【セクハラは許せない。セクハラは許さない。世の男共よ、セクハラを止めろ。被害者よ、泣き寝入りするな。セクハラ撲滅運動隊より】
学校内のある部屋。元は何かの部室だったらしい。
机、パソコン、戸棚、漫画などがある。
渚、円、萌、相談している。
「見張れ」だの「ここは私がやるだのと言っている。
了、飛び込んでくる。
了 大変だ!みんな。
みんな一斉に振り向く。
了 梓が告訴を取り下げた!
全員 何ー!?
渚 せっかくここまでやったのにー?
円 何考えてんのよ、あの子。
萌 やっぱりー、恥ずかしいんじゃない?
円 何で!?セクハラされたら訴える!当然のことじゃないの。
了 でもさ、あれはデュエット強要されただけなんだろ?
円 了!あんたね!梓がどれだけ辛い思いしたかわかってんの!?
了 いや……でも結局告訴取り下げたわけだしさ。
円 絶対誰かに唆されたのよ!それとも脅迫かしら?それなら改めて訴えることも……。
円、ぶつぶつ言ってる。
渚 ま、何にせよ告訴取り下げたんなら仕方ないか。私らの苦労も水の泡だね。
萌 ひどいよねえ?自分から言ったくせにさ。
了 ま。今は忙しい時期だし。ちょうど良かったんじゃないか。
円 またそういうことを言う!あのね、梓のことだってちゃんとスケジュールに入ってたのよ?もう、全部立て直しじゃない。
萌 いいじゃん。その日休みにしちゃえば。
渚 そうそう。何も毎日きっちりやる必要はないんだよ。
円 でもさ、この日はサッカー部の新歓よ?こっちにも人数回せるじゃない。
了 サッカー部なんか女いないだろ。
円 馬鹿。マネージャーがいるでしょ。
了 ああ、そうか。
萌 それじゃあ回せばいいじゃん。行く予定だったの誰?
円 私と渚。でも新歓とじゃ全然時間帯違うんだもん。私、この日の夜は駄目だし。
渚 じゃあ来なければいいだけよ。私一人で大丈夫よ。
円 そう?じゃあここは問題ないか。
了 結局行きたくないだけかよ。
円 うるさいわね。それじゃ静が戻ってきたらもう1度確認しましょう。
萌 そういえばしずちゃんは?
渚 アンケート回収に行ってる。
萌 あ、そっか。
了 入ってんのかな。アンケート。あんな目立たないとこ置いたら無理じゃないか。
円 だって目立つとこ置いたら書きにくいでしょ?ちゃんと場所のちらしは配ったから大丈夫よ。
了 お前の大丈夫は当てになんないからなあ。
円 何ですって?
渚 ほら、けんかはいいから。それより静は場所わかってんの?
萌 ちゃんと……説明はしたよね?
了 あいつ……まだ1回生だからな。大学内でもまだたまに迷子になるだろ。
円 大丈夫……かしら?
渚 ……大丈夫!あの子はやるときはやる子よ!
了 意味が違うだろ……。
静、入ってくる。
静 ただいま。
全員 お帰りー。アンケートは?
静 み、皆さん声を揃えてどうしたんですか。あ、ひょっとして私の仕事が心配ですか。大丈夫です。ちゃんと場所はわかりました。
渚 ほんとに……?
静 もちろんです。ほら。
静、アンケートを出す。
静 アンケートは全部で4枚。北別館の1階に1枚と、体育館裏に3枚。食堂と本館はゼロ。
了 やっぱあそこは目立つんだなあ。
萌 食堂なんかは丸見えだもんね。
渚 で?記念館前は?
静 あ……。
全員、ため息。
渚 まあいいわ。とりあえずその4枚の報告お願い。
静 はい。それではセクハラ撲滅運動隊ナンバー5、多田静のアンケート結果報告を致します。
全員、立って背筋を伸ばす。
静 4枚中2枚は私たちの活動に対する質問です。普段の活動内容と活動日。それからセクハラに対する考え方を問い掛けています!
了 それって入隊希望かな?
円 静、そうなの?
静 ええーっと、2枚とも無記名で語尾にハートマークがついてます。筆跡は……同じですかね……。
了 ひやかしじゃねえのか……それ。
渚 まあ、慣れてるけどね。
萌 後の2枚はー?
静 1枚は男の子から。セクハラの基準をしっかり決めて研究報告書を出して欲しいとのことです。
渚 前に1回出したじゃん。
静 あれは女子からも違う、という意見が多かったじゃないですか。
了 でも難しいんだよなあ、そればっかは。
円 相手にもよるしね。
静 最後の1枚はセクハラ被害届けです。
全員 何!?
静 医学部の1回生の女子から。えっと……大学教授からセクハラを受けた、と。
渚 これは見逃せないわね。
円 相手の名前書いてるの?
静 ええと……森口和昌先生。
了 誰だ?
萌 知らない。
渚 医学部の先生かなー。聞いたことないや。
円 大学は広いもんねえ。私なんか自分の学部の先生だってまだ覚えてないや。
了 お前、もう3回生だろ。
円 2回生よ!あんたと一緒に入学したでしょうが!
了 だっておれより年上じゃん。
円 悪かったわね!どうせ浪人生よ、私は。
渚 はい。ひがまない。ひがまない。浪人したからって何か違うわけじゃない。
萌 渚ちゃん2浪だよね。
渚 ぐ……。
了 気、気にすんな!渚は上んとこ目指して落ちたんだろ?
渚 そうよ……。2年もねばって、それで結局入れなかったわよ……。
了 あ……。
円 馬鹿。
静 あの……いいでしょうか。
萌 ああ、いいよ、しずちゃん。続けて。
静 いや、報告は終わりですけど。あ、具体的なセクハラ内容は書かれてません。
渚 んじゃ聞きにいかなきゃね。私行ってこようか。
了 ちょっと待てよ。これから新歓作戦会議だろ。
渚 ああ、そうか。じゃ手早く終わらせよう。黒板前!
萌 はーい!
萌、ガラガラと黒板を持ってくる。
黒板には日付と数が書いてある。
みんな、渚を囲んで座る。
渚 先週から始まってる新歓ラッシュ。この一週間で各学部、サークルの新歓は全部で36!
萌 うわあ。
了 あれ?前より減ってねえか?
