあんたへの荷物なんかないのにさ。
早希 お姉ちゃん?
千鶴 しかもその格好で出たんでしょ?ウチの品位を疑われたらどうするの。え?聞いてんの?
少女 …………。
早希 ちょっとお姉ちゃん!
千鶴 あら、早希じゃない。あんたまだこんなとこにいたの?

   少女ドレスを片付けている。

早希 さっきから呼んでたじゃない。何で気付かないのよ。
千鶴 呼んでた?
早希 そうよ。それなのに無視してこの人に嫌味ばっかり……
千鶴 この人って?
早希 え…………

   少女、いつの間にかいない。

千鶴 誰かいたの?
早希 何言ってんのよ。さっきからお姉ちゃんだって話してたじゃない。
千鶴 知らないわよ。そんなの。
早希 知らないって……。
千鶴 とにかくこんな埃っぽいところにいつまでもいないで。それで歩き回られたら家中が汚れちゃうわ。

   千鶴、出て行く。
   早希、わけがわからない。

早希 え?え?どうなってんの?

   ばさっという音と共にノートが落ちる。
   早希、それを拾う。

早希 あ、自由帳だ。……のりまつさき……私の名前じゃん。

   早希、ページをめくる。

早希 何だろ、これ。絵日記……じゃない絵本か。それにしても汚い字。読めないじゃん……。えっと……むかしむかし……

   早希、ぶつぶつ言いながら出て行く。
   少女、入ってくる。
   きょろきょろこそこそしている様子。

千鶴 ちょっと。

   少女、びくっとしてそちらを見る。
   千鶴がいる。

千鶴 私、これから出かけてくるから。留守番頼むわよ。
少女 え?どこへ行く……んですか。
千鶴 お城よ。招待されたの。王子様、どうやら町の娘の中から婚約者を選ぶようよ。ああー楽しみだわー。あ、そうそうお母様も今夜はいないからね。

   千鶴、去る。

少女 何よ、そんなこと言いに来たわけ?あんたみたいな人が選ばれるわけないでしょー!やっぱり私みたいな美人が……。……行かなきゃ選ばれるわけもないか。あーあ……私も行きたいなあ……。
妖精 お嬢さん。
少女 きゃ!
妖精 ああ。びっくりしないで。怪しい者じゃないから。
少女 だ、誰よ!勝手に人の家に……。
妖精 ボクは妖精。君のような不幸な少女に幸せを与える妖精さ。

   間。

妖精 どうしたんだい。
少女 ああ!これよ!そうよ、私みたいな不幸な少女はこうなってしかるべきなのよ。ねえ妖精さん。私に幸せをちょうだい。
妖精 君の幸せとは何だい?
少女 え?私の幸せ?そうね、やっぱりお掃除も、お洗濯もしなくて良くて、きれいな服が着れて、ごちそういっぱい食べられて。ついでに素敵な男の子もいればいいかなーなんて。
妖精 全部いっぺんに叶えるには……
少女 当然、
二人 王子さま。
妖精 わかったよ。ボクの力で君を……素敵にメイクアップしてあげる。
少女 いや……メイクアップって……。
妖精 君は元がいいから。飾りつければ素敵な女性になるさ。
少女 王子さまと結婚させてくれるんじゃないの。
妖精 ボクの力では人の心までは操れない……。でも!君なら大丈夫。さあ、こっちへ来るんだ。
少女 何か不安……。

