雨と桜の見える場所

【誰もが思ってる。でも誰もが忘れてる。6人の死者は永遠にそこにいる。永遠に……】

   舞台上、6人の男女がいる。
   明かり、FI。それでもまだ薄暗い。

男1 そこには誰かがいたのかもしれない。
男2 そこには何かがあったのかもしれない。
男3 誰もそれを見ることは出来ない。
男全員 覚えているのはただ雨の音。
女1 春に私はそこにいた。桜が満開の季節だった。窓から見える景色は薄紅色。赤はアクセント。赤は血の色。
女2 夏は窓を開けられない。外から差し込む光は眩しすぎ、太陽を忘れた私たちに夏の香はきつすぎた。
女3 秋、冬。陽が落ちるのが早くなり闇の時間が長くなる。それでも私たちは窓を開けることが出来なかった。
女全員 いつからここにいるのだろう。季節は変わり時は流れず。
男全員 いつまでここにいるのだろう。窓は破れ床は変わらず。
全員 誰かが想ってる。誰かが望んでる。でも誰もが忘れてる。
女1 初めは6人だった。終わりも6人だった。私たちはいつまでも6人だった。永遠に。
全員 永遠に。

   1人1人去る。
   急にドアを開けて入ってくる人物。
   場面、一気に明るくなる。

 坂上さん!

   桜、辺りを見回す。が、誰もいない。

 坂上さん?

   桜、しばらくきょろきょろし、ピッチを取り出す。

 圏外か……。これだからピッチは。どうしよう……。坂上さん、どこかな……。

   桜が迷っていると、後ろから礼司と諒太と千秋が入ってくる。
   桜は気付かない。
   3人は桜の動きに合わせて隠れ、動く。
   突然、

 誰っ!
男二人 きゃあ!

   間。

 だ、誰?
千秋 何であんたたちが悲鳴あげちゃうのよ!私の驚くタイミング逃しちゃったじゃない。
 誰よ、あなた。
千秋 あなたこそ、誰?勝手に人んち入ってきて。態度が悪いんじゃない?
 私は呼ばれてきたのよ。この家の持ち主に。
千秋 持ち主は私よ。
礼司 おれだ、おれ。
諒太 ぼくもそうですけど……。
 はあ?
千秋 ここは私たち6人の共有の物よ。
 6人?6人もここに住んでるの?嘘ー。坂上さん、そんなこと言ってなかったな。
礼司 坂上さんって?
 え?知らないの?
礼司 お前、知ってるか?
諒太 (首を振る)
千秋 何よ、じゃああんた、ほんっきで余所者じゃない。出てってよ。
 ちょっと待ってよ!私は呼ばれて来たんだから。
千秋 家、間違えたんじゃないの。
 こんな山奥に他に家があるんなら教えて欲しいわね。
千秋 生意気な物の言い方するわね。
 あなた程じゃないでしょ。

   睨み合う二人。
   間。

礼司 すげえ。千秋とタメ張ってる奴、初めて見たぜ。
諒太 ぼくは昔、見たことありますけど。
千秋 あなた、名前は。
 桜よ。
千秋 ああ、そう。私は千秋。そこにいるのが礼司と諒太。
礼司 あ、礼司です。
諒太 諒太です。
 私、あなたたちの自己紹介なんていらないわ。
千秋 坂上さんに用があるんでしょ。
 知ってるの?
千秋 知らないわよ。だから勝手に探しなさい。
 は?
千秋 ここはよく人が入れ替わるの。私も全部把握してるわけじゃないし。とりあえず探してみれば?その……坂上さん?その人の痕跡くらいあるかもよ。
 どういう場所よ、ここは……。
千秋 知らないで来たの?よくそんな度胸あるわね。ここから出られなくなっても知らないわよ。
 出られなくなる?
千秋 迷うってこと。あなた、方向感覚に自信ある?
 あんまりない……。
千秋 ここは似たような部屋ばかりだからね。
諒太 あ、ぼく、案内しましょうか。
 ほんとに?助かるわ。
礼司 お前大丈夫かよ、お前だってたまに迷うだろ。
諒太 でもいないよりマシでしょうし……。それとも礼司君が案内しますか。
礼司 ごめんだよ、そんなの。ほら、とっとと行けよ。
諒太 はい、ではごゆっくり。

   諒太、桜、去る。

礼司 何がごゆっくりだ!
千秋 あの人とまともにしゃべってると馬鹿になるわよ。あ、あんたは元々か。
礼司 うるせえな。それより何だよ、あの女。
千秋 道に迷ったんじゃないの。
礼司 こんな山奥でか。
千秋 遭難したとか。
礼司 だったらあいつのいう坂上さんってのは。
千秋 さあね。
礼司 何か目的があって入り込んだんだろ。……いいのか?ほっといて。
千秋 私は知らないわ。一応この中のリーダーはあなたでしょ。
礼司 ……んなの一番古株ってだけじゃねえか。それに、それ言うならお前もだぜ。
千秋 私の方が入るのは3秒遅かったもの。
礼司 前は4秒って言ってなかったか?
千秋 気のせいよ。
礼司 そうか。

   間。

礼司 なあ。
千秋 何。
礼司 あの女……ひょっとしていい機会じゃないか。
千秋 何が。
礼司 だから……お前がここから出て行く……、
千秋 私は当分出る気はないわよ。
礼司 何でだよ、お前、ほんとにずっとここにいるつもりなのか。
千秋 しょうがないじゃない。約束なんだから。
礼司 そんな約束なしだ。
千秋 あなたが一方的に言ったって駄目よ。それとも何?あなたは私と別れたいわけ。
礼司 そういうわけじゃないけどさ……。
千秋 私は……いいわよ、ずっとこのままで。あなたがいるなら。
礼司 お前、昔はそんなこと言ってくれなかったよな。
千秋 あなたが言ってくれたからね。
礼司 おれはもうあんなこと言わないよ。なあ、だから。
千秋 しつこいわね!私はこのままでいいって言ってるでしょ!私、光と英理奈に知らせてくるわ。あの人のこと。あんたも雄介君に知らせておけば?
礼司 雄介に知らせてどうすんだよ。
千秋 一応よ、一応。
礼司 ま、いいけどさ。
千秋 じゃあね。

   千秋、去る。

礼司 ああ。

   間。

礼司 しまった。ごまかされた……。いつもこうだよなあ……。(ふと外を見て)雨は止まないな……。

   礼司、去る。
   光、英理奈、入ってくる。

英理奈 本当に本当なのね?
 しつこいなあ。だからそうだって言ってるじゃん。私たちくらいのショートカットの女の子。
英理奈 でも……ここに新しく来た人じゃないんだね。
 そうみたい。だからチャンスじゃん!
英理奈 何の。
 あの女の子、利用しちゃおう!
英理奈 (ため息)で?何か考えはあるわけ?
 え……それはー。
英理奈 ないから私に話したんだろ。
 へへ……さっすが英理ちゃん!わかってるねえ。
英理奈 私に手柄を横取りされる、とかは思わないわけ?
 そればっかりはやってみないとわかんないもん。でもね、どうあれあの女の子は殺すんでしょ。