渚 日付が来週に変わったのが多いの。ほら、今週は天気予報ずっと雨でしょ?お花見組が来週に回したらしいのよね。
了 ああ、なるほど。
萌 でも今日は晴れてるよ?
円 天気予報なんて当てにならないもんね。
渚 で、一応振り分け覚えてる?
了 忘れた。
円 覚えてたけど……メモ、忘れちゃった。
静 聞いてません。
萌 聞いたかどうか忘れた!
渚 (ため息)それじゃ、改めて立て直すわね。
静 渚先輩も忘れたんですか。
渚 うるさいわね!予定が大分狂っちゃったんだからしょうがないでしょ。サークルの新歓はほとんど先週と来週に回っちゃったし。先週は忙しかったもんねー。
円 で?計画は。
渚 とりあえずこれ(プリントを配る)大分消えたのもあるけど。時間と場所は書いてあるから。まず明日月曜日。明日は1つだけ。他の3つは消えたから。残ったのは、
萌 写真部!
渚 よく覚えてたわね、萌。
萌 へへ……。
渚 ここは萌が1人で行くことになってるわね。
了 萌が1人……。
円 やばいんじゃない?それ。
萌 何でー?
渚 (萌を見て)……そうね。前はここに後3つ入ってたからこうなったんだけど……じゃ萌と円。
円 ええ!?私ー?
渚 文句言わない。
円 しょうがないなあ。何時からだっけ?
静 6時半です。
円 6時半かあ。夜まであるよねえ。
静 2次会が11時終了の予定ですけど。
円 うわ、きつー。私家遠いんだから勘弁してよ。
了 お前それでもセクハラ撲滅運動隊の一員か?
円 う……。
了 ここは結構男子、女子、入り乱れてっからな。気を付けとけよ。
円 逆に安全だと思うけど。
渚 火曜と水曜は2つ。消えたのはなし。
了 じゃ予定通りか。
円 私、3日連続じゃん。火曜も水曜もあるんだよ?
了 おれだってあるさ。ないのは萌だけだろ。
萌 私は火曜日はお休みー。
円 いいなー。
渚 続いて木曜日。ここは5つ消えた。
円 5つも!?
静 この日は降水確率100%だから。
円 あ、そっか。楽になるね、それじゃ。
渚 残った2つの内、軽音は円、ESSは私、という予定になってる。
円 嘘ー!?
渚 だけどまあ減ったことだし。軽音は萌と了。ESSは私と静ってことにしようか。
円 ありがとー渚ー。
静 あの、ESSって何ですか?
渚 何だっけ?
円 イングリッシュスピーキング……セクション……じゃなくて……ササイアティか。
萌 そんなのだった気がする。
了 そうそう。ESSで通称えっさっさ。
円 な、何それ?
静 えっさっさ……と。
円 書かなくていい、書かなくて。
渚 次金曜。ここは4つだったんだけど、木曜のが1つ入ったから全部で5つ。円。
円 な、何?
渚 円、この日は了と一緒だったよね。
円 ああ。手話サークルでしょ。
渚 それを止めて、理学部の数理科行ってくれる?
円 あ、これがこっち回ったんだ。……OK。
渚 さあ、次は土曜日。ここはまさにラッシュよ。全部で15団体。
了 1人3つだよな。これ……。
渚 了。特にあんたの担当には工学部情報工学科が入ってんのよ。ここの先生は前にも問題起こしたの知ってるわよね。
了 知ってるよ。この先生は要注意なんだろ。
萌 ほんとだ、くもりのマーク入ってる。
円 何でくもりなわけ……?
了 星マークや米マークじゃ芸がないだろ。
円 わかりにくいだけじゃないの……。
渚 セクハラしたら即、助けにいくのよ。間違っても加わっちゃ駄目よ。
了 何だよ、それ……。
萌 了ちゃんはセクハラ撲滅運動隊の一員だよ!
了 萌。了ちゃんってのは止めてくれ。頼むから。
萌 何でー?了ちゃんは了ちゃんじゃん。
円 何よ、今更。ずっと了ちゃんなのに。
了 外で呼ぶのは止めろ。前に友達に聞かれて恥ずかしかったんだからな。
萌 何でー?
渚 ああ、もう。そういう話題は後にして。とにかく、土曜は変更はないから。次、日曜。
了 日曜の計画はおれ、はなから聞いてないぜ。
円 私も。
渚 わかってるわよ。言ってないんだから当たり前でしょ。でもそこに書いてあるとおり。9個あるから。
了 あ、ほんとだ。おれは……農学部が2つか。
萌 あ、私1つだけだ。やった!
了 せっこいの。
円 いいよね、萌は。能力ないからって外されてさ。
萌 そういう言い方されると喜べない……。
了 子供みたいだから飲み会に入れないんだよな。
萌 うー。
渚 さ、何か質問はない?ないなら、
静 はい。
渚 何。
静 今日の活動予定は。
渚 だから、今からそれをやるの。
静 あ、そうなんですか。
了 ええ?今日はこれで解散じゃなかったのか。
渚 甘い。早急にやるべきことが出来たの。
円 何?
渚 セクハラ撲滅運動隊による完全セクハラ対策マニュアルパート6!
全員 ええー。
了 またやんのか。
円 前のじゃ不満なのー?
渚 また新しいセクハラ相談が増えたの。それと、前のじゃ駄目だって言う意見がね。ほうら(メモを取り出す)こんなに。地道に聞き込みやると結構取れるもんよねえ。
円 地道に、ね。
萌 渚ちゃんすごーい。
静 さすがリーダーですね。
了 素直に関心できるのが羨ましい……。
円 そればっかりは同感よ、了。
渚 それでは、対策マニュアル作りの前に、隊員の士気を高めるため、この隊を志望した理由とこれからの決意を述べよ。まずは隊員ナンバー2比嘉萌!
萌 はい!……私が大学入ったばかりのこと。新歓の飲み会で先輩に「萌ちゃんはセクハラの心配なくていいねー」と言われ、「セクハラって何ですか?」とその場で聞き返せなかったことを後悔し、より深くセクハラを知るためにこの隊を志望しました!セクハラについて、論文が出せるくらいになるまでこの隊にいたいです!
了 何か論点ずれてないか……?