   妖精、少女、去る。
   早希、出てくる。

早希 真っ黒クロスケ出ておいでー。

   間。

早希 来ないか……。さっきの子……何だったんだろ。お姉ちゃんのこと、知ってたみたいだけど。
千鶴 またこんなところにいるー。

   千鶴、登場。

早希 お姉ちゃん。
千鶴 こんな埃っぽいとこ、出なさいって言ったでしょ。
早希 いいじゃん別に。お姉ちゃんが困るわけじゃないでしょ。
千鶴 困るわよ。それで歩き回られたら、
早希 ああ!もうわかったよ。お姉ちゃんはうるさいんだから。
千鶴 うるさくしないと汚くしてるんだからしょうがないでしょ。あんた、言われないとお風呂にも入らないじゃない。
早希 だって面倒くさいんだもん……。
千鶴 不潔。
早希 でもちゃんと入ってるじゃん。
千鶴 あんたが一人暮らしとか始めたら大変なことになりそうね。
早希 一人暮らしなんかしないもん。家を出る時は結婚する時。
千鶴 ま、いいけどね。あんたが旦那に嫌われようと。私には関係ないし。
早希 そうそう。だから、お姉ちゃんもここに来る必要ないの。
千鶴 何でよ。
早希 関係ないんでしょ?私が汚れても。
千鶴 嫌われてもよ!一緒に住んでるんだからキレイにしててよ、ちゃんと。
早希 お姉ちゃんがここにこなきゃいいんじゃん。お姉ちゃんだってここにいたら汚れるよ。
千鶴 わかってるわよ、そんなこと。
早希 じゃあ何でここに来るの。
千鶴 あんたを探してたの。
早希 何で。

   間。

千鶴 あのね……。
早希 うん。
千鶴 この家、お化けが出るって噂なのよ。
早希 え?
千鶴 ここ、ずいぶん長いこと空家にしてたじゃない。その間、人の声とか、泣き声とかがするって。
早希 誰かが忍びこんでたんじゃないの。
千鶴 違うわよ。だって捜索したら誰もいなかったのよ?床は埃だらけで足跡もなかった。
早希 足跡も?
千鶴 そうよ。つまり……
早希 お化け。

   間。

早希 ひょっとしてお姉ちゃん、恐いの。
千鶴 え。
早希 あー一人でいると恐いんだ!
千鶴 違うわよ!そういうわけじゃなくて。……あんたのことが心配なの!
早希 何で。
千鶴 だって……あんたがお化けにあったら……。
早希 お化けに恨まれるような覚えないもん。
千鶴 気楽ねー。あんた。
早希 大体この家……(間)
千鶴 何?
早希 ねえ……さっきの女の子って……
千鶴 女の子?
早希 さっきいたじゃん!ぼろぼろの服着て、この部屋掃除してた子。お姉ちゃん話してたじゃん。
千鶴 知らないわよ。
早希 ……ほんとに。
千鶴 知らないって。
早希 ……この家、今誰もいないよね。
千鶴 うん。お父さんたち出かけてるもん。
早希 ……じゃあさっきの子は……。
千鶴 だから。

   突然、ごーんごーんという音がする。
   時を知らせる鐘のようだ。

早希 きゃ!
千鶴 な……何。
早希 お姉ちゃん……ここ、時計あったっけ。
千鶴 時計?
早希 振り子……時計。
千鶴 ないわよ……そんなもの。

   そこに入ってくる妖精と少女。
   少女はドレスアップしている。

少女 ほんとに……大丈夫なの。
妖精 大丈夫。ボクの力を信じて。
早希 さ……さっきの子。
少女 あら、あなた家で会った子ね。
千鶴 あんたこんなところで何してるのよ!
少女 あ、……お、お姉さま。
千鶴 何!その格好は!?家の物、勝手に使ったわね。居候の分際で……
妖精 い、
少女 居候じゃないわよ!あそこは私のお父さんの家よ。居候はそっちの方じゃない!
千鶴 あれはお母様の家なの。あなた、これ以上反抗的な態度取るのなら家を追い出すわよ!
少女 …………。
早希 お姉ちゃん……。
少女 すみません……。
千鶴 すみませんじゃすまないわ。早く帰って洗濯してきなさい。
少女 はい……。
妖精 そうだね。お洗濯しようか。

   妖精、千鶴の目の前でステッキを回す。
   千鶴、ふらふらっとなって、

千鶴 お洗濯、お洗濯!

   千鶴、帰ってしまう。

妖精 これでよし。
少女 何よ、妖精さん!心、操れるんじゃない。
妖精 こんな催眠術、一時的なもんだよ。すぐ帰ってくる。それに……
少女 それに?
妖精 あれくらい単純な心の人じゃないと駄目だからさ。
少女 (千鶴の去った方を見て)単純……。
早希 単純だね。
少女 あら、あなたもお城に行くの。
早希 お城?
少女 王子様のお城よ。これから王子様が婚約者を選ぶのよ。
早希 どっかで聞いた話だなあ。
少女 私、頑張って選ばれてくるわ。
妖精 ボクも出来る限り強力するからね。
少女 でもあなたが入っていったら目立たない?
妖精 そうだね……。じゃあボクも変装しよう。