   間。

英理奈 二度と口に出すんじゃないよ、さっきの言葉。
 はーい。
英理奈 光、私とあんたじゃ立場が違いすぎる。作戦をたてるにしても私は私に有利なようにしかやらないよ。
 だと思った。いいよ、それで。私が助かる可能性だってあるんだから。
英理奈 楽観的だね。
 私の取り柄。
英理奈 いいけどね。それじゃあ……まずその女の子はどこにいるの?
 知らない。
英理奈 (再びため息)どこにいたの。
 家に入ったとこ見ただけだもん。
英理奈 それじゃもう帰っちゃってるかもよ。

   そこに千秋登場。

千秋 あ、いたいた。光、英理奈。
英理奈 千秋。どうしたの。
千秋 知らせに、ね。この家に女の子がやってきたわ。桜っていう子。
 ほら、言った通りでしょ!
英理奈 で?
千秋 あなたも知ってるでしょ。これはあなたたちがここから出るチャンスよ。
英理奈 まあね。知ってるよ。
千秋 それだけよ。一応知らせとこうと思ってね。
英理奈 千秋。
千秋 何。
英理奈 あんたは何もしないんだな。
千秋 ……私はずっと礼司と一緒よ。
 うわー。千秋ちゃん言うねえ。
千秋 約束だもの。死んでも一緒だって。それじゃあね。

   千秋、去る。

 すごいなー、いいなー。死んでも一緒なんてねえ。普通「死ぬまで一緒」よねえ。ねえねえ英理ちゃん、英理ちゃんにはそういう相手いるー?
英理奈 さ、くだらないこと言ってないで。
 いないんだねー。
英理奈 うるさいね!今はそういう時じゃないだろ。ぐずぐずしてるとその……桜だっけ?その子、出ていっちゃうわよ。
 そういや何でその子、ここに来たんだろ?
千秋 あー言うの忘れてたわ。

   千秋、登場。

千秋 桜は今諒太君と一緒に家中歩き回ってるから。探すのは大変よ。それだけ。

   千秋、去る。

 あ、聞くの忘れた。
英理奈 まあいいじゃない、来た理由なんて。どっちにしろここに来るなんてろくな奴じゃないんだから。
 私たちもろくな奴じゃない?
英理奈 ないね。
 (やけに嬉しそうに)じゃあ行こう!その子を探しに。
英理奈 作戦立ててからの方がいいんじゃないか。
 そんなの探しながら考えるの。もたもたしてるといなくなっちゃうよ。
英理奈 どうせあんたは考えないんだろ。
 うん。
英理奈 全く……。
礼司 雄介ー?

   礼司、登場。

礼司 あ、英理奈。雄介見なかったか?
英理奈 さあ。ここには来てないよ。
礼司 あ、桜って子のこと聞いたか?
英理奈 聞いた。私たちは利用するよ。ここから出るチャンスだからね。
礼司 そうか……。
英理奈 あんたも千秋に出て欲しいんなら、同じような二人組が来るのを待つしかないんじゃない?
礼司 ……待ってるさ。もう10年。何度も人は入れ替わったけどな。おれたちはいまだにここから出られない。
 嫌なの?
礼司 え?
 千秋ちゃんとずっと一緒にいられるんじゃん。それが嫌なの?
英理奈 元はあんたが望んだことなんだろ。
 今更千秋ちゃんに出て行って欲しいなんてひどいよねえ。
礼司 …………。
英理奈 ま、私たちには関係ないことだけどね。さ、行こう、光。
 うん。

   英理奈、光、去る。
   雄介、入ってくる。

雄介 礼司君。
礼司 雄介。
雄介 大変だね、礼司君も。
礼司 お前程じゃないさ。
雄介 ぼくを探してたって聞いたけど。
礼司 ああ、桜って女の子がこの家にやって来たんだ。それだけさ。お前にゃ関係ない。
雄介 関係ないんだ。
礼司 お前は……まだ思い出せないのか。
雄介 ……うん。変だね、名前は覚えてるのに。
礼司 そういうことってあるもんさ。ただ外傷による記憶喪失は戻ることも少ないらしいけど。
雄介 そうなんだ。ぼくは……でも頭を打った覚えもないしな。
礼司 死んだときになんらかのショックを受けてるんだろ。
雄介 死んだ……か。ぼく、ほんとに死んでるのかな。
礼司 信じられないだろうけどな。おれたちだって記憶があってもなかなか信じられなかったさ。
雄介 礼司君たちはいつからここにいるの?
礼司 約10年。ここじゃ時間なんて数えるだけ無駄だけど。
雄介 どうして出られないの?
礼司 お前に……話したことあったよな。ここは、自分と同じ罪を犯して死んだ者が来た時、そいつと入れ替わって出ることが出来る。……ま、成仏出来るってことかな。
雄介 礼司君たちは何をしたんだい?
礼司 ……心中。
雄介 心中?
礼司 千秋とな。……親が許さなかったんだ。ま、おれたちまだ若かったしな。
雄介 それが……罪なの。
礼司 親より先に死んだこと。それがここに来る第一条件さ。だからみんな若いだろ?
雄介 ……そうだね。
礼司 んで、殺人。
雄介 ……自分を殺した?
礼司 それもある。……もう1つはおれたちの子かな。
雄介 子供。
礼司 そ、千秋は妊娠してた。それで心中したんだから当然子供はおれたちが殺したことになる。
雄介 ぼくは……
礼司 ん?
雄介 誰を殺したんだろう。
礼司 自分かもしれない。他人かもしれない。それに、直接殺したわけじゃないかもしれない。
雄介 直接殺してなくても罪になるの。
礼司 場合によるな。例えば光なんかそうだ。
雄介 光ちゃん……あの、ちょっと元気な子。
礼司 そう。あいつはな、溺死。川で溺れたんだ。で、助けようとした奴もそのまま死んじまった。
雄介 それが罪なの。
礼司 ま、結果的にはな。ひどいもんだろ?自分の意志なんかまるっきり入ってないのにな。
雄介 …………。
礼司 ま、そういうこともあるってことだ。お前もあんまり気にしない方がいいかもな。
雄介 他の人は、
礼司 他の人?ああ、あんまりあいつらは語らないからな……。諒太が自殺したって話は聞いたことあるけど。そういや英理奈の話なんかまるっきり聞かねえや。
雄介 人を殺したから。
礼司 言わないのかもな。まあどうでもいいことだよ。
雄介 諒太君は。
礼司 諒太?あいつは桜って子の案内してるぜ。
雄介 桜。桜……利恵。
礼司 知ってんのか。
雄介 知らない……。いや、多分知ってる。
礼司 ああ、そうか。お前何も覚えてないもんな。何か……記憶に反応するか。
雄介 わからない。
礼司 探して会ってみろよ。何か思い出すかもしれないぜ。
雄介 うん。……行ってくる。

   雄介、去る。

礼司 あいつもつかみづらい奴だよな……。本当に記憶喪失なんだろうか……。

   礼司、去る。
   桜、諒太、入ってくる。

 何?また同じ部屋?
諒太 違います。この部屋は初めてです。
 同じにしか見えないわよ。
諒太 造りは同じなんです、どの部屋も。物がないから同じに見えるんです。
 ここも何もありそうにないわね。一体いくつ部屋があるわけ?
諒太 わかりません。数えたことはありませんから。
 人は6人なんでしょ。
諒太 あなたを入れて7人です。
 坂上さんは。
諒太 知りません。
 (ため息)もう、何なのよ、ここ。こんなとこ、来るんじゃなかったわ。
諒太 どうして来たんですか。
 だから、呼ばれたのよ。
諒太 どうして呼ばれたんですか。
 知らないわよ。
諒太 どうして来る気になったんですか。
 それは……、
諒太 理由はありますね。
 それは……あるわよ。なきゃこんなとこまで来るわけないでしょ。
諒太 坂上さんとはどういう関係ですか。
 友達よ。たまに遊んだりする関係。
諒太 親友ですか。
 私、そういうべたべたした関係嫌いなの。親友というなら友達みんな親友よ。誰かと深い付き合いってことはないわ。
諒太 女の子にしては珍しいですね。
 それ、偏見よ。男の子にだって特定の人とばっかいる人、いるじゃない。
諒太 そうですね。