みんな、首をかしげつつ拍手。
渚 次。隊員ナンバー3、高井円。
円 はい。私はセクハラというものは大っ嫌いだ!スカートの中を覗こうとする兄ちゃん!むやみに触ってくる親父!女をなめるんじゃない!ただで見て触るとは何事だ!金払え!親父!それに!制服着てた間は、しつこくナンパしてたくせに大学生になった途端、無視するんじゃない!そんなに女子高生がいいんかー!?(咳払い)とにかく、世の中からセクハラがなくなるまでこの隊にいたい!……ま、どうせ今の私はされないけど。
了 そりゃそうだ。
了、円にどつかれる。
とりあえずみんな拍手。
渚 では次。隊員ナンバー4、神無了。
了 おう。おれはセクハラは嫌いだ。セクハラをする一部の男共のせいでおれたちまで同類に見られ、女の子を口説くのもままならない状況……。もっと、もっと昔は自由だったはずだ!ちょっと何か言ったらセクハラ、セクハラ。何で可愛いといったらセクハラなんだ!?おれは心底可愛いと思ったんだぞ!同じ大学の奴口説いて何が悪いんだ!?後輩口説いて何が悪いんだ!(咳払い)とにかく、世の中からセクハラという言葉がなくなるまでこの隊を続けたい!……あ、いや、そういった行為がなくなれば自然に言葉もなくなるしな……。
円 (了にだけ)上手くごまかしたわね今……。
またみんな首をかしげつつ拍手。
渚 次、隊員ナンバー5、多田静。
静 はい!私は大学入って来て、いろいろな新歓に出ました。私はお酒はそんなに強くないのに、次々と勧められ、セクハラの嵐。もうこりごりです。セクハラをする奴は女の敵。撲滅するのは当然だと思い、この隊を志望しました。世の中からセクハラ男がいなくなるまでこの隊にいたいです。
全員 おおー。
ようやくまともな意見。
全員拍手。
渚 さあ、それでは最後は私。隊員ナンバー1。セクハラ撲滅運動隊リーダー浜辺渚!……知っての通り私は2浪して大学に入ってきた。つまり、大学に入った時点で既に二十歳。お酒は解禁。それを聞き付けた先生の1人、そう!中島!あいつが私にどんどんお酒を勧め、ふとももを触り、もたれかかってくる!ああー思い出すだけでおぞましい!そりゃ私があまりにも魅力的だから、というのはわかってる。でも!それならせめてもっと格好いい男の子が寄って来てくれてもいいじゃないの!?あんなハゲ親父が私の傍にいるせいで、他の男の子は誰も私に近寄らない……。狙ってる男の子だっていたはずなのに!……私はその時、これはセクハラだ!とわかった。しかし、大学入りたてで花も恥じらう乙女だった私は、そう口に出すことが出来なかった。そして飲み会の後私は思った。何故セクハラなどという行為が横行するのか?そうよ!女がはっきり言わないからなのよ!ならば、セクハラの基準を作り、セクハラを見張り、セクハラを潰すための隊があってもいいじゃない!私はそう思った。だからこの隊を結成した。私は私がいる限り。セクハラ親父がいる限り。この隊を永遠に存続させることを誓う!以上。
耳タコの様子で聞いていた4人。
姿勢を正す。おざなりな拍手。
渚 セクハラ撲滅運動隊は永遠に不滅よ!
全員 おー!
渚 それでは対策マニュアルの作成を開始する。まずはシチュエーション準備!
みんな、机を片付け小道具を用意。
渚、静に紙を渡す。
静 それでは始めます。シチュエーション1、飲み会。
みんな、酒を飲んでるパント。
了 萌。おれの隣に来いよ。
萌 嫌です。
了 ああ!?先輩命令だぞ!
萌 ……どうすりゃいいの?
渚 ああー!もう萌。これは前のマニュアルにもあったでしょ?
円 そうそう、こうよ。こう。
円、了を平手打ち。
了 ほ、ほんとにやんな!(やるな、の意)
円 これでしょ?
静 ええ。でもその対応は出来ない、という女子の意見が多数ありまして、
円 出来ないー?何で?
静 円先輩みたいな人ばかりじゃないんですよ。
了 そうそう。
円 何よ。
萌 それに。先輩命令だって言われてるしねえ?先輩殴っちゃまずいんじゃない?
渚 それだから駄目なのよ。嫌なものは嫌。これが言えなきゃセクハラはなくならない。
了 そこを何とか考えるのがおれたちの役目なんじゃないのか?
円 じゃああんたならどうすんの?
了 おれ?……まず大人しく先輩の隣に座る。
円 うん。
了 で、(耳打ち)
円 ええ?
渚 何?
了 やってみりゃわかる。
再び、パント開始。
了 萌。おれの隣に来いよ。
萌 (ちらりと円を見て)はい。
萌、了の隣に座りかけた途端、
円 萌ちゃん、私の隣においで。
萌 はーい。
萌、円の隣に。
了 な?
渚 なるほど。
静 でもそれって協力者がいないと出来ませんよ。
渚 女の敵に女が味方するわけないでしょ?
静 女性がいない場合は?
渚 え。
了 そんな場合、あんのか?
静 女子マネージャーが1人だけとか。
渚 そんな飲み会、行くのが間違ってる。
萌 私もそう思うー。
円 でもさあ。女子の先輩がいない場合は?
渚 あ、そっか。
円 先輩に呼ばれていったのを1回生が呼び返せないよね?
全員 うーん……。
萌 じゃあさ、こんなのどう?
全員 ん?
萌 シチュエーション開始!
みんな、パント。
了 おい、萌。おれの隣に来いよ。
萌 何でですかー?
了 え……何でって……何でだ?
円 私に聞かないでよ。
了 セクハラが目的なんだよな。
円 呼ぶこと自体がセクハラなの。
了 じゃあ何が目的なんだよ、こいつ。
渚 あんた男でしょ。自分で思いつかないの?
了 ええと……女の子が隣にいたら嬉しいからに決まってるだろ。
静 そんなストレートに言いますかね。
了 何でもいいから来い!先輩命令だ!
円 その方がそれっぽいか。
萌 でも先輩、私、もう足元ふらふらなんですよー。
了 よし、じゃあおれが行こう。
萌 あれ?
了、萌の隣に。
萌 失敗しちゃった。
円 駄目だなあ。
渚 萌ちゃんに任せたのが失敗だよ。
萌 じゃあ渚ちゃん考えてよ。リーダーでしょ?
渚 私ー?
了 おい、渚、おれの隣に来いよ。
渚 ああん?(睨む)
了 ……いや、いいです。(びびって)
萌 すっごーい。
円 対策は決まりだね!