   妖精、袖へ。

早希 何やってんのかな。
少女 着替えてるんじゃない。
早希 妖精だったらぱっと着替えられないの?ステッキの一振りとかでさ。
少女 あの人、何の妖精なんだろ。
早希 何のって?
少女 木の精とか、花の精とか、鳥の精とか。
早希 え、妖精ってそんなのあるの?
少女 あるんじゃない?
早希 へえ……妖精は妖精だと思ってた。じゃあ電気の精とかあるのかな。
少女 電気?何それ。
早希 知らない?じゃあ風の精。かっこいいよね、何か。
妖精 ひゅうー。

   妖精、スカートになっている。風のように現れる。

妖精 お待たせ。
少女 あ、妖精さん。
妖精 さあ行こう。

   少女、妖精、去る。

早希 あの人女だったの?……それにしても大きな妖精……。

   千鶴、入ってくる。

千鶴 ああー。何で私、家に帰っちゃったんだろ。急がなきゃ間に合わないわ。
早希 お姉ちゃん。
千鶴 あ、早希。
早希 お姉ちゃん、どこに行くの。
千鶴 どこって。どこも行かないわよ。
早希 わっかんないなー。さっきから。どっかで聞いた話なんだけど。
千鶴 何のこと。
早希 ねえお姉ちゃん、意地悪な姉と継母にいじめられてる女の子が、妖精の力で王子様のお城へ行くって話、聞いたことない?
千鶴 何よ、シンデレラじゃないの。
早希 何か違うのよ。ほら、シンデレラって魔女のおばあさんじゃない。
千鶴 違うわよ。あれは魔女に化けてる妖精よ。
早希 そうなの!
千鶴 そうよ。だからシンデレラでしょ。
早希 シンデレラってこの先、どうなるんだっけ。
千鶴 この先って。
早希 お城へ行った後。
千鶴 王子様に見初められるんでしょ。
早希 それで?
千鶴 12時になったら魔法がとけてしまうから、ガラスの靴を残して王子様の元から去るのよ。
早希 12時!あの妖精さん、そんな約束したかな。妖精さんがお城へ行っちゃってるもんなあ。それにドレスアップは魔法じゃないし。
千鶴 何言ってるの?
早希 やっぱりシンデレラじゃないよ。何かの話。
千鶴 ええ?他にそんな話あったかな。
妖精の声 むかーしむかしあるところに、ひとりのかわいそうなおんなのこがいました。
早希 あ……。
妖精の声 おんなのこはいじわるなおねえさんとままははにいじめられていました。あるひ、おねえさんはぶどうかいにいくためにどれすをきてでていってしまいました。
千鶴 武道会?
早希 武道会って……
千鶴 武道するの?
早希 違うの。王子様が婚約者を選ぶパーティーなの。
千鶴 じゃあ舞踏会じゃない?
早希 間違えたみたい。
千鶴 誰が。
早希 え……
妖精の声 わたしもいきたい、とおんなのこがいうと、おんなのこのまえにひとりのようせいがあらわれました。
早希 妖精……。
妖精の声 ようせいはおんなのこがぶどうかいにでられるようにおんなのこをきれいにしました。
千鶴 何よ、きれいにって。
早希 あ!そうか、私、妖精が魔法使ったってことにしてなかったんだ。
千鶴 はあ?
早希 わたし……これだ!