   間。

 ねえ……、
諒太 はい。
 あなたたちここでどんな暮らししてるわけ?
諒太 普通に。
 どうやってよ。こんな山奥で。トイレはどこ?お風呂は?キッチンは?寝室はどこよ。
諒太 全ての部屋がそうです。どこでも寝れます。
 そうかもしれないけど。じゃあ布団は?
諒太 どこにでもあります。
 食事は?
諒太 取りません。
 取らない?何でよ。
諒太 ぼくたちは食料は必要としません。いえ、睡眠だって必要ではありません。
 どういうことよ。
諒太 そういうことです。さあ、次の部屋に行きましょう。
 ちょ、ちょっと待ってよ!気になること言わないでよ。ちゃんと説明して欲しいわ。
諒太 あなたがぼくたちの仲間になるのなら、説明が貰えます。
 仲間?
諒太 ここで一緒に暮らすということです。
 何それ、嫌よ。
諒太 では説明は出来ません。
光の声 その子、あなたを殺そうとしてるよ。

   間。

 誰……。

   光、登場。

 桜ちゃん、その子はあなたを殺そうとしてるよ。
諒太 ぼくが桜さんをですか?
 そう。
 誰よ、あなた。
諒太 光さんです。ここでは礼司君、千秋さんの次に古い方です。
 さっきのはどういう意味?
 そのまんまの意味だよ!諒太君は、桜ちゃんを殺そうとしてるの!
 何で。
 えっと……嫌いだから。
 あなた、私が嫌いなの。
諒太 嫌いと判断出来るほど、長くはいませんが。
 嫌いなの!
 あなた、何?
 光。
 そうじゃなくて。
 殺されるよ。桜ちゃん。殺される前に殺さなきゃ。
 はあ?
 殺されちゃうんだよ!ここにいたら。諒太君を殺すんだよ。
 何よ、この子。諒太君、行きましょう。
諒太 はい。
 殺されちゃうんだよ!
 はいはい。

   桜、諒太、去る。

 あれえ?

   英理奈、出てくる。

 あ、英理ちゃん。あれ、良かったのかな。
英理奈 あんたに任せた私が馬鹿だった。
 え?
英理奈 あんたの言葉なんか信用しなきゃ良かったな……。
 どういうこと?だってちゃんと桜ちゃんには伝えたよ。諒太君が殺そうとしてるって。
英理奈 ストレートすぎる!しかもリアリティがない!
 えー?
英理奈 やっぱりちゃんと作戦立てとくんだった。
 でもせっかく見付けたんだから。作戦立ててたら見失っちゃうかもよ。
英理奈 もういいよ。もう1回作戦立て直そう。
 さっきのはいいの?
英理奈 これであんたの面は割れちゃったよね……。礼司君や千秋に協力してもらうわけにもいかないし……。
 雄介君は?
英理奈 雄介か……。あんまりあれと桜を会わせたくはないんだけどね。
 何で?
英理奈 教えない。
 いじわる!
英理奈 いいよ、いじわるで。さ、それじゃ作戦会議だ。
 うん!

   千秋、入ってくる。

英理奈 あ、千秋。
 千秋ちゃん。
英理奈 どうしたの?何かあったの。
千秋 別に……。あなたたち、桜を探すのはやめたの?
英理奈 さっき見付けたよ。どうするかはこれから考える。
千秋 そう……。あの子、なかなか気が強そうよ。難しいんじゃない?
英理奈 何とかするさ。こんなチャンス、滅多にない。……そうだろ?
千秋 まあね、あなたよく知ってるわね。ここに来たばかりなのに。
 私が教えたんだよ。
千秋 光。あんまりそういうことやってると出られなくなるよ。あなただって……もう5年くらいいるでしょ?
 5年も10年もあんまり変わらないよ。ここにいると。
英理奈 私はそうなりたくないな。
 ?
英理奈 だから今回のチャンスに何としてもここを出る。
 英理ちゃん……ここに来てどれくらいだっけ?
英理奈 1週間。
千秋 それで出られたらすごいわ。私がここに来てから……最短で半年かかってるからね。
英理奈 待ってるだけだから駄目なんだ。自分で積極的に行動起こさないと。
 うん!だから私もやる!
英理奈 私は私が出るための作戦を立てるよ。
 いいよ、大丈夫。結果がどうなるかは誰にもわからない!
英理奈 気楽な奴……。

   光、英理奈、去る。
   千秋、椅子に座ってぼんやりする。
   礼司、入ってくる。

礼司 千秋。
千秋 何(振り向かずに)
礼司 怒ってるか。
千秋 何を。
礼司 その……さっきのこと。
千秋 別に。
礼司 おれは……お前と別れたいわけじゃないぜ。ずっと一緒にいたい。そう思った相手だもんな。たださ、……このまま永遠にここにいて……お前は幸せか?
千秋 …………。
礼司 10年前は……おれたち、若かったからな。一緒にいられればいい。そう思った。でもさ、
千秋 …………。
礼司 でもさ。
千秋 …………。
礼司 千秋、
千秋 私は、
礼司 ?
千秋 私はいいのよ。永遠にこのままで。出たいなんて思わない。もしあなたの幸せが……ここから出ることだとしてもね。
礼司 え?
千秋 逃がさない。絶対。私も。子供も。あなたのために命を捨てたの。命をかけて手に入れたもの。……絶対逃がさない。
礼司 千秋。
千秋 私はね、あなたの気持ちなんてどうでもいいの。私は私の幸せを追うだけよ。
礼司 …………。

   桜、諒太、入ってくる。

諒太 ああ。ここは一度来た部屋ですね。
 そうなの?
諒太 多分、そうです。でも一応探してみますか?
 ……えっと……。
諒太 礼司君。千秋さん、構いませんか?
礼司 ……あ、ああ。
諒太 構わないそうです、桜さん。
 そんなこと言われても……。
諒太 場違いですか?大丈夫です。礼司君と千秋さんは喧嘩してるわけではありません。
 そうなの……?
諒太 互いの価値観が違うことに、そろそろ気付き始めているのです。桜さん、……探しますか?
 ……いい。
諒太 そうですか。じゃあ次の部屋に行きましょう。
 うん……。