渚 ふ……。最初から私に任せりゃいいのよ。
了 おい……?
静 何か間違ってます、この人たち……。
渚 次は?静。
静 え、えっと、シチュエーション2、成績表。
了が椅子に座る。
後の者は横によける。
円 失礼しまーす。
了 おう、入れ。高井。
円 先生、どうでしたか、私の成績。
了 見たいか。
円 そりゃそうですよ。
了 こっち来てみろ。
円 はい?
円、了に近づく。
了、円の肩を抱いて、
了 高井。お前、ちゃんと授業聞いてるのか?これはな、
円 せ、先生。離してくれませんか。
了 この成績はひどいぞ。真面目にやってりゃもっと取れてる。
円 先生。
了 ん?
円、平手打ち(これは振りで)
了 おう!
円 ってこれが前の対策よね。
静 平手打ちばかりですよね……。
萌 これも出来ないっての多かったの?
了 そりゃ先輩に出来ないのに先生に出来るかよ。
萌 こっちの方が明らかなセクハラなのに……。
静 とにかく。別の対策を考えて下しさい。
渚 じゃあ、こうしましょう。
渚、了に近づく。
了、渚の肩を抱いて、
了 この成績はひどいぞ、浜辺。お前ちゃんと勉強してるのかー?
渚 先生。
了 ん?
渚、ものすごい顔して睨む。
中指を立てたりもしている。
思わず手を離す了。
了 わ、悪かった。
円・萌 おおー(拍手)
萌 すっごーい。やっぱり渚ちゃんが一番!
静 間違ってる……。絶対何か間違ってる……(顔をそらして)。
了 (静の肩を抱いて)泣くな。おれもお前と同じ気持ちだ。大丈夫。おれたちは間違ってない。
静 …………。
渚 よし。それじゃ次は、
そこに携帯電話の音(着メロで)
萌 あれ?誰のー?
渚 あ、私だ。
渚、電話を取る。
渚 はい、もしもし。
萌 渚ちゃん、また着メロ変えたんだー。
円 あんなにころころ変えてよくわかんなくなんないわねえ。
渚 ええ!?
全員、渚に注目。
渚 どういうこと!?じゃ、やっぱり森口のせいなわけ?……わかった。今から行くから。うん。……ほら、泣かないで、私が話し聞いたげる。……うん。じゃあね。
渚、電話を切る。
静 どうしたんですか。
渚 梓から。告訴取り下げたのってやっぱ森口が圧力かけたからなのよ!ちょっと行ってくるわ。詳しい話聞いて、もう1度告訴させなきゃ。
萌 あ、私も行く。
渚 何で。
萌 梓ちゃんの相談、最初に聞いたの私だよ?
渚 じゃあ来なさい。そうだ、円。ついでに今の内にさっきのアンケートの……えっと医学部の人んとこ行っといてくれる?
円 OK。
渚 静と了は対策マニュアルとセクハラ度研究報告書、2人で出来るとこまでやっといて。
了・静 了解。
渚 じゃ、渚、行くわよ。
萌 うん。
渚、萌、円、去る。
机を出して座る了と静。
静 これ。
了 うん?
静 アンケートです。
了 ああ。
了、アンケートを数える。
了 あれ、5枚あるぞ。
静 5枚目は言いませんでした。
了 何で。
静 言わない方がいいと思いまして。
了、5枚目をめくる。
了 あ……。
静 了先輩。セクハラ撲滅運動隊として、そういうのはまずいんじゃないですか。
了 川島か……。
静 心当たりはあるんですか。
了 ……ある。
静 …………。
了 こないだ……確か一緒に飲みにいった。いや、もちろん何人かで、だけど。
静 飲みにいった覚えだけですか。
了 っていうか、おれ酔うとなあ……。駄目なんだよ、マジで。
静 酔ってた、なんて言い訳になりませんよ。
了 でもさ、
静 先輩、アルハラって知ってますか。
了 アルハラ?
静 アルコール・ハラスメント。酒によるいやがらせや人権侵害のことです。飲酒の強要やイッキ飲み。酔い潰し。飲めない人への配慮を欠いた行動。……そしてもちろんセクハラも。
了 へえ、そんなのあるんだ。
静 ハラスメントの語源は?
了 え?
静 悩ますこと、悩まされること、悩みのたね。
了 ふ、ふーん。よく知ってるな。
静 この隊で。
了 ん?
静 この隊で真面目に活動に取り組んでいるのは私だけなんでしょうか。
了 そ、そんなことないだろ。みんな、おれだって真面目にやってるさ。
静 何でそれくらいのこと知らないんですか。
了 いや……おれは知らなかったけど。みんなは知ってるだろ。多分……。みんなは、
静 本当にセクハラを憎んでますか。
了 ああ。
静 なくなればいいと思ってますか。
了 当たり前だろ。
静 じゃあ何でセクハラするんです。
了 …………。
静 この間、セクハラ撲滅運動隊で飲みに行きましたよね。
了 あ、ああ。
静 先輩、私に対して、
了 あれは!
静 ……何です?
了 ……悪かった!酔ってたんだよ。
静 他の人にはしなかったじゃないですか。
了 …………。
静 私が後輩だからですか。
了 だから、……酔ってたんだよ。
静 全部それですませるつもりですか。酔って行動の規制が出来ないのなら飲まないで下さい。
了 ……きついなあ。静はこの隊の中で一番きついぜ。うん、おれたちが卒業しても立派に隊を引っ張ってける。今んとこ1回生は1人だけど。増えてもお前がリーダーだな。
静 …………。
了 さ、さあ。仕事やろうか。何もやってなかったら渚や円に怒鳴られちまうからな。
静 先輩。
了 ……ん?
静 ……最低です。
静、去る。
了 静!?……くっそー。酔ってたもんしゃあねえじゃねえか。……(頭を抱え込んで)やっぱまずかったよなー。(アンケートを一枚取って)川島ー。てめえ嫌がらせじゃねえだろうな……。
円、入ってくる。
了 ま、円(アンケートを慌てて隠す)
円 静は?
了 さ、さあ。
円 何で知らないの。
了 その……さっき出てったんだ。
円 トイレか何か?
了 さあ。で、どうしたんだ?
円 アンケート。
了 え?