   早希、ノートを取り出す。

千鶴 何それ。
早希 昔私が書いてた絵本。
千鶴 絵本?
早希 ほら。

   早希、ページをめくる。

千鶴 何て書いてあるの。
早希 わかんない。
千鶴 駄目じゃない。
早希 でも何となくなら……。ほら、おんなのこはようせいとともにぶどうかいにいきました。
千鶴 やっぱり武道会なの。
早希 昔はよく知らなかったから。で、あれ……先がない。
千鶴 これだから。あんた、何でも最後まで続いたためしがないもんね。
早希 うーん。こんなちっちゃい頃からだったんだねえ……。あーでも懐かしいなあ。ほら、妖精と女の子が同じ大きさなんだ。
千鶴 これ人なの?
早希 人だよ!見たらわかるでしょ。
千鶴 見てわかんないから言ってんのよ。
早希 それもそうか……。
千鶴 この女の子だけ絵がまともじゃない。
早希 これお姉ちゃんが描いたんだよ。
千鶴 え?
早希 お姉ちゃんがお姉ちゃんの役なら私が描く!って。
千鶴 お姉ちゃんって……これ私なの。
早希 知らない。女の子のお姉ちゃんの役。
千鶴 私じゃないじゃない。
早希 お姉ちゃんが勘違いしたんじゃない?
千鶴 するかなあ……こんな話で。
早希 覚えてるなあ……。私、ずっとこんな話に憧れてたんだ。ねえ、お姉ちゃんも思うでしょ?
千鶴 私はそういう現実離れした話は……。それでハッピーエンドならもってのほかね。
早希 何で。
千鶴 つまんないじゃない。私ならこうする。例えば、王子様は意地悪な姉の方に惚れてしまった。
早希 何よ、それ。
千鶴 でも少女に家は返ってくるわよ。姉と継母はお城に住むから。
早希 何か納得いかないなー、その結末。
千鶴 面白いじゃない。それで、少女は妖精と二人で住んでてね……あ!描いてやろう。

   千鶴、ノートを持って去る。

早希 あー。私の話、勝手に描かないでよ。

   早希、千鶴を追い掛けて去る。
   少女と妖精出てくる。

妖精 ごめんね。
少女 いいよ……もう。
妖精 こんなことになるなんて……。
少女 私って魅力なかったんだなあ……。お姉ちゃんよりはずっとマシだと思ってたのに。
妖精 マシなんてもんじゃないよ。君の方がずっと可愛いよ。
少女 ほんとにそう思う?
妖精 思うさ。
少女 じゃあ何で王子様は選んでくれなかったの?
妖精 あの王子様は目が悪いんだよ!きっと。うん、趣味も悪いね。
少女 そうかなあ。
妖精 ボクなら絶対君を選ぶのに。
少女 選んでくれる?
妖精 え?

   沈黙。

妖精 ボクでよければ……ずっと……君と……
早希 あー止めてよー!

   妖精、少女、去る。
   早希、千鶴、戻ってくる。

早希 何で妖精と少女が結婚しちゃうのよ。
千鶴 いいじゃない。その方が。私なら妖精の方がいいけどなあ。
早希 この妖精は女の子なの。
千鶴 ええ?男の子に見えるわよ。
早希 妖精に性別はないの。
千鶴 言うこと変わってるじゃない。
早希 とにかく、こんな話駄目。

   早希、消しゴムでノートに描かれたことを消している。

千鶴 じゃあどんな話がいいのよ。あ、じゃあこんなのどう?
早希 どんなの?
千鶴 描かせて。
早希 やだ。消すのめんどい。
千鶴 消さなきゃいいじゃん。これならいい話だから!

   千鶴、ノートを奪う。

早希 あ!返してよ。

   早希、千鶴、去る。
   少女、入ってくる。

少女 とうとう王子様には会えなかった……。もう……私には帰る家もないわね……。
妖精 どうしたんだい。
少女 あ、妖精さん……。王子様には会えなかったわ。ごめんね。せっかくきれいにしてくれたのに。
妖精 諦めたのかい。
少女 諦めたくはない。……だって……どうせ家には帰れないわ。お義姉ちゃんたちにいっぱい反抗しちゃったし。それに……やっぱり王子様のことが好き。
妖精 王子様じゃなくても好きかい。

   間。

少女 ……好き。王子様じゃなくてもいいから。王子様が好き。
妖精 ありがとう。
少女 え。
妖精 あの城の王子様は生まれてすぐ亡くなったんだ。そして王様はボクを王子様にした。
少女 え……。
妖精 妖精だけどね。ほんとの王子様じゃあ、ないけど。
少女 妖精さん。
妖精 それでも好きかい?
少女 好き、大好き!

   結婚の音楽。

早希 駄目えええええええ!