   諒太、桜、去る。

礼司 あ……。
千秋 追いかけたら。
礼司 え。
千秋 ここにいるのが気まずいのなら。
礼司 千秋、おれ……。

   間。
   礼司、去る。
   千秋、声を押し殺して泣いている様。
   雄介、入ってくる。
   間。

雄介 泣いてる。
千秋 (はっと、顔をあげる)
雄介 泣いてるね。
千秋 雄介君……。何の用。
雄介 用じゃないけど。桜って子を探してる。
千秋 さっき出て行ったわよ。どっちに行ったかは知らないけど。
雄介 すれ違ったかな。
千秋 探しにいったら?
雄介 千秋さんは探さないの。
千秋 私はいいわ。
雄介 ここから出ないの。
千秋 私はいいの。
雄介 もし。礼司君が出ても。
千秋 ……出さないわ。私が。
雄介 出来るの。
千秋 少なくとも10年。私は礼司をここから出さなかった。
雄介 それは礼司君が出ようとしなかったから。
千秋 そうよ。私のためにね。
雄介 でも今の礼司は。
千秋 ……あなた、聞いてたの。
雄介 ずっと。
千秋 それじゃあ桜にも……。
雄介 見た。どこかで見たことのある顔だった。
千秋 何で追い掛けなかったの。
雄介 泣いてた。
千秋 …………。
雄介 あなたが、泣いてたから。
千秋 私に同情したってしょうがないわよ。
雄介 同情じゃないけど。かわいそうなのは礼司君の方。
千秋 ……まあね。
雄介 心中は苦しい恋を終わらせる方法。続いてしまったら……それは苦痛でしかない。……でしょ?
千秋 (少し笑って)でもね、礼司は気付かなかったのよ。10年も。もう恋は終わってしまってるのに。必死で私を愛そうとした。約束をしたのは自分だから。責任、感じてたのかもね。
雄介 でも執着してたのはあなた。
千秋 過去形じゃないわ。私は今でも執着してるわよ。礼司は私のものだもの。
雄介 永遠に?
千秋 そうよ。……理解出来ない?
雄介 うん。
千秋 正直ね。
雄介 礼司君、探す?
千秋 え?
雄介 恋は終わっただけ。冷めたわけじゃない。
千秋 あなた……何を考えてるの。
雄介 ぼくは桜さんを探す。
千秋 記憶……戻ったの?
雄介 いや。
千秋 あなた……本当に記憶喪失?
雄介 うん。
千秋 …………いいけどね、嘘でも。
雄介 嘘じゃない。
千秋 いいわよ、どっちでも。じゃ、私行くわ。
雄介 どこへ。
千秋 さあね。

   千秋、去る。
   英理奈が入ってくる。

英理奈 記憶……戻ったの。
雄介 何のこと。
英理奈 とぼけないでよ。
雄介 わからない。桜って名前には聞き覚えがある。彼女も……見たことある。
英理奈 そう……。
雄介 光ちゃんは?
英理奈 桜を探してる。あなたは何をしてるの。
雄介 これから桜さんを探す。
英理奈 何で。
雄介 何か、思い出せそうだから。
英理奈 桜を見れば?
雄介 そう。
英理奈 桜はあなたのことなんか知らないでしょ。
雄介 そうかもしれないけど。会ってみないと始まらない。
英理奈 やめなさい。
雄介 …………。
英理奈 彼女には会わない方がいい。
雄介 何で。
英理奈 理由なんてないわ。
雄介 君が理由もなしにそんなこと言うとは思えないけど?
英理奈 とにかく、やめなさい。
雄介 君はぼくのこと、知ってるの。
英理奈 …………知らないわ。
雄介 君とぼくはほぼ同時期に来た。……何か関係あるの?
英理奈 ないでしょ。同時期と同時は違うわ。あなた、私より来たの、早いのよ。
雄介 でも一日も違わない。
英理奈 何時間も違うわ。
雄介 君は自分のことを話さない。
英理奈 諒太だって話さないでしょ。
雄介 誰も聞かないから。
英理奈 私だって聞かれないわ。
雄介 君は何でここに来たの。
英理奈 …………。
雄介 ほら、聞いても答えない。
英理奈 私は人を殺した。そして自殺した。それだけよ。
雄介 …………。
英理奈 それで何か判断出来る?ここにいる人はみんなそうよ。誰かを殺して親より先に死んだ。それだけよ。
雄介 ぼくはどこで死んだんだろう。
英理奈 自分で思い出すのね。
雄介 君はどこで死んだの。
英理奈 …………。
雄介 どうしたの。
英理奈 ……答えたくないわ。
雄介 どうして。
英理奈 あなた……記憶喪失よね。
雄介 うん。

   沈黙。
   雨の音FI。

雄介 雨がひどくなってきたね。
英理奈 …………。
雄介 ここはいつも雨が降ってる。窓から見えるのはいつも雨と桜だけ。
英理奈 …………。
雄介 ぼくはこの光景に見覚えがある。ずっと、雨と桜を見ていた気がする。
英理奈 …………。
雄介 ぼくは、
 英理ちゃーん。

   光、登場。

 英理ちゃん!桜ちゃん見付けたよ。
英理奈 光。
雄介 見付けたの。
 あ、雄介君。
雄介 ぼくも行っていい?
 え?でも……雄介君には関係ないよ。
雄介 桜さんに会いたい。
 別に……いいけど。
英理奈 駄目だ!
 え…………、
英理奈 駄目だ。あんたは会っちゃいけない。桜を見ちゃいけない。
雄介 どうして。
英理奈 教えない。

   間。

 英理ちゃん!早く行かないとまた見失っちゃうよ。諒太君にも言っといたけど……。
諒太 あの!

   諒太、登場。

諒太 桜さん、見ませんでしたか?
 え?諒太君!どうしたの。桜ちゃんは。
諒太 それがはぐれてしまって……。
英理奈 はぐれた?
諒太 ちょっと目を離した隙に……。ひょっとしたら何か見付けたのかもしれませんが。
 何を。
諒太 坂上さんに関する何か、です。
雄介 坂上?
英理奈 諒太。どこではぐれたんだ?
諒太 多分、この先の。英理奈さんや光さんがいるもよくいる場所です。あんまり自信はありませんが……。
 探そう!英理ちゃん。
英理奈 そうだね。帰られたら大変だ。
諒太 ここは迷うと大変ですよ。雄介君、一緒に探してくれますか。
雄介 ああ……。
英理奈 駄目だ。
諒太 英理奈さん?
英理奈 雄介、あんたはここにいろ。
雄介 何で。
 英理ちゃん。今は雄介君のことなんかどうでもいいじゃん。
雄介 君はぼくを知ってるの。
英理奈 知らないって言ってるだろ。
雄介 ならぼくはやっぱり桜さんを探す。桜さんがぼくを知らなくても、ぼくは桜さんを知っている。

   雄介、去る。

英理奈 雄介!
 英理ちゃん!私たちも行こう。

   光、去ろうとする。

 ……英理ちゃん?
諒太 全員で固まるよりばらばらに探した方が効率がいいです。
 ……そうだね。英理ちゃん、私、向こうを探すね。

   光、去る。

諒太 英理奈さん。
英理奈 ……何よ。
諒太 行かないんですか。
英理奈 行くわよ。
諒太 どこに。
英理奈 え?
諒太 あなたは桜さんに会えますか。
英理奈 …………。
諒太 何故あの時、光さんしか出てこなかったんですか。光さんだとろくな結果にならないのは目に見えていたのに。
英理奈 あの時は……、作戦立てる前だったし。光が任せろって言うから……。
諒太 桜さんは何を見付けたんでしょう。
英理奈 …………。
諒太 雄介君は桜さんを見つけるでしょうか。
英理奈 ……あんた、知ってるの。
諒太 何をですか。
英理奈 桜が……何を見付けたか。
諒太 知りません。見てもわからなかったかもしれません。
英理奈 なら。
諒太 修羅場は、ごめんですがね。
英理奈 は?
諒太 礼司君と千秋さんでもう十分です。ぼくは色恋沙汰は苦手です。やっぱり桜さんと雄介君は会わせないほうがいいですかね。ああ、もちろんあなたも含めて。
英理奈 あんた、何か勘違いしてない?
諒太 何をですか。
英理奈 私と雄介は、

   間。

諒太 何ですか。
英理奈 …………。
諒太 どうしたんです?
英理奈 あんた、汚い。
諒太 何がですか。
英理奈 …………。

   間。

諒太 桜さん。
英理奈 え?
諒太 桜さんが来ます。

   英理奈、振り向く。

英理奈 あ……。
諒太 どうします?