円 医学部の子。名前知らなかった。
了 お前なあ。
円 医学部まで行って気が付いたのよ。ああ、疲れた。
了 ほれ、これだろ。
円 うん。
円、受け取ったが去ろうとしない。
了 どうしたんだ?
円 うん……日曜なのにいるかな、って思って。
了 いるだろ。相談日いつでも可に丸ついてんだから。
円 あ、ほんとだ。
了 いなきゃピッチに電話してやれよ。番号書いてるだろ。
円 あ、ほんとだ。
了 お前なあ……ちゃんと見ろよ。
円 うん。じゃ。
円、去る。
了 どうしたんだ?あいつ。何か変だな(一旦座ってから)……まさか聞いてたのか!?円!?
了、去る。
しばらくして萌、入ってくる。
萌 聞いてたのは1人じゃないよ、了ちゃん。(川島のアンケートを見る)問題だね。嫌だね、男って。
萌、忘れていたらしいかばんを持って去る。
暗転。
女1が立つ。その場にスポット。
女1 講義の最中、ある教員はいつも卑猥な冗談を言います。私が笑わないでいると「あなたは冗談が通じない」と言われました。私は抗議したかったけど成績評価が悪くなるのが恐いので我慢しています。
女2が立つ。その場にスポット。
女2 私がアルバイトしている時のことです。仕事の途中でちょっと油断した隙に、上司が身体を触ってきます。また、私と付き合うことやデートの誘いをしつこく迫ってきます。アルバイトを続けたいことを考えると、拒否するのが難しく、非常に苦痛でした。
男1が立つ。その場にスポット。
男1 ぼくは独身の教員です。ある年上の既婚女性教員から、食事の誘いを受け、断ったことがありました。その女性教員はその後次第に「結婚していない男性には、重要な仕事は任せられない」というような発言を会議などの席で繰り返すようになり、非常に苦痛を強いられています。
男2が立つ。その場にスポット。
男2 わたしは、ある研究室の同僚……男なのですが……彼に交際を申し込まれたことがあります。わたしはもちろん彼の申し入れを断りました。しかし彼は諦めず、毎晩のように電話をかけてきます。留守電にしても毎日のようにメッセージが入っています。最近では私の行動を付回すようになり、非常に苦痛です。
女3が立つ。スポット。
女3 私を担当しているある教員が、不適切な研究指導、修士論文審査の手続き違背を行い、食事への同伴や私的感情の押し付け、在宅状況の確認のために何度も電話をかける、性的な事柄への言及といった性的嫌がらせを何度も行い、私は病気になってしまいました。しかし、相談機関に相談したところ、その教員は懲戒免職処分を受けることになりました。
女4が立つ。スポット。
女4 授業の打ち上げの時のことです。二次会のカラオケボックス内で、ある男性教員が私の友達の手を引いてソファに倒れたところをまたがり、上下に跳ねて馬に乗ってる様子を真似していました。私たちの抗議に対して、教員は単位認定の権限を持ち出しました。高裁の裁判長は「この行為は、教員の優位な立場を利用している」として、女性が「不利益な取り扱いを受ける不安を持った」と判断し、教員に対して慰謝料の支払いを命じました。
以上の6名は渚たちがやってもよい。
別の人物を同じ人物がやってもよい。
明かり。
渚、円、萌、静がいる。
静 ……少しは真面目に考えてくれる気になりましたか。
全員、沈黙。
静 これはほんの一部の事例に過ぎません。それも大学内限定といってもいいくらいの狭い範囲です。セクハラは世界中に広まっており、私たちが考えてるような、
渚 ああー!わかったよ、わかった。あんたの言いたいことはよくわかった。
静 わかってくれましたか。
渚 ああ。ま、私もこの隊を結成した人間としてこのままでいいのかなーとは思ってたんだよね。
静 ではどうしますか。
渚 まあ当面は間近に迫った新歓ラッシュをだね、
静 先輩。
渚 な、何?
静 私たちが見張っていることは何らかの圧力になり得るんですようか。特に私たちは女です。権力も持たない学生です。おまけに私はまだ1年。先輩だって2年です。先輩たちへの圧力になどなり得るのでしょうか。
渚 それは……私たちがセクハラ撲滅運動隊だってことはみんな知ってるじゃないの。私たちの目の前でセクハラなんかしたら、すぐさま学校に連絡がいって、
静 もし。
渚 ?
静 もし、私たちが圧力をかけられた場合。
渚 それは大丈夫だよ。同じ学部の先生とはかぶらないようにしてるし。先輩であることは圧力にはならないしね。特に私たちには。
静 それならいいんですが。
渚 だろ。
静 では新歓ラッシュまでは。
渚 え?
静 今日も。夕方まで私たちには活動時間が残されています。
渚 夕方ったって最初の新歓の開始時刻まで後1時間しかないんだよ。
静 1時間もあります。
渚 まあねえ……。
静 先輩、真面目に考えましょう。私たちがセクハラを受けたらどうするべきか。セクハラをなくすためにはどうすべきか。
渚 それはねえ……私らだって一応真剣にやってきたんだよ?多分昔やった奴の方がまだまともだったと思うよ(引き出しや本棚を漁る)あれえ、どこに置いたかな。対策マニュアルナンバー1。……萌、円。知らない?
二人 …………。
渚 どうしたんだよ。二人とも。さっきから全然しゃべらないじゃん。
円 別に。
萌 対策マニュアルは多分……。
渚 何?
萌 了ちゃんが持ってると思う……。
渚 あ、そうなの。じゃあ了が来るまで待とうか。あいつ、遅いね、今日は。ま、もうちょっと待ったら来るでしょ。
静 いいです。
渚 は?
静 昔のマニュアルはいいです。それより新しいのを作りましょう。
円 ……そうだね、それがいい。
萌 さっきの事例だとさ、教員が慰謝料払ったのと、えっとちょう……
渚 懲戒免職処分。
萌 そう。それになったのとかあるじゃん。あれは何で?
静 おそらく相談したからでしょう。大学の相談室や学外にある相談機関で。
渚 それの名簿もあったよね、確か。
円 結構いっぱいあったよね。女性の法律相談とか、性犯罪被害の相談とか、
萌 心のダイヤル!いのちの電話!
円 ああ、そんなのもあったね。
渚 萌が覚えてるなんて奇跡的だね。
萌 あの名簿作ったの私なんだよー?ほら、円ちゃんが入ってきたばかりの頃。
渚 円と了だろ。二人一緒に入って来たんじゃん。
萌 そ、そうだったっけ。
円 偶然よ、別に。
萌 そうだよねえ?