   音楽、途切れる。二人、去る。
   早希と千鶴出てくる。

早希 もう、お姉ちゃんは!
千鶴 いいじゃないのー。
早希 何で妖精とばっかり結婚させちゃうのよ。
千鶴 今度のは王子様でもあるじゃない。
早希 妖精は女の子なの。
千鶴 どうでもいいじゃない、そんなこと。変えちゃえば。
早希 私の話なんだから。女の子は王子様と結婚するの。
千鶴 だから、
早希 王子様は妖精じゃないの。妖精は別。
千鶴 じゃあ女の子の姉は妖精と。
早希 駄目。
千鶴 何で。
早希 妖精は女の子だから。それに女の子の姉は幸せになっちゃいけないの。
千鶴 嫌よ。
早希 へ?
千鶴 どんなキャラクターにだって幸せになる権利はあるでしょう。ちょっとばかし妹に意地悪したからって不幸にされちゃたまんないわよ。
早希 だけどさあ……。いじめる方も悪いよ。
千鶴 母親がいじめてたからでしょ?子供って親の真似するのよ。
早希 そうかもしれないけど。
千鶴 だいたいその女の子の姉はいくつなわけ?
早希 さあ。
千鶴 そんなことも考えず話描いてるの?
早希 だってこれ描いたの幼稚園の頃だから……。多分6歳くらいじゃない?
千鶴 何が。
早希 この女の子の年齢。
千鶴 はあ?
早希 だってだいたい自分と同じ年に描くじゃん。主人公って。
千鶴 じゃあ姉は。
早希 お姉ちゃんだから……9歳かなあ。
千鶴 それで王子様と結婚とか言ってるの?馬鹿みたい。
早希 王子様は6歳。
千鶴 ……女の子の方が有利じゃない。
早希 子供の3歳差って大きいもんね。
千鶴 駄目よ、そんな設定。せめて女の子が16歳。姉は18歳。王子様は19歳ってとこね。
早希 何でー。
千鶴 それが妥当よ。16と19でも18と19でもあうじゃない。
早希 姉と合っちゃいけないんだって。
千鶴 だから何で姉と不幸にしようとするの。
早希 意地悪だから。
千鶴 意地悪じゃないわよ。
早希 意地悪なの!
千鶴 意地悪じゃないの!
早希 意地悪なの!
千鶴 違う!
早希 ……何意地になってるのよ、お姉ちゃん。
千鶴 何となくよ。それよりお話の続きどうするの。
早希 女の子が王子様と結婚。
千鶴 姉は、
早希 一生独身。
千鶴 何でよ!
早希 嫌なの。
千鶴 私は嫌。
早希 どうでもいいじゃん。じゃ、その内お見合いするってことで。
千鶴 妹は王子様のお嫁さんなのに?冗談じゃないわよ。
早希 こだわるね。お姉ちゃん。
千鶴 姉が不幸になっちゃいけないわ。
早希 じゃあとりあえず姉は舞踏会に間に合った。
千鶴 それよ!

   少女、妖精、入ってくる。

少女 お義姉さん!
千鶴 あなた……。こんなところにいたのね。家にいないと思ったら……。何やってるのよ。
妖精 あ、あら人違いじゃないかなー。
千鶴 今お姉さんって呼んだじゃない。
妖精 気のせいだ……よ。
千鶴 そんなわけないでしょ。あんたもひょっとして王子様の妻の座、狙ってるわけ。
少女 ……………そうよ。あんたなんかに負けないから。
妖精 おお!言ってやれ、言ってやれ。
千鶴 あなた、何。あなたも狙ってるの。
妖精 え?いや、ボクは……うん、別に。
千鶴 どっちなのよ。
早希 お姉ちゃん、この先どうしよう。
千鶴 これから王子様が現れて、私と結婚するのよ。
少女 王子様は私と結婚するのよ。
妖精 そうだ、そうだ!
早希 だよなあ、やっぱり。
千鶴 意外にあなたが選ばれたりして。
早希 へ?
妖精 え、ボク?
千鶴 冗談よ。
早希 面白いけどね……。王子様が現れてからよね、問題は。
千鶴 王子様はどこ。
早希 王子様……モデルあったんだよね、みんな。姉が千鶴姉ちゃんで。継母はお母さんで。妖精は友達のゆうちゃんで。女の子は友達のみさきちゃんで。王子様は……。
千鶴 あ、王子様!

   千鶴、袖へ。

少女 え。どこどこ。
妖精 あ、あっちにいるみたいだよ!みさきちゃん、アピールアピール!
少女 うん!