   英理奈、諒太のセリフの前に去る。
   桜、出てくる。

 諒太君!どこ行ってたのよ。
諒太 あなたを探していたんです。
 嘘!急にいなくなるからびっくりしたじゃない。ここ、ほんとに案内がないと出られなくなりそうだわ。
諒太 その内慣れます。
 慣れたくないわよ。
諒太 あなたがここに住むことを望んでいる人がいるんです。
 ?何でよ。
諒太 ぼくがここに来た時、6人の人間がここにいました。
 ?
諒太 気が付くと、ぼくもここの一員で、ここの人間は6人になっていました。
 は?変わらないじゃない。
諒太 ぼくも含めて6人になってたんです。
 1人減ったの?
諒太 違います。入れ替わったんです。そしてその6人で約1年過ごしました。
 一体いつの話、それ?
諒太 その後、1人の女の子が別の女の子と入れ替わりました。
 だから、
諒太 つい一週間前に、また、一組の男女が入れ替わりました。
 何が言いたいの。
諒太 ぼくたちは永遠に6人なんです。あなたが来たことで、ここのバランスは崩れた。
 そんなの、
諒太 しかもあなたは生きたまま。

   間。

 ……どういう意味?
諒太 そのままの意味です。あなたは生きてますね。
 当たり前じゃない!
諒太 あなたは狙われてるんです。死んでくれないと、目的が果たせないから。あなたは呼ばれてきたんですね?
 そうよ。
諒太 誰に呼ばれて来たんですか。
 だから、坂上さんよ。
諒太 坂上さんとは。
 さっきから言ってるでしょ、坂上、
雄介 桜さん。

   雄介、登場。

雄介 やっと見付けた。
 あなた……誰?
雄介 ぼくは雄介。呉雄介。
 くれゆうすけ……?
雄介 聞いたことある?
 えっと・・・・・・。
雄介 あるの?
 あるような気はするけど。あなた、私を知ってるの?
雄介 知ってる。……知ってると思う。
 どういうこと?
諒太 雄介君は記憶喪失なんです。
 記憶喪失?
諒太 ここに来る前の記憶がないんです。自分の名前以外何も覚えてないそうです。
 そうなの?
雄介 ……うん。でも君の名前に聞き覚えがあった。だから君に会ってみようと思って。
 そう……。何かわかった?
雄介 ……わからない。
 あなた、年は?
雄介 わからない。
諒太 桜さんはいくつですか?
 私?私は19。
諒太 では雄介君もそれくらいではないですか。
雄介 そうかな。
 そう?同い年には見えないけど。
諒太 では18か20じゃないですか。
 あまり違わないじゃない。
諒太 19と20では大きく違います。
 そうかな……。そういやあなたっていくつ?
諒太 ぼくですか?ぼくは14です。
 14!?そんなに若いのにこんなとこで何してるのよ。
諒太 ぼくは普通に暮らしているだけです。
 だって14って言ったらまだ中学生なんじゃない?学校はどうしたのよ。
諒太 行ってません。
 あなたね。中学は義務教育よ。親は?
諒太 知りません。ここにいると会えませんから。
雄介 桜さん。
 何。
雄介 桜さんは何も聞いてないの。
 え?
雄介 ここがどういう場所か。
 知らないわ。仲間になるなら教えてやる、って言われたけどね。あなたも……仲間なんでしょ?
雄介 そうかもしれない。ぼくはまだここへ来て一週間だけど。男は3人。それが仲間。
 3人って……あなたと諒太君と……礼司君……だっけ?じゃあ女の子は?
諒太 女の子も3人。でもあなたを入れると4人になります。だからこれから1人いなくなるんです。
 私がでしょ。
諒太 だから他のみんなが狙ってるんです。
 どういうことよ。
雄介 君がここに残れば他の3人の内、1人がここから出られるってこと。ここは常に6人でなきゃいけないんだ。
 ……やっぱりわからない。
諒太 仲間になればわかります。
 ならないわよ!
諒太 じゃあ早くここから出た方がいいです。あなたは生きてるんですから。
 私は坂上さんを探してるのよ。
諒太 結局それに戻るんですね。

   礼司、千秋、入ってくる。

礼司 あれ。まだいたのか。
千秋 それとももう入れ替わったの。
諒太 まだここは7人です。
千秋 そう……。他の2人は何をやってるの。
諒太 なかなか会えないようです。会わないのかもしれませんが。
 あなたたち2人……。
千秋 何?
 ……仲直り、したの?
千秋 別にけんかしたわけじゃないわよ。
 そうかもしれないけど。
雄介 礼司君。千秋さんと何かあったのかい。
千秋 何を今更。あなた、知ってるんでしょ。いい加減、とぼけるの止めなさいよ。ほんとは記憶だってあるんじゃない?
雄介 ない。
千秋 簡潔ねー。ま、私としてはどうでもいいんだけど。ただね、思い出したことがあるの。
雄介 思い出したこと?
礼司 お前と入れ違いにここを出て行った奴のことだよ。
雄介 ああ。
礼司 あいつ、確か事故で子供を死なせたんだ。んで、あいつ自身も事故で死んだ。親よりも先に。
諒太 礼司君、ここには桜さんがいます。
礼司 どうでもいいだろ、そんなこと。雄介、あいつと入れ代わりになったからには、お前も事故で誰かを死なせてるはずだ。多分、それがお前の罪だ。
 事故で誰かを?
千秋 迂闊だったわー。私たちだって心中したカップルの次に入ったんだから当然、思いつくべきだったのよねー。
雄介 ぼくが……事故で誰かを殺した。
礼司 あんまり深く考え込むな。故意じゃないんだ、過失だ。仕方ないことだろ。で……何か思い出さないか?
雄介 …………。ぼくは……事故で死んだんじゃない。
礼司 ん?ああ、それは、そうかもしれないけどな。事故で誰かを死なせた後、何が原因でも親より先に死にゃここに来るんだから。
諒太 思い出したんですか。
雄介 わからない。
 ねえ、雄介君。
雄介 ……何?
 あなた、彼女とかいた?
礼司 は?何だ、突然。
 私は雄介君に聞いてるの。彼女いた?
雄介 わからない。
礼司 わかるわけねえだろ。こいつは記憶がないんだって。
諒太 何故そんなことを聞くんですか?
 ……何となくよ。
千秋 あなた、雄介君のこと知ってるの?
 知ってる気はするけど。思い出せないわ。
礼司 お前も記憶喪失か。
 違うわよ。
 あーみんないるー。