渚 あん時は驚いたもんね。まさか男の子が入ってくるなんて思ってなかったから。男の子にもセクハラ反対!って子がいるんだなーってちょっと嬉しかった。
萌 で、でもさあ。男の子の受けるセクハラってのもあるじゃん。
円 あ、さっき事例にあったね。えっと、
静 同性の研究生仲間によるストーカー行為と、年上の女性教員による嫌がらせです。
萌 同性ってのが恐いね。
円 了も案外男に迫られた経験あったりして。
萌 あ、だから入ったとか?
渚 ありえるね、あいつ、微妙に体育会系じゃん?
円、萌、渚笑う。
静が笑ってないことには誰も気付いていない。
渚 おっと、話戻そうか。えっと……何だっけ?
円 被害を受けたら相談機関に相談するのがいい、ってことでしょ?
萌 でもそれって何かめちゃくちゃドロ縄じゃん。
渚 萌。言葉の使い方微妙に間違ってるよ。
萌 微妙に?
渚 そう。ま、それじゃ遅いって意味では正解だけど。
円 そうだよねー?セクハラ受けてる間我慢しなきゃいけないもんね。
萌 すぐさま携帯で電話するとか?
円 それいい!いまどき誰でも持ってるしね。
静 私は持ってませんけど。
円 あれ?
渚 静もピッチくらい買いなよ。大して高いもんじゃないしさ。一人暮らしだろ?電話置くよりいいって。
静 そうですか。
渚 よし。被害対策1。されてる最中に携帯で電話!
萌 それはたから見てたら笑えるかも。
円 っていうか電話しだした時点でやめちゃうよね?
萌 じゃあ相談機関の番号、登録しておく!これが1番だね。
渚 静、どう?
静 いいアイディアだとは思います。ただ、
渚 ただ?
静 性格上出来ない人がいることもお忘れなく。
渚 ま、まあね。対策1だからね。
静 それに。
円 まだあるの?
静 相談機関に相談したくても出来ない場合があります。
萌 何でー?ああゆうとこって秘密厳守だから絶対大丈夫だよ。
静 例えば相談したらどうなりますか。
円 そりゃ相手、捕まるよね。
渚 程度にもよるけど……。セクハラと認められりゃあなんらかの対応はしてくれるよ。被害者も含めて。
萌 被害者も?
渚 そりゃそうだよ。被害者に精神的ショックがあったりしたらさ、病院とかの紹介もしてくれるらしいよ。
萌 へえ。産婦人科?
渚 それじゃセクハラどころか強姦じゃないの!
円 萌も意外と言うなあ。
静 しかしそれ自体が不都合な場合は?
渚 それ自体?
静 例えば、相手が処分されることが、です。
渚 相手の処分が不都合な場合ってある?
萌 相手を好きな場合とか。
円 それじゃセクハラになんないって。
静 違います。
円 え?
静 例え被害者が加害者のことが好きでも、被害者がセクハラと感じればセクハラです。
渚 そうは言ってもさあ、
萌 その場合はセクハラって感じるかな?
静 明らかにセクハラだとされる行為があります。
円 まあね。でもそれなら普通、訴えないでしょ?
静 そうです。何ら対応が出来ないんです。
萌 だから、しなくていいんでしょ?
静 しなくてはなりません。
渚 なくなって欲しいわけ?
静 当然でしょう。
萌 でも相手のこと好きなんでしょ?好きな人からセクハラされて嫌なわけ。
静 セクハラはなくなるべきです。
萌 わっかんない。
渚 私も。今日のあんたは何考えてるかさっぱりわかんないよ。昨日、何かあったの?
円・萌 あ……。
渚 ん?
円・萌 な、何でもない。何でもない。
渚 何よ、二人揃って。
萌 そうだ、了ちゃん遅いね。
渚 萌?
円 そうね、渚。呼んできなよ。
渚 ええ?何で私が。
萌 リーダー、リーダー。
渚 せっこー。こういう時だけリーダーなんだから。もう、了、何やってんのよ。そうだ、携帯にかけりゃいいんじゃない。
萌 駄目ー!
渚 は?
円 そう。携帯は止めた方がいい。ほら、もし先生に呼ばれてたりしたら面倒だしさ。来る気がない場合電話じゃ来ないかもよ。
渚 来る気がない?
円 もしもの話。さあ、行ってらっしゃーい。
萌 行ってらっしゃーい。
渚 何なのよ、一体……。
渚、ぶつぶつ言いながら去る。
円 で、さー静。
静 ひょっとして聞いてたんですか。昨日。
円 ま、まあね。
萌 私も。
静 そうですか。
円 その……了があんたにセクハラしたってのは……まあ、一緒に飲みにいって気付かなかった私たちも悪い。
静 それは仕方ありません。了先輩もわかっててやってたようですから。
円 あいつ……。
萌 でもさ、しずちゃん。
静 何ですか。
萌 了ちゃんのこと……好きなの?
間。
静 私はセクハラをする男はみんな嫌いです。
萌 そうじゃなくてさ。セクハラ抜きで……その、個人的に。
静 特別な感情はありません。
萌 そう……。
円 でもさっきの言い方だと、
静 別にあれは私のことを言ってたわけではありません。
円 あ、そうなの。
静 例えばの話です。ただ、もし私がそういう状況に陥った場合、ああゆう考え方をするだろうということです。
円 ふーん……。
萌 じゃあさ。
静 はい。
萌 何でしずちゃんは了ちゃんを訴えないわけ?……いや、私らは了ちゃんが何したかわかんないから、訴える程のことなのかどうかもわかんないけど。……相談機関に相談したりした?
静 してません。
萌 何で。
静 私個人で解決するべきだと思ったんです。それに……。
円 それに?
静 いえ……難しいですね。セクハラって。
円 ま、まあねえ。私たちもこの1年活動やってきて嫌って程思い知らされたわよ。
萌 そうそう。セクハラだーっていうのに、よくよく聞いてみたら女の子の被害妄想だったり、
円 嘘もあるよ。その男が嫌いだからってね。
萌 だから面倒なんだよね。たち悪い女の子もいるからさー。
静 その辺は私もわかってます。女のセクハラというのもありますし。何でも男が悪いというわけじゃないんです。
円 あれ、静もそんな考え持ってたんだ。
萌 男嫌いかと思ってた。
静 それとこれとは関係ありません。
円 あ、やっぱり男嫌いなんだ……。
静 先輩。
円・萌 何?