   少女、妖精、去る。

早希 みさきちゃん……懐かしい、そうだ、王子様。

   早希、逆方向に去る。
   少女、妖精、入ってくる。

少女 何よ、違うじゃないの。
妖精 うん……。違ってたみたいだね。ごめん。ようし、ボクの力で見つけてみせるぞ。

   妖精、ステッキを立てる。

少女 まさかそれで倒れた方向とか……。

   ステッキ、倒れる。

妖精 ……駄目?
少女 あんた本当に妖精?
妖精 妖精なんだけどなあ。

   千鶴、入ってくる。

千鶴 もう!王子様はどこにいるのよ。あんた、どっかに隠してない。
少女 どこに隠すんです……どこに隠すのよ!
千鶴 あなた……このまま家に帰れると思う。
少女 覚悟の上よ。私は王子様に選ばれるんだから。
千鶴 選ばれなかったら帰る家はないわよ。
少女 承知の上よ。
千鶴 ふん。

   千鶴、去る。

妖精 迫力〜。すごいね、みさきちゃん。
少女 千鶴姉さんなんかに負けてたまるもんですか。妖精さん、私、きれいよね。
妖精 もちろん、最高さ。
少女 よーし。頑張るぞー。

   音楽。

妖精 あ、王子様が来るのかな。
少女 やっと?待ちくたびれたわ。よーし。王子様、早く来い、早く来い……。

   王子、入ってくる。
   早希である。

少女 王子様。
妖精 王子様。
千鶴 あ、王子様。

   千鶴、入ってくる。

少女・千鶴 王子様、踊って下さいますか。(そっと手を差し伸べる)
早希 あー!これよ、私のやりたかった役。姫にそっと手を差し伸べる王子様……

   すでに少女と千鶴が差し伸べてる。

早希 何か逆ね……。まあ、いいわ。

   早希、少女の手を取る。

早希 踊って下さいますか、お嬢さん。
少女 はい。

   音楽。
   二人、踊る。

千鶴 きーっ!悔しい。
妖精 ボクと踊るかい。
千鶴 全く。女同士なんてね……。男の数、間違ってるわ。

   妖精、千鶴も踊り出す。

早希 君、名前は。
少女 みさきです。
早希 いい名前だ。
少女 王子様は。
早希 ……早希。
少女 素敵な名前ですね。
早希 ありがとう。ねえみさき。
少女 はい。
早希 ぼくと結婚してくれないか。
少女 …………。
早希 君こそ、ぼくの探し求めていた人だと思う。
少女 …………。
早希 結婚してくれるかい。
少女 はい!

   二人、踊りながら去る。

千鶴 なあに、あれ。
妖精 つまらないかい。
千鶴 つまらないわ、平凡な結末。
妖精 ここらで非凡な出来事を起こすかい。
千鶴 そうね……。お城に火をつけて二人は焼死。悲劇のカップル!
妖精 いや……そうじゃなくて。
千鶴 何。
妖精 ボクね……こんな格好してるけど……男なんだ。
千鶴 え。
妖精 昔っから女の子に間違えられてたけど。
千鶴 あなた……妖精じゃないの。
妖精 へへ……そんないいもんじゃないよ。ただ、君に恋した男の子さ。
千鶴 私に……。
妖精 王子様と結婚して欲しくなかった。まあ君もする気はなかったかもしれないけど。
千鶴 何言ってるのよ。私は。
妖精 あのドレス。
千鶴 え。
妖精 みさきちゃんの着てたドレスさ。君のじゃないの。
千鶴 そ、そうよ!あの子が勝手に着ていったのよ。
妖精 何で君は着ていかなかったのさ。
千鶴 それは……。
妖精 元々あの子のために買ったんだろ。サイズだったあの子用だ。
千鶴 違うわよ。
妖精 あの子に王子様と結婚して欲しくて。
千鶴 違うってば!私は……ただ客観的事実が欲しかっただけ……。
妖精 客観的事実?
千鶴 小さい頃から……お母様が私とあの子を差別してたのはわかったわ。何となく感じてた。自分がひいきされる理由なんて……昔はわかんなかった。私の方が可愛いって言われて……その気になってたのよ。でも年を重ねればわかるわ。あの子の方が可愛い。あの子の方が王子様にふさわしい。でも私は認めたくなかった。だから……
妖精 他人に選ばせようってとこ?妹が来るかどうかも妹次第で。
千鶴 来ない可能性もあったから……あの子が選ばれる可能性は五分五分だったのよ。
妖精 ボクが来させたんだけどね。
千鶴 どうして。
妖精 だから、君に王子様と結婚して欲しくなかったのさ。
千鶴 どうして。
妖精 君のことが好きだから。
千鶴 どうして……。
妖精 可愛いかどうかなんて見る人次第なんだよ。好みってもんがあるんだから。それに君は優しい子だと思うよ。ちょっときつくて八つ当たりの多い子だけど。
千鶴 八つ当たり……。単なる嫉妬よ。私を好きと言ってくれたのはお母様だけだったもの。
妖精 好きだよ、千鶴ちゃん。
千鶴 ゆう君……。