   光、登場。

 桜ちゃんもいる!ずるい。私だけ仲間外れで。……あ、英理ちゃんもいないや。じゃ、いっか。
 あなた、さっきの。
 あ、さっきはごめん。あれ嘘だから。
 わかってるけど。
 でね、ほんとはね……あれ、作戦忘れちゃった……。諒太君、どんなんだっけ?
諒太 ぼくに聞かれましても……。
 雄介君。
雄介 知らないよ。
 礼司君。
礼司 知らねえって。
 どうしよう?英理ちゃんは?
礼司 さあな。
諒太 彼女は雄介君を探しているはずです。
千秋 何で。
諒太 雄介君と桜さんを会わせたくなかったようです。
 私と?
雄介 彼女は……何か知ってるの?
諒太 知ってるようです。でも話そうとはしません。彼女は何も話しません。
雄介 誰も聞かないからって言ってた。聞いたら「人を殺して自殺した」って言ってた。
礼司 そりゃここにいる奴だからな。
千秋 でも私たち、あの子のこと何も知らないわね。考えてみたら。
礼司 それなら諒太だって同じだ。おれは諒太の話だって聞いたことねえぞ。
諒太 ぼくは隠してるわけではありません。自殺したと言うのは話しました。
礼司 まあな。聞いたことある。原因は知らねえけど。
諒太 いじめです。単純な理由です。中学三年の時、いじめられて自殺したんです。
 自殺した?
諒太 はい。
 自殺……未遂?
諒太 未遂ではありません。自殺は完全に遂げられました。
 じゃああんたは何でここにいるのよ!
 まだわかんないの?ここにいる人はみんな死んでるんだよ。
諒太 光さん。
 ここは死んだ人の住む場所なんだ。でも天国でも地獄でもない。この世にある死人の住む場所、それがここだよ!
 何言ってるの?あなた。
 嘘じゃないよ。私は溺れて死んだの。礼司君と千秋ちゃんは心中して。諒太君は自殺したの。みんな親より先に死んだの。
諒太 嘘ですよ。
 諒太君!
諒太 少なくとも今は。
 え?
諒太 あなたがこちら側の人間にならない限り、この話は嘘です。
礼司 ……だな。生きてここから帰るつもりなら、そう思ってた方がいいぜ。
雄介 ぼくもそう思う。君はこちら側の人間じゃない。
千秋 でもあなたをこちら側へ引き込もうとしている人間がいるのよ。
 誰よ。
諒太 ずっと忠告してます。あなたが誰かを殺して死ねば入れ代われる、そう思ってあなたを狙っている人がいる、と。
 誰よ、それは。
 私。
 …………。
 私と英理ちゃん。
 英理ちゃん?
諒太 でも彼女の場合は事情が複雑です。雄介君も含めて。
 何なのよ、それ。
千秋 諒太君。あなた何を知ってるの。
礼司 お前、ずっと何か隠してるだろ。
諒太 ずっと黙ってたことはあります。でもそれは彼女のために黙っていたんです。それにぼくは千秋さんと礼司君のごたごただけで十分です。色恋沙汰は苦手なんです。
千秋 な、何のことよ。
諒太 決着は付いたんですか。
千秋 だから何が。
礼司 おれたちのことなら……まだだよ。付くわけねえだろ、そんなに早く。
雄介 別れるかどうかも?
礼司 ……10年も擦れ違ってきたんだぜ。それを今まで気付かなかった。おれは馬鹿だから。今を理解するだけで大変なんだよ。
千秋 私の中では決着は付いてるんだけど。
礼司 何だよ、それ。
千秋 あなたを殺して私も死ぬ。
礼司 あのな。
 あなたたち、死んでるんじゃなかったの。
千秋 だから困るのよ。10年前に戻れたらなー。
雄介 それより成仏して生まれ変わる方が早いんじゃない。
 私もそう思うー。「生まれ変わったら一緒になろうね」って方がらしいじゃん。
諒太 でも二人がここからいなくなるとここのリーダーは光さんになります。
礼司 げ。
千秋 それは……かわいそうかも。
 リーダーって何?
千秋 別に。単にこの6人の中で一番古い奴って意味よ。
 礼司君が一番古いの?
 心中したのにー?
千秋 私の方が2秒遅いのよ、死んだのは。
礼司 前は3秒って言ってなかったか。
千秋 気のせいよ。
礼司 そうか。
雄介 二人はここを出るの。
礼司 わかんねえよ、そんなこと。だから今、混乱してるんだって。
千秋 私はしてない。
礼司 千秋〜。
千秋 ゆっくり話し合おうじゃない。10年前、どっちがより深く愛してたか。
礼司 おれだ。
千秋 私よ。
諒太 不毛です。
 のろけにしか聞こえないわよ。
雄介 大切なのは今。
千秋 関係ないわよ。
礼司 死んじまったしなー。
 信じられないわ。
諒太 信じなくていいんです。
 頭堅いなー。こんなに言ってるのに。雄介君だってすぐ信じたのに。
雄介 実はまだ疑ってるけど。
 何でー。
雄介 死んだ記憶がないから。みんなはあるんだろ。
礼司 そりゃ心中だからなあ。
 私、気失ってたから、ない。諒太君は?
諒太 あります。自殺ですから。
 どうやって死んだの。
諒太 屋上から飛び降りました。ほとんど突発的でしたけど。
 ふーん。そんな話、初めて聞いた。英理ちゃんはどうやって死んだんだろ。
礼司 そういや諒太、お前、隠してたことって……。
諒太 やっとそこに戻りましたね。
礼司 お前、話そらしたな。
諒太 そらしたのはぼくではありません。桜さんと光さんです。
 そうだっけ……?
雄介 諒太君は何を隠してたの。
諒太 隠してたのではなく、黙ってたんです。ややこしいことになると面倒だと思ったので。
千秋 ややこしいこと?
諒太 ここから先は桜さんと雄介君に任せます。
礼司 は?
諒太 行きましょう。千秋さん、礼司君、光さん。
 ちょ、ちょっと待ってよ。
雄介 任せられても……。
諒太 大丈夫です。もう1人います。
 え?
諒太 さっきからずっといるはずです。
礼司 もう1人ってことは……。
 英理ちゃん?
諒太 そうです。坂上英理奈さんです。
全員 え?
諒太 ぼくが黙ってたのはそれだけです。桜さんから坂上さんのフルネームを聞いた時、気付いたことを黙っていただけです。
礼司 そっか……。ここではみんな名前で呼び合うから……。
千秋 名前しか聞かないもんね。私、英理奈の苗字なんか知らなかったな……。
 私、名前聞かれてないんだけど。
千秋 え?桜でしょ?
 桜利恵。
礼司 え?苗字だったのか?……あ、そういや雄介が……。
諒太 そんなことより、行きましょう。
礼司 ああ……。
千秋 そうね……。
 でも、
礼司 光。しょうがねえ。もし出られなくても今回は諦めな。
 でもー……。