静 セクハラというのは行為で決まるものなのでしょうか。それとも受けた方の精神的苦痛で決まるものなのでしょうか。
円 それは……両方じゃない?
萌 そうだよ。そういうのって比例するんじゃない。
静 しません。
萌 あれ。
静 例えば名前を呼び捨てにされた、これに対する精神的ショックが身体を触られたことに対するショックより上回る場合、
萌 ないでしょーそんなの。
静 個人差が大きいということが言いたいんです。
萌 ああ。
静 渚先輩が言ってましたよね。せめて格好いい男の人なら、
円 ああ。あれは渚の口癖みたいなもんだから。渚って意外と男垂らしだよね。
萌 わかる。わかる。
円 しかも面食いだし。
萌 そう。性格無視だもん。
静 渚先輩は格好いい男の人にセクハラされても許すということですか。
円 っていうかセクハラと思わないんじゃない?
萌 アプローチだと思うよね。
静 それです。
萌 は?
静 了先輩も言ってましたよね。口説いてるのとセクハラの差。
円 ああーそれ、私たちが1年間頭を悩ませてきた問題!
萌 だってやってること大して変わんないだもん。例えばさあ、2人っきりになるように仕向けた場合。
円 それあったなー。投書にも。静、どう思う?
静 どうって……
円 例えばさ、体育館裏とかに呼び出すわけよ。先輩が後輩を。で、後輩は断れないから行くわけ。
静 先輩権限を利用して2人っきりになるように仕向けるのはセクハラです。
萌 でもさ、告白するんだよ。
静 それは……。
円 それに来ないと先輩としてどうだ、とか言ってるわけじゃない。勝手に先輩の命令だから、って解釈するわけだから。
静 そうですね。難しいですね。
間。
萌 しずちゃん。
静 はい。
萌 前の飲み会ん時、しずちゃん、了ちゃんと2人っきりになったよね。
静 ……はい。
萌 ひょっとしてあれ?
静 …………。
萌 いや、言いたくないならいいけど。
静 …………。
間。
静 先輩。了先輩はどこの学部でしたっけ。
円 了は教育だよ。学校教育。
萌 円ちゃんと一緒だよね。
円 専修は違うけどね。
静 私、ちょっと先輩と話してきます。
円 何を。
静 教えません。
静、去る。
円 お、教えません!?ちょっと静ー!先輩をなめるなー!
萌 聞こえないって。もう。
円 全くー。あいつ、従順だか反抗的なんだかわかんない。
萌 要領がいいんじゃない?
円 ああ、そうかもね。でも……了って渚が連れてくるんじゃない?
萌 来る気なかった場合帰っちゃってるかもね。
円 あいつ家近いもん。歩いて5分だよ。
萌 いいなー下宿生は。私なんか自転車で30分だよ?
円 悔しいなら1人暮らしすればー?
萌 うう……私にそんなの出来るわけないじゃん……。だいたい円ちゃんだって1人暮らしじゃないでしょ。
円 私の場合姉ちゃんとだからなあ。自宅生ではないじゃん。それに、下宿なのに家遠いんだよ!?自転車で20分かかるからね。
萌 私よりは近いじゃん。
円 そりゃそうだけど。でも家事とか交代でやってんだよ。それにも時間取られるんだから。あんたも家でやれば?
萌 めんどくさい。それにやる機会ないからいいよ。私、結婚するまで家出ないし。
円 結婚したらどうせ家事やんなきゃいけないじゃん。
萌 旦那にやらせる。
円 うわ。
萌 私が働くもん。旦那は専業主夫。
円 ううん……。旦那が納得すればいいのかもね……。
萌 納得させる!
円 相手いるの。
萌 その内……。
円 その内っていつー?萌、もうすぐ彼氏いない歴20年でしょ?
萌 そういう円ちゃんはいるの?
円 私?……今はいないけど。
萌 ほら。
円 でも!彼氏いない歴は20年じゃないわよ。
萌 ええー。彼氏いたことあるの!?裏切り者!
円 だって萌と出会う前だしなー。
携帯電話の音(着メロ)
萌 あ、円ちゃんじゃない?
円 あ、渚だ。(電話を取って)もしもし?……ううん。まだ来てない。……ええ?……携帯は?出ないの?……さあ。……うん。わかった。ばいばい。
円、電話を切る。
萌 了ちゃんいないの?
円 うん……。やっぱり気まずいのかなあ。私、ちょっと家に行ってみようかな。
萌 私も行くー。
円 どこでも付いてくるわね、あんた。
萌 いいでしょ。
円 ま、いいけど。あ、ひょっとしたら静が見つけてたりして。
萌 そうかな。
円 ま、いいわ。行きましょう。
萌、円、去る。
円の携帯が残されている。
携帯が鳴り始める。
しばらく鳴って、切れる。
もう1度鳴る。
すぐ切れる。
しばらくして。
了が入ってくる。
了 ……誰もいないのか。
了、円の携帯に気付く。
了 あ、あいつ。ちゃんと持って出ろよな。
円が入ってくる。
円 了!あんた、何でここにいるのよ。
了 何でって……当たり前だろ?今日休みか?
円 いや……だっていつまでたってもこないし、昨日のこともあったから……
了 昨日?お前、やっぱり聞いてたのか。
円 あ。
了 …………みんなはどうしたんだ。
円 あんたを探してるのよ。私は携帯を……(携帯電話を取る)あ、着信入ってる。(電話を押して着信を見る。了を見る)
了 ああ、さっきお前だけ呼ぼうと思って電話したんだよ。やっぱ静がいると気まずいし……。
円 何で私なのよ。
了 萌に電話しろってのか?
円 渚でもいいじゃない。
了 ……お前でもいいだろ。
間。
円 私、萌待たせてあるから。
了 萌を?
円 だから、携帯取りに帰ってたの。あ、あんた見付かったんだから呼んだ方が早いか。
円が電話をかけようとするのを了が止める。
円 ?
了 なあ。……静の様子、どうだった?