   音楽。
   二人、去る。
   早希、出てくる。

早希 こうしておんなのこもおねえさんもしあわせにくらしました。めでたし、めでたし。

   千鶴、入ってくる。

千鶴 ほんとに良かったの?こんな結末で。妖精が男の子になってる上に、姉の方が何か目立ってない?
早希 私は王子様になれればそれでいいの。
千鶴 わっかんないわねー。女の子のくせに。
早希 女の子だからってお姫様に憧れるとは限んないの。
千鶴 妖精が実は人間ってのは最初から考えてたの。
早希 さあ。でも……最初からこんな結末だったような気はする。意地悪なお姉さん……そんなんじゃないって……わかってたのかな……。
千鶴 可愛がってくれるのはお母さんだけ……私みたい。
早希 お姉ちゃんだよ。お姉ちゃんと、血のつながらないお母さん。
千鶴 あなたにはお父さんがいるからいいわよね。この女の子とは違う。
早希 最初から私は女の子の役じゃないんだから。関係ない。
千鶴 王子様ねえ……。
早希 このお話、ずっと続きを待ってたのかな。
千鶴 え?
早希 ずっとここでさ、繰り返してたのかもね。
千鶴 あ……。
早希 お化けみたいなもんか。私さー、お話完成させたの初めてだよ。
千鶴 良かったじゃない。これからもどんどん描けば。
早希 でもちっちゃかったから描けるんだよねえ。こんな話。恥ずかしげもなく。
千鶴 あら結末描いたのは今のあなたでしょ。
早希 そうだけど……。何か違うのよねえ。ねえねえ、ちっちゃい頃一緒に遊んだゆうちゃんってさ。
千鶴 うん。
早希 男の子だっけ。女の子だっけ。
千鶴 えっと……。
早希 ゆうってどんな字だった?
千鶴 優秀の優。
早希 あーわかりにくいなー。
千鶴 でもボクって言ってなかった?
早希 違うよ。多分自分のことはゆうって言ってたもん。
千鶴 あ、そっか。
早希 そうそう、いつも自分のことゆうはねーって。
千鶴 あんたも早希ちゃんはねー、だったじゃない。
早希 そうだっけ。あー小2までそう言ってた気がする。お姉ちゃんは。
千鶴 私は小1まで。ゆうちゃんは……。
早希 いつまでかなあ……。
千鶴 私たちが引っ越しちゃったからねえ。
早希 今でもこの辺、住んでるのかな。
千鶴 どんなになってるかな。
早希 男の子だったらいいねえ。
千鶴 何で。
早希 お姉ちゃん、女の子と結婚したことになっちゃう。
千鶴 あのね、お話でしょ、これは。
早希 そうだけどさあ。

   玄関の呼び鈴。

千鶴 あれ、誰だろ。はーい。

   千鶴、出て行く。

妖精の声 あ、千鶴ちゃん?
千鶴の声 えー!ゆうちゃん!?お久しぶり。
妖精の声 お久しぶりー。変わってないね、千鶴ちゃん。
千鶴の声 ゆうちゃん変わったー。声変わりしたの?かっこ良くなってる。
妖精の声 ほんとに?嬉しいなあ。
千鶴の声 うれしい?
妖精の声 だってぼく、昔、千鶴ちゃんのこと好きだったもん。
千鶴の声 あー過去形なの?
妖精の声 いや、いまでも好きだよ、もちろん!

   早希、千鶴たちの方を眺めて、

早希 お話だよね。これ?

   音楽。
   早希も去る。

妖精の声 わー早希ちゃんじゃん……
早希の声 へへー。ゆうちゃんって男の子だったんだー……
妖精の声 えー、どういう意味……

   声と音楽がかぶさって……FO。

─幕─



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