   光、ぶつぶつ言いながらも諒太、礼司、千秋と共に去る。
   間。
   英理奈、出てくる。

 坂上さん……。
英理奈 全く……人が悪すぎるよね、あいつ……。
 坂上さん。
英理奈 やあ桜。悪いね、こんなとこに呼び出して。でも私はどうしてもここから出たくてね。
 え?
雄介 じゃあ……英理奈さん……。
英理奈 私はここから出るためだけにあんたを呼んだんだよ、嘘ついて。
 嘘……だったの?
英理奈 ほんとだと思った?結構甘いね、あんたも。
 坂上さん……。
雄介 君は、
英理奈 雄介。
雄介 ……何。
英理奈 あんた、本当に記憶がないの。
雄介 ない。
英理奈 そう。そうだよね。あったら桜を見て黙ってるわけないか。
雄介 どういうこと。
英理奈 …………。
 私にも説明してよ。この雄介って人は誰なの。
英理奈 名前くらい聞いたことあるでしょ。いや、一度だけ会ったこともあるのか。
 あるの?
英理奈 覚えてないかもしれないけど。雄介、あんたは覚えてないんだな。
雄介 覚えてない。
英理奈 (ため息)どうしようかな。私は説明は嫌いなんだけど。
 説明してよ。こんな山奥まで呼び出しといて!こんなわけわかんないとこに呼び出しといて!何なのよ、一体!
英理奈 雄介の記憶があれば簡単だったんだけどね。ま、ある意味、私は助かったけど。
 だからどういうことよ!
英理奈 雄介。あんたは事故で人を殺した。
雄介 知ってる。
英理奈 だからあんたは殺された人の妹に殺された。
雄介 ……!
英理奈 しかもその妹はあんたの彼女だった。
雄介 それって……。
英理奈 思い出した?
雄介 (首を振る)
英理奈 そう。
 何?坂上さんまでここが死者の住む場所だって言うの?じゃあ何?坂上さんも死んでるとでも言うの?
英理奈 そうだよ。
 死者が私のピッチに電話したの!?馬鹿らしい。
英理奈 着信履歴。見てみなよ。
 え?
英理奈 本当に私から、かかってる?
 ……何を馬鹿なことを。
英理奈 見てみなよ。
 ……嫌よ。そんな、馬鹿らしい。
英理奈 恐いんだろ。
 何が。
英理奈 機械は嘘を付かないからね。
 何言ってるのよ。
雄介 桜さん。
 何?
雄介 ぼくは桜さんとはどういう関係なんだ。
英理奈 私に聞いてるの。
雄介 ……桜さんに聞いてもわからなかった。
英理奈 私にそれを言えっていうの。
雄介 …………。
英理奈 あんた、本当に忘れてるの!?何もかも忘れちゃったの?あんなに、あんな思いして、私は、

   間。
   英理奈、うずくまってしまう。

雄介 ……泣いてる?
 どうして。
雄介 ぼくが思い出せないから。
 思い出してあげなさいよ。
雄介 でも……。坂上英理奈。坂上……。
 ねえ。
雄介 何。
 あんたの名前なんだっけ。
雄介 呉雄介。
 聞いたことある。
雄介 どこで。
 ……坂上さんから、聞いた。呉雄介。
英理奈 私の……
 彼氏の名。
雄介 え。
 思い……出した。
雄介 彼氏……。
 思い出した!あなた、坂上さんの彼氏だったのよ。そりゃひどいわよ、思い出してあげないなんて。
雄介 そんなこと言われても。でも……ぼくの彼女って確か……
英理奈 あなたは私の兄を殺したの。そして私に別れようって言って来た。
 そりゃ気まずいわよねえ。
英理奈 でも兄のことなんて口実に過ぎなかった。
 口実?
英理奈 雄介は私と別れたかっただけ。他に好きな人が出来たから。
雄介 好きな人?
 誰よ、それ。
英理奈 …………。

   長い間。
   礼司、千秋、登場。

礼司 あー見てられねえぜ。何でこう揃いも揃って鈍いんだ!?
千秋 礼司以上ねえ。あなたたち。雄介君、あなた桜に惚れたんでしょ。
雄介 ぼくが?
千秋 だってあなた、記憶失ってから、唯一桜の名前にだけ反応したのよ。英理奈には全く反応示さなかったのに。まあ、だから諒太君は薄々わかってたみたいだけど。
礼司 あいつの場合は鋭過ぎるんだ。
千秋 足して2で割ったらちょうどいいかもね。
 ホントなの?
礼司 推測だよ。でも英理奈の口から言えるとは思えねえぜ。
千秋 何せ雄介君を殺したのは英理奈だもんね。
 嘘!?
千秋 嘘って……さっきから言ってるじゃない。英理奈も。
雄介 そうか、ぼく、妹に殺されたって……。
礼司 まだ思い出さないのか。
雄介 うん……。
礼司 英理奈ー、どうすんだ?
英理奈 何が。
礼司 お前の目的……桜と入れ代わることなんだろ。
英理奈 そうよ。
千秋 全部バレちゃったし……どうすんの。
英理奈 …………。
雄介 英理奈さん、桜さんを殺すつもりだったの。
英理奈 私はこんなとこにいたくなかったからね。
礼司 どうして。たった1週間で嫌になる程のとこか、ここが。
千秋 私たちなんか10年もいたのにねえ。
英理奈 雄介がいたから……。
雄介 ぼく?
英理奈 雄介の記憶が戻る前にここを出たかったのよ。いくら私でも自分が殺した相手と一緒に過ごして平気な顔してられないわ。
礼司 してたじゃねえか。
英理奈 雄介の記憶がなかったからよ。
礼司 なるほどねえ。
英理奈 桜。
 何。
英理奈 全部嘘よ。
 は?
英理奈 さっき話したこと。全部嘘。
 何言ってるの?
英理奈 ここは現実に存在してるってこと。諒太も光も千秋も礼司君も。みんなグル。
 あの……?
英理奈 信じないの?これが一番現実味あると思うけど。
 そうだけど……。千秋さん。
千秋 何。
 そうなの?
千秋 そう言われても……。あなたたちの事情は私はわかんないし。
 ここが、どういう場所か、よ。
千秋 どうなの?
礼司 おれに聞くなよ。
雄介 ぼくはここで殺された。
 何。
雄介 雨の音と桜の花。ぼくは、多分、ここで殺されたんだ。
 ……私がここに来たのは初めてじゃないわ。前にも来た。その時、ここは坂上さんの別荘だった。
英理奈 今でもそうよ。
 混乱させないで。ここは一体何なの。
 死人のいる場所。