円 どうだったって言われても……。
了 何か……おかしかったとか。
円 まあおかしかったけど。でもあれはあんただけが原因じゃないわよ。何かさあ、あの子はセクハラについて真面目に考えてんのよね。
了 お前らだってそうだろ。
円 そりゃ最初はね。でもあんまり難しいから途中からは……あんたも知っての通り。
了 ま、大分お遊びになってたよな。
円 あれはあれで楽しかったし。あれはあれで真面目ではあったんだけど。でも入ったばっかの静はやっぱり歯痒かったんだろうね。そこに、同じ隊員からのセクハラでしょ?
了 う……。
円 ショックだよねえ?
了 おれは……。
円 何。
了 おれは……結構本気で静が好きだったんだけどな。いや……過去形じゃなくて、その、
円 好きなの。
了 まあな。
円 ふうん。あんたはああゆうの好みだったの。じゃ、何で私と付き合ってたの。
了 うーん……おれは面食いじゃないし。
円 どういう意味よっ!?
了 そのまんまの意味だけど。
円 それを言うならこっちでしょー?昔野球やってた銀行員みたいな顔して。
了 どういう意味だっ!?
円 そのまんまの意味よ。
了 わかんねえって……。
円 気にしないで。それより、静のことどうすんの。
了 へ?
円 静もあんたを探してるわよ。どういう理由でか、何をしたいのかはわかんないけど。
了 おれを?
そこに円の携帯電話が鳴る。
円 ああー萌からだ。あんまり遅いからしびれ切らしたな。(電話を取る)もしもし?……ああーごめん。携帯がなかなか見付かんないのよ。見付かったらすぐ行くから。じゃあねー。(電話を切る)
了 け、携帯で言うセリフか?
円 大丈夫。萌なら気付かない。
了 そうかなあ……。
円 それで。どうするのよ?
了 それは、
今度は了の携帯が鳴る。
了 あ。渚だ。
円 あんた、さっきは出なかったんでしょ。
了 いや、電源切ってたんだよ。ちょっと先生に呼ばれてて(電源を切る)
円 あ、いいの?
了 取ると面倒だ。
円 まあね。それで、今度こそ答えて。静と、
萌 ああー円ちゃん!了ちゃん!
萌、登場。
円 あーもう。
円、頭をかかえる。
静 先輩……。
静、登場。
円 あ……。
萌 円ちゃん!了ちゃん見付かってるんじゃん。
円 ごめん、さっき見つけたの。
萌 携帯は?
円 さっき見つけた。で、萌。ちょっと外出しようか。
萌 な。何?
円 いいから。
萌 ちょっとー。
円、萌を引っ張って出て行く。
静 探しました。先輩。
了 そう……。
静 先輩、先輩に聞きたいことがあるんです。
了 おれも。静に言いたいことがある。
静 え?
了 先に、いいかな。
静 ……はい。
了 おれは……お前が好きだ。
間。
了 本気だ。
間。
了 えっと……返事は。
静 ……ごめんなさい。
了、ショックを体で表す。
間。
静 でも私、それが聞きたかったんです。……セクハラじゃ……なかったんですね。
了 お前がセクハラと感じたならセクハラじゃないのか。
静 ……そうかもしれません。でも……それを聞いたらセクハラと思えなくなりました。
了 (笑って)いい加減だな。
静 そうですね。この辺の基準をはっきりして欲しいんでしょうね、みんな。
了 どこからがセクハラか……。
静 川島さんは。
了 え?
静 川島さんはどうなんですか。
了 酔ってたから……。
静 それは明らかに駄目ですよ。
了 でも……セクハラかなあ?本気じゃないと口説いちゃ駄目なのかな。
静 先輩!
了 いや、だってなあ……これだって難しいだろ。
静 まあ……。頑張って基準表を作りますよ。
了 お前がやるのか。
静 私はセクハラ撲滅運動隊員ですから。先輩も勿論続けますよね?
了 そう言われたら続けないわけにいかないよなー。普通振った女が振られた男に言うか?それ。
静 じゃあ止めますか。
了 いや、続ける。うん。
静 本当は円先輩と一緒ならどこでも良かったんじゃないですか。
了 あのなー。あいつとはとっくの昔に別れたんだ!半年も持っちゃいなかったんだから!一緒にここに来たのは偶然!
静 そうだったんですか。
円 そうよ!
円、萌入ってくる。
了 ああー!お前ら!立ち聞きしてたなー!
円 当ったり前じゃない。こおんなイベント聞き逃すわけないでしょ。
静 イ、イベントって……。
円 ま、見事振られたんで良しとするか。
了 何が良しだ!
円 あんたね!あんたが格好いい役やるなんて10年早いの!
了 10年立ったらいいのか?
円 ……千年早い!
静 つまり、やるなってことですね。
円 その通り!
了 何でだよ……。
円 それは鏡見て考えなさい。
了 ひっでー。
萌 一つ!相手の身体的特徴を取り上げてけなし、相手に不快感を与えるのはセクハラ!
了 そうだ、そうだ!
円 ええ!?いっちょ前に傷ついたの?
了 あのなー!
了、円をどつこうとするが逃げられる。
了 待て!こら。
そこに渚、入ってくる。
静 あ。渚先輩。
渚 あ。あれ?何で全員いるの?
萌 もう全部終わっちゃったよお。
渚 は?
了 円!渚、円を捕まえろ!
渚 ええ?
渚、取りあえず円を捕まえる。
了、殴りかかる寸前、
円 いやん、止めてvv
了、からぶり。
了 き、気持ち悪いこと言うな!
円 何がよおー。
円、再び逃げる。
教室の外へ。
了 待て!
了も円を追って去る。
萌 私も入れてー。
萌も去る。
渚 何がどうなってんの?
静 いつもの光景じゃないですか。
渚 だから、何でいきなりいつもの光景なのよ。
静 いつもの日だからですよ。
渚 私のいない間にー。
静 大丈夫です、何も進展してませんから。
渚 何が大丈夫なのよ……。
静 もう1つあったんですねえ。
渚 何が。
静 気心の知れた者同士でのセクハラ。
渚 それセクハラじゃないでしょ。
静 被害者も加害者も認めてますよ。
渚 はあ?
静 難しいですね、やっぱ。先輩。これからも頑張っていきましょうね。
静、去る。
渚 ちょ、ちょっとちょっと!?……何がどうなってんの?私はリーダーよ!?リーダー!
渚、机の上のアンケートを見つける。
渚 ええ!了が川島さんにセクハラ!?
全員の声 おっそーい。