   光が突然入ってくる。

 信じないの?
 諒太君は?
 諒太君の言うことなら信じる?
 そういうわけじゃないわ。
諒太 信じてくれなくてもいいですよ。

   諒太、入ってくる。

諒太 ぼくはいっぱい嘘をついてますから。
 でしょうね。
千秋 私たちにも?
諒太 そうですね。
 私に付いた嘘を教えて欲しいわね。
礼司 いや、おれたちへの嘘を教えてくれ。
英理奈 私には?
 私にはー?
諒太 いっぺんに言わないで下さい。本当にたくさん付いてるんですから。
英理奈 平気な顔して言わないでよ。
諒太 例えば、ぼくは自殺したのではありませんし。
雄介 え、そうなの。
諒太 いじめられてもいませんし。
礼司 そうなのか。
諒太 14歳でもありません。
千秋 それは薄々感じてたけど……。
諒太 そしてここに来たのが3年前でもありません。
礼司 え?いや、それは3年前だろ。おれたちより後なんだから、おれたちが覚えてる。
諒太 ぼくの代わりに出て行った人、覚えてますか。
礼司 ……お前、覚えてるか。
千秋 私は……光、覚えてる?
 うーんと……あ!そうだ、良太君だ!
 りょうたって……。
礼司 単なる同名だろ。字が違うはずだ。
諒太 ではその良太の前にいたのは。
千秋 亮太君……。字は違うけど……。亮太君。
諒太 はい。
 ええーずっとりょうた君なのー。
諒太 ぼくは千秋さんや礼司君よりずっと前からここにいます。そして、この家を守ってきました。つい、最近まで。
雄介 最近?
諒太 見付かってしまったんです。この場所が。坂上英理奈さんのお父さんに。
英理奈 ……見付けたって……お父さんはここを買ったのよ。
諒太 勿論そういうことになってます。しかし人が住むようになったことで、ここはこの世とつながってしまった。
 まだそういう話なの。
諒太 桜さん。ぼくがあなたに付いた嘘を教えます。
 何よ。
諒太 あなたはすでに死んでいます。
 はあ?
諒太 死んでなければ、ここにいるはずがないんです。あなたはここに来て、英理奈さんと雄介君の死体を見付けた、そうですね?
 知らないわよ!そんなの。
諒太 ショックの強い事柄は忘れてしまうことがあるんです。あなたが自殺したのは、ひょっとしたら雄介君が好きだったのか。
 知らないって、私、この人のことだって知らなかったのよ?
雄介 ぼくも覚えてない。
礼司 今更記憶喪失で驚きゃしないぜ。そうか、あんた死んでたのか。
諒太 だから、入れ替わらなければならないんです。
 誰と!
諒太 光さんは無理です。光さんは自殺ではありませんから。
英理奈 私?
諒太 千秋さんでも結構です。
千秋 私は残るわよ。
諒太 では英理奈さんですね。
英理奈 私……ここから出られるの。
礼司 良かったじゃねえか。結局お前のもくろみ、成功したんだな。
英理奈 そう……。
諒太 嫌ですか?
英理奈 何が。
諒太 ここに桜さんと雄介君を残していくことが。
英理奈 馬鹿……言わないでよ。
諒太 では、交代です。
雄介 待ってよ、桜さんは……。
諒太 ですから桜さんがここに残るんです。
 嫌よ!
諒太 仕方ありません。また自殺者が来るのを待って下さい。
 嫌だって!
 しょうがないじゃん。私なんか5年も我慢してるんだよ!?罪を犯せば当然こうなるんだよ。
 嫌。絶対嫌!
礼司 諦めろって。
 坂上さん!あなた、何を考えてるの。
英理奈 はは……。私の望んだ結末じゃないか。何だ、あんた、自殺したんだ。結局……好きだったんじゃないか。ははは……。
 違う、私は、私は、
諒太 交代、します。

   暗転。
   雨の音。
   明かり。
   場には礼司と千秋。本を読んでいる。
   雄介、入ってくる。

雄介 礼司。こないだ君から借りた雑誌、見なかった?
礼司 ああ?なくしたのかよ。
雄介 いや、探せばあると思うけど……。
千秋 この家、探すの?大変よー。頑張ってね。
雄介 手伝ってはくれないんだね……。
礼司 当たり前だろ、お前がなくしたんだから。
 ねえ、これ誰のー?

   光、入ってくる。手には雑誌。

雄介 ああ!それ、光、それどこにあった?
 雄介君の部屋。
雄介 あれ?
礼司 お前なあ。
 これ、雄介君の?
雄介 いや。礼司の。
 礼司君、これ、読んでいい?
礼司 ああ。
雄介 ちょっと、おれも読みかけなんだけど。
礼司 お前が後にしろ。またなくしたら困るだろ。
雄介 そんなー。
 じゃ、借りてくよー。

   光、去る。

雄介 光!……ったく。

   雄介、その辺に座る。

雄介 礼司、千秋。他に本、ないのか?
礼司 読み終わるまで待てよ。
雄介 お前、読むの遅いからな。
千秋 私が読み終わったら貸してあげるわよ。
雄介 何読んでんの?
千秋 少女漫画。
雄介 ……いい。
千秋 そう?面白いんだけど。

   間。

雄介 雨、止まないな。
千秋 その内止むわよ。
雄介 止んだとこ、見たことないよ。
礼司 そういやおれもないな。ここ10年。
千秋 ここはそういうとこなのかもね。
英理奈 ねえ、光見なかった。

   英理奈、入ってくる。

礼司 光?さっきここに来たけどな。
英理奈 あいつ、私の貸した本、まだ返さないんだよ。これで3冊目。もういい加減にしてほしいね。
千秋 光、借りた物、返さないの?
英理奈 忘れてるんだよ、借りたこと。
礼司 こりゃまずかったかな。
雄介 何だよ。それじゃ返ってこないんじゃないか。礼司の本。
礼司 おれは別にいいけど。もう読み飽きた本だし。
雄介 退屈だー。
諒太 どうしたんだ?

   諒太、入ってくる。

礼司 涼太、光見なかったか?
涼太 さあな。あいつ、いっつもふらふらふらふらしてっからな。ま、外には出れないんだから探せばいるんじゃないか。
英理奈 ここを探せって?
涼太 それともここにいる方がいいかもな。その内あいつもくるだろ。
英理奈 あーあ。早くここから出たいな。
雄介 それはおれも同じだよ。
礼司 順番で言や、おれたちの方が先だぜ。
英理奈 あんたたち、2人一緒に出ようと思ったら心中のカップルが来ないと無理じゃないか。
礼司 そりゃそうだけどよ。
雄介 おれたちはどうなんだろうなあ。
礼司 お前、まだ思い出せねえのか。
雄介 ああ。ま、あんまり難しい条件じゃないのを祈るだけだな。
英理奈 待ってるだけじゃ駄目だよねえ。何か行動起こそうかな。
涼太 また前みたいにややこしいこと起こすなよ。
英理奈 うん?何のこと。
涼太 何でもねえよ。
礼司 お前、一番新しいくせにやけにここになじんでねえ?
涼太 適応力が強いんだよ、おれは。
雄介 涼太の前の奴ってどんなんだったかな。
千秋 諒太じゃなかった?
涼太 何だ、おれは涼太だぜ。
千秋 字が違うのよ、似てるけど。
礼司 性格も全然違うな。
英理奈 そうかな。人をなめたとこなんか、そっくりだけど。
涼太 何だよ、それ。
 ああーみんないるー。

   光、入ってくる。

英理奈 あ。光。探してたんだよ。
 探してないじゃん。みんなで私を仲間外れにしてー。
英理奈 待ってる方が早いと思ってね。

   音楽、かかり始める。

礼司 光、さっき貸した本は。
 ええ?何のこと。
雄介 うわ。もう忘れてる。
千秋 早すぎるわよー。

   涼太、そっと輪から外れる。

英理奈 それより私が貸した本だよ。
 ええ?わかんないー。
雄介 とぼけてるんじゃないか。
千秋 わかりにくいわよねえ。

   舞台、暗くなっていく。
   5人の話し声も次第に小さくなっていく。

涼太 ぼくたちはまた、6人になった。いや、何も変わってないのかもしれない。桜利恵。彼女に親がいなかったのは意外だった。ここに住む第一条件は親より先に死ぬこと。彼女は第一条件さえクリアしていなかった。彼女がどうなったかはわからない。普通に、成仏したのだろうか。ここはこの世とあの世の境目。ぼくたちは永遠にここにいる。
全員 はじめは6人だった。終わりも6人だった。
涼太 ぼくたちは永遠にここにいる。
全員 永遠に。

   暗転。

─幕─



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